(仮)耽奇館主人の日記
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2006年02月03日(金) |
死人とのお見合いのこと。 |
おばさんへの義理を果たすために、ちゃんとヒゲを剃り、めったに使わない整髪料を頭につけ、パリッとしたダブルスーツを着て、いざ赤坂へ出陣。
本日はお日柄もよく・・・
確かに天気はよく、空気も澄んでて、日差しも暖かかった。 しかし、私とおばさんは、母親に連れられたお見合い相手を見て、お互い顔を見合わせた。 何も言わなかったが、今回も破談だなと確信した目だった。 後で聞いたら、おばさんもやっぱりそう思ったそうだ。 一目見ただけで、破談と確信した理由は。 相手が死人だったからだ。 こう書くと、読者の皆さんは、死人だろうが、宇宙人だろうが、平気なくせにと唇を吊り上げることだろう。 しかし、私は死人とは性格的に合わない。着物を左前に着てくるような女性とは。 隣の母親も和服なのだが、母親も左前である。 多分、着付けの人にやってもらったんじゃなく、いい加減な知識で、お互い着付けたのだろう。 女性が左前に着るのは、洋服だけなのだ。 こんなことも知らないようでは、A型の私と気持ちよく暮らせるわけがない。 よし、今回もメシ食うだけだ。 適当に切り上げるか。
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二人だけの空間になった時、私はとんでもないことに気づいた。 適当に話を聞いて、上の空で答えていたから、気づくのが遅れたのだが、もう破談ものだと腹を決めた私と違って、お相手は私とのお見合いを成立させたがっているようだった。 つまり、私と結婚する気満々なのである。 一体、初対面の私のどこが気に入ったのか? ストレートに「オレと結婚したいの?」と、初めて口をきいたような口調で聞いてみた。 「はい!」と即答。 私は苦笑して、「こいつはたまげた、なんでまた?」と。 お相手は左前の衿を強調するように、胸に手を当てて、もじもじしてみせた。 「優しそうですし、それに私の大好きな読書で一番趣味が合うし・・・」 読書が趣味? 初耳だった。 多分、私が聞いていなかったせいだろう。 「オレの読書って、偏愛もんだからねえ・・・三島由紀夫とか、サド、バタイユなど・・・」 「あっ、みんな知ってます」 「ほほお、読んだ?」 「ええ、三島は『春の雪』、サドは『悪徳の栄え』、バタイユは『眼球譚』を・・・」 ここで、私はまたストレートに聞いてみた。「どんな読後感だったかな?」。 すると、お相手は早速ボロを出してきた。 三島の「春の雪」がそれ自体、完結した物語で、たいへん感動しましたと言ってきたのである。 つまり、「豊饒の海」四部作のうちの一部という知識が欠けていたわけだ。 おまけに、サドについて感想を求めたら、ゴージャスな雰囲気でロマンティックだったと。 あまつさえ、バタイユは熱いラブロマンスときた。 そこで私はくるりとお相手に背中を見せて、くっくっと背中を震わせた。 「どうされました、大丈夫ですか?」 「いや、ご心配なく。お茶にむせただけだから」 実は、笑いをかみ殺したのだが。 それも鬼面毒笑というやつだ。 こんなのと結婚してみろ、その瞬間、私は私ではなくなる。 ボケはボケでも、読んでもいないものを読んだと言い張る、腹に一物ありき女性をもらうほど、私は酔狂ではない。
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別れ際に、私はこっそりお相手に、「優しさを求めて結婚するんだったら、もっときれいな心にならなくちゃいけませんぜ」と囁いた。続けて「死人みたいな着方もやめて、生きてるように見せないと」。 帰り道、私はおばさんに聞いた。 「オレの読書の趣味を話したの?」 「うん、話したよ、すっかりね。三島とか、サド、バタイユ・・・それから何だっけ・・・」 「やっぱりな、その話が出たんだけどね、読んでもいないくせに、読んだって顔をしてやがったぜ」 「あら、そう。じゃあ、なおさらダメだね、今回は」 「ちょい待ち、次もあるってことかよ?」 「当たり前じゃない、あたしはね、あんたのお父さん、お母さんのお墓に誓ってるんだからね。ちゃんとした奥さんを世話しますってね」 「ありがたくて涙が出るよ、正直に言いなよ、ほんとは楽しいんだろ?」 そこで、おばさんはニヤッと笑った。 「その通り」
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それにしても、強烈だったな、死人みたいな着方。 母親までああいう着方ってのはどういうわけだよ。 一瞬、お寺だからって、経かたびらをアピールしてるのかって思っちまったぜ。 やだねえ、ほんと。 さあ、節分だから、豆まきしてパーッと厄払いだ! 恵方巻きもガブガブってね。 今日はここまで。
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