『日々の映像』

2010年02月09日(火) プリウス問題:日本製品の信頼を左右


トヨタ:新型プリウスのリコール検討 日米で30万台
              2010年2月7日  毎日
社説:プリウス問題 安心と信頼の回復を
                     2010年2月7日 毎日
社説:プリウス問題―遅すぎる全車修理の判断
                     2010年2月6日  朝日
社説1 日本製品の信頼左右するトヨタの対応(2/6)
                     2010年2月6日  日経

 ハイブリッド車(HV)新型「プリウス」のブレーキが利きにくいとの苦情が相次いでいる問題で、トヨタ自動車は日米でリコール(無償の回収・修理)を実施する検討に入った。対象は日米で計約30万台にのぼる見込み。看板車種にまでトラブルが拡大したことで、経営への打撃は避けられそうにない。

 米国の報道などは、感情的な反応がにじむのはやむを得ない。失業率が高止まりと、自国の雇用とメーカーの保護に傾くのは自然な成り行きだろう。ましてトヨタは昨年のゼネラル・モーターズ(GM)破綻(はたん)で、世界一の自動車メーカーになった。自動車産業の国アメリカで、頂点に立つ企業の品質の言動には厳しい目にさらされることは当然だろう。

 欧米でアクセルペダルの大規模リコール(回収・無償修理)を始めたトヨタ自動車、品質に対する疑いの広がりと深さは「危機的な状況」(豊田章男社長)になっている。どうしてこんなことになったのだろう。技術の過信か・設計思想に問題があったのか、過度なコストダウンが原因か・・・トヨタの問題は
深刻な広がりになる気配である トヨタは日本を代表する企業であり、日経の社説が指摘するように「日本ブランド全体の信用失墜につながりかねない。」のである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
トヨタ:新型プリウスのリコール検討 日米で30万台
                        2010年2月7日  毎日
 ハイブリッド車(HV)新型「プリウス」のブレーキが利きにくいとの苦情が相次いでいる問題で、トヨタ自動車は日米でリコール(無償の回収・修理)を実施する検討に入った。トヨタは「構造的な欠陥はない」(広報担当)としているが、拡大する消費者の不安を一掃するため、明確な対策を打ち出すことにした。実施した場合、対象は日米で計約30万台にのぼる見込み。看板車種にまでトラブルが拡大したことで、経営への打撃は避けられそうにない。
 リコールを検討しているのは、昨年5月に発売した新型プリウス。昨秋以降、「ブレーキが一時的に利かなくなる」などの苦情が日米で多数寄せられている。トヨタによると、凍結した路面での横滑りなどを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の制御ソフトに問題があり、ブレーキが一時的に利かなくなるような状態が起こるといい、改善策として、ABSの制御プログラムを修正する。
 1月以降の生産分については、プログラムの変更を済ませており、リコール対象は昨年12月までに生産した国内向け約17万6000台、米国向け約10万台の見込み。プリウスとブレーキ・ABSの機構が類似する高級車ブランド「レクサス」のHV「HS250h」やセダンタイプのHV「SAI」などもリコール対象にするか検討している。
 トヨタ内には「重大な欠陥がない」として、リコールではなくサービスキャンペーン(自主改修)にとどめるべきだとの意見もある。しかし、ラフード米運輸長官が4日、豊田章男社長に安全対策の徹底を要求したことなどを受け、日米当局と協議した上で、具体策を最終判断することにした。【大久保渉】
 
【ことば】リコール
 自動車に設計・製造上の欠陥、不具合が判明し、道路運送車両法に基づく安全基準を満たさなくなった場合、メーカーが国交省に原因、対策を届け出た上で回収・無償修理をすること。安全対策としてはリコールのほか、▽車両法には抵触しないが、安全性に問題があると判断した場合の「改善対策」▽品質の維持、向上のためメーカーが自主的に修理する「サービスキャンペーン」−−がある。

―――――――――――――――――――――――――――――――
1、社説:プリウス問題 安心と信頼の回復を
                        2010年2月7日 毎日
 アクセルペダルの大規模リコール(回収・無償修理)を欧米で始めたトヨタ自動車に、新たな問題が浮上した。ハイブリッド車の新型「プリウス」でブレーキ操作への苦情が国内外で相次ぎ、品質に対する疑いの広がりと深さは「危機的な状況」(豊田章男社長)になっている。
 トヨタによると、ブレーキの瞬間的な作動・解除を電子制御しているシステムが「運転手にブレーキが利かなくなったと違和感を持たせる」ような設定だったという。あくまでも感覚の問題で、設定を変えれば違和感も消え、「構造的、設計上の欠陥はない」と主張している。
 メーカーにすれば、「欠陥」と呼ぶほどの重大性はないのかもしれない。しかし、安全のカギを握るブレーキに違和感のある車は不安で仕方ない。凍結路面などで起きやすいのなら、なおさらである。だからこそ、トヨタも昨秋に苦情を受け、先月以降は製造段階での設定変更に乗り出したのだろう。
 こうした措置を「品質改善活動の一環」として公表しなかったのも釈然としない。
 新型プリウスは、イメージの面でも販売面でもトヨタの顔だ。欧米では先進的な車として、環境意識の高い層らに人気が高い。国内新車販売では、先月まで8カ月連続で首位を走り、現在も納車まで5カ月待ちという。世界的な人気と注目度が高い車だけに、問題を大きくせずに済ませたい思いがなかっただろうか。リコールを含めた透明性の高い対応策を早急に実施してほしい。
 米国の報道などには、感情的な反応がにじむとの指摘もある。失業率が高止まりする米国は内向きになり、秋の中間選挙を控えて自国の雇用とメーカーの保護に傾くのは自然な成り行きだろう。ましてトヨタは昨年のゼネラル・モーターズ(GM)破綻(はたん)で、世界一の自動車メーカーになった。自動車産業の国で、その業界の頂点に立つ企業の言動は厳しい目にさらされる。
 トヨタの品質担当役員は「お客様の期待値に対して判断が甘かった」と語った。トヨタが生み出す製品と、トヨタというグローバル企業の言動への期待や影響力は、当事者が考えている以上に大きいと言える。
 プリウスは革新的な技術の結晶だが、先進技術も安心して使ってもらってこそ意味を持つ。メード・イン・ジャパンが「安かろう悪かろう」の代名詞だった時代、日本の技術者と企業は小さな実績を積み重ね、評判を覆していった。そして、日本製品の生命線である高品質と安心感のブランドが築かれた。トヨタは信頼回復の取り組みを通じて、そのことを再確認してほしい。
【関連記事】
トヨタ:新型プリウスのリコール検討 日米で30万台
トヨタ:プリウスブレーキ問題…ダメージ回避に躍起
新型プリウス:販売済み車両にも改善策…問い合わせ急増で
米政府:プリウス調査へ ブレーキ不具合苦情受け
1月新車販売:プリウスが首位 8カ月連続
毎日新聞 2010年2月7日 2時35分
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
社説:プリウス問題―遅すぎる全車修理の判断
                        2010年2月6日  朝日
 トヨタ自動車の安全と品質に対する信頼が、ますます揺らぐ事態となった。欧米市場向け主力車種のアクセルペダル改修に続き、こんどは次世代エコカーの看板車種「新型プリウス」のブレーキが原因だ。
 昨年5月から売り出したハイブリッド車で、国内では車種別販売のトップを走る。世界市場向け輸出も好調だっただけに、まさにトヨタのシンボルの手痛い失速である。
 問題はブレーキのシステムだ。「低速で走行中にペダルを踏んでもブレーキが利かない」というユーザーの苦情が日米の運輸当局や販売店に寄せられている事実が判明した。中にはけが人が出た事故も起きている。
 実はトヨタは昨秋に問題をつかんでいた。滑りやすい路面でのスリップを防ぐアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)に原因があると特定。システムを制御するコンピューターソフトを内々に手直しし、今年1月の生産分から改修していた。
 ところが、それまでに生産した約30万台の新型プリウスは、苦情があれば改修すると決めていただけだった。
 苦情が予想外の規模で噴出し、世論の批判も強まったため、日本と米国で新型プリウスを全車無償で修理する方針に転じた。
 まったく遅すぎる対応だ。本来ならソフトの手直しをする前に、すでに売ったすべての新型プリウスの改修を徹底するのが筋ではないか。
 アクセルペダル問題に続くトヨタの鈍感すぎる対応ぶりの背景には、顧客の身になって考えるという感度の衰えがあるようにすら見える。
 トヨタは、プリウスのブレーキも「コンマ何秒かの利きの遅れであり、ドライバーの感覚の問題」と認識しているらしいが、コンマ何秒がいかに長く感じられるか、ハンドルを握ったことがある人なら誰でも知っている。噴出する苦情の多さが、顧客の不安を何より雄弁に物語っている。
 そもそも、ドライバーの感覚を含めた人間の機能を代替して、安全と性能を高めることがコンピューター制御の核心ではないか。
 最初から完璧(かんぺき)な新型車を開発することは不可能であり、顧客の苦情をもとに改良して完成度を上げるのはごく普通の取り組みだ。だが、ブレーキのような人命にかかわる問題で苦情があれば、迅速な対応は不可欠だ。
 自動車に限らず、部品は複雑化し調達はグローバル化する一方で、品質管理が難しい時代だ。だからこそ、消費者は安全を最も重視する「ものづくり」を企業に求めている。その期待に応えなくては生き残れない。
 一連の蹉跌(さてつ)を安全な車づくりの糧とする謙虚さをトヨタがどこまで示せるか、世界中が見ている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
社説1 日本製品の信頼左右するトヨタの対応(2/6)
                    2010年2月6日  日経
 最強企業といわれたトヨタ自動車が大きな試練を迎えた。お家芸の「品質・安全」面で問題が相次ぎ、批判の矢面にさらされている。

 対応を一歩誤れば、営々と築いてきた「トヨタ車は高品質」という信頼が傷つき、長期的な成長力や収益性が揺らぎかねない正念場だ。

 豊田章男社長は5日の会見で「お客様の不安を取り除くことを最優先にやっていく」と表明したが、言葉だけでは事態は沈静化しない。不具合の原因究明と対策が急務である。

 品質問題の背景には、産業の構造変化がある。過去10年で自動車生産や部品調達のグローバル化が大きく進展した。トヨタも2000年には175万台だった海外生産車を、ピークの07年には430万台と倍増以上に伸ばしてきた。急拡大の過程で品質確保がおろそかになっていなかったか。反省と点検が欠かせない。

 もう一つは、技術の高度化だ。機械工学の産物だった自動車の世界でも、近年はIT(情報技術)を駆使した電子制御やソフトウエア技術の比重が増している。

 今やトヨタの代表車種になったハイブリッド車の「プリウス」について、ブレーキに関する苦情が相次いでいる問題でも、電子制御システムに原因があった。過去の成功におごることなく、電子時代に順応した新たな品質確保の仕組みが必要だ。

 さらに会社の危機管理能力も厳しく問われている。一連の問題のきっかけは、昨夏に米カリフォルニア州で一家4人が亡くなった「レクサス車」の事故だが、トヨタの対応はお世辞にも迅速だったとは言い難い。

 一つの問題がくすぶり続ける間に、次の問題が浮上し、どんどん事態が悪化する。負の循環に早期に終止符を打たなければ、消費者のトヨタ車離れが世界で進むだろう。

 問題の震源地である米国では今年秋に中間選挙を控え、保護主義台頭の兆しが出ている。外国メーカーへの風当たりが強まる可能性もある。

 それだけに、トヨタは社長自ら先頭に立って手早く対応策をとることで、消費者の不安や社会の批判に正面から応えるべきだ。トヨタの社員や株主に対しても、今後の会社の針路について明確で力強いメッセージが要る。

 トヨタは日本を代表する企業であり、同社の揺らぎは日本ブランド全体の信用失墜につながりかねない。あわせて生産のグローバル化などは多くの日本企業にも共通する環境変化であり、今回の事態を教訓にして、他企業も品質・安全の確保に一段と注力してほしい。

 < 過去  INDEX  未来 >


石田ふたみ