『日々の映像』

2010年01月31日(日) トヨタ車不具合、世界で700万台:安全の感度が鈍ったか



1、トヨタ、欧州は最大180万台リコール 不具合、世界で700万台超に
                     2010年1月30日   日経
2、社説:トヨタは信頼回復できるか
                      2010年1月30日  日経
3、社説:トヨタ生産中止 信頼の「カイゼン」を急げ
                      2010年1月29日 新潟日報
4、社説:トヨタ車回収―不具合、世界で700万台超が生命線だ
                      2010年1月30日  朝日

トヨタの「鉄壁」とも評された品質管理のもろさが露呈している。販売台数世界一のトヨタにとって大きな打撃だ。米国でのリコールの台数は約230万台。アクセルペダルがフロアマットに引っかかる恐れがある問題でも約535万台の自主改修に乗り出している。中国と欧州の分を加えると700万台超と、トヨタ単体の昨年の世界販売台数(698万台)を上回る規模になのだ。

問題が拡大した背景は、近年進んだ部品の共通化だ。車種が違っても共通部品の比率を増やせば、コスト低減につながるが、一方で部品に欠陥があれば、改修対象の台数は今回のように拡大することになる。新たな部品会社との取引は大きなリスクであることが証明されたようなものだ。

 それにしての、目視できる「アクセルペダルの不具合」と言うから信じられないようなミスである。安全が生命線であるであるはずの自動車生産で、このような単純な部品で欠陥を出したことでトヨタの信頼が大きく傷つくことになった。生産中止まで追い込まれた今回の700万台のリコール、安全・品質問題で信頼を取り戻すことは容易でない。
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1、トヨタ、欧州は最大180万台リコール 不具合、世界で700万台超に
                  2010年1月30日  日経
 【パリ=古谷茂久】トヨタ自動車は29日、欧州で販売した「ヤリス(日本名ヴィッツ)」「オーリス」「アベンシス」など8車種、最大180万台を対象にリコール(回収・無償修理)を実施すると発表した。原因は米国での大量リコールと同じアクセルペダルの不具合としている。トヨタは米国のほか中国でもリコールの実施を決めている。米国での自主改修分を含め、昨年秋以降に明らかになった不具合の対象台数は世界で700万台を超えるのは確実だ。
 米国でのリコールの台数は約230万台。アクセルペダルがフロアマットに引っかかる恐れがある問題でも約535万台の自主改修に乗り出している。リコールと自主改修の対象車種には重複があるが、中国と欧州の分を加えると700万台超と、トヨタ単体の昨年の世界販売台数(698万台)を上回る規模になる。(01:36)
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2、社説:トヨタは信頼回復できるか
                   2010年1月30日  日経
 世界の自動車販売にやや明るい兆しが出てきた中で、最大手のトヨタ自動車が最も得意とするはずの品質・安全問題で揺れている。

 米国で販売したクルマに、アクセルペダルの不具合が見つかり、約230万台の大型リコール(回収・無償修理)に踏み切った。

 当該の8車種には「カムリ」や「カローラ」といった代表的なクルマが含まれ、改良の準備が整うまで8車種の生産・販売を米市場で一時的に停止することも発表した。

 欧州や中国など米国外でも最大200万台規模のリコールが必要になる可能性もある。

 さらに、これとは別に、昨年の夏以来、米国で問題となっているフロアマット関連でも改修措置の対象車を広げると発表し、対象車は530万台まで拡大した。

 アクセルペダルとフロアマットの対象車は一部重複しているが、世界全体で600万台を超えるクルマが改修対象となる見通しだ。

 問題が拡大した一つの背景は、近年進んだ部品の共通化だ。車種が違っても共通部品の比率を増やせば、コスト低減につながるが、一方で部品に欠陥があれば、改修対象のクルマの台数は膨れあがる。

 現地生産や現地調達の拡大も事業のグローバル化を進めるうえで不可欠のテーマだが、従来つきあいのなかった部品会社との取引が増えれば、品質管理の難しさも増す。

 部品共通化や現地化は世界的な流れであるだけに、他の自動車会社にとっても十分な注意が必要だ。

 トヨタをはじめとする日本車が世界で躍進した背景には、品質への信頼が大きかった。だが、近年は米国車や韓国車なども品質向上が進み、優位性が縮小しているのが実態だ。

 品質・安全問題がいたずらに長期化すれば、それだけブランドイメージも損なわれる。

 市民の安全を守るために、欠陥ゼロのクルマを目指すのは当然だが、仮に欠陥車を出してしまった場合は、徹底した対策をとって不安を一日も早く解消することが大切だ。

 メーカーにとって基本中の基本である安全・品質問題で信頼を取り戻すことが、トヨタ復活への欠かせない第一歩である。

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社説:トヨタ生産中止 信頼の「カイゼン」を急げ
                      2010年1月29日 新潟日報
 トヨタ自動車はアクセルペダルの不具合を理由に米国で230万台もの大規模なリコール(無料の回収・修理)を決めたのに続き、対象車種の生産・販売の一時中止という異例の対応を発表した。
 中国でもリコールを行うという。各メーカーは環境車の開発を軸に新たな競争にしのぎを削っている。そんなときに「鉄壁」とも評されたトヨタの品質管理がもろさを見せた。販売台数世界一を誇った日本を代表するメーカーにとって大きな打撃だ。
 問題のペダルは米国の部品メーカーが製造している。踏み込んだアクセルが戻らなかったり、戻りが遅かったりするというのがリコールの原因だ。
 ドライバーが不安に駆られるのは当然だろう。信頼を取り戻すには丁寧な説明と対策を重ねるしかない。
 豊田章男社長は昨年6月の就任に際して「これまで大変な勢いで拡大してきたが、身の丈を超えた仕事となった」と語っている。この心配が現実のものとなったともいえる。
 車種を増やしての大量生産を支えたのが、コストを抑えるための部品の共通化だ。今回は同じ部品を複数の車種に使っていたのが裏目に出た形だ。部品の調達先の管理に目が十分届いていたかも問われる。
 トヨタは独特の生産方式を編み出して他社に先行した。その原点は徹底したムダの排除にある。
 部品の在庫を極力持たない「かんばん」方式や、作業を合理化するための「改善」などの社内用語は、そのまま外国にも通用するようになった。その「カイゼン」の強味を信頼回復に発揮するときだろう。
 問題の発端は昨年夏にトヨタの高級ブランド車が、時速200キロ近くのスピードで衝突事故を起こし、複数の死者を出したことだ。
 これをめぐり、トヨタはフロアマットの付け方によっては事故につながる恐れがあると発表し、車両本体の欠陥は見つからないとの見解も示した。
 これに対し、米当局が不正確な発表だと批判した。その後、トヨタは420万台に上る自主改修、年が明けてからは230万台のリコールと生産中止を打ち出していく。
 リコールに応じた体制が整わないうちに、主力車種の生産をストップせざるを得ない。苦渋の決断だったに違いない。トヨタはこれを「自主的な対応」としていたが、米当局の要請があったことが明らかになった。
 米当局との間で不協和音が生じているようにも映る。互いに意思疎通を図っていなかったことが、問題をこじらせた面はないのか。安全にかかわる問題の芽は早く摘まねばならない。
新潟日報2010年1月29日
辞に酔っている暇はない。
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社説:トヨタ車回収―安全への感度が生命線だ
                      2010年1月30日  朝日
 日本のものづくりを象徴するグローバル企業であるトヨタ自動車。その国際競争力の何よりの基盤であるはずの「安全」への信頼が揺らいでいる。
 北米や欧州の主力車種でアクセル関係の重要部品に絡む問題が続発し、リコールによる回収・無償修理だけでなく、生産・販売の一時中止という事態にまで発展した。トヨタ車全体の品質や安全に対する顧客の信頼感にも影が差し始めている。
 事の発端は、昨年8月に米カリフォルニア州で起きた高級車レクサスの暴走事故だった。運転席のアクセルペダルがフロアマットに引っかかり、足を離してもペダルが戻らなくなったのが原因だったが、トヨタは「車自体に欠陥はない」という立場に固執した。世論の批判に押し切られる形で11月になって426万台をリコールすると決めたが、「安全への感度」が鈍っていると疑わせる対応だった。
 今度は、同じアクセルペダルの部品がすり減って戻らなくなる危険性が判明した。米国で230万台のリコールは、共通の部品を使う欧州と中国にも波及。対象車種の北米5工場での生産と販売を中止することにした。
 さらに、昨年と同様のトラブルが指摘された109万台の追加リコールを決めた。こうもリコールが続くと長年の努力で培ってきたブランドイメージも痛手をこうむる。
 経済危機で利益が吹っ飛び、「成長」に急ブレーキがかかったのは外部要因だが、安全の問題は経営に責任があると考えざるをえない。
 ひとつはトヨタ自身の急速なグローバル化のひずみだ。問題の部品は米国メーカーから調達しているが、設計や品質管理の指導が甘かったとみられる。多くの車種で部品を共通化した結果、問題が起きるとリコール対象が爆発的に増えるようになった。
 トラブルへの対応ぶりからは、米ゼネラル・モーターズを抜いて世界の頂点に立つ過程で頭をもたげた自信過剰と気のゆるみもうかがえる。問題がグローバル化しているのに、日本などの顧客への実態説明や不安解消の手だても十分とは言えない。
 米国での市場調査では、品質面で韓国の現代自動車が日本勢を上回る結果が出始めている。日本勢はハイブリッド車や電気自動車など次世代技術の実用化や開発では優位にあるが、競争は熾烈(しれつ)で安閑としてはいられない。しかも、次世代カーが普及すればするほど、安全や品質による選別と淘汰(とうた)の時代がやってくるに違いない。
 21世紀の世界は、市場構造の激変と技術革新が同時進行する波乱の連続だろう。その中で自動車に限らず、日本のすべての産業で安全と品質への感度が競争力の生命線になる。そのことを確かめ直す必要がある。





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石田ふたみ