2008年11月28日(金) |
インド同時多発テロ (1) |
報道 1、社説:ムンバイ・テロ―新興大国を襲った恐怖 朝日 2、社説:インド同時テロ 経済の中枢都市が狙われた 読売 3、社説:インド同時テロ 不気味な「点と線」を追え 毎日 4、社説1 9・11連想させるインド商都へのテロ 日経
インド同時多発テロの多くの報道が続いている。テロに参画している若者は生きて帰れるとは思っていないだろう。ここまで人を動かす思想・・・過激は思想ほど恐ろしいものは無い。ここでは、社説4篇の引用に留めたい。
―――――――――――――――――――――――――――――――― 1、社説:ムンバイ・テロ―新興大国を襲った恐怖 2008年11月28日 朝日 発展を続けるインド経済の中心地ムンバイで、大規模な同時多発テロが起きた。 高級ホテルなどを自動小銃や手投げ弾を持った武装勢力が襲った。死者は日本人を含めて100人以上に達し、さらに宿泊客を人質に取った。許し難い蛮行というほかはない。 ムンバイでは06年7月にも帰宅時間帯の列車を狙った連続テロ事件があり、約200人が死亡した。 このときインド側は、パキスタンの情報機関やその影響下にあるイスラム過激派が関与したと非難し、パキスタン側は否定した。両国はカシミール地方の領有をめぐって長年争っており、関連するとみられるテロもこれまで多発してきた。 昨年あたりからは、インド人のイスラム過激派組織が関与するとみられるテロも主要都市で続いている。今回はインド南部の高原「デカン」のムジャヒディン(聖戦士)を名乗る組織が犯行声明を出した。 米英人を人質に取ろうとした手口からは、今回の武装勢力が「欧米支配への聖戦」を掲げる国際テロ組織アルカイダの影響を受けている可能性も指摘されている。 テロに見舞われるインドの事情は、ますます複雑になってきたが、はっきりしていることがある。 根底にあるのが国内の宗教対立だということだ。11億人を超えるインドの人口の8割はヒンドゥー教徒が占め、イスラム教徒は13%強だ。 宗教対立による紛争では多くの場合、イスラム教徒が犠牲となってきた。新興経済国として急発展したもののイスラム社会は取り残され、ヒンドゥー社会との格差が目立っている。 まずは過激派の温床となっているこうした問題にきちんと向き合い、社会の融和をはかることが必要である。 インドとパキスタンとの間で関係改善の動きが強まってきたなかで、この事件が起きたことも無視できない。 インドのシン首相とパキスタンのザルダリ大統領は9月に初めて会談し、カシミール紛争の和平交渉再開や、インドがパキスタンの関与を疑うテロについて、協議機関をつくることなどで合意した。今月にはザルダリ氏が、同じ核保有国として核の先制不使用を表明し、インドとの経済同盟の結成を呼びかけたばかりだった。 今回の事件とパキスタン情勢との関係は不明だが、こうした雪解けの動きに水を差しかねない事態だ。両国の安定は、アフガニスタンでのテロとの戦いを進めるためにも不可欠である。 インドは47年の建国いらい常に選挙で政権交代をしてきた「世界最大の民主主義」国家であることを誇っている。事態を早く収拾し、背景にある問題の解決に全力を挙げて欲しい。 ―――――――――――――――――――――― 2、社説:インド同時テロ 経済の中枢都市が狙われた 2008年11月28日01時59分 読売新聞 台頭著しいインドの、最大の商業都市ムンバイ(旧ボンベイ)を狙った大規模な同時多発テロである。邦人ビジネスマンにも犠牲者が出た。 26日夜に発生したテロでは、ホテルや鉄道駅、病院、レストランなど人が集まる公共施設ばかりが標的になった。 死者は100人を超え、負傷者も300人以上に上る。犯人グループは、自動小銃を乱射し、手りゅう弾で武装していたという。 高級ホテル「タージマハール」では、何度も爆発が起き、武装集団は、外国人の宿泊客らを人質に取って立てこもった。 死傷した日本人ビジネスマン2人は出張で現地を訪れ、別のホテルに投宿した直後に撃たれた。 インドでは最近、爆弾テロが相次いでいた。しかし、銃を乱射し、外国人も利用する高級ホテルに立てこもる例は珍しい。 ムンバイは世界の外資系企業も集まる経済の中枢都市だ。テロの影響を受け、地元の証券取引所が27日の株取引などを休場する事態に追い込まれた。 ムンバイには日系企業100社余りが事務所を構え、270人を超える邦人が住んでいる。 先月来日したシン首相は麻生首相との間で、日印の経済連携協定(EPA)の早期妥結に向け協力することで合意したばかりだ。日本は、ニューデリーとムンバイを結ぶ貨物専用鉄道の建設に円借款の供与も約束した。 テロが続けば、こうした日印間のプロジェクトや日本の投資活動に陰りが出ることが懸念される。躍進を続けるインド経済にとっても打撃となりかねない。 日本はじめ米国、英国などの政府や、国連の潘基文事務総長が、今回のテロを非難する声明を公表したが、当然のことだ。 犯行を名乗り出た「デカン・ムジャヒディン(聖戦士)」は、存在を知られていなかった組織であり、背後関係も不明だ。 過去には隣国からイスラム過激派が潜入し、テロを引き起こしている。9月にニューデリーで発生した連続爆破テロでは、インド国内のイスラム過激派グループが犯行声明を出した。今回の場合はこれとつながりがあるのか。 インドはパキスタンとともに南アジアの核保有国である。社会不安の拡大が最も懸念される。 インド当局には、拘束した容疑者の取り調べなどを通じ、組織実態や背後関係を徹底的に捜査してもらいたい。それには国際社会が協力することも重要だろう。 (2008年11月28日01時59分 読売新聞)
――――――――――――――――――――――――― 3、社説:インド同時テロ 不気味な「点と線」を追え 毎日新聞 2008年11月28日 東京朝刊 南アジアに伏流する暴力のマグマが、また噴き出した。インドの経済発展を象徴する商業都市ムンバイ。英国植民地時代の古い建物と近代的な高層ビルが共存するこの街で、自動小銃や手投げ弾などを持った武装グループが、高級ホテルやレストランなどを次々に襲った。日本人ビジネスマンも犠牲になった。死者は100人を超えたという。 恐るべきテロである。冷血の所業を許してはならない。ムンバイでは06年にも通勤列車などを狙った同時テロがあり約190人が死亡した。93年には市内13カ所で起きた連続爆破で257人が死亡し、03年にも3件の爆破テロで60人余りが亡くなった。この街でのテロは枚挙にいとまがない。 深刻なのは、一連のテロに隣国パキスタンの影がちらつくことだ。06年の鉄道テロについてインド当局は、パキスタン軍情報機関の主導でイスラム過激派が実行したとみているという。93年と03年のテロも、カシミール地方の分離独立を求めるイスラム過激派の関与が言われている。 カシミールの帰属はインドとパキスタンの紛争の根っこにある問題だ。ヒンズー教(インド)とイスラム教(パキスタン)の対立もあって、両国は核拡散防止条約(NPT)に加わらずに核兵器を持ち、90年代末には核実験を繰り返して核戦争さえ現実味を帯びた。 今回のテロに関して、まずはインドとパキスタンの冷静な対応を求めたい。イスラム過激派とみられる組織が犯行声明を出し、米英人らが人質にされた点では、犯行組織はアルカイダやアフガニスタンの旧支配勢力タリバンに近いように思われる。テロを機に核保有国のインドとパキスタンの対立が強まるのは、彼らの思うつぼだろう。 それにしても南アジア周辺の不穏な情勢には言葉を失う。9月にはパキスタンの首都イスラマバードの高級ホテルで爆破テロが起きた。アフガンでは27日、首都カブールの米大使館近くで自爆テロがあった。ムンバイ・テロとの関係は不明ながら、インドとパキスタン、アフガンの情勢は不気味な「点と線」で結ばれていると見た方がいい。 その意味では米国の「インド重視」政策は問題なしとしない。インドを「世界最大の民主主義国家」と呼ぶブッシュ政権は、米印原子力協定を結び、これを原子力供給国グループ(NSG)に追認させた。NPT非加盟のインドとの核ビジネスを例外的に認める措置を、日本も承認したのである。 だが、米国が「印パ等距離外交」からインドに軸足を移すにつれて、パキスタンとの関係が冷え込み、アフガン情勢の悪化にもつながる傾向は否定できない。インド安定のためにも、米国は「テロとどう戦うか」という問題を関係国と謙虚に問い直す必要がある。 ―――――――――――――――――――― 4、社説1 9・11連想させるインド商都へのテロ(11/28) 2008年11月28日 日経 インド西部のムンバイで大規模な同時多発テロ事件が発生し、日本人男性1人を含む多くの市民の命が奪われた。背景にいかなる政治的理由があろうと、無差別テロは決して許される行為ではない。犠牲者に深い哀悼の意を表すとともに、事件を起こした武装集団の卑劣かつ残忍な行為を厳しく糾弾する。
武装集団による攻撃の標的となったムンバイは、インド最大の商業都市である。中心部の複数の高級ホテルや鉄道駅などが次々とテロ攻撃を受け、銃の乱射や手りゅう弾などで400人以上が死傷した。
麻生太郎首相が「強い憤りを覚えるとともに断固として非難する」と表明したのは当然だ。米英政府もテロ攻撃を強く非難した。日本の外務省は邦人の安全確保や情報収集に全力を尽くしてほしい。
事件発生後に「デカン・ムジャヒディン(イスラム聖戦士)」を名乗る組織が犯行声明を出し、地元テレビに「(拘束中の)イスラム聖戦士の全員釈放」を要求したことから、イスラム過激派による犯行との観測が強まっている。インドのシン首相も「国外に拠点を置く組織が商都に大損害を与えようと決意してやってきた」との見方を示した。
ヒンズー教徒が主流のインドではイスラム教徒が職業など待遇面で冷遇されることが多く、根深い宗教対立が事件の背景にあるとの指摘が出ている。ムンバイは人口に占めるイスラム教徒の比率が高い。
インド経済の中枢を狙った組織的な連続テロは、2001年9月11日に米国で発生した同時テロを連想させる。武装集団が米国人や英国人を集中的に人質に取ろうとしていたとの証言もあり、国際テロ組織のアルカイダが関与している可能性も否定できない。テロの続発を防ぐためにも、インド政府は武装集団の実態解明を急ぐ必要がある。
同時テロがインド経済に与える打撃も懸念される。ムンバイには中央銀行のインド準備銀行や2大証券取引所があり、金融や商業の中心地である。外国企業も数多く進出しており、日本企業も約100社が現地に拠点を構えている。
金融危機の波及で世界同時不況の様相が強まるなか、今年7%台の経済成長が見込まれる新興国インドには、世界経済のけん引役としての期待もかかる。インドも経済の減速が避けられないが、治安リスクが外資進出の障害となり、一層の経済失速を招きかねないのは気掛かりだ。インド政府は事件の徹底究明とともに治安対策の強化を急いでほしい。
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