やんの読書日記
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2002年12月24日(火) 沫子 信太流れ海伝説

佐向真歩作 講談社X文庫

古代日本、ヤマトのくにが東征を行った時代に、
アズマエビスや土蜘蛛とよばれさげすまれていた人々が
ヤマトの支配に抗い、生き残りをかけて、たたかう物語。
物語の土台に「常陸国風土記」があり、
作者は実在の地名に想像力を編み込んで、地に足をつけた
力強い人物を描いている。沫子、臨薙(ふつな)、
沫子の大兄夜尺(やさか)、次兄夜筑(やつき)、
それらが遠い古代の人物なのにもかかわらず
目の前に立っているような感覚で読めてしまう。
東国の信太流れ海に浮かぶ安婆(あば)の風景に
音や香りがある感じがした。
東で生まれ、西のヤマトで育った臨薙(ふつな)の、
自分の居場所のない悲しみが、
沫子のことば
「人は漂える沫のように混ざり合い、凝り固まってできた」
で変わっていき、安婆を征服する立場の自分が、
いつしか自分の居場所は安婆だと感じはじめる。
その変化がいい。
一度退却したかに見えたヤマト軍が
ふたたびやってきて安婆を囲もうとするとき
もとの自分の居場所に帰る臨薙(ふつな)。
自分の命とひきかえに臨薙(ふつな)を安婆へ帰す夜筑(やつき)。
そんな夜筑(やつき)を見て、自分の真の居場所を知る臨薙(ふつな)。
安婆を侵略されることを知って、
ヤマトに屈せず北の国へ逃す夜尺(やさか)の誇り高き決断が、
こころにいつまでも残る。
沫子は、自分が人々を受け入れる器であること、
港であることをこの時に知り、
北の国へ臨薙(ふつな)とともに逃れる。
「人は漂える沫のように混ざり合い、凝り固まってできた」
という沫子の人間観、ヤマトも土蜘蛛も同じという観念が
臨薙(ふつな)を動かし、兄たちを動かし、民を動かしたのだと思う。

民族の信念に満ちた動き、
歴史の陰になってしまった人々がいたということを
古典から読み取った佐向真歩さんの力量に感服しました。


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