あおーげばーとおーとしー
講堂中に響く歌声。 窓から差し込む柔らかな光はまだ残る寒さを溶かし、まるで祝福のような厳かさを演出していた。
江古田高校卒業式。
今日、江古田高史上最饗にして最凶の問題児が、卒業する。
『答辞 卒業生代表、黒羽快斗。』
「はい。」
凛と透き通るような声がマイクも無しに響く。
黒一色の平凡な制服すらも彼が着るとまるで舞台衣装のように映え、その最後の姿を目に焼き付けようとするものの、視界がゆがんでそれさえもうまくいかない。 卒業生どころか在校生からもすすり泣く声が聞こえ(主に女子)、先生方からも涙をこらえる声がする(ようやく問題児が卒業してくれる、と歓喜の涙)。 保護者席からはカメラのフラッシュが絶え間なく光り、時折聞こえる歓声と子供のはしゃぎ声。 …あれ?
ゆっくりと上がった壇上で一礼の後マイクの前に立ち、至極真面目な顔で手元の紙を読み上げる。
「『答辞』」
いつもの天真爛漫な笑顔ではないが、その大人びた笑顔は見慣れない人たちには目を見張るもので。 そして、
にやり
月下を思わせる何かたくらんだ笑みを顔に浮かべた。
「…あのバカ…」
保護者席からの溜息交じりの声は紙を破る音にまぎれて聞こえることはなかった。
『Ladies and Gentleman !!』
破られた紙は色とりどりの紙ふぶきに姿を変え、講堂中に降り注ぐ。
『It's a show time !!』
高校3年間最後のショーの幕が開き、歓声が空気を遠く響かせた。
制服のまま繰り広げられるショウは花が生まれ鳩が飛び出し、熱くない炎が舞う幻想的なものだった。 クロースアップマジックでもなく、人体切断や大脱出のような大掛かりなものでもなく、観客を舞台に上げてのマジックでもないが。 それでも見るものを惹きつけ、そして卒業式ジャックに相応しく『黒羽快斗』らしいショウでもあった。
突然始まった出来事に呆然としてしまい、間の空いた後に我に返ったように教師たちが止めさせようと舞台に近づくも、卒業生在校生揃って逆に教師を押さえ込んでまでショウに魅入っていた。 その妨害を潜り抜けた教師も、快斗自身にショウの構成のひとつにされ、するりするりと逃げるように姿を消し、思わぬところから現れる、といったことを繰り返す。
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めもめも |
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