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  2002年06月18日(火)   「忘れたハンドバッグ」 / Aardman collection  

--すぐれて素晴らしい映像は、言葉を越える。--

何だか、すごく当たり前で、
陳腐とも思えることを書いてしまったけれど、
アードマン・アニメーションの「忘れたハンドバッグ」への
とても正直な感想です。

アードマン・アニメーション。
ニック・パーク監督の「ウォレス&グルミット」シリーズで
知られるクレイアニメクリエイト集団アードマン・アニメーションズの
傑作短編集の中の一本です。

私の持っているのは、字幕版のVHSで、
収録作品は、
1.チビのレックス〜恐竜はなぜ絶滅したか
2.快適な生活
3.愛してる……愛してない! ?
4.コマーシャル・シリーズ(1)
5.アダム
6.どっちが豚! ?
7.コマーシャル・シリーズ(2)
8.忘れたハンドバッグ
9.チビのレックス〜夢
の9本ですが、DVDの方には、「アイデントの正体」「ネクスト」 も
収録されているようです。

この「忘れたハンドバッグ」は、小さな姪っ子たちのお気に入り。
中でも5歳の姪っ子は、これが大好きで、
うちに遊びに来るたびに、
「あのこわーいビデオ見せて!」と、何度もせがみます。

実際、怖いストーリー(笑)で、
ダンテ(!)洗濯機のローンを払い忘れたおばさんが、
知らずに契約していた悪魔に支払いのカタとして、
「魂」を持って行かれてしまう。
悪魔と一緒に地獄に堕ちていく途中、
おばさんは、ふいに「ハンドバッグ」を忘れたことに気づき、
あわてて地獄から戻ってくるが…という話。

怖いはずのお話なんだけど、
原色でからっと描かれていて(しかもすごくアート)、
クレイのお人形たちも、とてもコミカルで、
姪っ子も「こわい!」「こわい!」と連発しながらも、
字幕のセリフは読めないのに、
何がおかしいのか、大笑いしていいます。
随所に遊び心があふれているから(だって、「ダンテ洗濯機!」)、
ついつい鼻先でふっと脱力系の笑いが漏れてしまいます。
私も、これは大好きで(もしかしたら「ウォレス&グルミット」以上?)、
何度見ても飽きることがありません。
ティム・バートンやヘンリー・セリックの名を
引き合いに出している方もいますが、
私は地獄に堕ちていくシーンのアニメーションを見るたびに、
ヒッチコックの「めまい」を思い出しています。
なんだかすごく、ヒッチテイストだなぁと。

でも、そんないろいろなお遊びに気づかなくても、
子供は子供で、映像のまま、このビデオのおもしろさを満喫しているのです。
ほんとに分かっているのかなあと、
ところどころで、
「おばさんはどうしたの?」とか、「どうなったの?」と聞いてみると、
「お金払えなくて、悪魔に連れて行かれたの。」
「ハンドバッグを取りに、地獄から戻ってきたの。」
と、ちゃんとわかっている。
しかも、笑っている場面を見てみると、
きちんとブラックなユーモアも理解しているようなのです。
最初に、簡単に二言三言説明したことを覚えているのもあるだろうけど、
とても正しく物語を理解しているので、ついつい驚いてしまいます。
さらに、字幕を読むだけで、とくに英語のセリフに耳を傾けない私と違って、
所々に聞こえる知っている言葉に素早く反応し、
骸骨になって戻ってきたおばさんは、私にとっては、やはり、
「骸骨になって戻ってきたおばさん」(笑)に過ぎないのだけど、
耳で聞いている姪っ子は、たちまち「ゾンビ」というセリフを拾い上げて、
「ゾンビ」「ゾンビ」と喜んでいます。
はしゃぐ姪っ子の言葉を聞きながら、
「ああ!おばさんって、ゾンビだったんだ」と、
遅まきながら、再発見したりしています。
(字幕では、ゾンビという言葉は出てなかったと思う。)

短いシンプルなストーリーだから、
5つの子供でも飽きることなく、何度も楽しめるのだろうけど、
こういう小さな子を惹きつけてやまないところに、
クオリティの高さをしみじみ感じるのです。
映像そのもの力で、子供を惹きつけ、
遊び心と、質の高い丹念な技が、
じっくりと見てしまった大人を虜にしてしまう。

姪っ子たちは、これを見た後、流れで「ウォレス&グルミット」も
見るのですが、これも字幕版を見ます。
もちろん、言葉を理解して笑っているわけではないのですが、
なぜだか、吹き替え版を見せたときよりも、
笑いののりがいいのです。
やはり、日本語には置き換えることのできない、セリフのテンポや
雰囲気をプリミティブな姪っ子たちは、本能的にかぎつけるのかもしれません。

そんな彼女たちを見ながら、
しみじみと、言葉を越えるアードマン・アニメーションの
素晴らしさに感心するのです。(シィアル)


Aardman collection(発売・販売元: アミューズピクチャーズ)
 ・「忘れたハンドバッグ / Not without My Handbag」監督:ボリス・コスメル
※ビデオの方は、手に入りにくいかもしれません。