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2001年10月10日(水) |
「コレリ大尉のマンドリン」 |
といいながら、原作はまだ読んでいない。
英国で20人に1人が読んだというベストセラーなのだから、
読み応えのある作品にはちがいないだろう。
本格的な文学作品で、今秋、邦訳も出ている。
だから、ここでは映画についてだけ言いたい放題。
(ときどき、こういう日もある)
傷付き、涙でうるんだ上目づかいの瞳。
「俺ぁどうしてこんなことに…」
打ちのめされた猫背の歩き方をさせれば天下一品。
出る映画出る映画、ジャンルに合わせて
「そういう人」になってしまう役者といえば、
ニコラス・ケイジ。
舞台となったギリシアのケファロニア島。
イタリア軍の行進のはしっこに登場したと思ったら、
開口一番、「2時の方向に美女発見!!」と叫ぶ。
ニコラス・ケイジ隊長である。
本人は音楽の才能がないと謙遜しているらしいが、
このために猛練習したというマンドリンはいっぱしのもの、
指先から奏でられるのは、とぼけたジョークとは裏腹に
涙を誘う繊細な雅歌。
さすがのプレイボーイ、ニコラス・ケイジである。
ちょこんと被った兵隊帽を取ればやっぱり額が薄くて、
それもやっぱりセクシーな、
要するに、これはニコラス・ケイジの映画である。
なつかしい顔にも会える。
「エイリアン」でまっ先に寄生された乗員役のジョン・ハート。
(エレファント・マンでもおなじみ)
ヒロイン、ペラギアの父親の医者役で、
ひたすら動じず渋く決めている。
ペラギアの幼なじみで、
コレリ大尉の恋敵になる漁師の青年マンドラスは
「太陽の帝国」で主役の少年を演じたクリスチャン・ベール。
その母親役で、強烈に脇を固めるギリシャ人女優イレーネ・パパス。
コレリ大尉と恋をするヒロインは、LUXの黒髪CMでおなじみの
ハリウッドスター、ペネロペ・クルス。
彼女の家がコレリ大尉の宿舎になるのだから、
親しくなるなというほうが無理。
個人的に少し消化不良だったのは、彼女の描き方。
もう少し深入りして欲しかったところもある。
友人との関係や、医者をめざす田舎のインテリ娘なのに、
勉強しているところは見たことが無いとか。
…そんなことも思うのだが、そこはそれ、
ニコラス・ケイジの映画なのだから。
原作ではそのあたりの掘り下げも深いのだろう。
そして映画の後半、場面は一転する。
耳に突き刺さるような爆撃の鋭い金属音。
牧歌的な前半とは対称的に、戦争の悲劇と大地の怒り(大地震)が、
情け容赦なく、ギリシア・イタリア・ドイツの民族を、
風光明媚な地中海の島を引き裂いてゆく。
ムッソリーニの亡き後、イタリアは連合国に降伏。
イタリア軍の武器が、もしパルチザンに渡ったら?
それを怖れた同盟国ヒトラー・ドイツとの戦闘で
生き残った兵士は、わずか34人。
ギリシャに駐留した9,000人のイタリア軍のうち、
たった34人だった。
コレリ大尉のように、それまでの生活で
銃を持ったこともないような兵士たちが経験した地獄。
この映画の撮影はすべてケファロニア島で行われた。
戦争が残した傷や影を、映画に重ね見るうちに、
音楽を愛し、人生を楽しんでいたコレリ大尉も変わってゆく。
一触即発の平和が放つもろい輝き、犠牲のうえに成り立つ自由、
歴史が繰りかえしてきた悪意を、今の現実と絡め、
私たちは暗い側でただ眼を見張り、密かにたじろぐ。
あれやこれや考えると、やはり原作が読みたくなった。
映画を観たあとウェブサイトに行って、マンドリンを弾いてみた。
なお、早目に行けば、ロードショー会場には
「コレリ大尉のマンドリンハンドブック」なる
フリーペーパーが置いてあるので、
実話にもとづいたこの島での戦争悲劇の詳細や、
映画の逸話が読める。(マーズ)
「コレリ大尉のマンドリン」
著者:ルイ・ド・ベルニエール / 出版社:東京創元社
「コレリ大尉のマンドリン」(2001年・米)
監督:ジョン・マッデン
出演:ニコラス・ケイジ / ペネロペ・クルス / ジョン・ハート
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