なべて世はこともなし
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2006年12月16日(土) 週末スペシャル:日本円を手に入れるためのむなしい努力

週末スペシャルも何も、週末しか更新してないじゃないか…と突っ込まれそうですが、なんだか今週も忙しいままあたふたしただけで終わってしまいました。まあ、とりあえず週末スペシャル、また、アホタレBank of Irelandネタですがお楽しみくださいませ。


聞けばユーロが日本円に対しユーロ誕生以来最高の水準になっているらしい。来月、日本に行く私はならば今のうちにちょっと日本円を手に入れておこうと思ったわけ。それ自体は全く間違っていなかったと思うのだが、やり方が根本的に間違ってました


1週間ほど前、クリスマス前の混みあった、そして殺気立った街に行くのがおっくうな私、会社の近所のBank of Irelandで両替をしようと画策。思い立ったが吉日と、さっそく某支店に電話。


相手:「日本円を10万円分ですね。わかりました。来週の木曜日までにご用意できます」


街中の本支店や空港支店ならともかく、フツーのローカルなBank of Irelandの支店にいきなり行っても日本円の現金などありません。かくして、1週間ほど前に予約をする必要があるわけ。で、木曜日がお約束の1週間後だったのです。


気がつくとずぶ濡れになっているいやーなタイプの霧雨の中、向かったは会社の近所にあるBank of Irelandの某支店。村(=商業エリア)の中心にあるため路上駐車はチケット制。街に比べたら格安の60セント=60分(街中は1時間2.5ユーロなので1/4以下)。セコい私は最低金額の20セントだけ払ってBank of Irelandへ。


両替のカウンターに行く。厚いガラスの向こうの相手は20台半ばのお兄さん。


私:「日本円の両替を電話で1週間くらい前にお願いしたんだけど、用意できてるかな」
お兄さん:「あー、はいはい、電話でお話しましたね。大丈夫ですよ。ちゃんと金庫に保管しております。今、金庫からお持ちします



…ああ、電話で話したのあんただったのね。そりゃ話が早いや。


で、お兄さんはカウンターの奥のドアーの向こうに消える。きっとその先にあるのは大金の入った金庫(推定)。そんな金庫から私のお金を持ってきてくれるというのは、激しく勘違いしてるけどちょっとVIP気分


数分後、戻ってきたお兄さんは


お兄さん:「申し訳ない。金庫の防犯装置が働いていて今金庫が空かないのです。20分後にまたお運びいただけますか?」


良くは知らないのだけれど、アイルランドに銀行などにはタイマーをセットしないと開かない金庫があるらしい。要は、銀行強盗などが来たとき、「ごめん、20分しないと開かない」ということになれば、強盗も諦めるのではないか…という発想。防犯のためとはいえ、私のような(自称)まともな客が迷惑をこうむると言うのはにわかには納得しがたいが何せここはアイルランド。何が起こっても驚いてはいけない


かくして、霧雨の中を近所の店に時間つぶしに出かける。この地区、ダブリン市内でもあまりよくないエリアと言われている。個人的には別に嫌な思いをしたことがないし、相手の言ってることがいまいちわからないことを除けばまあ、悪くないところだと思ってる。すごく好意的に言えば、「古きよきアイルランド」が残っている気がする。


入ったのは近所の1ユーロショップ…なのだが、1ユーロの商品などほとんどなく、2ユーロとか3ユーロとか、3つで2ユーロなどと書かれた商品ばかり。普段は見向きもしないのだが、今日は単に時間つぶしのために入る。


すると、消費期限が切れかかったリステリン(マウスウォッシュ)を投売りしていたのでそれを買うことに。で、レジに並んでいると、まあ、レジが進まない進まない。レジのおばちゃんがお客みんなと雑談しているのだ。で、私の後ろには商品を山と抱えたおばあちゃんが。そのおばあちゃんが抱えきれなくなったキッチンタオルを落としてしまう。私が拾ってあげると


おばあちゃん:「このお店安くていいわよねえ。このぶっといキッチンペーパーも安いのよ」
私:「あら、いくらなんですか」
おばあちゃん:「こんなにぶっといのにたったの2ユーロ」
私:「あら、そうなんですか。そりゃ安いですねえ」
おばあちゃん:「あなたもお買いなさいよ。ほら入り口のところにあるでしょ」



こんな感じで気さくに話しかけてくるのです。そういえば私がアイルランドに来た頃はこういう光景が日常茶飯事だったような気がする。われわれガイジンが増えすぎたからなのか、それともバブルに踊らされているせいなのか、こういう光景を見ることが少なくなったのは残念と言ってもいいと思う。


で、車に戻り、パーキングチケットを20セント分買い足して(これ、厳密には違法)きっかし20分後にBank of Irelandに戻る。


お兄さん:「今、金庫を開けてくるね」


数分後、お兄さんは照れたような笑いを浮かべながら…


お兄さん:「ごめん!金庫のタイマーをセットするの忘れてた。悪いけど20分後にまた来て」
私:「ええっ!そんじゃあ明日にしようかな」
お兄さん:「だったら金庫の外にお金を出しとくから」



…ってそれじゃあ金庫の意味がない…とか本質をついたことを言ってはいけないんですよね。アイルランドでは。ともあれ、一瞬翌日(つまり金曜日)に出直そうかと思ったものの、営業時間内に店にやってくるためには仕事を抜け出さねばならず、訳あって金曜日は忙しい私、無理と判断。


私:「いや、気が変わった。あと20分待つから、ちゃんと金庫のタイマーをセットしておいてね」
お兄さん:「もちろん大丈夫」



そして、今度はレンタルビデオ屋で時間をつぶした私は、再び20セント分パーキングチケットを買い足して三度Bank of Irelandへ。カウンターにお兄さんの姿はなかったが、すでに顔を覚えられた私は別の係から


係:「今、マークを呼んでくるわね」


ふーん、彼の名前はマークと言うんだ。覚えとこ。


マークは奥からやってきた。札束を持って。ん?私は10万円をお願いしただけなのになんで札束を持ってやってくるんだ?


その理由はマークがカウンターに座った瞬間にわかった。なんと、10万円分を全部1000円札で用意しやがった!このアホタレBank of Irelandは。いやー、1000円でも札は札。帯封のされた札束を見て私はちょっと大金持ちになった錯覚を起こす。ふと、我に返って考えたのだが、もしもし、それをどうやって日本に持っていけと言うんですか?間違っても財布には入らないぞ。


マークはうれしそうな顔をして…


マーク:「お待たせしました。少なくとも当行のセキュリティの万全さは感じていただけたかと思います」


…そういう次元の話じゃないような。


で、マークが帯封を解いたときに気がついた。このアホタレBank of Irelandは夏目漱石さんと野口五郎さん(←お約束のボケ)をごちゃ混ぜにしてる。ちょっと待て。今頃日本で旧札の漱石さんを使おうとしたら、不審な目で見られるぞ。ましてやたとえば3万円の買い物をしたときに、全部旧札の漱石さんで支払おうとしたら、なんとなく通報までされかねない気がする。そこで私は…


私:「マーク、どうやら困ったことになったみたい(英語では”Mark, I think we are in trouble”)」
マーク:「へ?」
私:「そのお札、日本じゃあもう法定通貨(legal tender)じゃないと思うんだよね」



マークは大声で


マーク:「え゛?……あ、少々お待ちを。今、本店に電話してみます」


マークは私から見える位置で電話を始める。数分後


マーク:「ええと、この古いほうのお札は1992年から使い始めたもので(ウソ。正しくは1984年)、そして新しいものは2004年から使い始めたそうです」
私:「いや、私は日本人なんだから、そんなことレクチャーしてくれなくたって知ってるってば。問題はね、2004年に新札が出てきて、2年で完全に旧札と入れ替わったのよ。今、旧札を日本で使おうとしても、多分無理」
マーク:「銀行にお持ちいただければいいかと



…あーのーなー、いちいち日本の銀行に持っていかなきゃいけないなら、こっちのユーロを持っていってそれを換金したほうが早いわい。


マーク:「もし問題があったらあとでユーロに私が責任もって再換金します」
私:「いや、いいや。この話はなかったことに」



というわけで、結論。


アホタレBank of Irelandのローカル支店では日本円を手に入れることは不可能。


この件で何が一番嫌かって、この情けない騒動を「わーい日記のネタができた」と喜んでいる自分自身だと思います。ああ、自己嫌悪。




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