弓削の河川敷で水遊びに興じる幸せそうな家族を眺めたあとだった 坂根の堰から桃に入ったまんま下流へと滑り落ちた 苔に覆われずるんと滑るような丸石の川底があちらこちらに広がり ごつんごつんとお尻が当たりながら桃は川を下っていった カワウに見送られ 鴨越の堰を流れ落ちた頃にはもう潮の香りが漂ってきていた 途中で声をかけられ引き寄せられかけたけれど 桃から生まれるつもりはさらさら無いので 児島湾からさらには瀬戸の流れへと身をまかせ漂って行った 誰かに救い出してほしいとは思わなかった 仲間を引き寄せるための団子も要るとは思わなかったし ましてや鬼どもを退治しに行く気にもならなかった ありきたりな名誉も金銀財宝も必要に思わなかった そんな思いを抱いた赤子たちの入った大きな桃が流れ着く島がある いつかはこの島に日本一の旗を掲げ仲間と共に攻め入ってくる輩が現れる 勝ったのは桃太郎じゃない負けたのも桃太郎だったのだ 負けたのは鬼じゃない勝ったのも鬼と変わりはしない
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