その人形には 遺伝子が埋め込まれていたのです 四世代の女五人が おひなさまの前でごちそうにありつき 笑いながら話しあっている姿を見て 感じました それまでの娘たちの姿は 気づいてはいませんでしたが 目には見えぬ情報の海で溺れかけている 哀れな漂流者でした 何を差し伸べればよいのかもわからず 何もかもが自由なままに自分探しをせよと命じていたのですから 遺伝子は内なる存在に宿っていると告げ 手当たり次第に気に入ったものを与えて参りました 私たちは時代の流れの中にあって いつの間にやら遺伝子を得るための地図を見失っていたようです それはまるで人としてのパーツを取り戻していくかのように 静かに少しずつ あちらこちらに それとはなしに埋め込まれていたのでした わずか数年で様変わりをしてしまう世の中ではありますが 世代を越えて文化的な遺伝子をたどる道筋がやはり必要なのだと これを機に実感いたしました もはや知らず知らずの内に 我々とは異なる書き換えが 娘たちに起きているのかもしれません もしかすると活動の原動力となる経済を追う内に 文化的な遺伝子は力を失った物語として見失われていたのかもしれません 本能と信じていたものが何もかも幻だとわかったとき 幻だからと全てを打ち壊してしまうことは実は簡単でした 問題なのは親子が世代を越え どの物語をルートとして選び取るか どのキャラクターを演じていくのか それが問われていることではないでしょうか いじめや引きこもり 日々の暮らしを不安に陥れるさまざまな事件 ともすれば被害妄想に陥りがちな毎日ではありますが おひなさまを前に見た笑顔の輝きがそのまま世代がスライドしても 続いて行けばなあと願うのでした
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