大通りに面した古めかしい木製ドア いくつか色のくすんだ小さなガラスがはめ込まれている 店のドアの足元に 白い塩が浮かび上がる 盛り塩ではなく ドアの下一面 塗り込むように 端から端まで塩の帯が続いている どこまで続くのかと思ったが となりは薄暗い路地になっていて 塩の道はそこまでだった ドアの横の柱も何だか腐りかけてるようだし ナメクジを除けるため これ以上悪くならないように マスターが工夫したのかもしれない まだ少し早いけど 店に入ってみることにする 案の定薄暗い店内は なんだかかびくさいようなにおいが立ちこめている 梅雨時にしてはひんやりした感じもするが カウンターは触ると湿気が多い ひげを生やしてるけど 頭は薄いマスター登場 少し飲むことにする BGMはジャズ 何だか出づらい あの塩は聞かなかったけど マスターよけなんじゃないかな マスターを店の外に出さないための だってマスターなんだかナメクジみたいだぞ そんな経験はしたくなかったので ぼくはドアを開けることはやめにした 塩にどんな意味があるのかわからなかったけど ドアの向こう側にはどんな人がいたのかわからなかったけど かなりの間ドアの前で立ち止まって あれやこれや考えていたのは事実だ ということは やはりあれは盛り塩だったのか 塩が恐くて入れなかったのは ぼくがナメクジだったからかもしれない 店の中にいたのはぼく自身だったのかも となると 塩は現在と未来を隔てるための障壁なのか
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