2021年04月29日(木) |
雨が降る。雨の中をワンコと散歩する。あっという間に前髪が濡れ、雨雫が滴り始める。ワンコを見やればワンコは黙々と歩いている。そして時折こちらを見上げ、私を確認する。彼の好きな草があって、細い葉っぱをもつ雑草なのだけれど、それを見つけるたびはぐはぐと食べる。私は立ち止まって彼が食べ終わるのを待つ。その間も雨は降り続く。私の三つ編みは次第に濡れ始め、小さな雨粒に包まれ始める。ワンコと私を繋ぐ一本のリード。もう使い古された赤いリードもじんわり湿り気を帯びる。 彼はうんちをするその直前、それまで隣を歩いていたのに私の前を歩き始める。いつもそうだ。私の前を行くのがうんちのサイン。だから私はビニールを用意する。困るのは、彼が何故か道路の真ん中でうんちをしたがること。道路の真ん中でされると途中でやってきた車に止まってもらわなければならなくなる。だから私はリードをちょいちょい引いて調整する。 ワンコがうちに来て気づけば四年目。でも、まだ四年か、というのが正直な感慨。彼はもっと昔から私のそばにいる気がする。というのも彼が実家で飼っていた犬メリーにそっくりだからかもしれない。 メリーはビーグル犬、ワンコはラブラドール、犬種も違う。なのに、彼の横顔はメリーそっくりで、時々見間違えてしまうほど。 メリーは娘の誕生を待たずに死んだ。その直後、娘が生まれた。命というのは不思議だ。それだけで命が連なっているかのようにさえ思えてしまう。 命の連なりが、私を生かし、誰かを生かし、そして私が死ねばまた、誰かが産まれ。そうして順繰りと廻ってゆく。
息子が口をへの字に曲げて泣きそうな顔をしている。お友達に裏切られた、と言う。約束したのに、待ってたのに、来ない、と。私は何も言わずただじっと彼を見ていた。彼はお友達と食べる用に私が用意していたおやつをおもむろに取り出し、むしゃむしゃと食べ始める。私はそれを止めるでもなく黙って見守る。 夕飯になって家人が息子に、お友達どうしたの、と訊く頃には、彼の気持ちは切り替わっていたらしい。彼は、きっと約束を間違えたんだよ、日にち間違えたかそれか風邪ひいちゃったかで来れなかったんだね、と言った。私はそれもまた、黙って聞いていた。
28日は次回の加害者プログラムのミーティングがあった。最初、対価型(見返り要求型)性暴力について扱いたいと思っていたが、先生と話すうちに、痴漢と盗撮について扱うことに決めた。新学期、痴漢や盗撮は格段に増える。新入生/新卒の子らがターゲットになりやすい。彼らは真新しいスーツや制服を身につけている、それだけで、まだ不慣れな環境にあるということに気づかれ、そしてターゲットにされる。 ターゲット。そう、加害行動を行なう時の彼らに、対象は「ひと」と映っていない。あくまで「的」なのだ。対象をひとと認識していないからこそ、何度でも再犯できてしまう。恐ろしい心理。 プログラムでは、そうした認知の歪みと彼らは向き合わなければならない。自分のこの感覚は歪んでいるのだ、と気づくことができてはじめて、次に進める。自覚がなければ延々と歪みの中をループしてしまう。 歪みに気づいてもらうためにも、私は被害体験を語る。
ぴょんっと携帯の通知音がする。見れば、印刷物の発送完了メール。ああ、そうか、展示のDMが明日届くのか、と知る。いよいよ展示の準備を詰めていかなければならない。気持ちがきゅっと引き締まるのを感じる。展示まであと一か月。あっという間に過ぎるに違いない。気合を入れていかないと。 まだ外は雨。予報だともうじき止むはずなのだけれど。窓の向こう、夜闇がじっとり濡れている。 |
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