2020年04月20日(月) |
雨。霧雨のような雨だったり、激しく叩きつけるような雨だったり。時間によって雨の様子はがらり変わる。そんな雨の様を窓のこちら側から何となしに見やりつつ、仕事を続ける。 展示が急に決まった。来週かもしくは再来週から。依頼を受けて最初に浮かんだ詩を中心に据えての展示にしようと決める。こういう時は心に浮かんだものをぎゅっと形にするのが一番いい。
雨といえば、昔青い傘を持っていたことを思い出す。真っ青の、何の模様もないただただ青の傘だった。開くと、まるで海の底にいるような気持ちになれた。雨の中歩くことは好きじゃないのに、その傘が一緒だと、守られているような気持ちになって、歩くのも苦ではなかった。 或る雨の夜、友人から連絡が来てその青い傘をさして飛んでいくと、しょんぼり肩をすぼめた彼女が居た。SOSを出してくれた彼女にまずありがとうを伝え、話に耳を傾ける。私には到底力になれないような、途方もない家族の葛藤の話で、私はただもう、聴くことしかできなくて。雨はその間にも激しくなっていった。 友が傘を持っていないことに気づいたのは彼女を送り出す時で。私は、自分の青い傘を彼女に押し付けた。彼女の頬には雨と同じように涙が滴っており。それを見つめるのも辛くてただ差し出した。 ありがとう。確か彼女はそう言った。そしてとぼとぼと帰っていった。はずだった。私は走って逆方向の自宅へ向かったけれど。まさかその後彼女が交通事故に遭って死んでしまうなんて、その時の私は思いもしなかった。 あの時。つくづく思い知ったのだ。今目の前にいるひとが、明日も目の前にいてくれるとは限らないのだ、と。当たり前は当たり前なんかじゃなくて。尊い一瞬一瞬なのだ、と。 彼女のお葬式は、同じように雨の日に為された。私の手元に青い傘はもうなくて。何処へいったのかももう分からなくて。私は友人と青い傘と両方、あの日、失った。
雨がようやく止んだ夕暮れ。息子と犬の散歩へ。世界中がしっとり濡れている。そこかしこに雨粒が光ってる。雨粒をじっと見つめれば、その小さな粒の中に光の輪をいくつも湛えており。
世界はそれでも、美しい。 |
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