朝起きると馬車道が部屋にいて、私は起きた瞬間に頭を天井にぶつけた。寒い冬の日。船越桂の「私の中の泉」を見に行き、ル・シネマで『燃ゆる女の肖像』を鑑賞。隣で鼻をすする音がずっと聞こえていた。馬車道はボロボロと泣いていたのだった。映画を見終えた後は一言も話さず、黙々と、渋谷を歩いた。 かつて愛し合っていたにも関わらず、ある場所で再会をしても、どちらか一方は気が付かない。目線が交わらないまま終わる。 「あなたともそうなってしまうんじゃないかと考えたよ」
白山眼鏡で眼鏡を見る。あなたには赤いフチの眼鏡があうよ、という。だから私は赤いフチの眼鏡を買おうかな。その後、お花屋さんで花を買った。小ぶりの赤い花と、黄色のチューリップに、白い小さな葉っぱみたいなもの。帰宅後、馬車道が花を花瓶にさしてくれた。ありがとう。
僕はあなたのことを守りたいよ。と言ってくれる、スーパーマンのような馬車道は、そして昨日また帰っていった。淋しいから見送りはしていない。部屋の中で、またねえといって、そして去って行った。ベランダに出ると、下に馬車道がいる。変なダンスをしていた。 馬車道がポストカードに書いてくれた船の絵を眺めて朝を迎える。 次はいつ会えるのだろう。 私たちは、最高の計画を立てている。これは絶対に完成させねばいけない。 素晴らしい作品になるのに違いない。
私は、裸以上に丸裸になってゆく。ある人間に自分のすべてを晒すのは恐ろしいことだと思っていたが、馬車道にはそれができた。
「生きようね」 「おう。生きよう」
ヴェルベットアンダーグラウンドを聞いて、二人で走る。
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