昼食に誰かを待つ日は

2020年01月22日(水) 居心地の良い場所は、土の上か?

台所と呼べるスペースが無く、ちっさい椅子の上で電気鍋を置きスープをかき混ぜている27歳。もう少し広い部屋に住みたいなあと夢想しつつ、しかし思いの外うまいスープが出来上がるともう満足してしまう。私が幸福を感じる瞬間は、取るに足りない些細なものだが、それはある人から見ると滑稽なことかもしれないし、情けないことかもしれないし、貧しいことかもしれない。


昨日は、三重県の漁村で本屋を営む女性が遊びに来てくれて、一緒に西荻窪でご飯を食べた。彼女とふたりで会話をするのは初めてで、歳は7歳離れているがすぐに意気投合し、好きになる。
ゆかさんは、その漁村の高台に住んでいて、週三日本屋で働き、週三日は喫茶店でバイトをし、それ以外は部屋の中で仕事をし、日々ゆっくり起きて生活にまつわる様々なことにじっくり時間を注いで生きているらしかった。もともと東京のアパレル(それもセリーヌ!)で働いていたり、化粧品会社に勤めていたこともあったらしいが、その時とは打って変わってのこの生活を、最近しみじみ愛しているという。
この間一人で海辺を歩いているとき「ああ、私今めちゃくちゃ幸せだ」と感じてしまったそうな。その瞬間、ほんとうに幸福だったのだろうなと想像する。この生活をする前は、あらゆるストレスに苛まされ、また人からの裏切りがあり、心底最悪な状態だったというが、ひょんなことから漁村に行くことになり、そして今はそこに身を置いてひとりで暮らしている。彼女のその生活ぶりがあまりにも羨ましくて、焼き鳥と九条ネギ、それからいわしのコロッケを食べながら、体を前のめりにさせてずっと話を聞いていた。人も少なければ遊びに行くところも全然ないし、理想と現実は違うだろうけれども、身体と心で「今幸せだ!」と素直に感じられる人は、実際のところ稀だと思うので、何の濁りもないその言葉にうっとりしていたのだった。


「でももし南海トラフが来たら、津波が来るかもしれない。怖くないの?」と尋ねる。
それは怖いけど、どこにいても脅かされているでしょう。東京で建物の下敷きになって死ぬよりかは、ここで波にさらわれるほうを選びたいと思うよ、と潔い答え。そんなことが起こらないことが一番だけど。なるほどなるほど、そこまでも前提にして住んでいるという心構え。いいなあ。

今度、ゆかさん家に遊びに行ったら、何もせずにずーっと昼寝をして、気が向いたら海に散歩に行き、喫茶店に入ってコーヒー飲んで、そんで眠ろう。そんなことを考えていたらまた楽しくなった。


そういえば、私もゆかさんも山羊座のO型ということが判明。この組み合わせは2020年最も良い運勢なのらしい。では私たちの年である、ということで盛り上がりたいところだがそうはならず、「良いと言われていて最悪だった場合が怖い」、「良い後は悪いことが来るかもしれない」、「そもそも放っておいてほしい」という風な話になって、この人とはやはり気があうと思った。(「誕生日祝われるの好きじゃないでしょ?」という質問ですでにその直感は当たっていたのだが!苦手です)どこまでも惑わされず、地にしっかり足をつけていたい山羊座なのだった…(それでも今年に期待を寄せている)


さっきまたスープを飲んでいたら、でもそこまで幸せな気持ちにはならなかった。もっと広いキッチンで料理がしたい!という、欲。欲は鬱陶しいから嫌いなんだけど、それでもやっぱり、キッチンは広いほうがいいよなーなどと思う。でも、身の丈にあった生活をどれだけ楽しめるかだよなあ、とも思う。ガツガツしている人は、自分の欲望に忠実だから、きっと欲しいものを得るために・・・この後に続く言葉が見当たらなかった。頑張る?努力する?いろんな方法があるんでしょうが。


最近禁煙を始めたら、すぐに眠ってしまって、毎日12時間くらい寝ているのだが、必ず4つか5つの夢を見て、たいてい疲れている。この間は秘密警察に追われる夢を見て、最後は土砂の中に身を投じて全てを終わらせるという結末に至った。すぐさまその夢を見たことを井上に報告すると、私の夢を簡潔に文章にしてくれた。



「バーでお酒飲んでいる。追われている身。テレビで報道されていて思わず飛び出し、ロシアへと行く車に飛び乗る。あらゆる世界警察に知られていて、すべてのロシアに行く車が検問されている。だがわたしの中のわたしはそれに気づいていて、ロシアに行くことはまやかしで、反対車線にうつってドイツにいくのだった。わたしすごい! 反対車線にワープし、乗り込んだ車の隣にいた男が『僕たちはドイツにいけないよ。この再会をずっと待っていたんだ』と語るやばいやつだった!このままではいけないと思ったわたしは車から飛び出した。そこで世界警察の視点に切り替わる。そこでは土の中に身を投じるわたしの姿が全世界に向けて配信されていた。わたしは敗けたんだ!」


この夢の後、何事もなかったかのように再び8時間の眠りに。
ああねむい。何にもない何にもないまったく何にもない、と歌っていた人誰だっけ? すごく、わかる。


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左岸 [MAIL]