1225。クリスマスにこんなに簡単に大事な人と別れるとは思わなかったけれども、じぶんで放った言葉を簡単に引っこ抜けるほど、もう子供ではないから、その言葉をおもしにして、そして背負って、来年からは生きていかなきゃなりません。
1226。しんとした部屋の彼の部屋に荷物を取りに行き、前日に買ったプレゼントと、手紙を机の上に置く。この手紙はさあ、あれだけいろんなことを話していたのに、話せていたのに、まるで誰にでも通じるような言葉しか書いていなくって、あなたあの手紙読んだらきっと吐き気を催すだろうね。でもそういうことしかできなかった。 僕のいない間に荷物を取りに来て、と言われていたから、いない間に忍び込んで、そうして荷物を置き、荷物を取り、それだけで去ろうとしていたにもかかわらず、溜まりに溜まった洗濯物を見て洗濯物をまわしてしまった。洗濯機の音が「ピー」となり止んだら、もうこの部屋にいる用事がないので、それまでの間には思わずいろんなことがぐっと押し寄せてきて、簡単にこの人の記憶を、忘れられるわけないよなあと思いながら、穴の空いた靴下だとか、そういうものを見て、ますます涙が出てきた。それで、一度長い手紙を書いてみたのだけれども、どうも感傷に浸りすぎている自分に冷めて、それはやっぱり残さないことにした。洗濯機の音が、ピーっとなってこれは終りの音でしたから、それらをハンガーに干して、そうして部屋を後にしたのだった。 私は今まで一緒にいた人のことを、もう忘れるために、一切の記憶を抹消しようとしていたけれども、この人のことはとてもそうできるわけが、ないよなあと思う。それはしてはいけないよなあ、と思う。
部屋を出て、寒いなあと思いながら電車に乗り込んで新宿駅に着いたら、おばあちゃんから電話。 「なっちゃん、元気?おばあちゃんねえ、癌になっちゃった」 びっくりした。容態を聞くと、悪性だったけれど手術をして今は抗がん剤を飲んでるから大丈夫とのこと。でもしんどいし、お乳はもう真っ黒だという。 「なっちゃん、元気になったらまた神戸に来てねえ」 うん、もちろん。なんかあったらすぐに電話して、すぐに行くから。と伝えたけど、 お正月に会いに行くね、とは言えなかった。そうしてこの電話が、なんだか最後になりそうな予感がした。 父親が死んだ時にもねえ、なんだか変な感じがしたの。電話の向こう側から、とても変な感じがした。
おばあちゃんが死んだら、一人で何もできないおじいちゃんはどうしてしまうんだろうと、なぜかおじいちゃんのことが思い浮かんだ。ずーっとずーっと長年連れ添っていたパートナーがぽっくりあの世に逝ってしまったら、あの人は、きっと何にもできないはずだ。
ちょっといろんな事が起きて、一度何もかもを考えるのをやめた。そうするには最適なくらい、外は寒かった。半端に暖かかったら何かを考えてしまえるから。 それにしても、人と会う時間というのは本当に限られていて、一体全体これから誰と会っていくのか、誰が私と会ってくれるのか、その貴重な時間を割いてくれるのだろうか、奪ってしまうのだろうか、と考える。
家について、すぐ寝ちゃった。すぐに寝られるくらい、馬鹿になっちゃったのだろうか。
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