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別冊ele-king「アート・リンゼイ 実験と官能の使徒」に寄せられた文化人類学・今福龍太さんのインタビューから多くを学んだ。アート・リンゼイのニューヨークとブラジルを往復するなかで生まれた新作『CUIDADO MADAME』をテーマとしつつ、今福さんとブラジル・中南米との関わりや、映画監督の話があり、最後はブラジル・ガイーアのカンドンブレ、キューバのサンテリーア、ハイチのヴードゥー、アメリカ南部のフードゥーなどの音楽が全て「黒人奴隷の移動の軌跡とインディアンの強制移住の歴史」の上で同じ系譜にあると語る。そしてそれらを繋ぎ合わせようとする現代ミュージシャンのハイブリット試みは非常に刺激的だという。「顔つきも、身につけた言葉遣いも、身体のリズムもみなそれぞれ違うけれども、それを出会わせてみたら、おなじひとつの兄弟姉妹から生まれた末裔たちはなにを感じるのか。」
この発想は自分が今関わっている仕事にも活用できないだろうか。フォークテキスタイルという工業化以前の名もなき民の染織品は、身のまわりの自然と共同体との強固な結びつきから生まれたものである。歴史のなかで複雑に絡み合った国、民族、宗教を紐解いていき、一つの大きな道をたどっていく…。 おそらくテキスタイルにおけるこの探求のプロセスとしては、民族のアイデンティティを表す文様や色などが主要なテーマとして位置付けられ、他方では風土に根ざした素材・技法といった視点がより背後にある造形性として比較されるだろう。もっといくと、やがて経糸緯糸以前の、乱数的なテキスタイルとしてのフェルト、樹皮布までさかのぼることになろう。また、テキスタイルという枠をとってしまえば、人類の起源まで遡り、ついには人、モノ、生物、すべての境界が消滅した「無」という哲学的境地をさぐることになる。
こまやかでマニアックな探求ではあるが、このような大きな道筋をたてて研究することが、研究を人類全体の未来を探りえる有意義なものとして成立させることにつながる。
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