てくてくミーハー道場

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2018年04月08日(日) 『Romale−ロマを生き抜いた女 カルメン−』(東京芸術劇場プレイハウス)

謝珠栄先生−花總まり−カルメンときたら、伝説の舞台『激情−ホセとカルメン−』を抜きには語れない。

近年(つっても初演はもう20年近く前の1999年だが)のタカラヅカの娘役が演じるにしては、あまりにも強烈なキャラクターだったカルメン。

低い地声でしゃべり、大股で歩き、乱暴で喧嘩っ早く、あろうことか舞台上でSEXシーンまで演じた、スミレコードが冥王星の彼方まで吹っ飛ぶ勢いのヒロイン像。

だが、作品自体はある意味とてもタカラヅカらしかった。

みんな大好き()スパニッシュ、徹頭徹尾愛憎劇。

いろんなタイプの男役が綺羅星のごとくカルメンという女の周りを飛び交った。

融通が利かない堅物かと思えば直情的なドン・ホセ、セクハラ&パワハラの権化スニガ中尉、野獣と支配の男ガルシア、地位と豊かさのモテメンエスカミリオ。男役の百花繚乱。

それでもやはり、観客の記憶に刻まれたのは、カルメンというヒロインの鮮烈さだった。

それは、脚本の柴田侑宏先生の筆力、そして演出の謝先生のセンスとパッションももちろん大きかったのだが、ひとえに花總まりという稀代の娘役の存在なくしては初演の成功はなかったと断言できる。

というのも、再演の夢咲ねね、三演目の愛希れいかもしっかりと観た後で、「・・・やはり花總!」と唸ったぼくがいたからだ(異論はかまいませんが)



そんな花總が、紆余曲折を経た19年後の今、再びカルメンを演じた。

この間の紆余曲折のごく一部しかぼくは知らないけれど、そして前にも書いた気がするけれど、花總には、「よくぞ舞台に帰ってきてくれてありがとう!」としか言えないのである。

カルメンを、ただ蓮っ葉で移り気な女として演じるなら、肉感的な肢体を持つ女優なら、だれでもできそうな気がする。

だが、今回の舞台で謝先生が標榜したであろう「ロマという民族に生まれた宿命を背負った女」という深い内面までを、全身の細胞から滲み出せるのは、今んとこ花總ぐらいしかいないのではないか。特に歌とダンスがある舞台では。

実はぼくは見逃しているのだが、謝先生は10年前の2008年にやはりカルメンものを上演されていて(『Cali−炎の女カルメン−』というタイトル)主演はコムちゃん(朝海ひかる)だった。

当時、日本のシアター界隈においては、元“男役”でなければカルメンという“炎の女”を演じるのは無理だったのではないだろうか、と簡単に推測される。

ちなみに花總は2006年に歌劇団を退団した後、2010年に再登場するまで、4年間も女優業をせずに沈黙()を守っていたのである(その理由はゴシップ風味になるから軽々しくは書かない)


それにしても、この、謝先生のカルメンへのこだわり。

カルメンの一体どこが、こんなに謝先生を引き付けるのであろうか。

その辺のヒントはプログラムに書いてある()のでここには書かずに一人で納得することにして(おい)、今回の出演者たちのお話に移る。



花總については散々書いたからもういいかと思うが、ぜひ書き加えたいことがある。年齢を考えると(余計なお世話です!)あの身のこなし、ダンス力は瞠目に値するということだ。

それも、「ダンス上手でしょ」という動きではなくて、(これは謝先生の「振付」へのこだわりとも言えるが)人物の感情表現としての動きとして、非常に洗練されているのだ。

衛兵隊士たちにちやほやされて蝶のように舞う動き、男に乱暴に扱われて抵抗する動き、逆に自分から男にツタのように絡んでいく動き。体幹の強さしなやかさに圧倒される。

それゆえの、立ち姿の美しさ。もともと抜群のスタイルを持っているということもあるが、近年の彼女の舞台を見ていて、「やっぱ、昔より歳とったか?(当たり前だけど)」と悲しく思うことも若干あったので、今回の舞台での脊椎のまっすぐさ(ほめ方変だよ?)には、心から嬉しかった。


その花總とガップリ組めるのか?大丈夫か?と若さを心配したホセ役・松下優也君。

以前はちょいちょい舞台でお目にかかったが、最近はご無沙汰してました。

この若さは正解だった。まあ、ホセがカルメンよりずっと年下に見える(実際年下なんだけど)ことは是か非かわかんないですけど、翻弄されまくりな感じは素でできていたと思う。

身のこなしは素晴らしい(謝先生の舞台では、男はホントめっちゃくちゃ動きまくらされるからねえ)

歌は、まあまあでしたか。あの、下手ではないんですよもちろん。これはローレンス役の太田基裕君にも言えることなんですが、下手じゃないんです基本。だけど、ほかの出演者に圧倒的に上手い人がいると、ちょっと残念な気持ちになるのは仕方ない。


てなわけで、圧倒的に上手かったのが、福井晶一さん。

美声の上に、楽譜に書いてある以上のモノを乗せている歌声。涙絞らさせていただきました。


涙絞るといえば(なんか連想ゲームみたいだな)団時朗さんの“謎の老人”

実際最初の方で、もう「この爺さんがホセその人なんだな」って客にはバレてるんです(身も蓋もないぞ!)

でも、分かってても、ホセがカルメンを殺そうと決意して追いかけていく場面で、老人が「“俺は”カルメンを追った!」と、初めて自分がホセであることを告白するセリフが、ぼくの涙腺を決壊させた。

この脚本の力。そしてそのセリフを話す役者の力。

こういう瞬間に出会うために劇場通いしてるようなもんです。



さて、今回の舞台ではホセの他にスニガ、ガルシア、とカルメンを巡る男キャラが出てきて、今まで聞いたことのない()ローレンスとかいうイギリス貴族まで出てくるんだけど、オペラでは超儲け役のエスカミリオが出てこない。

なんで他の舞台では省かれるローレンスが出てくるのかは、最後の方で種明かしがあるんだけども、エスカミリオが出てこないのも、その種明かしに関わっているのかもしれない。

単純に、上演時間の関係かもしれない(おい)

役者が見つからなかったのかもしれないが(それは・・・ないと思うぞ?)


そして今回、カルメンの他に“女”は一人も登場しない。

11人の男の中に、女は一人きり。

なんだか、つか芝居っぽいな。

カーテンコールのラインナップを見たら、みなさんめっちゃ長身でビビりました(男性はほとんど180センチ前後だったんじゃないかな)

何役もやってた5人のパフォーマーの皆さんは、謝先生舞台のみならず日本ミュージカル界ではちょくちょくお目にかかる面々。その身体能力にはいつも驚愕させられます。


その中のお一人を理由あって本日は特筆いたします。

千田(真司)さん、プレ誕生日おめでとうございます。

そして、特別養子縁組成立おめでとうございます。ここに至るまでにはさまざまな逡巡があったことと思いますが、その決断をたたえます。どうかご家族皆さんがいつまでもお幸せでありますように。



なんかいつも不思議なんだけど、謝先生の舞台を観た後って、なぜか真面目なこと言いたくなるんだよな。

謝先生ご自身が真面目(というか真摯)な方だからなのかしら。

客の心情にまでこういう影響を与えるもんなんですなあ演出家って。

勉強(何の?)になりました。


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