林心平の自宅出産日記

2004年11月23日(火) 言われたことばかりしているのではないか

 ここ数日、妻の機嫌が悪かったのです。それをぼくは、顔の肌荒れがなおりつつあるためもあって、粉をふきはじめているせいだと思っていました。しかし、いらいらの原因はぼくにあったようでした。
「よーさんはいつも、後手後手なんだよ。腰が痛いって言っても、『うん』としか言わなかったり、『できることはあまりない』だなんて言って、何もやさしくしてくれない。私だったら、お風呂沸かしたり、サロンパス買ってきたり、いろいろ考えて行動する。この前、よーさんがおなかが痛いって言ったとき、保険証と飲み物を持って迎えに行ってあげたでしょう。よーさんは、言われてからしかしないし、言われたことだってちゃんとやってない」
 返す言葉もありませんでした。

 その晩、インターネットでアロマテラピーについて調べました。明日から足浴と腰のマッサージを日課とすることを提案しようと思いました。



2004年11月22日(月) ウーマンアローン

 仕事から帰ると、妻が「昨日読んだ『ウーマンアローン』とても感動したんだよ」と言って、その一節を読んでくれました。

「 銃、GPS、携帯衛星電話は、ユーコン川の川旅の三種の神器なのだという。
 人によっては、いつごろ雨が降るのかを予想できる気圧計を持って行く人もいる。
 私は、その三種の神器の一つさえも持っていなかった。そのことで友人を『無謀だ』と、不安にさせていた。
 しかし、だからといって、私の旅は無謀でも無茶でもない。
 私は私なりに、堅実な旅をしていた。
 私は、銃の代わりにギターを買った。
 衛星電話の代わりに、カヌーが遭難しても一ヶ月はサバイバルできるほどの水と保存食を積み込んだ。
 そして、GPSの代わりに地形図と小さなコンパスを買った。
(中略)
 私の旅は、全てのことに100%を超えていた。120%いや、それ以上でなければ、荒野の中では命とりになる。
 考えること、決断の迅速さ、勇気、多くのことに、100%以上のものが要求される。
(中略)
 緊張の糸がピンと張りすぎて、気疲れすることもあったが、そのうち、緊張とリラックスのバランスというものも理解できるようになった。
 ハイテクノロジー機器は、確かにすばらしい。
 しかし、テクノロジーは、そんなに信頼してよいものなのだろうか?
 どんなにその機器を上手に使うことができるとしても、もしも、それが壊れた時に、自分の力と知恵と感覚を使うことができなければ、それは何よりも危険なことだ。私は、テクノロジーに頼りすぎて、その知恵や感覚を失ってしまうのが最も怖かった。」
『ウーマンアローン』(廣川まさき/集英社 1575円)2004年より

 ここまで読んで、妻は言った。
「私の自宅出産も、『ウーマンアローン』だって思ったの。私、いつも、緊張してる。このまえ、夜中にかゆくて、よーさんを起こしたとき、よーさん寝ぼけてたでしょう。そのこと、怒ったよね。それから、『夫には産めないのだし、たいしたことはできない』だなんて掲示板に書いてたこと、無責任だって言ったけど、やっぱり産むのは私だって思ったの。今日は、顔が粉ふきいもみたいになったんだよ。だから椿オイルを塗ったんだけど、かゆいのだってよーさんじゃなくて私だし。もし、お医者さんにかかっていても、そのお医者さんが休みの日に産まれることになったらどうなる? 結局、知らない他のお医者さんになってしまうでしょう。『自分の力と知恵と感覚を使うことができなければ、それは何よりも危険なことだ』っていうのは、そのまま出産にあてはまるのだと思う。自宅出産は、私の『ウーマンアローン』なんだよ」

 ぼくは、この言葉をきいて、逆に勇気づけられ、妻をますます信頼したのでした。
 それから、夫には産めないけれど、できることもたくさんあるのだと、あらためて思いました。
 『ウーマンアローン』も読みたくなりました。



2004年11月21日(日) ユーコン川のこと

 カナダの北のほうにユーコン川という大河が流れています。

 『ウーマンアローン』(廣川まさき/集英社 1575円)2004年、という本を妻が読みました。ユーコン川を1人でカヌーで旅した女性の旅行記です。
 読み終わってから、妻は、ぼくを呼んで、近くにいておなかの赤ちゃんのことを考えてほしい、と言いました。そこでぼくは、しばらくおなかをさすっていました。
 どうも、いつもと様子が違う。しばらくして妻は言いました。
「同じ年くらいの人が、ユーコンに行った。私も行きたいと思っていたのに、今は、寝てばかり」
 ぼくは、以前、知り合いに連れられて、ユーコン川をカヌーでくだったことがあります。それ以来、妻は、自分も行きたいと言っていたのです。
「でも、それぞれの人生でしょう。もし、妊娠していなくても、ぜんそく持ちだったら1人で行けないでしょう」
「うん。でも、昔は元気で体力にも自信があったから、今でも冒険に対するあこがれがあるみたい」
妻は、大学生のとき、ワンダーフォーゲル部で活躍していたのです。
「ぼくと一緒だったら行けるでしょう。子どもたちが大きくなったら、きっと、2人で行こう」
 そう言うと、妻は元気になりました。元気を取り戻した妻は、とっておきのレモンケーキをもりもり食べ、りんごまで食べました。
 つられて食べたぼくも、すっかり食べ過ぎてしまいました。
 でも、ユーコン川のことは忘れずにいようと思いました。



2004年11月15日(月) 肌荒れとメロンパン工場

 ここ1週間ほど妻の肌荒れがひどくなっています。以前、産後に顔に赤いぶつぶつができたことがありました。そのときと同じような感じになったのですが、今回は、体中にひろがってきました。
 ぼくが仕事から帰ると、妻の顔はだいぶでこぼこになっていました。とても驚いたのですが、妻は普通にふるまっていました。しかし、しばらくすると
「今日はひどくなってきて、とても落ち込んでいたので、頑張って普通にふるまおうとしていたの」と言いました。それから、妻は言いました。
「子どもたちがとても食べたがっている、メロンパンを作ろう」
 もう、夜になっていましたが、妻はメロンパンを作ることによって、元気を取り戻そうとしているようでした。子どもたちも一緒にまきこんでの、メロンパン作りが始まりました。
 生地はホームベーカリーに作ってもらい、1次発酵をすませてから、妻が上に乗せるクッキー生地を作ったので、それを娘がのばし、それを息子が砂糖の上に置いて砂糖をつけ、それをぼくがパン生地のうえに乗せて成形しました。メロンパン工場の設立です。
 子どもたちはだんだんと上手になっていきました。少々時間がかかってだれぎみの生地でしたが、翌朝、皆で食べたメロンパンの味は格別でした。
 それから毎日、子どもたちは帰宅すると必ず
「まだ、メロンパンある?」ときくのでした。
 でも、まだ、肌荒れは続いています。



2004年11月12日(金) 悪いお弁当の例

 最近、妻は、朝食は皆で一緒に「ご飯、卵かけ納豆、みそ汁」とか「トースト、ヨーグルト、大豆ココア」などを食べています。1人で食べる昼食はごく簡単に、鉄分クッキーなどですませ、夕食はしっかりと、最近は料理もしてくれ、食べています。つまり、ぼくにとっては、妻の昼食を作らなくてよくなったのです。これが、よくなかったのです。
 
 ぼくは、最近、どうもおなかの具合がよくなかったのですが、今朝、ひどくおなかをこわしてしまいました。すっかりまいってしまって、仕事の昼休みに病院に行きました。妻が保険証を持ってきてくれて、一緒に行きました。結局、かぜだが、もう回復にむかっているとのことでした。そういえば、先日、下の子が熱を出していました。おむつかえの後などに、よく、手をあらわなかったのかもしれません。
 診察が終わったとき、妻が言いました。
「お昼はどうするの?」
「お弁当を持ってきてるから、どこかで食べようかな」
「何を持ってきたの?」
「昨日の煮びたしと、今朝の納豆の残り」
「納豆って、生卵をかけたやつ?」
「うん」
「それって、いたみやすいし、とってもおなかによくないよ。コンビニにそんなお弁当が売ってたら、すぐ、保健所がやってくるよ。私が食べるお昼だったら、朝だってぱっと起きて、ちゃんと作るでしょう。自分の体も気をつけないといけないよ」
「はい。ごめんなさい。ちゃんと作るよ」
 またまた、夫、反省する、でした。

 それから、奮発して、二人で外食することにしました。
「何食べたい? 治りかけているなら、好きなもの食べたらいいよ」
「うん。でも、雑炊とかうどんとかがいい。とんかつとかは食べたいと思わない。体がおなかにやさしいものを欲しているみたい」
 それから、二人して、鍋焼きうどんを食べたのでした。
「夜は、雑炊作るからね」ありがとう。


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