ぶらんこ
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「来るぞ!」 「来たっ!!」
見ると、船の周りに大きな魚影が浮かび上がり、それらはゆっくりと回旋して交差し、遠ざかっていった。
「また来るかも」 と、誰かが言った。 「あれはくじら?」 と、わたしが訊くやいなや、影は再び近づいてきて、うっすらとその姿を現した。背中が赤い。 ーくじらなんかじゃない。
「はぁむ???」
あり得ないという思いとは裏腹に、言葉がつい出た。 はぁむが2匹(2頭?)、交差してから海面にその姿をちらりと浮かばせ、また、潜って行った。
「あれは、、、、お、お、美味しいのかい?」 「いや、あれだけ大きくなると、美味しくはないだろう、、、」 「そうか、、、だろやー」
小型のボート大、あるいはそれ以上の大きさの魚の身が美味いかどうかなんて、話しながら、随分ちぐはぐな感じがした。 はぁむは高級魚、と、兄貴が昔言っていたのを思い出す。
わたしはフェリー乗り場に向かっていた。 自転車を漕いで急いでいるのだが、どうにもこうにも混雑していて、なかなか港まで辿り着けない。 それにどうも自転車がいつもより重い、、、。
ようやくフェリーへと乗り込んだ。 なんとか間に合ったようだ。というか、フェリーの出発時間が遅れているらしい。
自転車を甲板の柱に取り付けようとした時、タイヤがパンクしているのに気づいた。 というか、パンクなんてもんじゃない。大破。しかも前後輪、どちらもだ。 タイヤの両側が中から破裂したようになっている。まるで全周にフリルをつけたようなタイヤになっている。 これじゃ重いわけだよ。でもこのタイヤはこれまでに2度、交換しているのに、と、怒りを覚えた。 いや待て、交換したのは後輪か。今回はどちらも同じようになっているのだから、タイヤが原因ではなさそうだ。 こんなに破裂するほどの場所を通ってきたつもりはないのだけれど、、、とにかく、フェリーを降りてからの帰りをどうにかしなくては、と思いなおす。 こんな自転車ではもう走れない。
ふと、大勢の人々が甲板から外を眺めていることに気づいた。そろそろ出航か?
近づくと、そこには幼馴染のTがいた。わたしはTに声をかけて一緒に並んだ。 と、海面が大きくうねり、何かがゆらりと揺れた。また、あの巨大はぁむか?
思い出してふふふ、と笑うと、周りの人々が怪訝な顔でわたしを見た。 ん?何やら異様な感じがしたが、隣のTに、はぁむの話をし始めたところ、近くにいた男性が非難的に鋭くわたしを見た。 船長さんなのか?彼は白い船舶服を着ていた。 Tが小さな声で「かなり危険みたいっちょ」と言った。 何がどうなっているのかわからなかったが、どうやら良くないことが起こりつつあるらしい。
海面にまた大きな黒い魚影が現れた。はぁむよりもさらに大きい。 ぐらりとフェリーーが揺れ、わたしの体が宙に浮いた。慌てて近くにあったロープを握る。 おおおおおおおお落ちる、、、、! と思ったが、すんでのところで甲板に戻れた。ヤバイヤバイ、マジヤバかった。 先の船長らしき男性が、「下がっていなさい」という顔でわたしを見た。
大きな魚影に続いて、3−4人、ウェットスーツを着た人たちが海面に現れた。彼らは素早く何かを取り出し、魚影に向かってそれを撃った。 が、魚影がもの凄いスピードで大きくうねり、大きな波が起こり、そして・・・ そして、ウェットスーツの彼らは波の中に消えた。
あああああああ、、、、、!
フェリーも大きく揺れ、わたしたちも皆、バランスを崩した。やっと落ち着いた頃、見ると、ぶわわわわ、、と、海面に赤が膨らんだ。
うわあああああ、、、、
気持ちが悪くなって口を押さえた。あの人たちはどうなったのだ?あの魚にやられたのか? Tが、「いや、まだわからん。だけど、ワクチンが拡がっている筈、、、」とつぶやいた。
そこへ船長らしき男性が重々しい表情で、「出航!」と叫んだ。
潮風に吹かれながら、ああそうだ、Tに家まで送ってってもらおう!と思いついた。あの自転車では帰れない。 すると、Tの隣にいた女性が、「みんなTに送ってってもらうからね!」と言った。なんか怒ってるっぽい。 そっか、それなら良かった、と思いつつ、いや待て、Tの家まで行くくらいなら歩いて帰っても一緒か、と思い直す。
ハトバマまで行くのなら家まで歩いても同じじゃ。 自転車は、後で取りに来ればいい。 誰もあんな自転車を盗むことはないだろう。
読むと
わからんくなる
ちょびっとはらける
そして
落ち着かんくなる
それから
悲しくなる
意味うつらん
はげはげ
山奥の小さな駅にいる。 観光地なのかもしれない。古い小さな駅だが、周囲にはそれなりの人々が電車を待っていた。
そんな中、構内の段差のところに座ってギターを弾きながら歌っている男性がいた。小さな紙切れに書かれたのは楽譜らしい、それを見ながら弾いている。 よくよく見ると、なんとそれは南こうせつだった。わーーーこうせつだ!!わたしは嬉しくなってそろりと近付いて行った。
彼はとてもみすぼらしい格好をしていて、どうも暮らしぶりが良くない感じがした。 それでも囁くように歌うその歌声は昔ながらのこうせつの声で、ちっとも衰えている感じはなかった。 「こうせつ、カッコイイ!」 思わず、声を出して言ってしまった。こうせつはふと指を止め、わたしの事を見上げて言った。「君は僕のことを知ってるの?」 「もちろんです!大ファンです!」 こうして、わたしはこうせつと一緒に座り、彼のギターに合わせてともに歌った。 こうせつは嬉しそうにしていた。間近で見たら、あぁこうせつも年取ったんだなぁ、、、と感じた。
こうせつはどこかの街の何かのお店でレジ打ちをしていた。その姿を見ながら、生きていくって厳しいな、、、と思った。 こうせつは音楽の世界にいるべきなのに。と、心から悔しく思ったが、それも生きるってことだよね、と納得している自分もいた。 なんだっていい、素晴らしいものは素晴らしい。 こうせつはやっぱりカッコイイ。
"Mom!"
娘の呼ぶ声で目が覚めた。 なんだ? 夢は見ていなかった。いや、見てたかもしれないが、娘の夢ではなかった。逆にその声でかき消された感じ。
娘はもうここにはいない。
それは目覚めてすぐに気付いた。 だから、はっきりと聞こえた彼女の声の余韻を想うでもなく。 なんなんだ自分、と、少々気恥ずかしく、 いやしかし、もしかすると本当に彼女が私を呼んでいるのかも、と思い直す。
それからLINEで娘に声をかけた。
「おはよう」
「おはよう。何?どうした?」
そっか、なんでもないんだな、と思う。 事情を話すと、案の定、「大丈夫だよ」との答え。
なんなんだ、自分。
淋しくなったか
淋しいか
とぅじなさ ぬ
とぅじなさ ぬ
「誰かのことを想うとき その誰かはあなたの近くに一緒にいますよ」
そういうことだろう
奴の魂が会いに来てくれたのか わたしの魂が会いに行ったか
どっちだろうね
ヤハリ コバナレ デキテマセンナー
と、
誰かが笑った。
ぶふふ。あなたも一緒にいる ってことか。
ちゅうことは
とぅじなさ ぬ
イッチムン
じゃろ
50になっても
アイカワラズ ジャ
不思議なことに、現実にあなたに会った日その時のことを、わたしは覚えていないのです。 いちばん最初にネットで話したことはこんなにも鮮明に覚えているのに。 あれがすべてのはじまりだったから。
まだPCを使いはじめて浅い頃だった。ネットにもまだ慣れていなかったと思う。 そうだ、ようやく「検索」なんてことをするようになったのだった。ほぉなるほどこんなことも出来るのか、と。
そのとき出てきたのがあなたの紹介文だった。 訪ねていくと、まだ、テキストだけのとっても簡素なHPだった。確かわたしは掲示板にコメントを残したのだ。 わたしも島っちゅです、と書いた記憶がある。 とにかく嬉しくて仕方がなかった、同郷の人と出会えたことに。
あれからどれくらい経ったのか。 もう15年くらいにはなると思う。
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