ぶらんこ
index|past|will
わたしは飼育小屋の中に立っている。左手にはバケツを持っている。 目の前に鶏が一羽、ちょうどわたしと対峙するように立っている。 やがて他の鶏たちもやって来るだろう。彼らはいつだってその時間を知っている。
さっきまでは大丈夫だと思っていたのに、こうして鶏と近づくと、やはり足がすくむ。 これじゃぁ抱きかかえるどころか、餌をあげることすら無理かもしれない。 わたしは、だんだん、逃げ出したい気持ちになってきた。
赤い鶏冠が、ふるふると風に揺れている。 まんまるい鶏の目が、二重三重、ぐるぐるに巻いている。 やがて、白い鶏の体に黒や灰色が混じりだし、鶏冠が立派に垂れ下がり、体がどんどんぶくぶく膨れ上がる。 そして、いつの間にか、鶏は、一羽の七面鳥となっていた。
七面鳥が目の前に立っている。 かなり、大きい。さっきの鶏の20倍はある。 わたしは呆然と立ちすくむ。 バケツを持っているのがうらめしい。 そして、頭の中でこの先どうしたら良いかと、忙しく思考をめぐらせる。
「あひるだったら、と思うのは、非常に失礼なんじゃないでしょうか。」 突然、女性の声がした。 もちろん、七面鳥が喋っているのだ。 「あなたは、あひるなら触れて、七面鳥なら無理だ、と、そう思っているのでしょう。 それは、こう言っちゃなんですが、『差別』というものなんじゃないでしょうか?」
わたしは驚いて声も出せない。七面鳥が喋っていること、にではなく、自分の考えを読まれていること、に対して。 彼女(彼?)は、さらに続ける。 「わたしが醜いからですか。あひるが美しいからですか。」 いや、そうじゃない。だって・・・。 「孔雀を持ち出してもおんなじですよ。孔雀も触れない、なんて言われて、わたしが喜ぶとでもお思いですか。 あなたは、わたしたち鳥のことを、何もわかっちゃいない。」
わたしは確かに孔雀のことを思っていた。 鳥の王様の孔雀。あの美しい羽根。 みんなが綺麗だ綺麗だ、と言って、嬉しそうに振っていた孔雀の羽根。 あのぐるぐる模様。 ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。 眩暈がする、、、
・・・
この夢を見る前に手術室で仕事を再開する夢を見ていた。 その夢は短く、手術前の手洗いをしているときに、いきなり飼育小屋の場面へと跳んだ。
今年の抱負を彷彿させるようなふたつの夢。 正夢かな?
でも、そう思うのは、もしかしたらスピッツの新しいアルバムを聴きまくっているせいかも??? 笑
こころの学校は8日の土曜日が始業式だった。 よって、その朝は久しぶりの早起きだった。
目覚めてすぐ、ぷーと一緒にまだまだ真っ暗な外へ出た。 朝の空気が刺すように冷たい。 どこまでも黒い空に、白く細く凛と浮かぶ月。 星たちが小さく光る。でもその輝きは力強い。
こころを港まで送っていった。 帰り道、明け行く空に山々の陰がぼんやりと浮かびあがる。 そして、やがてくっきりと、その姿を現す。 いつ見ても、息をのむ。
時は流れ、すべてのものが刻々と変化していく。 わたしがここにいようと、あのひとがどこにいようと。 誰かが起き出す頃、誰かは眠りにつく。 耳をふさいでも耳をすましても、関係なく、時は流れる。 闇に沈んでいた山は朝の空気とともにその姿をあらわす。 静かに横たわる海にも、はじまりの風が吹く。
自然に流れていきたい、と思う。壮大な時間のなかを。 自分をごまかすことなく。みみっちぃ自分でもいいから。
寒い朝は苦手だ。 でも、とてもとても、美しい。
わたしを見ているぷーちゃん
以前はどうだったかわからないが、最近は、人のことはどうでも良い、とよく思う。 どうでも良い、という表現は好まれるものではないとは思うのだけれど、正直な気持ちだ。 綺麗に表現しようとしたら、それは嘘になる。
人のことはあまり気にならない、とも言える。 いや、気にならなくなった、と言うほうが正しいのかもしれない。 人は人。そう思えるようになった。 どんなであっても、その人にとってはそれが自然なことであり、必要なことであり。。。
自分のことさえもよくわからないのだから、人のことなど尚のこと、わからない。 わからないことは、口にしたくない。 ましてや、わからないことを気に病んでも仕方がない。 まぁそれでももちろん、人の気持ちを感じては、悲しくなったりもするし落ち込みもする。 感じれば感じるほどに、辛い。ことも、ある。 だが、それは自分がそう感じるだけのものであって、その人のせいではない。と、思う。 その人だって、自分とおんなじように、何かを感じているのだろうし。。。
人は皆、それぞれ。 人それぞれにいろいろな事情がある。 そんな中で絶えず何かが起こり、人は、そんなこんなをそれなりに対処しながら、生きている。 その人の考えがあり、その人のやりかたがあり、その人の決着のつけかたがあり。。。
人が気になるとき、自分はどうだ?と問うてみる。 そしたらすぐに、似たようなモンでしょ!と、気付くはず。 あれこれと、人のことを言いたくない。 口にするのは、自分のことだけでいい。
人のことは、どうでも良い。
“ 神様が、そう言ってくれたら、どんなにいいだろう。 私が、悪かったねぇって。 おまえたちを、こんな風に創ってしまってって。 ” 梨木香歩 『 エンジェル エンジェル エンジェル 』
“ しかしながら、主よ、これが、わたしに対するあなたの罪です。 あなたはわたしを必要以上に働かせました。 わたしの懇願に反して娘は病に倒れました。 わたしは誠実たろうとしたのに盗まれました。 必要以上にわたしは苦しみました。 ” パウロ・コエーリョ 『 悪魔とプリン嬢 』
*少し前にひょっこりと思い出したことを書こうと思う。もう随分前のことなので、記憶があやふやだけれど。
17か18歳の頃、初めて神戸へ行った。 なんで神戸なんかに行ったんだっけ・・・?と、よーーーく考えてみたら、それは修学旅行だった。笑 神戸だけでなく、京都、奈良、倉敷、それから宮島にも行った。 (でも、どんな順路で行ったのかは、まったく思い出せない。)
神戸では、異人館?だったかな。。。うろこの家とか、そういった屋敷を見て歩いた。 人がわんさかうじゃうじゃいた。みんな、坂道で斜めになりながら写真を撮っていた。 とても良い天気だった。 屋根の風見鶏の上に、澄み切った青空が広がっていたのをよく覚えている。
一緒にいた友人のひとりが「海を見に行こう」と言った。 それを聞いたわたしは飛び上がって喜んだ。 海に行くのならこんなところにいる時間はない、と思い、皆を急かした。
その場所は、当時、何かを建設中の、たぶん埋め立て地(或いは人工島)だったのだと思う。 何を建設していたのかは思い出せない。 その頃は大きなニュースだったと思う。電車の中には、そのポスターもあったような気がするから。
でも、そこへ到着したわたしは、正直言って、ちょっとがっかりした。 海なんか見えなかったからだ。これじゃぁ電車の窓からのほうが良く見える。
わたしたちは、確かそこだけがオープンしていたお店か何かでちょこっとだけ買い物をし、外へ出た。 そして、建設中の建物たちをを見ながら、戸外を歩いた。 友人はふてくされているわたしのことをからかいながら「しょうがないじゃーん」とか言って、慰めた。
時間をつぶしながらずんずん歩いていくと、堤防が見えた。 堤防。防波堤。ということは、その向こうは海じゃないか!
近づくと、それはとてつもなく高い堤防だった。 怖ろしく、高い。 こんな高い堤防は、一体なんのためだろう?と首を傾げるくらいに。 でも、通常の堤防らしく、ところどころにはちゃんと「はしご」がかけてあった。
「やめなよーーー」と言う友人を尻目に、わたしはもちろん、登り始めた。 「だーいじょうぶだって!せっかくここまで来たんじゃん。」とかなんとか言いながら。
堤防の上は、予想以上に広かった。 登っているときに目がくらくらしたので、かなり高かったのだけれど、そんなこと忘れるくらい、安定した広さだった。 そして、海はもっともっと広かった。色が深い。白波が立ってる。 おでこに冷たい潮風。 気持ちいい! 「貨物船が見えるよー」 わたしはそう言って、みんなを呼んだ。 けれども、登ろうとする友人はひとりとしていなかった。 それどころか皆、「もう降りてきなよー」と、不安気だった。
そのまま降りるのが惜しかったので、駅へ行く途中まで、わたしは堤防の上を、友人らはその下の道路をともに歩いた。 彼女たちは楽しそうに話していたが、潮風のせいで何を喋っているのか、よくわからなかった。 特に聞きたくもなかったし、海を眺めているだけで満足だった。 そうやって、ひとり、海と歩いた。
ところが。。。 いよいよ降りなければならない、というところで、大変なことになってしまった。 どうやっても、足がすくんで動かないのだ。 防波堤は、地面から垂直ではなく、海側に向かってゆるやかにカーブし、途中で反対側に反るように立っている。 そこへ、かろうじて弱々しくどうにも頼りなげにはしごがかけられてあるのだ。(そのはしごを登ったのだけれど。)
最初は笑っていた友人たちも、わたしがふざけているわけではないということがわかったのか、必死な形相となってきた。 「登れたんだから、降りれるよ。大丈夫だって!」 ・・・そう言われても、困る。自分だってそう言い聞かせてるのだ。 なのに、情けないことに、本当に、足が動かない。 実を言うと、駅が近くなるにつれ、降りてみようかな、と思いつつも、はしごをひとつふたつと、見過ごしたのだ。 降りられないかもしれない、、、と、思って。。。
集合時間が近づき、友人のひとりが思い切った行動に出た。 近くで建設中のビルにいたおじさん達を呼んできたのだ。 わたしは恥ずかしくてたまらなかったけれど、もうどうにでもなれ、という気持ちだった。 おじさんはもうひとりのおじさんからヘルメットを取り、それを持ってはしごを登ってきた。 「よぉこんな高いとこまで登ったなぁー!こりゃ、降りれんわ」 おじさんはそう言って笑った。(そんな感じの関西口調だったと思う) それから、持ってきたヘルメットをわたしにかぶせ、おじさんの背中におぶさるように、と言った。 そして、ふたりの身体を縄(だったと思う、)で縛った。 「目ぇつぶっときー」みたいなことを言われながら、おじさんはわたしを背負いながらはしごを降りた。 友人たちは心配そうに、でもそれ以上に可笑しかったのだろう、げらげらと笑っている声がいつまでも聞こえた。 わたしも可笑しかったけれど、それよか泣きたかった。。。笑
わたしたちはふたりのおじさんに、地面に頭が付くほどお礼を言った。 友人は、この事件は一生忘れないだろう!と言って、帰り道もずっと笑っていた。
でも、この大事件を、わたしはすっかり忘れていた。そしてつい最近、思い出したのだ。 しかも、ところどころ、曖昧な感じ。。。
だからこれは、もしかしたら夢だったのかもしれない。笑
|