小ネタ日記ex

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薔薇のほほえみ(レイトン教授シリーズ/アロマとルーク)(その他)。
2009年02月21日(土)

 レイトン教授シリーズ「レイトン教授と最後の時間旅行」の結末に関わるネタバレを含みます。
 ゲーム未プレイの方やEDを知りたくない方は、絶対に読まないことを強くおすすめします。

 そうでない方は、以下反転してください。





 彼女が愛した英国紳士。








 白い陶器のティーポットから、紅茶の香りが広がった。
 しとやかな手つきで茶器を操るアロマを、ルークは応接間の椅子の上で居心地悪く見やる。

「あの…アロマさん、僕は先生じゃないんで、お茶は別に…」
「あら、いいじゃない。せっかく来てくれたのだもの、ゆっくりしていって」

 にこにこと、栗色の髪を頭頂部で一つにまとめた少女が微笑む。ティーポットを操る手つきが危なげない。
 深窓の令嬢として育ち、ろくに料理も洗濯もできない彼女だったが、紅茶と刺繍の腕前だけは別格だ。
 良家の子女のたしなみというやつだね。そう言ったのは、ルークの師匠だ。
 そして今、ルークはその少女のロンドンの住まいを訪れ、応接間ですばらしい香りの紅茶を供されている。

「い、いただきます」
「はい、どうぞ。クッキーもあるのよ。私が作ったものだから、味はいまいちかもしれないけど…」

 照れたように笑う、向かい合わせの席のアロマに、ルークは咄嗟に「そんなことありませんよ」と言い返した。言ったあとで軽く悄然とする。先生ならもっときっとスマートにかっこよく気遣えるはずなのに。
 ルークの慰めに、まだお菓子作りは初心者レベルのアロマはにっこりと笑う。ありがとう、という意味なのだろう。
 窓の外では、明るい日差しと庭の緑が鮮やかだ。

「いいお天気ね」

 紅茶茶碗の受け皿を膝に乗せ、香りを堪能しながらアロマが呟いた。
 ルークは一口飲んだ紅茶茶碗から顔を上げ、窓を見る。南に面した窓から、青い空が見えた。青い色を背景に、白く薄い雲がのどかに浮かんでいる。

「先生から、クレアさんのこと…聞きましたか?」

 のんびりしてはいけない。そう思ったルークは、世間話もせずにそう切り出した。師匠の恋人だった女性と、最近あったやりとりをアロマは知っているのだろうかと。
 アロマは即答せず、静かに紅茶を飲んだあと、目を伏せた。

「聞いたわ。クレアさんの最後の時間旅行のこと」
「……………」
「…つらかったでしょうね」

 誰が、とはアロマは言わなかった。
 愛した人や町と離れなければならない苦しみも、大切な誰かを亡くす辛さも、彼女は知っている。

「私ね、泣いちゃったの。話を聞いてるとき」

 ふふ、とアロマが自嘲の笑みをこぼした。膝の上の紅茶の水面を見つめ、長いまつげをふるわせる。

「だめよね、悲しいのはレイトン先生なのに。恋人候補ならちゃんと支えていかなきゃいけないのに」
「アロマさん…」

 ルークが気になったのは、師匠に想いを寄せるこの少女が、落ち込んではいないかと思ったことだった。
 先日起こった事件で、ルークの師であるレイトンがどれだけ失った恋人を大切に想っていたか、アロマも気づいたはずだ。事故で亡くしても尚、忘れず想い続けていた女性。アロマではまだ太刀打ちできないほどの絆の強さ。
 大切な大切な、彼の恋人。それはまだあの、クレアという聡明で潔い彼女なのだ。

「ねぇ、ルーク」
「はい?」
「どうして、クレアさんはレイトン先生と一緒にこの時代にとどまろうとしなかったのかしら」
「それは…亡くなったはずの人が残っていたら、他の人が死ぬようなことになるような歪みになるって…」
「そう言ったのは、クレアさんでしょう?」

 毅然としたアロマの声に、ルークは目を瞬かせた。アロマはまだじっと膝の上で冷めていく紅茶を見つめたままだ。
 少し赤みを帯びた濃茶の水面。そこに映る自分の顔をどう見ているのか、ルークにはわからない。

「歪みが何なのかしら。クレアさんが優先するのは他の人じゃないでしょう? いちばん大切なのは、レイトン先生でしょう? また会えたのに、また離れたら、レイトン先生が悲しむってわからないはずないのに…」
「…だけど、クレアさんは科学者だったから…」
「それでも、私はレイトン先生を優先して欲しかった。他に方法があるなら、先生を幸せにする道を選んで欲しかった」

 思いがけず強いアロマの感情に、膝の上の紅茶茶碗が揺れた。
 こぼれるのでは、と心配して腰を浮かしかけたルークだったが、アロマの顔を見て動きを止める。唇を引結び、大きな目が潤んでいた。

「…ごめんなさい」

 激情を見せたことを恥じたのか、すぐにアロマは謝り、紅茶茶碗をテーブルに戻す。白い指先で目尻の涙をぬぐうと、ふうと息を吐く。

「わかってるの。クレアさんとレイトン先生は、自分たちのことだけを考えない、公正でりっぱな人たちだったんだ、って」
「はい、その通りです。…それに、先生だって事故の日に戻るクレアさんを引き留めなかったわけじゃない」
「…ええ、そうなんでしょうね」

 私がわがままな子どもなのね。
 ささやくように言うと、アロマは寂しそうに窓のほうを見やった。青い空を自由に小鳥が飛んでいく。

「失ったことは悲しかったけど、幸せだった思い出があるから、生きていける。父を亡くしたとき、そう思ったわ」

 あの人は死んで、私は生きる。それしかもう道はないけれど、決して悲嘆せず、諦めず、未来を生きる。
 そしてまた、人はかけがえのない人に出会うのだろう。

「ルーク、覚えてる? 私がいつもルークとばかり一緒でずるいってレイトン先生に怒ったこと」
「…ああ、ありましたね、そんなこと」

 あのときは正直、困った人だなぁと思ったことは内緒にして、ルークはうなずく。
 あったのよ、とアロマは笑いながら言った。

「あのとき、レイトン先生言ったのよ。『これからはアロマもずっと一緒だよ』って」
「…………………」
「私は一緒にいるわ。クレアさんみたいにはきっとなれないだろうけど、私らしく、レイトン先生とずっと一緒にいる」

 アロマは嫣然と、ルークを真っ直ぐに見据えた。
 そばを離れない。ずっと一緒に。それは、アロマなりの今回の事件で得た決意なのだろう。
 ああ女の人は強い。ルークはアロマの凛々しささえ感じる顔つきを見ながら、そう思う。過去の存在に無力感を覚えて膝を折ったりしない。堂々と気高く立ち向かう、英国淑女だ。
 アロマはクレアになれない。クレアのような強さは潔さはアロマにはないものだ。その代わり、アロマにしかない屈託のなさや空気を華やがす笑顔というものもある。
 薔薇は百合にはなれずとも、美しいと愛でる心に違いはない。
 レイトンはきっと、薔薇も百合もそれぞれ好きだろう。

「アロマさんが一緒なら、レイトン先生もいつもおいしい紅茶が飲めますね」
「ええ! いつも心を込めて煎れているもの」

 もちろんルークにもね、と言うアロマに、ルークは笑う。
 忘れかけていたテーブルの上のクッキーをつまみ、ぱくりと口に入れた。

「今日のは香ばしくて、おいしいですね」
「本当? 今日のは実は作ったのがはじめてて、練習してうまくできるようになったらレイトン先生のところに持って行こうと思っているの!」
「…僕は実験台ですか…」
「あら、ルークなら正直に感想を言ってくれると思ったのよ? レイトン先生はどんなものも、おいしくないとは言ってくれないんだもの…」
「そりゃ先生は英国紳士ですから、女性の作ったものをまずいとは言いませんよ」
「だけど、言ってくれなかったら改善の余地が生まれないでしょう? いつもいいところを褒めてくれるのは嬉しいんだけど」

 褒めなかったら褒めなかったで、「もうお二人には作りません!」とか言って拗ねるくせに。
 心ひそかにルークは思ったか、賢明な弟子は言葉にはしなかった。
 でも、と他愛ない話を続けながら、少し前のことを思い出す。

『私らしく、レイトン先生とずっと一緒にいる』

 この薔薇が、確かに師匠のそばでずっと無邪気に笑ってくれるのなら。
 それはそれで、きっとすてきなことなのだろう。









*******************
 というわけで、『レイトン教授と最後の時間旅行』クリアしました。
 EDで泣きました。
 最後の時間旅行。の意味がわかった瞬間「わー!!」といきなり泣いた。
 切ない。オトナな二人の決断。どの道が正しいのかは、人によって違うのよねきっと。
 しかしきっとアロマなら自分の心に突っ走るな、と思ったのでアロマさん。
 しかしきっと、ライバルがいなくなってラッキー、とかは思わないであろうアロマさん。
 アロマお嬢さん好きです。とある方の日記で「めんどくさい女子」と評されていて、「ああ確かに!」とものすごく納得しました。
 どうでもいいですが、友人が「ルークくんてめっちゃ言いづらいわ!」と力説してました。酔っ払いながら。
 そんなめんどくさいアロマさんと、言いづらいルークくん。

 そしてレイトン先生はずーっとクレアさんが好きだったことが明らかになったので、アロマさんは長期戦でがんばっていただきたい。
 ずっと一緒にいればいいよ、とほほえましく見守るような気持ち。
 作中の「これからはアロマも一緒だよ」発言にはちょっとびっくりしましたよレイトン先生。

 アロマさんが料理はダメでも紅茶を入れるのは別格、というのは私の捏造です。料理は本当にダメっぽいですが、いいとこのお嬢さんなのでお茶の入れ方は習ってそうだな、という(英国のレディー教育も時代によってまちまちなのでなんともいえませんが…)。


 じゃ、私は次はPSPのアイマスSPで念願の千早をトップアイドルに育ててきます!






あなたに魔法をかけましょう(笛/藤代と笠井)。
2009年01月30日(金)

「この先ずっと、誰も幸せにすることができないように」








 別れた彼女からそう言われた。
 あっけらかんとした口調で事実を聞いたとき、猫目の笠井竹巳は意味がわからず眉間に皺を寄せた。
 ストーブをつけていない武蔵森学園の真冬の教室は、午後の日差しだけが唯一の暖房であり、当然寒い。その場にいた三人はそれぞれ学校指定のダッフルコートをを着ていた。

「それって…つまり、藤代は他の誰も幸せにできなくなればいい、って、こと?」

 思考をさまよわせていた笠井を救ったのは、唯一の女子だった。陸上部マネージャーの彼女は、白い小首をわずかに傾げながら確認した。
 車座になる三人の中心には、学校机だ。井戸端会議にも似たこの光景は、友人同士の三人にとってテスト期間中の部活がない時期たまにあることだった。

「そうなんじゃない?」
「それ、呪いじゃないの?」
「よくわからん」

 気にした素振りもなく、黒い短髪の藤代は腕を組んでへらっと笑う。
 ようやくおぼろげながら話の輪郭がつかめてきた笠井は、ああこいつまたやったかと白い目を向けた。

「お前、別れた彼女ってどこの?」
「地元。こないだ帰ったときに久々にあって、ちょっと付き合ってみたんだけど、やっぱ遠距離って恋愛してても面白くないじゃん? だから別れようっていった」
「……………………」
「…最低」

 一つ年上の幼なじみと真面目な青春恋愛を築いている紅一点の空気が途端に冷ややかになった。

「なんで? 地元の人なら遠距離になるって最初からわかってるのに、なんで付き合おうなんて思ったの?」
「顔が可愛かった。久々に話したら、やっぱこいつ一緒にいて楽しいなって思った。悪い?」
「悪いわよ! 振り回して別れたってだけじゃないの!」
「だって付き合ってみなきゃわかんないことあるじゃん? 若いんだし、一人に絞らないで色々見て回ってみるのって大事じゃん」
「バカじゃないの!」
「あー川上さん川上さん、殴りたいのはわかったから、ちょっと落ち着いて、ね?」

 意外と沸点が低い彼女を、笠井はまあまあと手を伸ばしてなだめる。そうしないと椅子を蹴倒して立ち上がり、殴り合いになりそうだ。
 わけわかんない、と顔をしかめる彼女は、それでも笠井の意見を受け入れてか、渋々口を閉ざした。肩口ではねた髪を押さえ、不快さを表すようにふいと横を向く。
 空気が寒い。体感温度はコートと日差しで何とか間に合っているが、会話の空気が寒い。そして、こういうとき笠井は自分の役割は調停だと身にしみて知っている。

「で、別れ際に呪いをかけられた、と」
「呪いじゃなくて魔法」
「…一緒だって」

 笠井が軌道修正を試みると、妙に律儀に藤代が訂正した。
 色々思うところありそうな紅一点は口を引き結んで沈黙したままだ。

「この先、喜ばせたい相手が見つかるたび、この魔法を思い出せってさ」
「…『誰も幸せにすることはできない』」
「そ」

 がくん、と妙に大きく藤代はうなずいた。行儀悪く椅子の上で体育座りをすると、その膝の上に顎を置いた。
 マジで怒ってたのかな。
 小さなその呟きだけがやけに湿っぽく、笠井は軽く目をみはり、黙ったままの彼女は視線を藤代のほうへ戻した。

「別れようって言ってもすげーさっぱりしてたし、うんわかった、って軽かったから、てっきり向こうも大して何とも思ってないんじゃないかって思ってたんだけどさ」
「……………」
「……………」
「魔法って言われて気づいた。あいつ、俺のこと好きだったんだな」
「…………ばっかじゃないの」

 目を半眼にして、彼女が先ほどと似た台詞を吐いた。しかし今度は怒りよりも、呆れた声音のほうが強い。

「…呪いをかけたくなるぐらい、悲しかったんじゃないの? 好きだったから、『他の誰も幸せになんてさせてやるものか』って思ったんでしょ」

 たぶん、と視線を落とした彼女のほうが、藤代よりも感受性が高いのだろう。笠井は二人の間でそう思った。
 南に面して大きく取られた窓から、冬の午後の太陽が見える。淡い金色のその光を受けながら、藤代は珍しく神妙に友人の言葉を聞いていた。

「…怒ってたんじゃなくて、悲しかったんだと思う」

 しずかに、彼女はそう言った。
 けれどその考えは推測に過ぎない。真実は言った当人にしかわからず、藤代にすら正確に伝わっていない。そして恋は、当事者の二人にしかわからない部分が少なからずある。
 笠井はそう冷静に思っていたが、女子ならではの感想を言う友人に水をさすのも忍びない。そうかもね、と曖昧に相づちを打った。

「じゃあ、なんで別れたくないって言わなかったんだろ。言えばいいのに。そしたら俺だって考えたかも」
「それはわかんないけど…」

 口ごもり、少し目を伏せた少女の横顔。気づけば笠井はその日差しが当たらない側の頬をじっと見つめていた。
 十代ですら考え方は千差万別だ。藤代のように一人に限定せず様々な相手とぎりぎりの誠意で一緒にいる時間を楽しむタイプもいれば、彼女のように何年もたった一人だけを想うタイプもいる。
 両者の考え方の違いは如実で、傍観者には興味深かった。

「でも、少なくとも別れようって言われて、傷ついたことをわかって欲しかったんじゃないかな」

 その先の展開が欲しいのではなく、事態を解決したいわけでもない。ただ、傷ついて悲しい気持ちをわかって欲しい。
 結果ではなくプロセスに共感して欲しかった。
 女性らしい意見だな、と笠井は内心思ったがやはり口にはしなかった。
 そっか、と藤代が自嘲めいた返事をした。軽く息を吐き、ちいさく笑う。

「でも俺がそれを知っても、どうにもならないじゃん?」

 それを言ったらおしまいだ。さっきからあまり口を挟めない笠井だったが、藤代の無防備っぷりに唖然とする。女子にそんな論理は通じない。
 しかし意外にも彼女は、わずかに苦笑しただけだった。

「どうにもならなくても、知っておいて欲しいことってあるでしょ」
「女の子はそういうとこあるよね」
「うん、ある」

 笠井がやっと同意を示すと、きまじめに彼女がうなずいた。
 別に解決方法や相談に乗って欲しいわけではない、しかし話は聞いて欲しい。結果が必須だと感じる男子には不思議な女子の思考回路である。

「でも、そっかー。なんかわかった気はする」

 二人のほうを見ず、視線を窓のほうへ飛ばしながら藤代が目を細めた。中学時代よりもシャープになった顎のラインに、光が当たって影を作り出す。

「気づけなくて、ごめん、って言えばよかったか」

 好きでいてくれたことに対してなのか、悲しませたことをすぐにわかってやれなかったことなのか。付き合いがほどほどにある笠井にもその真意はわからない。
 彼女がかけた一つの魔法。ただ彼を恨んだのか、悲しさが悔しさに変わったのか、軽い気持ちでの嫌がらせか。どれでもない他の理由か。少なくともこの場に三人にはわからない。
 呪いをかけたくなるほど、悲しかった。それが一番現実に近い気はしても。

 あなたに魔法をかけましょう。他の誰も幸せにできないように。
 幸せになれないように、ではなく、幸せにできないように。
 そのあたりに少しだけ、彼女の本心が見えた気がするのは、おそらく今いる三人のうち二人だけだろうと笠井は思う。
 藤代は悪い奴ではない。欠点など誰にでも少しぐらいある。
 願わくば、と笠井は、友としてその魔法は不完全なものでありますように、とひっそりと思ってみた。









***********************
 オチがなくて困りました。
 適当に始めるといつもこうだ…。

 人を呪わば穴二つ。
 そんな正論じゃ止まれないほど誰かを呪うなら、誰も幸せにできないように、かなと思ったことがありました。
 もう充分だろ、と止めてくれる人がいてよかったと思ったことも。

 何かを返して欲しいんじゃなくて苦しくて辛かったことをわかって欲しかったこととか。
 悲しかったことを理解してくれなくてもいい、ただ知っておいて欲しかっただけとか。
 これ、ものすごく女性的な考えだと近年気づきました。

 そんなこんなをこねくり回して、割と書くのが好きな森三人組。藤代と笠井くんと結さん。こう放課後の教室とか、廊下の端っことか、学校時代ってなんか話すこと一杯あった気がする。




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