小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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マエストロの憂鬱(笛/渋沢と三上)。
2007年07月08日(日)

 さあ楽しい料理の時間の始まりだ。









 寸胴鍋は本日の主役だった。
 かの鍋はこれまで無数のサッカー少年の胃を満たしてきた。その、直径五十センチはある銅の鍋は、いま三上亮の前に神々しく輝いているかのように鎮座していた。

「…というわけで、本日は食堂の管理者が不在のため、これを満たす料理を作ることになった」

 オレンジのエプロンをした渋沢克朗(現キャプテン)は、鍋を前に固まっている三上に対し、あっさり風味にそう言った。塩こしょうのみの味つけに似た口調だった。
 銅鍋は熱伝導に優れた調理器具だ。外側は真新しい十円玉と同じ色で光っているが、内側をのぞきこめば錆防止のために錫のメッキで鈍い銀色に見える。平素ならば物珍しさに観察するだろうが、今の三上にはそんな気持ちは起こらなかった。

「…冗談だろ」
「冗談ではない。俺ひとりではさすがに大変だから、栄えあるアシスタントにはお前を選んだ。光栄と思うがいい」

 ドラえもんのポケットと同じ位置にあるポケットに「1」のマークが縫い付けてあるエプロンの持ち主は、やけに居丈高だった。しかし声音はそう冷淡でもないので、その態度は渋沢なりの冗談なのだろう。
 後輩から借りた白黒ストライプのエプロンをつけた三上は、渋沢のやけに堂々とした態度に反駁する気が起きず、ただ息を吐く。

「何だ、文句はないのか?」
「どうせヤダつってもお前やらせんだろ? だったらさっさと終わらせたほうが楽だ。指示しろよ、何すればいい?」
「………………」

 三上が素直で気持ち悪い。
 渋沢がぼそっとそう呟いたが、三上は聞き流した。
 開け放した松葉寮厨房の窓の外から、五月の風が吹き込んでくる。さわやかな緑と太陽の匂いは、風薫る五月そのものだった。
 こんな陽気の日に昼寝をすることが何よりも好きな三上にとって、慣れない厨房で料理人に徹することを喜ぶはずがない。そのために説得の材料を用意してきた渋沢だったが、思った以上に素直な三上の態度に若干肩透かしを食らった。

「で、何するか言えよ。今は司令塔はお前に譲ってやる」

 ストライプのエプロンで三上が腕を組み、渋沢に指示を仰ぐ。いつもと同じはずのその姿勢にも、渋沢は覇気の無さを感じたが口にはしなかった。

「とりあえず、人参タマネギじゃがいも大根、それにキャベツとベーコンを適当に切ってコンソメで煮る。凝った料理なんかやってたら切りがないし、ある程度のものだったらコンソメで煮れば味なんて全部同じだ」
「要するに、俺は切ってればいいんだな?」
「ああ。大きさだけは大体でいいから揃えてくれ」
「りょーかい」

 長方形の厨房の中で、窓際にずらりとガスコンロが並ぶ。その中の真ん中の一つに渋沢は主役の寸胴鍋を置き、ボウルで汲んだ水を入れる。材料が揃ってから火を通していくと時間がないため、切った端から鍋に投入するというのが、今日の作戦だ。
 三上は、厨房の中央にある銀色の作業台に山と詰まれた野菜を見やりながら、包丁を取り出した。

「おい渋沢、研ぎ石どこだ?」
「見当たらないからそのまま使ってくれ」
「マジかよ。切れない包丁ヤだっつの」

 ぶつぶつ言いながら包丁を置き、皮むきと人参に手を伸ばした三上を見つけ、渋沢はひとりで「よし」とうなずく。
 料理の鉄則。火が通りにくいものから鍋に入れること。

「俺もやろう」
「ったり前だ。まさか自分だけ火の番してようなんて甘いんだよ」
「機嫌悪いな」
「うっせ」

 覇気がないのか、ただピリピリしているだけなのか。まだ見定めることができず、渋沢はそれ以上追及したりせず苦笑した後、三上の隣で大根に手を伸ばす。
 適当な大きさに輪切りにした後、文化包丁で皮を剥く渋沢に、三上がこっそりとためいきをついた。

「あ、やってますねーキャプテンと三上センパイ!」

 そこに、能天気な声で後輩の藤代がやって来た。陽気が暖かいせいか、半袖のTシャツ姿で厨房の中にやってくる藤代に、渋沢が笑いかける。

「ついでに手伝っていかないか?」
「俺食べるの専門ッスから! そういうのは先輩たちに任せます!」
「んじゃわざわざ見にくんじゃねぇよ」

 濃いオレンジ色の人参を凝視しながら、三上が不機嫌絶頂の低い声で呟いた。あからさまに藤代に言っているというのに、視線だけは人参を見つめているのが痛々しい。
 これは相当だ、と判断した渋沢はさっさと藤代を追い出す方針に決めた。

「藤代、出来たら連絡するから、おとなしく待ってろ。あと昼食組の皆にもそう周知しといてくれ」
「はーい」

 三上の機嫌など全く意に介していないのか、あるいは気づいていないのか、どちらか判断つきかねる明るさで藤代が手を上げた。

「じゃ、うまいの頼みますねー!」

 来たときと同じ能天気さで後輩が去っていった後、しばらく無言の時間が続いた。
 規則正しいリズムで大根を切る音と、慎重に人参を切る音だけが空間を支配する。寸胴鍋に入れた水はまだ湯に変わる気配がない。

「三上、人参切ったら鍋に入れてくれ。その後タマネギを頼む。適当な細切りで」
「ん」

 短くうなずいた三上が、人参を鍋に落としていく音が響く。あまり高い位置から落とすと、お湯ともいえない水が跳ね上がってしまうが、そこまで注意するのも憚られ渋沢は口をつぐんだ。
 戻ってきた三上が、タマネギを手に取ると両端をまず包丁で落としていく。
 とん、とん。落ちたタマネギの頭と尻が、銀色のシンクの上に落ちる。金属と野菜のやわらかなハーモニー。渋沢が好きな音だった。

「黙々と野菜を切るって、結構楽しいだろう」
「そーか? 俺はやっぱ食うほうがいい」
「そりゃ食べるのもいいんだが、無心になって延々と野菜を刻むのってストレス解消にいいんだ。三上の場合は、八つ当たりで刻むのもいいんじゃないか?」
「…どうせ俺は粘着質で根暗だよ」

 ふん、と鼻でせせら笑った三上に、渋沢は苦笑する。
 誰もそんなことは言っていないが、本人が気にする性質の一部なのだろう。傲慢と言われがちな三上だが、己を省みて落ち込む部分も持っている。
 大根を鍋に投入した後、男爵芋に手を伸ばした渋沢は指を動かしながらこの黒髪の友人への言葉を探す。

「まあ、あんまり落ち込むな」
「落ち込んでねーよ。ふざけんなボケ」

 即座に罵声交じりの反論が戻り、あんまりな言い様だと渋沢は鼻白んだ。
 三上が最近落ち込んでいる、というのは渋沢の最新情報だった。原因が何であったかまでは調べられなかったが、ともかく威勢がない、覇気がない、と主に同学年の者から寄せられている。
 別段プライベートなことまで渋沢は介入しようとは思わないが、元より目下に厳しい三上が後輩に八つ当たりしたら面倒だ。練習に影響が出るようになる前にどうにかしなければならない。
 しかし、この三上の様子ではこれ以上慰めらしき言葉を口にしたら、包丁が飛んできそうだ。侮られることが何より嫌いな三上は、他人の同情も侮辱と捉えるところがある。
 言葉がない厨房には、包丁とまな板が触れ合う音だけが淡々と宙を舞う。
 指揮者のいない、てんでバラバラな音だったが、不思議な調和を保って厨房の虚空に広がる。包丁とまな板と野菜。そして渋沢克朗と三上亮。

「みか…」

 み、と続けられるはずだったふとした渋沢の言葉は、三上の顔を見て止まった。
 右手に包丁の柄を握ったまま、三上が左手の手首あたりで片目を押さえている。開いている右目も赤く滲んでいた。

「三上?」
「タマネギ」
「え?」
「だから切れない包丁イヤだっつったろ。…目痛ェ」

 三上は滲んだ涙と同時に鼻も刺激されたのか、ずずっと軽く洟をすする。原因は丸いネギであっても、とても珍しい三上の泣き顔に渋沢は呆然と見入った。
 三上の軽く噛んだ唇の端に、あきらかな悔しさが見えた。それはネギに屈する己なのか、近頃の情緒不安定さに起因するものなのか。

「あーっくっそウゼェ! マジうぜぇ! さっさと終わらせるぞ渋沢!」

 しかし三上の涙は一瞬で乾き、黒髪の少年はまな板に向かって怒鳴りつけた。
 ぐいと手の甲で目を拭い、顎を引いて敵をにらみつける。真剣勝負の横顔だった。黒い髪と黒い双眸が、最も強く光を放つ一瞬。
 思いがけない泣き顔にうろたえかけた渋沢は、声を立てずに小さく笑う。

「なんだ、もう少し泣けばよかったのに」
「あ?」

 顔を歪め、途方もなく嫌そうな三上の視線を受け止め、渋沢はやや斜に構えた笑顔を見せる。

「お前はたまには泣いたほうがいい」

 本気で地団太を踏んで、本気で嘆いて、愚かしいほど無様さを晒せばいい。
 誰もそんな三上を厭うことはしない。どんな人間でも自分の中にあるみっともない部分を知っており、それを見せることの勇気を知っている。不機嫌さを撒き散らし、本気で三上を案じる人に同情されるより余程ましな方法だと渋沢は思っている。
 しかし言っておきながら、三上がそうしないことも渋沢は知っている。無様な姿を見せた後、独りで落ち込む三上を知っている。

「死んでも御免だ」

 研ぎ澄まされた声で言われれば、渋沢も認めるしかない。
 
「そうか」

 この勝気さがある限り、三上はまだ大丈夫だ。
 チームメイトの精神状態にも気を配るキャプテンとしての心情で、渋沢は確信した。
 瞳を刺す痛みにも負けず、闘志に燃えて三上が次のタマネギに手を伸ばす。内心では間違いなく野菜に屈してたまるかと思っているはずだ。
 寸胴鍋が一杯になるまで、あと十数分。









******************
 オチは?
 ………もうイヤだ(オチのない小ネタを量産する自信はあるサイト5年目)。

 そんな厨房のマエストロ(ノット千秋真一)。
 ぶっちゃけ、あや乃さんのところの日記でインスピを得ました☆ 無断使用ですみません。
 お誕生日おめでとうございます。バトンはちょっと待ってください!(私信)
 そんな感じで、本日の小ネタの元々のソースはあや乃さんです。タマネギ刻んで泣く三上とかそんなステキネタ私じゃ出てきません。…その割りにはきちんとまとめられなかった点を猛省したい。
 ほんと無断使用ですみません。

 なんか最近夜中にわーっと叫びたい衝動に駆られます。
 夜中におもむろにカラオケとかボーリングとか、ぱーっと何も考えずに騒げるものがしたい。こういうとき車とかの機動力があれば、人も誘いやすいのになー、と思う。






君に運命の花束を(コードギアス/ユーフェミアとスザク)(その他)。
2007年06月23日(土)

 蒼穹に響け、救いの声よ。









 その声は聞く者の耳をとろけさせ、心を癒す。
 神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアの歌を聞いたある青年伯爵が、彼女の声をそう評したことがあった。
 けれどもユーフェミア自身はその賞賛がただの社交辞令だということを誰よりも理解していた。ソプラノの声質の悪さを嘆いたことはないが、自分はそんな女神の真似事は出来ないと。
「お人形のお姫様、だそうです」
 今は亡き異母兄クロヴィスの庭園を散策しながら、ユーフェミアはそう言って傍らの騎士に微笑みかけてみた。
 空は青く、やわらかな質感の雲がそっと流れて行く。あたたかな日差しと丈を揃えた芝の中に、濃いピンク色の菫が咲いている。小さな池と潅木がアクセントになっているこの庭園では花が絶えることはない。
 平穏を約束された皇族の庭園。ユーフェミアはこの庭が好きだった。
「自分は、そうは思いません」
 彼女の騎士である柩木スザクははっきりとそう答えた。彼の白い騎士装束が青空に映え、まぶしさを感じてユーフェミアは目を伏せる。
「なぜそう思うのですか?」
「少なくともあなたは、日本人が虐げられる事実に心を痛めて、ご自分に出来ることを模索している。何もしていないわけじゃない」
「…それでも、その成果が目に見えないのなら、それはきっと人形と同じなのでしょう」
 卑下するようにユーフェミアは言い、右手で左手を包むように握った。
「ユフィ」
 静かに、揺るがない意志を込めたスザクの声。ユーフェミアはそれが自嘲しないで欲しいと告げるスザクの思いのような気がして、顔を上げる。
 桃色の髪を揺らし、目を細めて微笑む。
「ごめんなさい。少し、気になっているだけ」
 いまさら気にすることじゃないはず。その思いを強く心に浮かべながら、ユーフェミアは微笑んでみせる。
 笑うことは得意だった。幼い頃からそう望まれていたから。やさしくわらって、ただそこにいるだけで、皆は喜んでくれた。それが変わってしまったのは、兄たちの権力闘争が激しくなってきた頃からだ。
 二十を越える現皇帝の子どもたちの中で、ユーフェミアは皇位継承権こそ高い位置にいるとはいえ、政治的な能力に欠如することは誰しもが認めるところだった。知識、決断力、体力、等あらゆる分野で彼女が他の候補者たちより秀でたところはない。
 人形の姫と呼ばれても、ユーフェミアにとっては事実だった。自分ではそのつもりはなくとも、事実には違いない。事実を突きつけられたときユーフェミアは激昂しかけたが、冷静に思い返せばあれはきっと皇族としての矜持だけで相手を無礼者だと感じただけだった。
「元気がないんですね」
 ふと、困ったように騎士が声を掛けた。
 ユーフェミアよりかろうじて年上とはいえ、まだ少年の面差しをした彼は、真っ直ぐに彼の主を見つめている。
「どうか笑って下さい、ユーフェミア様」
「…え?」
「力にはさまざまな形をしたものがあると思います。剣や銃だけではなく。それでいうなら、あなたの笑顔や笑い声は間違いなく武器です」
「そんなもの…」
 愛想は皇族の身ならば誰でも身につけていて当然だ。国民への印象を考慮し、公的な場で振舞うことは皇女としての義務だった。
 思わず首を振りかけたユーフェミアを押し止めるように、スザクが自分の右手を彼女の前にかざした。
「僕は君の笑顔と、その声に救われた」
 あの日、好きだと告げてくれた明るい声に。
「だから、君はどんなときも笑っていて欲しい」
 声質はやさしかったが、それはあまりにも一方的な意見だった。思わずユーフェミアは憤然としたものを覚え、スザクを睨み上げる。
「それはつまり、何があってもわたくしはにこにこ笑ってさえいれば良いということ?」
「え、ち、違います。そういうつもりじゃ」
「そういうつもりに聞こえたわ」
 軽く頬を膨らませたユーフェミアに、スザクが小さな声で「困ったな」と言いながら言葉通り困惑した顔をする。
「えーとあの、ユフィ、怒らないで」
「いやです、怒ります!」
 うろたえだしたスザクから、ユーフェミアはつんと顔を逸らす。ときどきスザクは言葉の過不足の幅が大きすぎる。総じてそれを天然だと呼ぶ彼の上司たちもいるが、ユーフェミアもそれは事実だと思っている。
 ふいと顔を背け、ユーフェミアが拗ねた横顔を見せると、スザクが一層うろたえる気配が伝わってくる。
「…すみません、ご不快でしたら、あやまります」
 妙にしゅんとした声に、ユーフェミアが視線を彼に向ければ、半ばうなだれたスザクの顔が目に入る。尻尾が垂れ下がった犬。そんな印象が重なり、ユーフェミアは目を瞠る。
「やだ、スザクそんなに怒ったわけじゃないの。気にしないで。ね?」
 慌ててスザクの正面に回り、ユーフェミアは思わず彼の手を握る。手袋越しに体温を感じながらスザクの顔を見上げれば、彼は「はい」と言いながらにっこりと笑った。
「気にしてません」
「…スザク、あなた私をからかったの?」
 そうに違いない。青空の下、ユーフェミアの声のトーンが少し落ちる。
「いいえ」
 しかし白い服の騎士は、そんなユーフェミアに否定しながらもにこにこと微笑むだけだ。
 その顔を見ていると、ユーフェミア自身の心にもあたたかな思いが宿る。自己犠牲を厭わない彼の厳しい顔つきは立派だと思っているが、ユーフェミアが一番好きなのは彼が幸せそうに笑った顔だ。
 どんなときも笑っていて欲しい。そしてどうか、幸せに。
 愛しき人々へのいつも願いが、スザクの面差しに重なる。
「学校にもあなたのように笑う子がいるんですよ」
「え?」
 スザクは穏やかに笑った顔のまま、話を変えた。戸惑いにユーフェミアが小首をかしげると、彼は笑顔のまま続ける。
「友達と仲が良い女の子なんですけど、屈託がないっていうのかな、周囲の声よりも自分の直感を大事にする子なんです。転校してから、僕にはじめて話しかけてくれた女の子です。あなたのように」
「わたくし?」
「はい」
 学校での出来事を思い出したのか、スザクの声音が一層やさしさを帯びる。
 スザクが学校でどのように過ごしているのかユーフェミアは詳しく知らないが、あの小さな社会組織で異分子は目立つ。自分自身の短い学生経験からユーフェミアはそれを痛いほど知っていた。
 だから、彼が学校に馴染んでいる話を聞くと、よかったと素直に思う。友達や仲間。幸せを感じることが出来る世界をもっと広げていって欲しい。
 たとえそこに、皇女の存在は不釣合いであったとしても。
「自分だけでなく、コーネリア殿下や他にも色んな人たちがあなたが笑った顔を好いていらっしゃいます。だから、あなたの笑顔は自分が守ります」
 繰り返される誓い。ユーフェミアはその真摯な思いに向かってそっと笑う。嬉しさが半分あり、残りの半分はもう少し自分を顧みて欲しい気持ちだった。
「…ありがとう、スザク」
 抱きしめたくなる。ユーフェミアは不意にそう思った。
 守られるのなら逆なのかもしれない。けれどユーフェミアもスザクを守りたかった。このひとを守って、誘って、安寧が約束された地へ共に並んで立ちたい。
 人形にはならない。皇女としてそう誓う。
 このまま人形に甘んじていたら、名を失った兄皇子に対して申し訳が立たない。あの人はもう一人の『妹』と自分の誇りを懸けて、暗闇の道を選んだ。
「じゃあ、ずっとわたくしを見ていてくださいね、スザク」
 背筋を伸ばしたユーフェミアは、スザクの向こうの青空を見やる。蒼天の色は母国のそれより幾分薄い色だ。この空のどこかに、ルルーシュもいる。
 あの人も救ってみせる。スザクと同じように。
 二度ときょうだい殺しの汚名を着させたりはしない。
 権力も富もいらない。ただ、皆が幸せになってくれさえすれば。
 その思いは、幻想だとルルーシュなら笑うだろうか。スザクなら賛成してくれるだろうか。
 桃色の髪を風に撫でさせながら、騎士を従えた姫はただ思案に耽った。









**********************
 コードギアス23話前後に途中まで書いたものの、「何のひねりもねぇ!」とセルフ没にしたものです。
 ネタがなかったので、引っ張り出して手を加えてみたものの、案の定ただのぐだぐだネタ。ごめんユーフェミア。彼女は「ユフィ」と表記するよりも「ユーフェミア」のほうがお姫様っぽくて好きです(ユフィというとFFの忍者娘のほうが先行イメージとしてあるせいでしょうか)。

 そういえば、猫騒動のときに周辺はまだ犯罪者扱いされた日本人のスザクを遠巻きに見ているのに、シャーリーが「ありがとう、スザクくん!」(ちょっと違うかも)とためらいなく駆け寄っていくシーンがすごく好きです。
 世界の危機より自分の恋が大事、と言い切る彼女ですが、だからこそ色々なものに色眼鏡をかけず、穿った視線を向けずに生きているのだなぁ、と。
 ルルにとってはまさに平穏な学園生活の象徴だったのだろうと。『たぶん好きだった人』。
 そんな『今好きで、今好きになってくれた人』から自分に関わる記憶一切を消し、『かつて好きで、今自分と手を取り合って生きていこうとしてくれた人』を殺したルルーシュの運命にさめざめと泣けます。

 延々ギアスネタで知らない方には申し訳ないのですが。
 ルルーシュのキャラソング『Never End』。
 酒井ミキオってさぁ、タッキー&翼の仮面の曲作った人なんだよね。
 ということを思い出しながら、思いっきり笑いながら聴きました。ふくやまじゅんはがんばったとおもう。
 ルルが「なつのひーのー はーなになりましょう〜♪」とか歌っていると思えば、次からタキ翼の「仮面」を聴くのが一層楽しくなると思います(ギアスとジャニッ子の趣味が重なる率がどのくらいかは知りません)。
 Never Endと仮面は、曲イメージ自体はそう変わらないと思うので。まあ、次から『仮面』はルルーシュが歌っている(繰り返し)と思えば一層楽しく。タイトルもルルっぽいし(マスカレードと一部被ります)。
 最終的には、ルルーシュが歌って踊ってる、と思えるようになった人が勝者。

 そういえば、歌といえはここんとこカラオケでプライベート・会社問わず3連続で、
「声かわいいねー声優みたい」「新人声優みたいな声だね!」など
 を、言われるのですが、ショックなのは本人だけなのでしょうか…。そりゃ声は高い部類に入るとは思いますが。
 いやショックじゃないですか? 私の声そんなにアニメ声!? って思うのは(本職の声優さんの声がキライというわけではない)
 っていうか私はそもそも自分の声が嫌いで、仕事で自分の電話音声録音とか録画をチェックするたびに「この女の声ウザい」と本気で思う。自分の声だからこそ余計に。こんなウザい声で応対してしまいお客様ほんとすみません。




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