小ネタ日記ex
※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。
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習作(トッキュー/真田甚)(その他)。
2006年05月11日(木)
養父と義父の違いとはこれいかに?
「字面と意味の違いだろう」
「やだーおとうさんそれつまんなーい」
淡々と事実を述べた世帯主に、被保護者はセーラー服の襟をなびかせながら答えた。
夕暮れの砂浜には、大きな影と細い影の二つが等間隔で並んでいる。絶え間ない潮騒と、二人と同じように黄昏どきの散歩を楽しむ人の気配が漂う。
相模湾の波は穏やかだった。
「まだお前の父親になってないが」
「いいのいいの。どうせそのうちお父さん」
歌うように少女が語る。結われていない髪が潮風に揺れた。
残照に輝く海面に向かって、青年が目を細める。良い夕暮れだ。明日の朝は晴れに違いない。
帰宅した途端、保護者を散歩に連れ出した少女の両手には学校指定のローファーがぶらさがっていた。
「別にどっちにしたって、私にとっては甚は『お父さん』なんだけどね。書類にするときは、どっちで書けばいいのかなーって」
「書類?」
「ほら、よく関係性を書く欄があるでしょ」
「…続柄?」
「そう、それ」
「ありのままを書けばいい」
「叔父?」
「又従兄」
「にゃるほど」
「日本語はきちんと話せ」
「はいはい」
口煩いのは、お父さんの特徴だね。そう続け、少女が笑った。
「その『お父さん』に、個別面談に来て欲しくないという理由を教えてもらえるか?」
鍛えた体躯をありふれたシャツに包んだ青年の声は、大抵が穏やかだ。職場では厳しく声を荒げることもあると少女は聞いていたが、少なくとも彼女の前の彼は良き家庭人そのものだった。
少女は大きな動作で空を仰いだ。南に面した湾の奥に、烏帽子の形をした岩が見える。
「シマさんめ、口を割ったな」
「嶋本に何でも話すんじゃない」
「ちょっと相談しただけだもんー。面談に来てもらいたくない場合、何て言えば甚をごまかせると思う? って」
「あいつは俺の部下だ」
「そーでした。命令されれば何でも喋っちゃうんだから、男の縦社会って不思議よね」
「それで理由は」
与太話で先送りにしようとする高校生の『娘』に誤魔化されず、国家公務員として活躍中の青年は相手を促す。
「だって、真田隊長はお忙しいかな、と思って。まずは私だけで先生と話して、決まってからご相談、ってことでいいじゃない?」
「よくない。他の生徒の親は皆来てるんだろう。うちだけ特別ってわけにはいかない」
「先生も同じこと言ってた。だから結局、甚も一緒じゃないと絶対ダメって言われちゃったよ」
「当たり前だ」
巌として譲らない目で、背の高い彼が呆れた息を吐く。
「お前はいつもそうやって一人で決める」
「しっかり者の娘でしょ?」
歩きながら覗き込んでくる少女の顔にある幼さ。引き取ったときはもっと幼かった。部下なら一喝してやりたいところだが、娘相手にはそうもいかない。
青年はただ吐息がちに言う。
「嫁に行くときも、そうやって一人で決めてそうだな」
「そうだなー、お父さん私この人と結婚しますもう決めたからよろしく、で済むね!」
「済ませるな」
本当にやりそうで怖い。時折何をしでかすかわからない、この少女は彼にとってある種の脅威だった。
まだ骨っぽさを残す白い素足で、彼の前を歩く少女は黒っぽい砂を蹴飛ばしている。湿り気を帯びた砂は、いくつかの塊となって海へ落ちていく。
「いい夕暮れだね、甚」
風は穏やか、日差しはやさしいオレンジ色。白っぽい肌を海辺の夕焼け色に染めた少女が、屈託なく青年に笑いかける。
はだしの小さな足跡と、安全靴の足跡が湾の砂浜に並んで続いていた。
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連続真田。
真田は真田でも、国家公務員の真田さん。…の、練習作です。
前にどこかの日記でちょろっと言っていた、真田体調と女子高生(の名前変換)。義理親子、ということで。
以前もうちょっと肉付けして書いていたものはあったのですが、前のノーパソをリカバリしたときに消えてしまったので思い出しながら書いてみました。
そういえば、前回の真田に関するメールありがとうございました!
お返事しきれてなくて大変申し訳ありません。
たくさんの方に覚えていて頂いて、本当に嬉しい限りです。ありがとうございます。
最近、旅に出たくて仕方ありません。
人はそれを逃避と呼ぶんですけどね……。
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ロングレイン8(笛/真田一馬)。
2006年05月05日(金)
雨が降る音が、最近よく耳に残る。
夕暮れのオレンジ色が消えた頃、家に戻った。
玄関前の明かりは淡い光。白熱灯の黄色い光は自然光に一番近い色をしている。
「ただいまー」
習慣でそう声を出すと、靴を脱いでまっすぐに洗面所に向かう。クラブハウスでシャワーは浴びてきたけれど、汗で湿った練習着やタオルは速攻で洗濯機に放り込みたい。
一人で暮らすようになって、小さい頃帰宅するとすぐに「洗濯物出しちゃって」と言う母親の気持ちを実感した。
「おかえりなさい」
洗濯機がゆっくりとうなり始める頃になって、いつもの応えが戻ってくる。
いつもと違うのは、あいつの腕に抱えられているさくらが大判のタオルに包まれていることだった。きなこ色の毛が濡れている。
「さくらちゃん、お風呂入れてみました。きれいになりましたよ」
「へぇ」
にこにこしている顔を見るのがなんだか久しぶりのような気がして、俺もつい笑ってみる。
さくらの湿った頭を軽く撫でると、犬の顔もどこか嬉しそうだ。
「意外に汚くなるもんな」
「ほとんど家の中にいますけど、床とか転がってますしね」
「やっぱたまには洗わないとな」
「洗ったらすごかったですよー。お湯が茶色くなりました」
「マジで? うわちょっと見たかったかも」
そりゃすげえ。そんな気分で笑うと、きれいになった犬を抱いた彼女もくすくすと笑っている。
なんだか、今日は機嫌がいいみたいだ。そんな事実にほっとする。
「メシは?」
「あ、まだなんです。…たまには、外でどうですか?」
「へ?」
外食?
とんでもなく珍しい提案をされて、驚いた。俺が面倒くさくなって外で食べることを提案しても、向こうから言われたのは初めてだった。
「珍しいな」
「たまには、と思って。お給料出たばっかりなので、よかったらおごります」
タオルごしにさくらを抱いたまま、ご機嫌顔で笑う。
何か、いいことでもあったのだろうか。極端な態度に不思議さと不審さの両方を抱く。
「今日はもう雨降らないらしいですよ」
だから行きましょう。そんな言葉が続きそうなかすかな笑顔は、同時にやはり違和感を俺にもたらした。
「明日の朝、出て行こうと思うんです」
中盤の焼き鳥が出てきたあたりで、おもむろに向かい側はそう切り出した。
一瞬、言葉が出なかった。ジョッキに伸ばした手がそのまま止まりそうになり、意地で取っ手だけは掴んでみせる。
正面を見れば、目が合った途端小さく苦笑する。
「妹に見つかったんです」
「…………………」
「だから、一度戻らないと」
平日の居酒屋とはいえ、客数は結構多い。偶然真横のテーブルには誰も座っていないけれど、ざわめきだけは店中から届けられる。
こんな場所で、なぜその話をするんだよ。
疑問が出た瞬間、相手の静かな表情でその思いが霧散する。ここなら、お互いに激しい感情を出すわけにはいかないから。静かに話し合いが出来る。
何事も無く、波紋を残さず、ただ立ち去る。それがこいつの望みなんだろう。
「…妹?」
「はい。一人いるんです」
色々混乱しそうになりながら、一番気になったことを言ってみると、向かいのあいつはやはり小さく笑ってうなずいた。
俺はぎりぎりのところで止めていた泡の入ったジョッキを引き寄せて、口に運ぶ。ビール独特の苦味。口の中に広がる炭酸と、鼻腔の中のアルコールの匂い。
見れば向こうも、ロックの梅酒を一口飲んでいる。
「明日の朝って、早いな」
「場所が割れてしまった以上、急がないと」
「…それって、一回家に戻るってことだろ?」
「…そうです」
じゃあ、それから後は?
一度戻って、それからまたあんな風に家出するのか?
言いかけた思いは、たぶん俺の顔に顕著に出たのだろう。木のテーブルを挟んだ顔は、お得意の曖昧な笑みを見せる。
「大丈夫です」
その笑い方が決定打だった。
たとえ俺がここで、出て行かない選択肢を提案したところで、こいつはきっと出て行く。何事もなかったかのように、もう二度と巡り合うことのないところへ。
さすがに俺にもわかる。こいつの、この意固地でひどく幼い心の有様が。
おっとりしたようで、生真面目なようで、本性はとても冷淡だ。必要がなくなれば捨て去る。そのくせ、罪悪感だけは抱き続けている。
「…大丈夫じゃなかったら、どうすんだよ」
俺が言えたのは、そのぐらいだった。
離れた場所から聞こえてくる、一気飲みの掛け声。大学生らしき数人が、すぐ横の通路を通っていく。年頃だけは俺たちとさして変わらない面子。
「わかりません」
「…お前って、計画性があるんだかないんだかわかんないな」
「計画通りには、なりませんでしたから」
今はただ、取り繕うだけです。
はじめてこいつの視線が落ちる。右手に握ったグラスを揺らして、氷の音を鳴らす。その、頼りなげなうつむき顔。
「…一度戻って、またそこを出たら、同じことの繰り返しじゃないのか?」
その場所を出て、また次の場所を出て、それで一体何が残る? その方法で掴めるのは、どんな未来だっていうんだ。
白紙の行き先。無限の可能性。そんな言葉じゃ括れない無計画な生き方をするほど、二十歳っていう年齢は子供でもなく、大人でもない。
「…お前には、大事なものって何がある?」
たとえば俺にとってのサッカー、家族、英士、結人、好きになった人、出会ってきた人、今の生活、所属球団、さくら、これまでの人生の良かったこと。
ずっとそれが知りたかった。生まれ育った場所や、家族や、友達や思い出、それらを放棄することが出来たこいつが持っているもの。
少し息を飲む気配がして、それから凪いだ目が俺を見た。
「大事でしたよ、両親も妹も。大事だったから、近くにいたくなかったんです」
「…………………」
「…たぶん、真田さんにはわかりません」
まるで責めるような拒絶。初めて向けられた、快さを欠いたまなざし。
嫌われたような気がして、胸の奥が少し重くなった。それと同時に、これまでずっと見えなかった彼女の奥底が少し見えた気がした。たぶん、英士や結人が言うほど、素直でも従順でもない女。
始まりの日々から、少しずつ露呈していったお互いの狡さと脆さ。かたくなに心を見せないあいつと、見て見ぬ振りをしてきた自分。同じ家で暮らしていても、少しずつ互いの空気に慣れてきても、距離感だけは縮まらなかった。
それらを思い返すと、なぜだかおかしい気分になった。
「ずいぶん長い間、ご迷惑をお掛けしました」
店を出たら、少しだけ雨が降ったらしく道路が濡れていた。雨上がりの夜半。湿った空気が、夏の匂いを運んでくる。
静かな住宅街に月は無く、稀に自動車が通るだけだった。
そんな空気の中、隣を歩く小さな影がぽつりと言った。俺は軽く空を仰いで苦笑する。
「こっちこそ、いてくれて助かった」
「……………」
「本気でそう思ってるから」
注釈をつけないと信じてもらえない気がしたから、そう付け足した。
「俺のこと、どう思ってた?」
ほろ酔いの気分が、そんな言葉を俺に言わせた。どうせ最後の夜だから。そんな半ば自棄の気分だった。
少し躊躇う気配のあと、足音に混じって声が聞こえた。
「大好きでした」
過去形。
「真田さんも、さくらちゃんも、あの家も、大好きでした」
昼間の熱を冷ます湿った風。アスファルトの匂いと、どこかの庭の土の匂い。水と緑の清涼さ。夏が近い、最後の夜の匂いだった。
覗き見た横顔は白く、歪めた目元が泣きそうに見えた。
胸が詰まって、こっちが泣きたくなった。
好かれていること、慕われていることを俺は知っていた。俺が頑張れば、もしかしたらもっとずっと一緒にいられたかもしれないことも。
だけど、俺じゃ駄目な予感もあった。俺がどれだけ近づこうとしても、心を開かせる自信はなかった。今こうして、こちらを見ないのと同じように。
「…ありがとう」
それしか出て来なかった。
続きの言葉の代わりに、歩きながら手を伸ばす。
掴み取った手は今まで触れてきた通りやっぱり小さくて、少し冷たかった。
ありがとう。俺も楽しかった。
俺も。
最後まで中途半端にしか出来ない狡さを隠すために、握り返して来ない手を俺は家まで離さなかった。
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…えー、今年も梅雨がやって参りますネ。
開始から3年、ようやくここまで辿り着きました。これを終わらせない限り、このサイトの閉鎖はまずありえないと思います。
そんなロングレイン、8話。
前のものはこちら参照で。
ちなみにこの話、現在まさにリアルタイムです。
舞台が2006年5−6月です。
つまりこの舞台中、柏はJ2です。…すっごいJ1設定で書いてますけど…!!(だってまさかJ2落ちするなんて思ってもいなかった)
しょうがないので、この作品での柏レイソルは未だJ1です。J1ということでお願いします。
だいたい連載開始時ですら、真田=柏、の図式も決まっていませんでした。後付はしょうがないということで…。
開始当時はまさか追いつくとは全く思ってませんでした。いくらなんでもW杯が一回りしたら終わるって思って以下略。
…連載初期からずっと読み続けて下さってる方とかもうお知り合い除いていないと思います…。すみません、もう何ていうか遅くて。土下座して謝りたいぐらいです。
そしてどれだけ書いても真田さんが慣れません。書き慣れとは縁遠いよ、真田一馬。
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