小ネタ日記ex
※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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思い出ひとつ7(笛/武蔵森)。
2005年12月23日(金)
駆け抜けろ青春。
武蔵森学園中等部の体育祭は、基本的にクラス単位で選抜された生徒のみが該当競技に出場するシス
テムになっている。生徒の人数が多く、全員参加競技というのは時間の都合上どうしても限られるから
だ。
その中でも、体育祭の花形といえばやはりリレーである。さらに男女の区別はあれど、学年が上がる
ほど有名生徒が増える三年生限定の選抜リレーは否が応にも盛り上がった。
「よ、渋沢」
楕円のドーナツの真ん中で、三年男子リレーの順番を待っていた渋沢の肩に、親しげな手が乗せられ
た。
若干下の位置から置かれたその手に、渋沢は一瞬で眉間に皺を寄せながら振り返る。
「何だ、今日の敵」
「センスのない呼び方するのはやめてもらいたいな。サッカー部元キャプテン殿」
はははー、とわざとらしい笑い声を秋空に響かせながら肩を竦ませる陸上部元部長、高橋の顔は実に
楽しそうだ。
そもそも、今日に至るまでのあれこれのトラブルの原因がすべてこの相手にあったのだと思うと、渋
沢はアイアンクロウをかましたい気持ちに駆られた。
「そんな怖い顔するなって。あ、せずにはいられないって?
まあそりゃそうだよな。お前が幼馴染にねだられたり、うっかり情報漏洩したり、そのせいで三上や
らにすっごい怒られたり後輩の信頼失ったり、ついでに幼馴染に八方美人だとかけなされたりしたもん
な。でもさ、それって全部俺のせいだと思う?」
同じ学年かつ、同じような組織の長の立場である高橋だからこそ、堂々と渋沢に喧嘩を売れる。事実
、運動部最強男子サッカー部の元キャプテンの影響力と権力は、時に生徒会長をも凌ぐ。
部の規模ならば弱小と強豪の差があれど、結局この場では同じ学年の生徒同士に過ぎない。元よりこ
の相手が渋沢に臆するような相手ではないことはわかりきっている。
渋沢は、半分ため息と同時に答える。
「…多少は、俺に原因があるな」
「うん、そうやってフェアな渋沢くんで有難いよ」
おもむろに屈伸運動を始めた高橋は、ついでに首を回しながら渋沢を見ている。
「言っとくけどさ、俺だってあれからきっついわけよ。川上さん使ったことで女子部員からブーイング
の嵐だし、サッカー部の部員たちからは完全マークされるし」
「自業自得だ」
「そんだけ勝利に固執してるってことで今回は優勝を譲ってくれ」
「いやだ」
幼稚園児でも出来る単語で答えた渋沢は、そのまま顔を思い切り背けた。腕を組んだのは単なる癖だ
った。
「だと思った」
「だったら言うな」
「………渋沢くん、あのさ、でっかいのが拗ねた顔しててかわいいって思うのはマジ女だけだからな?
」
「誰が拗ねるか誰が」
苛々してきた心を落ち着けるため、渋沢は深呼吸を繰り返した。頭ひとつ小さいこの友人には幾度も
殺意めいたものを覚えてきたが、その原因の一つは彼の飄々とした空気にあるのだろう。
「…しかし、お前もリレーに出るのか」
「まーね。渋沢は知らなくても、お前んとこの隠密連中は知ってるぞ」
「隠密?」
何のことだ。
胡乱げに眉をひそめた渋沢を、高橋は半分呆れ気味に笑った。
「暢気なのは元キャプだけってか。あの退場門付近にいる二人、サッカー部の一年だろ。メモとストップウォッチ。ジャージのポケットに無線」
完璧だねぇ、と目を細めた高橋の空気から、安穏としたものが消えていた。
自分の預かり知らぬ間に動いている後輩の姿に、渋沢は唖然とする。
「あれで!?」
「ああやって、主に各部の主軸の選手の様子調べてる」
「…………」
「何が何でも勝ちたいのは、ほんとお互い様だな。三上が、あのモトカノの生徒会長様に部活リレーの登録選手聞き出そうとして殴られたって?」
「…………」
世界は自分の知らないところで動いている。
自分を当事者の一人だと思っていた渋沢は、自分の知らない情報を確実に掴んでいる高橋を少し尊敬した。
そういえば、さっきさりげなく幼馴染の暴言への当てこすりもされた気がする。
一体、この陸部の彼はどこから情報を掴んでくるのだろう。
「…やめさせたほうがいいのか?」
「んやー、面白いからいいや。とりあえず今んとこ直接接触してはいないみたいだし」
「迷惑になるようならすぐに言ってくれ。やめさせる」
きっぱり言った渋沢を高橋はやや見つめ、好意的な苦笑を見せた。
「そこはさ、精神的ダメージ与えられるとか何とか言っておくべきだと思うな、渋沢」
バカ正直、と笑う友人に、渋沢はとほほと表現したい気分になった。
これだから八方美人と言われるのだろうか。
「お前んとこは、お前がそうだからたぶん他が懸命なんだよな」
「は?」
「ほれ、三上とかさ、傍でクール決め込んでる振りしといて、実際は『渋沢に任せてられっか、ああもういい俺がやる!!』って特攻かけるタイプじゃん?」
「…高橋は、さっさと陣頭指揮執る派か」
「当然。ヌケサク渋沢くんと一緒にするなよ」
言いたい放題だ。どうも自分の周りには口が達者な人間が多い。渋沢はまた一つ息を吐いた。
一方その頃、退場門付近にて。
「悪いが、ここは通すわけにはいかない」
仁王立ちで藤代と結を出迎えたのは、サッカー部が誇る黒髪の元司令塔だった。
本人だけがクールだと思い込んでいるらしい目を細めた真顔で、年下の男女を睥睨している。
「三上センパイ、何の真似ッスか」
「三上さん?」
「悪いが、渋沢の士気を高めるための道具になってもらう」
パチン、と三上が指を音高く鳴らす。
その途端、わらわらとサッカー部員が沸いて出るように現れた。
「ここはさ、やっぱり君には渋沢に会って欲しくないんだよね」
「勝てたら会う、ぐらいの条件つけないと渋沢にも火がつかないし」
「別に危害加えたりとかは絶対しないから、今回だけは体育祭終わるまで渋沢に近づかないでもらいたいだけだから」
「え、あ、あの…」
取り囲むように現れた元レギュラー陣に、結が思わず一歩下がる。胸の前で握っている手が、驚きを如実に示していた。
「ちょっと待った! おかしいッスよそんなの!!」
じりじりと輪を狭めてくる先輩連合の手から、藤代が咄嗟に腕を伸ばして結を庇う。
「…三上先輩、なんかこれはやりすぎじゃないですか?」
「川上が渋沢に会いに行くって言いに来たのはお前だろ、笠井。黙ってろ」
「何かっこつけてんですか。しかも何ですかその指パッチン。こういうときのために練習してたんですか」
「……お前のその口上には騙されねーぞ。黙ってろ」
実はこっそり居た笠井を見て、結が何かを言いかけたが、三上の一睨みで口を閉ざす。
「部活対抗リレーで勝つまで、お前に会わせないつっときゃ渋沢もそれなりにマジになんだろ」
「…下らない作戦で、俺涙出そうですよ三上先輩」
「黙れっつってんだろ。…ったく、最近の後輩は生意気ばっか言いやがって」
年寄りの愚痴もどきになった三上に、最初の驚きから立ち直ったこの場の紅一点が改めて一歩進み出た。
「私が会っても会わなくても、克朗がやることは一緒だと思います」
「モチベーションが違うだろ。腑抜けじゃ困るんだよ」
「私が何言っても、克朗は変わりません」
「そうッスよ先輩。渋沢先輩、試合のときはいつだってちゃんと」
「ここまで出といていまさら引けるか!」
そりゃそうだろう、とサッカー部一同だけが感じた。
だって指パッチンまでやっちゃったし。
体育祭の熱気と、前もって続いていた部活対抗への情熱が彼らを動かしていたが、一瞬でも冷めると「俺たち何やってんだろ」的な空しさへ向かう。
「…やめとくか」
「ん、やめとこやめとこ。ごめんね、川上さん」
「三上が突っ走ってただけだし、なんかこれって脅し?」
「相手がそう感じたら立派な脅迫罪だろ」
そりゃマズいよなー、と元司令塔を放っておいて、好き勝手に元レギュラー陣が明るく笑い飛ばす。主に中西らが筆頭だった。
「じゃ、俺ら三上に召集かけられただけだったから」
「後はよろしくー」
つむじ風より素早く同輩たちに退場され、残された黒髪がひとり屈辱に奮える。
「あ、の……!!」
「ご立派な茶番、お疲れ様」
気づけば応援や競技の入退場で行き交う生徒たちの注目を集めていたらしい。その中から、今来たばかりの様子で出てきたのは生徒会の腕章をつけた女生徒だった。
げっ、と呻いて三上が露骨にのけぞる。
「脅迫容疑の現行犯がいるって聞いたけど、まさかあなたじゃないわよね、三上」
気づけば、三年男子の選抜リレーは開始されていた。退場門付近は競技が終わった後に、選抜選手の通行に使われる。当然、その場の整理に当たるのは実行役の生徒会だった。
凛とした唇に笑みを乗せず、ただのハチマキも女王の冠のように身につけた彼女の仁王立ちはノリノリのときの三上より勝る。
「失礼しました、生徒会長! 俺たちただ彼女と話をしていただけですので、どうぞお見逃し下さい!!」
咄嗟に身体を二つ下りにして頭を下げたのは、運命の苦労性である笠井だった。
見逃してくれ、と言っているあたりからして自分たちの非礼を認めたも同然だ。
「じゃあそこどいて。それから彼女を通してあげて。…三上、もう十分でしょう?」
最後の下りで三上を見たときの彼女の視線はある意味憐れみさえ含まれていた。
そして三上の顔を見た藤代と笠井は、直感的に悟った。
ああこのひと、同情されると落ち込むひとなのに。
三上先輩、あんたも部活対抗リレーの選手なんですけど。
他人の士気を上げるつもりで、自分が落ちてどうする。
(たすけてキャプテン…!!)
彼らの運命の彼は、そのときトラックを一位で走っていた。
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私はたぶん、三上ヒロインを書くのは好きなんですよね…。
そんなやっと書けた体育祭、その7。
我ながらこう、やっちゃった感のあるネタをやっているような気がします。
前の渋沢月間のときの募集ネタで、高橋達也で、というお話を頂いてので今回予定変更で組み合わせてみました。その節は書ききれず、大変申し訳ありませんでした。
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三分間の勝敗線(笛/三上亮)。
2005年11月27日(日)
せめて、言うより言われたかった。
「もう沢山だ、実家に帰ってやる!」
口喧嘩の延長線上の発言だった。少なくとも彼はそのつもりだった。
なぜなら実家も何もあったものではない。ここは天下の往来、帰宅路の途中であり一度も入ったことがない灰色の外壁のマンションの前だった。
加えて別段自分たちはまだ同じ戸籍に入っていない。
「……………」
思わず飛び出た二十五歳の彼の発言を、彼女はまず数秒の沈黙で対応した。
無表情のままの数秒間。三上はその沈黙だけで血の気が引きそうな己を叱咤した。バカあほ間抜け。ああまさにそれは今の自分だと思ったが、認めるには三上のプライドは高すぎた。
やがて、強気の彼女は無敵の笑顔を咲かせた。
「どうぞ、お帰りになったらいかが?」
皮肉の響きの奥底には、「ばかじゃないの」という暗黙の思いが見え隠れしていた。
ああバカだろーよどーせ。
なんだって前述の台詞を吐いてしまったのか、言い訳をしてもし足りない気持ちで、三上亮は視線を明後日に彷徨わせた。
晩秋の午後、彼女の真新しいベロアスカートの光沢が視界の端で強い存在感を示す。
「さあ、お帰りになれば? 来た道はあちらよ?」
びしっと人差し指で道を指す彼女は、すばらしい笑顔だった。
その笑顔の真意が、呆れているからこその皮肉と、そして三上の発言により今回の言い争いの敗者が決定したからだ。これからどう盛り返そうが、あんな間抜け発言をひっくり返せるはずがない。
「どうぞ、ご帰宅なさって、亮さん」
慇懃な口調で彼女は彼をリングの端に追い詰める。
正直これが二十代後半になろうという男女の語り合いなのかと思うと、お互いうんざりしそうだった。この程度の小競り合いは、せめて高校生までにしておきたかった。
人通りは多くはなかったが、自分たち以外誰も通らないわけでもない。
三上は一つ唾を飲み込み、状況の打破を狙った。
凛とした彼女の双眸が、三上のプライドを煽る。
「…ああ、そうしてやるよ」
ここから実家まで何時間ほどかかるだろうか。
咄嗟にそう考えた三上だったが、彼女は学生時代からの得意ポーズ、腰に手を当てながらさらにあでやかに微笑んだ。
「あら、日本語を間違えないで。あなたが『帰ってやる』と言ったの。私が帰ってと言ったわけじゃないの。わかるでしょう?」
…さすが止める気なんてないってかオイ。
それはそうだろう。たとえ三上が逆の立場でも、状況を把握して啖呵を切れとツッコミたくなる発言を、まともに受け止める気はしない。
「それでは、お疲れ様」
「……………」
会釈をし、すたすたと彼女は今まで行こうとしていた道のりを歩き出す。
ここで自分がどうすべきか、三上にもわかっている。
世の中意地を張るところと、引き所と、それぞれそれなりに理解している。後は己の性格がそれを許せるかどうかだ。
暖かい秋の光が黒髪に降り注ぐのを感じながら、三上がおそるおそる振り返ると、同じ学年だった彼女が立ち止まって彼を待っていた。
「それで?」
さあどうする、三上?
十代の頃と同じように、彼女は苦笑半分の微笑で、彼を見ていた。
ちくしょう、と三上は今回ばかりは完全敗北を認めた。
「……すいません、俺が悪かった」
「当たり前でしょう。どうして『もう沢山』で、『実家に帰ってやる』なの」
バカじゃないの、とは彼女は言わなかった。
「三上って、ときどきよくわからない台詞を吐くのよね。笑いこらえるの必死だったんだけど、わからなかった?」
「……こないだ読んだ雑誌に、本当にそう言って実家に帰ったっていうのが載ってたんだよ」
迂闊にその記事に感心して、覚えていたのが仇になった。
「記憶力がいいのも考え物ね」
くすくす笑いながら、大して乱れてもいない三上のマフラーを彼女が直す。その様子から、さして怒っていないことが窺い知れた。
「どうせ、言葉に詰まったところで思いついたことを言ってみただけなんでしょう?」
「俺の考え読むなよ」
「本気じゃなくてよかったけど」
三上のマフラーを直し、小さく息を吐くと彼女は彼の肘のあたりのジャケットを引っ張る。
もうすっかり彼の間抜け発言も許す女神の如き慈愛で、彼女は彼に笑いかける。
「ほら、行きましょ」
「…………」
引っ張られて歩きながら、三上は派手な意地を張らずに済んだ安堵と、相手の最終的に受け流して笑う姿勢にしみじみと時間の流れを思う。
十代の頃ならば、自分はきっと絶対に謝らなかった。
十代の頃ならば、彼女はきっと最後まで三上を嘲った。
「俺、年取ったなー…」
「何言ってるの、当たり前でしょう」
早く歩いて、と腕を引っ張る彼女を斜め後ろから見ながら、三上は軽く空を仰ぐ。
空の色だけは、記憶にある頃と何ら変わりなく、天上に浮かんでいる気がした。
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…うん、…うん、ばかじゃないの(自分に)。
何だってこんなネタを思いついたのか。
私は体育祭の続きを書いているうちに、思いついたのでちょっとだけ、の気分だったはずなのですが。
そういえば、ついさっき届いたメールを見たとき、まず挨拶文としての「○○○!」という文字が目に入りました。
それ見ただけで、お名前とか確認する前にどなたからかが瞬間的にわかりました。
※○○○にはキャラ名をお入れ下さい。
だから三上(堂々と/………)。
咄嗟の思いつきって大事だよネ☆(………)
その思いつきが、なんでだか一行目の台詞になるわけですよ。もう少しなんか見栄えのいい台詞思いつかなかったのか…。
世の中の「くだらないこと」っていうのは、「くだらない、けど面白い」と「くだらない、どうしようもなく」に分かれると思うのですが、私が思いつく「くだらなさ」というのは主に後者です…。
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