小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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再録・夏嵐(笛/渋沢と三上)。
2005年07月11日(月)

 台風が過ぎたら空は青くなるものだと思っていた。






「……おお、三上、ちょっと来てみろよ」

 台風が過ぎ去った夕方、部屋で宿題を片付けていた三上に渋沢の声が掛かった。
 昼間とは思えないほど暗かった台風通過中に比べ、雲が薄くなり出した今の時間帯から差し込む窓の光はもう黄昏の色をしている。
 渋沢は、そんな窓辺に立って親友を呼んだのだ。

「あ?」
「いいから、ちょっと来てみろって」

 すごいから、と窓の外を見たまま渋沢はそう付け足した。
 彼が嘘をつくことは、こういった場面でまずない。主観がどうであれ、きっとそこまで言うからには確かに『すごい』のだろう。何かはわからなくても、その言葉に惹かれて三上は椅子を立った。
 何だよ、と視線を向けると渋沢は無言で開け放した窓の外を指す。

 世界を埋め尽くす、淡い朱色がそこに広がっていた。

 空の天蓋を覆い尽くしている、薄い雲。そこに反射する、一日の終わりを告げる太陽最後の一閃。晴れていたのならきっと西から東に、紺から緋色へのグラデーションだろうに、広がる薄雲はそうさせなかった。
 雲すべてに、広がり映る淡い緋の色。それはさらに下に落ち、雨で浄化された人の世界を染めている。木々も街並みも人影も、すべてが同じ色に照らされていた。
 昼と夜の境目、一瞬の隙間がそこにあった。

 圧倒的な自然の一端が、垣間見えた気がした。


「な、すごいだろ?」


 そして三上の隣で、親友が楽しそうに言った。
 誰よりも先に新しい発見をした子供のような、少し自慢げな声。三上はうなずいた。

「すげ」
「だろ?」

 珍しいよな、と渋沢はやはり楽しそうな声で付け加える。滅多に拝められないものを見た興奮が、その横顔に滲んでいる。
 ガキじゃあるまいし、と三上はやや呆れたが、この光景は確かにそんなある種の感慨を呼び覚ますことは確かだった。
 夏の風物詩の台風、それが去ったあとの稀に見る薔薇色の世界。けれど二人はそれが夕暮れの一瞬だけだと知っている。刹那しか見られないからこそ、人はさらに美しいと感じるのだと。
 人間の手には届かない、圧倒的な世界の存在を思い知らされるのはこんなときだ。
 これから先、どれだけ人類が進歩しようともこの光景は作り出せない。もし作り出せたとしても、この偶然の刹那に到達することはない。奇跡のような一瞬だからこそ美しいのだ。
 自然とはそういうものだと、三上は思った。
 人知の及ばないことに、恐怖を覚えるほどの美しさ。見惚れたあと、背筋を這い登る暗然とした気持ちがアンバランスで気色悪い。

 そう思うことは、何かを羨むことにも似ていた。

 脅威を感じるほどの美しさ。それは自分がそこに届かないと、わかっているから怖いと思うのだろう。
 たとえばあまりに美しいものを見たとき。そして、圧倒的な天賦の才を見つけてしまったとき。
 それが、これまで平然と隣にいた自分の友であったとき。
 敵わないと、思い知った瞬間の気持ちと、この夕暮れに出会った気持ちはよく似ていた。


「三上?」


 不思議そうに、純粋に疑問の響きを上げる親友。
 彼がきっと、いずれは高みに駆け登るだろう予感は三上にもあった。三上だけではない。サッカーに携わり渋沢のプレーを知る人間なら、少なからずその予感はあるだろう。
 それは、三上には与えられなかった才能とも言うべきかもしれない。

「…何でも」

 わずかに目を伏せて、三上は窓辺から離れた。
 羨みを越えてしまいそうな、嫉妬めいた感情は生涯渋沢には言うまいと三上は誓う。
 それが三上に残された最後のプライドだった。

 緋色に彩られた二人の中に、凪いだ嵐があることを渋沢はまだ知らない。







************************
 2002年夏に書いた小ネタ『夏嵐』でした。
 私の中の渋沢と三上の関係、っていうのはこういうのが基本なんだなー…と、読み返して懐かしくなったので再録してみました★
 えっ、べつに渋沢月間水増ししようとかじゃないよ!

 過去の小ネタを見ていると、ああ私こんなに書きたいことあったんだー…としみじみします。
 3年経って、自分で読み返しに耐えられるものってかなり少ないことも実感します。






7月7日(笛/渋沢克朗)。
2005年07月07日(木)

 自分のため、そして誰かのために。








 夕暮れの風に竹の葉ずれの音がやさしげに響いていた。
 今年もやって来た七夕。武蔵森学園の生活規律の中には季節を大事にすることで情緒面を養う目的も掲げられている。その結果、日本古来と思わせぶりな大陸伝来の伝統も寮といえど疎かにはしない。
 武蔵森学園高等部サッカー部専用寮でも、この時期には部員たちの願い事を書いた短冊が巨大な竹の合間で揺れていた。
 その光景は渋沢が中等部の頃に飾っていたものと同じだったが、若干違うところがある。それは部員以外の有志の短冊が混じっているところである。
 今年の『七夕当番』となった渋沢は竹の近くに丸椅子を持ち込んで座りながら、中等部とはやや趣きの異なる竹飾りをぼんやり見上げていた。

「こんばんは、今年もいいかしら?」

 余所見をしている間に門をくぐり、子供づれの若い女性がやって来た。渋沢は椅子から立ち上がり、親子に向かって笑いかけた。

「こんばんは。短冊はお持ちですか?」
「持ってます」
「じゃあどうぞ、お好きなところに。届かないようでしたらお手伝いしますので」
「ありがとう」
「ありがとー!」

 母親の最後の言葉だけを幼稚園生ぐらいの女の子が元気よく復唱した。
 その姿を微笑ましく思う渋沢に、母親は会釈をすると子どもの手を引いて竹飾りに近づいて行った。見守る高校一年生の視線を気にせず、親子はどこに短冊を飾るかの相談を始める。
 同じサッカー部専用寮の七夕でも、中等部と高等部の差はこれである。この日のみ、高等部寮は前庭を一般にも開放し願い事を書いた短冊を飾ることを奨励している。平素から強豪サッカー部に金銭的、精神的援助をしてくれている地域の人々への一種のファンサービスである。

「今年の一年生?」

 夏の日暮れは遅い。来訪者は五時を過ぎてもちらほらとやって来る。その一人ひとりに、渋沢は丁寧に頭を下げた。
 今度は中年男性の二人連れだったが、渋沢の記憶する限り彼らは近くのコンビニエンスストアの店長と副店長だ。五月の紅白戦で飲料水をダース単位で差し入れてもらった。

「はい。渋沢と申します」
「ああ、新しいキーパーの子か」
「どう? 高等部ではレギュラーになれそう?」
「いえ、まだまだ先輩方には敵いません」
「またまた、君なら大丈夫だよ。頑張れ」
「ありがとうございます」
「短冊持ってこなかったんだけど、こっちであるよね?」
「はい、どうぞあちらで」

 渋沢が例年用意しておく長机を指し示すと、父親に近い年代の彼らが談笑しながらそちらへ向かって行く。元は酒屋だったという彼らの店も、サッカー部にとっては大事なサポーターだ。
 受付終了の六時まではまだ三十分以上ある。そろそろ残照も消え始めた空を見上げ、渋沢は何となく星を数えた。
 寮の門の前に小さな影が見えたのはそのときだ。

「…こんばんは」

 おずおずと姿を見せた少女は、中等部の制服を着ていた。
 渋沢は思わず受付としての自分を忘れた。

「結?」

 渋沢が高等部に進学してからは会う機会が減った幼馴染みだったが、だからといってその姿を見間違えるはずがない。珍しいところに来たと思いつつも、思いがけない出会いに彼の表情が緩んだ。

「珍しいな、こっちまで来るなんて」
「…部外者が堂々と入れる機会だから行ってこいって、友達とかが」

 彼女はためらいがちに誰かに背中を押されたことを説明したが、渋沢にとっては会いに来てくれた事実に変わりはない。
 素直に行動を起こせない幼馴染みに、彼はいつも通り手を伸ばしてその頭の上に置いた。

「うん、よく来たな」
「…あれが、噂の笹飾り?」
「笹というか、竹だな。普通の笹じゃ追いつかないんだ」
「ふぅん。結構色々な人が来るのね」

 薄闇に浮かび上がる、天を指して立つ青い竹。今は色とりどりの短冊を纏い、かすかな風を受けて揺れる。夏の夕暮れの静かさに、何人かの声が混じっている。

「お邪魔しました」

 七夕飾りの見物を終えた親子連れが、渋沢の近くを通り過ぎるときに会釈した。
 渋沢も穏やかな笑みを浮かべ、軽く頭を下げる。

「ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」

 ついでに手を振ってきた子どもに渋沢が手を振り返していると、隣にいた年下の少女が不思議そうな顔を浮かべた。

「ねえ、そういう役って三軍の人がするものじゃないの?」
「ん?」
「だって、わざわざ克朗が練習休んで当番になったわけでしょ?」

 期末試験前の時期とはいえ、サッカー部のレギュラー候補組に完全な休暇時期というものは有り得ない。勉強もするが練習もする。どちらも両立することが武蔵森の方針だが、特別扱いをされることの多いサッカー部一軍はより厳しい時期だ。
 中等部ならば、こういった雑用がらみの役割は一年生、特に三軍と目される部員たちの役目だった。一年の頃から一軍入りを果たしていた渋沢が、部長職以外の窓口担当になったことはない。
 長年自分を見てきてくれた幼馴染みだからこそ言ってくれた言葉に対し、渋沢は笑わずに生真面目な息を吐いた。

「練習は夜でも出来るけど、こういう役はやれるときにやっておきたかったんだ」
「七夕当番?」
「だって、普段応援してくれる人と直接顔を見て話せるわけだろう?」

 まあおいで、と渋沢は手招きすると閑散時に自分が座っていた丸椅子を幼馴染みにすすめた。
 彼女が座ったのを見計らいながら、笹飾りの付近と門とを見ながら彼は口を開く。

「人間、感動したって言ってもらえる機会が人生に何度あるか俺は知らないが、少なくとも俺は部にいることで何度か言ってもらったんだ。だけどそれを当たり前だと思いたくないし、言ってくれた人を出来るだけ忘れたくない」
「……………」
「少しでもサッカー部の俺を覚えてくれている人に何か出来るから、俺はこういう役目は結構好きなんだ」

 サッカーをするのは自分のため。サッカーを好きな自分のため。けれどそれに、何かを感じて、応援してくれる人、嬉しいことを言ってくれる人がいる。その事実に少しでも感謝を返せる機会、直接顔を合わせられる機会があるのなら。渋沢はそう思う。
 去り際にやはり会釈をして出ていく人たちを微笑んで見送る渋沢に、幼馴染みは小さく笑ったようだった。

「…克朗ってほんと、自分のファン大好きな人よね」
「結のほうもな」

 気軽に言ってみると、恥ずかしいのか幼馴染みは笑みを引っ込めて顔を背けた。その仕草を渋沢は嫌だとは思わず、ただ笑う。

「結も何か書いていくか?」
「ううん、私はもう自分の寮で書いたから」
「そうか」

 自分のプレーに感動したと言ってくれる人に、これからどれだけ巡り会えるだろう。
 感動とはそれほど安いものだとは思わない。感動したとたやすく口に出来る人がそう多いとは思わない。だからこそ得難く尊い。
 しかしたとえ簡素な言葉でも、自分を肯定的に認めてくれる言葉は己の誇りになる。
 幼い頃、一番最初に渋沢を慕ってくれた少女はいま渋沢の隣に来てくれた。

 離れた恋人同士が出会う宵。
 涼やかな葉ずれの音と共に、渋沢の髪が揺れた。








************************
 人生で、感動したと言ってもらえるのは何回あるのだろう。
 が、テーマでした。ちょっとだけ。

 そして本日の渋沢さんお相手は本来のヒロインで。…ヒロイン系3人続いてると、なんだかアレですね(何)。
 そしてキャプテンではない高校一年生。森の高等部サッカー部専用寮の名前は何ですカ(知りません)。
 時期柄か、七夕ネタで、というアンケート回答が多かったのでやってみましたが…七夕のネタは全然使ってない気がします。

 根本的に、私は森の一軍連中はサッカー馬鹿一直線だと思ってます。余計なこと考えたら二軍落ちだ…!! という緊張感を常に背中でひしひしと考えているといい。お前らのライバルは他校じゃない隣のそいつだ!
 なので渋沢は中等部1年とか、高等部1年ぐらいだと部内イジメに遭っていてもおかしくないと思います。
 強豪の中で、中学1年生でいきなり先輩から正GKの座をもぎとったんですよこの人(証人小堤)。

 三上は順当に代替わりしてナンバー10だと思いますが、渋沢さんは1年が3年を蹴落とすようなあまりに有能すぎて先輩たちから嫌われる人だと思います(年下にはモテるが年上からは敬遠)。
 雑音を払いのけるには実力で見返すしかないと信じている孤高の人だと思います(そんなK口な)。

 っていうか渋沢って、一目置かれるか目障りだと思われるかのどっちかしかないような気がする。本人そのつもりはなくても色々な意味で目立ってしまう(学生時代なら特に他学年に)。
 渋沢ってまさに見たままの性格と能力の持ち主なので、意外性のなさ=可愛げのなさ、にも通じてしまうと思います。
 しかし、すごい人だと憧れられるのも、反感買われるのも本人にはあまり変わりがない気がします。どっちも自分に距離を置かれているのと同じことだから。
 意外とこの人、自分を「そこらの一少年」と見てくれる人を求めてるんじゃないかな、と前にふと思いました。
 …そういやそんな意味もあって、渋沢ヒロインをサッカー部とは全然関係ない、しかもあんまりサッカー少年渋沢克朗を好きではなく、これといって秀でたところもなく、完璧少年じゃなかった頃も知っている幼馴染みにしたのでした(初期設定)。
 まあ渋沢に顔良し頭良しの美少女くっつけたんじゃ、全然面白みがない、という考えもあったのですが。

 K平さんから二本もバトンを渡してもらったというのに、答えているゆとりがありません…。そして回答が非常にいたたまれないことになりそうな予感で一杯です(例:最近買ったCD→タキツバ、蔵書→本棚4つ溢れて床積みの書庫状態)。




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