小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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パーフェクトブルー(笛/渋沢と三上ヒロイン)。
2005年07月05日(火)

 女神は微笑と殺気をたたえてやって来る。








 武蔵森学園高等部において、歴代生徒会長男女比率は9対1の割合である。
 現時点で校内においてはっきりとした男女差別の風潮があるわけではなかったが、そこは長い歴史を持つ伝統校。男子が先頭に立つことが当たり前だった時代から存在する分だけ、生徒内役職の名簿に男子名が連なる歴史が長かった。
 ところがその年は、過去の割合にして全体の10パーセントしかいない女子の生徒会長が存在している。中等部の頃から生徒会や代表委員会などで必ず顔を見せており、その容姿や凛とした空気を持つ人柄から、武蔵森の才媛と呼び声が高い。
 その才媛が、いま渋沢の前であでやかに微笑んでいた。

「どうにかしなさい渋沢」

 目が笑っていないまま、バシイッ、と机に叩きつけられたわら半紙数枚が、渋沢の前で彼女の怒りを代弁していた。
 なぜか部外者の彼女によってサッカー部の部室に連れ込まれた渋沢克朗は、椅子に座ったまま目を瞬かせた。

「どうした、山口」
「どうしたもこうしたもないわ。これ、どうにかして欲しいの」

 命令口調から依頼口調に戻ったところで、渋沢は相手が珍しく混乱していることを悟った。心底から珍しいと思う。
 椅子に座ったままの渋沢は、普段見下ろしている彼女を真っ直ぐに見上げた。採光のための窓が小さく、電灯をつけても外のほうが遥かに明るい部屋。その中で、気丈なはずの相手の苛立ちや不快な感情が確かに伝わってきた。
 この相手をここまで追い詰めた物への興味が沸き、渋沢は視線で促す彼女の指示通りにわら半紙にプリントされている文字を追った。
 内容を理解した途端、彼は無意識に唇を動かしていた。

「…特集校内ベストカップル」
「…ありえない話でしょう? どうしてそんなベタベタな煽り文句書けるのかしら」
「…第一位、渋沢克朗(サッカー部キャプテン)×山口彩(生徒会長)」
「何考えてるのかしら、あのクソ新聞部…!!」

 よほど腸が煮えくり返っているのか、才媛の評判が泣く単語を使う彼女を、渋沢は別の意味でまじまじと見た。加えて、渋沢から取り上げた校内新聞を両手で握りつぶしている姿だ。
 とても珍しい光景が事態への不可解さを凌駕する。誤報に義憤を募らせるのではなく、今の彼女は間違いなく私怨だ。
 これに目をぎらつかせ髪を振り乱す仕草でも入れば完璧だ。とりあえず美人で気が合う友人ではあるが、恋愛感情なぞ小指の先も持っていない渋沢は冷静に相手を観察してみた。

「…ちょっと、どうして落ち着いてるのよ」
「いや、山口の顔と動作が実に見物で」
「私よりそっちのほうが気にするべきでしょう!?」
「って言ってもなぁ」

 その様子のほうが面白くてインパクトが薄れる。
 などと本音を言えば、今度こそ首を絞められそうで渋沢は言わないまま彼女の手から問題のブツを取り上げた。怒りのあまり足蹴にでもするようになったらさすがに彼女が憐れだ。
 眉をひそめたままの彼女の視線を感じながら渋沢はざっと流し読みし、苦笑した。

「いつも通り、独断先行の記事だな」
「ええいつも通り! 再三憶測で記事を書くなと生徒会から注意したにも関わらず! 最近の新聞部おかしいわよ。生徒会とサッカー部敵に回して生きていけると思ってるのかしらね」
「おい、本音が出てるぞ生徒会長」

 部の運営方針を左右しかねない予算を統括する生徒会と、強豪として地域に名を馳せ校内有名人の半数以上を抱えるサッカー部。金とネタの供給を止めることも可能な組織のトップを誤報で晒すなどそれこそ自分の首を絞めるようなものだ。
 剛毅な真似をしたものだと思いつつ一面記事を読んでいた渋沢は、ある箇所で視線を止めた。

「…尚、この記事内での『カップル』とはあくまでも『組み合わせ』の意であることをご了承下さい?」
「そんなの書いてあった?」
「あるぞ。ここに」
「…………」

 一読した途端きつく引き締められた彼女の口許に、渋沢は思わず身を引いた。そろそろ怖い。

「まあ、そんなに気にするな。どうせ信じて欲しい人は本当のこと知ってるんだから」
「…あなたは信じてくれる彼女がいるから、そういうことが言えるのよ」
「じゃあ三上がこんなのを信じると思うか?」

 渋沢が友人の名を出すと、三上亮の元彼女は反論せずに黙った。
 結局のところ、彼女が気にしているのはたった一人だけだと渋沢は呆れた気持ちで頬杖を突いた。互いのすれ違いによって恋愛関係を解消しても、まだ双方で実りのない片思いをしている。
 苦味のある横顔で押し黙る彼女に、才媛の言葉は似合わないと渋沢は思う。マニュアルや理念がはっきりしていることは得意でも、人間関係に柔軟さが圧倒的に足りない。
 今でも大事な存在だと言い、相手に心を砕き、何かあればすぐに駆け寄るくせに、それが恋だとはもう彼女は言わない。深い愛情をかたくなに隠す。
 それを渋沢が悟っているとはいえ、あからさまに憐憫の空気でも見せようものなら、まず間違いなく相手のプライドを傷つける。渋沢はただの紙切れにしか思えない新聞記事に目を落としながら口を開いた。

「何年もよく続けるな、そんな関係」
「…………」
「ずっとそうやってても、先はないぞ。三上に新しい彼女が出来るまで、今のまま都合のいい慰め役をする気か?」
――余計なお世話よ!!」

 悲鳴のような怒鳴り声が、コンクリートの壁に反響した。
 惚れた相手でもない女の声ごときでは渋沢は臆さない。頬杖を外し、睨みつけてくる綺麗な双眸を正面から見据える。強く光る感情に動揺を隠せない女の顔がある。
 この指摘を受けて逆切れをする無様な姿を、きっと三上は知らない。怒りのあまり浮いた涙さえ。

「いいところしか見せないくせに、こんな記事ぐらいでうろたえるな」

 どうせ三上の前では毅然と有り得ないと記事を否定するくせに。そうすればきっと、彼女のプライドも三上の中の彼女のイメージも無傷で済む。

「…悪かったわね」
「まあ、多少俺にも被害が出かねないから三上にフォローはしておくさ。それでいいんだろう?」
「お願い」

 最後は潔く、断然とした声音で彼女が言った。その後、彼女は両手で顔を覆い、疲れた息を吐く。

「全く、何で私こんなに動揺しなくちゃいけないのかしら」
「片思いもご苦労なことだな」

 平然と言ってのけた渋沢は、ようやく部室を出るタイミングを得たと席を立つ。止める気がない相手の吐息の空気が伝わってきた。
 渋沢にとって、これほど対等に好き勝手言える異性は他にいない。決して恋の括りに入ることのない相手だが、外面の良い者同士で分かり合える部分がある。
 彼女が渋沢の親友と付き合っていた時も、別れた後も、それは変わらない。

「優しい言葉一つ言えなくて悪いな」

 最後になって何となくそう言ってみると、相手は普段通りの情の強さでせせら笑った。

「そんなもの、私に必要ないでしょう?」
――ああ、そうだな」

 その通りだ。小気味よい彼女の返答に、渋沢は笑った。この様子では、教室に戻る頃には完璧に外向きの顔に作り直すことだろう。
 いつか彼女も、本心から想う相手の前で気取らずに過ごせる日が来るのかもしれない。
 その日が出来るだけ早く、そして相手が変わらずにいてくれたらいいと、渋沢は思った。








************************
 …わかりにくくて大変申し訳ないです。
 適当なギャグ路線で突っ込んでいくつもりがうっかり何か違う方向に行きかけたりしてあわあわしました。そして妙に尻切れ…。
 三上と彼女の中学〜高校編は、渋沢サイドと交えて過去結構書いた…んですが、前の日記から新しくするときにこっちに移動させなかったので、最近うちに来た方とかには大変不親切なネタになった気がします…。すみません。

 今年も目指すは渋沢克朗百面相。怒ったり笑ったり切れたり黒っぽくなったり。

 そういえばデス種の小説2巻を先日買ったのですが。
 シンちゃんの心理状態が濃やかに書いてあって感動しました…。すごい見たかったシン・アスカがそこにいた。そしてレイがマリーより年上であることに驚いた。
 わりと忘れがちのシン・アスカ天涯孤独設定をしみじみと思い出した小説2巻でした…。そうだよこの子もう身内いない16歳だよ! と。
 怒りとか癇癪気味なところとか、強い感情でしか気持ちを表現出来ず、セーブしてくれる家族や理解者が13〜15ぐらいの多感な時期にいなかったんだな…というのが、すごくよくわかりました。自分が何言っても「あーあこいつはまた」っていう目で見られていくうちに、段々ぎゃんぎゃん言うことでしか自己表現出来なくなっていったのかな、とか。
 友達はいるようで、実はずっと自分でも気付かない孤独を抱えていた子のように思えました、シンが。
 …でもやっぱりそういうのを本編できちんと描写してもらいたかったな…。






7月始まり(笛/渋沢克朗)。
2005年07月01日(金)

 行き先を決めない外出をしてみた。








 目の前を悠然と河が流れていた。
 曇り空の下、なまぬるい風が頬を撫で前髪を攫う。渋沢克朗はわずかに目を細めながら、肌にまとわりつく湿気にこれから始まる夏を思った。
 正午過ぎの河川敷の土手に人気はほとんどなかった。昨夜の雨による増水は川面をコーヒー色に染め、普段なら川岸に当たるだろう箇所を水没させている。河川敷に生えている丈の低い草に薄く泥が積もっているのが見えた。
 一体何で自分はこんなところまで来てしまったのか。
 平日、真昼、私服、と三つ揃った二十四歳の青年は水面を流れるペットボトルに目を遣りながら、ためいきをこらえた。
 これがもっと晴れた、草花の緑が映える場所ならほのぼのとした気分にもなるだろうが、生憎仕事でミスをして傷心中の身にこのうら寂しい光景はますます気分を滅入らせてくる。
 折角電車を乗り継いで来たというのに、もう早く帰りたいという気持ちが込み上げる。
 せめて、との思いから渋沢は上流に見える橋脚のほうへ背の高い身体を向けた。電車賃分ぐらいの元は取りたい。貧乏性と紙一重の思いだったが、私生活の堅実さが彼の売りだった。
 土手道の行く側からは、帽子を被った女の子が犬を連れて歩いている。白い帽子に明るい茶の犬だ。別段変わった取り合わせではなく、渋沢は顔を川面のほうへ向けながら歩いていた。

「あっ!!」

 短い声が聞こえたのは、ほどなくだった。
 無意識に顔を前に向けた渋沢の目には、猛然と駆け寄ってくる犬が映る。
 そして、後ろのほうでただの綱を持って目を見開いている顔と、白い帽子。
 犬が来る。どんどん来る。

「う、―――

 叫んで逃げなかったのは、サッカー全日本代表屈指のゴールキーパーと謳われた渋沢克朗の名に懸けてのことだった。
 咄嗟に動きを止めた渋沢に対し、駆け寄ってきた犬は泥足で渋沢のすねの辺りに飛びつき、服に半端な足跡をつけた。犬はそのまま渋沢の顔を見上げ、ぱたぱたと上機嫌に尻尾を振っている

「…………は?」
「あ、あの、すみません!」

 思わず犬と目を合わせた渋沢のところへ、ようやく飼い主が追いついて来る。
 大したことのない距離だったが息を切らせ、走るのに邪魔になった帽子を鷲掴んでいる顔は十代後半ほどの若さだった。

「すみません、いきなり首輪抜けちゃって…」

 彼女の言う通り、茶色の中型犬には首輪の跡はあるが首輪そのものをしていない。彼女が犬の近くにしゃがみ込み、赤い首輪を急いで付け直している間も犬は渋沢を見上げて尻尾を振っていた。

「いや…こちらこそ…」

 こちらこそ何だ。
 咄嗟にそう言ってしまったが、この場では不適切だったことに渋沢はすぐに気付いた。今の自分はよほど失調しているらしい。
 犬の首輪をつけ終えた彼女は、渋沢の様子を見て「あっ」と声を上げた。

「あの、ごめんなさい、服が…」
「ああ…いや、別にこのぐらい気にしなくていいから」
「すみません…。あ、あの、大丈夫ですか?」
「え?」
「犬、苦手そうに見えたものですから」
「…いや、別に苦手ではないはずなんだが…」
「……大丈夫ですか? 顔色よくないですけど」

 通りすがりの女子高生ぐらいの年代の子にすら心配された、その事実に渋沢はひそかに胸が痛んだ。
 それと同時に、相手が自分の顔を知らない事実にほっとする。プロデビューしてから数年、場所を選ばなくてはいけなくなった割に収入は伸び悩んでいる今日この頃だ。
 ところが相手は無邪気に言葉を紡いだ。

「昨日、大変でしたものね」
「は?」
「延長戦まで、お疲れさまでした」
「……………」
「あの、渋沢克朗さん、ですよね?」

 昨日の対柏戦、観てました。そう笑顔で告げられ、渋沢は作り笑顔の端がひきつるのを自覚した。
 犬が渋沢と彼女の間で、飼い主を見上げている。

「よくわかったね」
「はい、あの、ちょっと…よく観てます。最近前のオリンピックとかのビデオも見てて、それで渋沢選手よくいるなぁって…」

 しどろもどろになりかけた彼女の言葉に、渋沢には引っかかるものがあった。
 単純に渋沢のファンならばこういう言い方はしない。有り難いことだが、多くのファンと接しているうちにそういった感覚は何となく掴めるようになった。
 どうにか渋沢のプレーの感想を言おうとしている様子の彼女の懸命さにほだされ、渋沢は小さく笑った。

「わざわざ選手の感想言わなくてもいいから、気にしないでくれ」
「……すみません」

 しょぼくれたように、彼女は手に持っていたままの帽子を被り直した。
 なまぬるい風が流れる午後。高校生ぐらいは今頃学校ではないかと渋沢は思ったが、確認したりはしなかった。
 昨夜は引き分け試合だった。先制点を挙げ、残り数分で追いつかれた。チームはディビジョン1の中で下位ではないが上位でもなく、半端な位置ゆえに焦りが浮かんでいた。
 かすかに胸を焼く苛立ちに、渋沢は息苦しさを感じた。

「…こんなところまで俺を知ってる人に会うとは思わなかった」

 そのつもりはなくとも、渋沢の会いたくなかった気持ちは言外の空気に出た。本人が気付いたときにはもう遅く、相手はすまなそうな顔で目許を歪めた。

「…すみません、そうですよね。ごめんなさい」

 お邪魔しました。そう言いたげな物腰で彼女は会釈し、犬の名を呼んで促した。
 黙って横をすり抜けた彼女を、渋沢は思わず目で追ってしまう。意地の悪いことをしたいわけではなかった。ただ少し、個人のプライバシーを振り翳してみたくなっただけだ。
 そんなつもりではなかった。少なくとも、初対面の人間の顔色を心配してくれるような子を、無碍にしたいわけではなかった。
 息を吸うと、渋沢は顔つきを切り替えた。

「ごめん、ちょっと待ってくれ」

 振り返って呼びかけると、犬連れの彼女もまた足を止めて振り返った。
 不思議そうな顔は帽子に隠れて半分しか見えず、やわらかそうな前髪の近くで目を瞬かせていた。

「申し訳ない、失礼な言い方をして。試合観てくれてどうもありがとう」

 文字通り目を丸くして彼女は渋沢の言葉を聞いていたが、ややあって何かに納得したように笑った。

「テレビに出る人だからって全部あの中の顔と同じじゃないって、私の知っている人も言ってました。なのに私のほうこそ、無神経に名前言ったりして、すみませんでした」

 彼女の謝罪は実感が込められたそれだった。
 河からの湿気が含まれた風を受ける帽子の彼女が、渋沢を真っ直ぐに見据えていた。胸につまるようななまぬるい風。渋沢がそう感じるものを、彼女は気にしていないようだった。

「また観ますね、渋沢さんの試合」
「え? ああ、ありがとう」
「いいえ。じゃあ、お気をつけて」

 ぺこりと一礼し、犬を連れて彼女は土手の道を歩いて行ってしまう。
 渋沢もまた自分が目指す橋に向かって歩き出しながら、ふとこのあたりは柏レイソルのホームタウンであることを思い出した。鮮やかな黄のユニフォーム。昨日はかのチームの同年代にしてやられた。
 柏レイソルの現選手と、渋沢のオリンピック時代で重なる人間は一人だ。

「…真田、か?」

 黒い髪、切れ長の黒い目、シャープな印象の球を蹴る、昔から年代別代表で馴染みのストライカー。
 もしかしたら彼もこの近辺を歩いたことがあるのかもしれない。
 次に真田に会ったときは、この河の話でもしてみよう。
 そう決めた渋沢は、歩きながらぬるい風を胸一杯に吸ってみる。不思議なことに、最初に感じたよりは不快に思わなかった。
 泥の匂いさえ混じる夏の空気。明日からまた始まる日常に戻る前の、小さな気分転換の旅だった。








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 さあ今年もやって参りました7月です。
 うちの7月というのは、渋沢克朗月間です。
 7月=渋キャプの誕生月、ということで、この月は渋沢さんを書く月です。サイトルール。3年め。

 というわけで、今年は渋沢克朗の小さな旅@真田ヒロイン、というものからスタートしてみました。なんでもないただの気分転換小旅行。
 この後どっかで真田と会った渋沢が、彼からクリーニング代を渡される後日談も考えていたのですが、入りませんでした。

 そして今年ももしよろしければお願い致しますアンケート。
 去年までの消化しきれていないネタもありますので、そっちも使わせて頂きながらつらつらと。
 何ぶんペースは落ちるかと思いますが、今年もどうぞよろしくお願い致します。

 そしてその時期の別ジャンル小ネタについては、ここでやってます。7月限定で日記分け中。




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