小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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ひかりの花(種/キラとカガリ)。
2005年03月26日(土)

 白い花と君に出会う。








「……なあキラ、これ何か知ってるか?」
 街角の花屋が彩りを増す季節になった。
 連れ立って歩いていた双子のきょうだいに袖を引かれ、キラは彼女が示すほうへ紫の目を向けた。
 弱くも強くもない太陽の光は、一年前の戦禍の名残を未だ残すオーブ首都にも等しく届き、世界を照らしている。明るい日差しの下、カガリが指差したのは白い花だった。
 花といっても通常の切花や鉢植えではなく、直接木の枝から短い茎が伸び、その先にある淡い五つの花弁。萌える緑の葉が慎ましく花弁に添う植物。
 白地に藍の柄がある大きな花器に活けられたそれは、カガリには見覚えがなかったが、キラには記憶の端にある花だ。
「ああ…すごい、懐かしいな」
 顔をほころばせた双子の片割れに、カガリは不思議そうに首を傾げた。
「あんまりこのへんじゃ見たことない花だよな」
「桜だよ」
「サクラ?」
「うん、そう。月にもいっぱいあったけど、本当はもっと東洋のほうで自生する木なんだ」
 微笑み、キラは自分に似てない金髪の少女に向かって己の知識を分け与える。
「このへんじゃ珍しいと思うよ。気候的にさ」
「ふーん、これが桜か」
 まだあまり品数が揃っていない店先で、カガリはしゃがみ込んだ。視線を花に合わせるその無邪気さにキラは苦笑したが、敢えて咎めようとはしなかった。
 けれどカガリが手を伸ばそうとしたのだけは釘を刺す。
「カガリ、売り物だからさわっちゃダメだよ」
「あ、そうか」
 納得したように手を引っ込める無垢さが、この少女の得難い美徳だ。まだ興味深そうに花を見ている少女に付き合い、キラも他に客がいないのをいいことに隣にしゃがむ。
「これは白いけど、ピンク色っぽいのもあるんだ。他にも八重咲きとか、山桜とか、色々種類はあるけど僕は一重が一番好きかな」
「へー」
「…みんなアスランのお母さんの受け売りだけど」
 キラの親友の亡母は植物研究者だけあって、様々な植物生態に詳しかった。仕事が忙しく、滅多に話をする機会はなかったが彼女はアスランによく似た面差しで、キラに身近にある植物の話を聞かせてくれた。
「アスランの?」
 キラの思惑通り、カガリがその名に反応する。彼の名を呼ぶとき少し高くなるその声と、その顔を微笑ましく思いつつ、キラはうなずいた。
「うん。でなきゃ、僕がそんなこと知ってるわけないじゃない」
「そっか、そうだな。お前ら揃って植物とか文学とかには疎いもんな」
 理系オタク、と笑うカガリに、キラはそれもあんまりだと口をへの字に曲げた。
「そんなにそっち方面ばっかりってわけじゃないよ。…まあ、確かにアスランより僕のほうが偏りはあると思うけど…」
 一般常識ぐらいはあるつもりだ、とキラは言い張りたかったが、カガリのほうが圧倒的に教養豊かであることは確かだった。首長家という国家を代表する一族の中で育った彼女にとっては、一般家庭で習い覚える知識とは格が違う教育を受けている。キラのほうが優れているといえばある分野の専門知識か、市井の常識ぐらいだ。
 同じ血を分けた双子とはいえ、離れていた十数年間で二人の中に蓄積されたものは育った場所によって相応に異なっている。だからこそ、知らないことを教え合う時間の楽しみというものもあった。
「キラだって、やる気になればちゃんと出来るはずだってアスランが前言ってたぞ」
「それ…いつも言われる…」
「でもあいつはやらない、ってさ」
 そのときの会話を思い出したのか、カガリは口許に手を当てながら笑った。嬉しそうに細められる金褐色の瞳。まろみを帯びた白い頬。その横顔を、キラはふと綺麗になったと思った。
 出会った頃中性的な雰囲気が色濃かった彼女は、日に日にほころんでいく花のつぼみのように女性らしい華やかさを纏っていく。それは歳を重ねていくせいなのか、そばにいるキラの親友のせいなのか。
 多くのものを失ったあの戦争の中で、あの親友が見つけたのは希望に似た花だった。無理に手折らず、そっと包むようなやさしい愛情で、彼が彼女を守ってくれていることをキラは何より感謝している。
「キラ?」
 じっと見つめられていることに気付いたのか、カガリが首を回してキラを見る。
 それに小さく首を振りながら、キラはにっこりと笑った。
「アスランと仲良くしてるんだね」
「は? 何だ、いきなり」
「ううん。喧嘩とかしてなくてよかったな、って」
「いや喧嘩ならしょっちゅうだぞ。こないだもあいつ、海行くのに帽子忘れたぐらいで怒ってさー」
「…それは多分、日焼けさせたらアスランがマーナさんに怒られるからじゃないかな…」
 一応公には深窓の令嬢で通っているはずのカガリだ。どうしても外見に気を遣わなければならないというのに、当の本人が無頓着なので周囲の気苦労は多いだろう。それに巻き込まれているだろうアスランに、キラはこっそり同情した。
「そうだ。これ買って帰ろう!」
 ぱちりとカガリが手を合わせ、キラに向かって笑った。
「アスランも、キラみたいに懐かしがるだろうし。な?」
「うん、そうだね。いくら?」
「えっと…」
 花器に差された値札を探していたカガリの視線が、ふと止まった。彼女は首をかしげ、キラを見る。
「なあ、キラ。これリンゴって書いてあるけど…」
「え?」
 驚いてキラは中腰になって値札を見る。値段と共に、商品の種類と名が書いてあるが、そこは確かにキラが知っていたはずの花ではないことが明記されている。
「…同じ科なのか? 似てるみたいだし」
「さあ…ごめん、間違えたみたい…」
 自信満々に語った自分が恥ずかしくなり、キラは縮こまりたくなる気分を堪えた。しかしカガリは怒りも呆れもせず、ただ笑った。彼女は軽快かつ勢いよく立ち上がる。
「まいっか! 似てても綺麗なんだし、買って帰ろう」
「え、いいの? 桜じゃないんだよ?」
 つられてキラも立ち上がると、少し視点が下になる双子の片割れの少女はさばさばと手を振る。
「いいって。お前が間違えるぐらいなら、よっぽど似てるんだろうし。桜じゃなくて林檎だとわかって買えば問題ないだろ?」
「…ごめん」
「別にいいって。むしろこういう花なんだって理解しやすくなったぞ」
 気にするな、と明るく言うカガリにキラはほっとしつつ、そのあけっぴろな心を眩しく思う。出会った頃から彼女はこうだった。
 その小さな手のひらに触れられるたびに、いつも救われた気がした。
「…でもカガリ、買うのは帰りね」
「え? 今じゃダメなのか?」
「だって持ち歩いたらしおれちゃうでしょ? 用事終わったら、またここ寄ろう」
「なるほど、そうだな」
 それじゃあ、とキラより先に行こうとするカガリの金の髪が陽光に透けてさらに輝きを増す。
「早く終わらせて戻ろうな、キラ!」
 何がそれほどまでに少女の気に入ったのか、キラは厳密にはわからない。少女らしく綺麗な花が好きなのか、それとも好いた相手に早く見せたい思いがあるのか、想像することは出来るが明確な答えは得られなくともよかった。
 ただ、巡り合えたたった一人の子が、幸せそうに笑うことが嬉しい。それだけだ。
 それだけの感情で、キラも笑った。
「うん、そうだね。カガリ」
 思い出に似た白い花が、二人のそばに寄り添う。
 桜の花は親友と、林檎の花はきょうだいと。歩き出したキラは、自然にカガリの手を取った。








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 無印終了後ぐらいのオーブで?(何その疑問系)
 この時期に書かないと間抜けになるネタなので、先日から桜ネタを活用中です。…私が花の中で一番桜が好きというのもあるのですが。
 あと双子が好きなので(もう言わなくていいから…)。

 そういえば22話なのにPHASE-21と表示され、インパルスがストライクに早変わりした先週の「しっかりしろスタッフ!」というよりも「大丈夫ですかスタッフ…」と最近同情気味のデス種感想を書いてないまま、23話が放映されてしまいました。
 夕方から用事があって一緒にいた神咲さんと見ました。
 某シーンで大爆笑していた彼女と一緒に見た感想。PAHSE-23『戦果の蔭』。

★前回同様、キラ様降臨から。
★陽電子砲装填中に砲撃って大丈夫なのか、と横から突っ込みが。…気にしちゃダメだ。だって種だから!(魔法の言葉)
★「キラ…!!」 今週のアスランは固有名詞しか言ってない気がするよ。
★「何だ…!?」 今週のシンはまた主役の座危ういままだよ。
★キラ様に見守られる中、カガリ出陣。
★その空域にフリーダムとルージュの双子オンリー。
双子MS…!!
★わー久々のルージュだー。
★「カガリ!!」 本当に今週固有名詞しか言わないアスランさん。
★ちょっと待てオーブ軍、と自分が代表であることを名乗って止める決意している姫様。
★その前にアークエンジェル内で、お兄さんから色々言われたようです。
★オーブ軍が出撃することにショックを受ける妹に、
★「でもオーブが戦争をする道を選んだのはカガリでしょ」
★といったようなことを真顔でズバリ言っちゃうキラ様。
★嗜めるラクスさんも、無理やり連れ出したのは自分たちだと慰めるマリューさんもいたけど。
★「カガリがあそこにいても止められたとは思えない」
★…といったようなことをズバっと言っちゃうキラ様。
★お、お兄様もしくは弟御よ…、それは身内だからこその厳しさですか?
★キラはキラなりに、戦争をする側に加担する判断をしたカガリが許せないのかな、と。事情があったにしろ、政治にそんなもの関係ないとウズミさんを糾弾した前作のカガリを知っているからこその発言かも、とも思います。
★どんな裏事情があっても、それは全部総責任者の肩に掛かっているんだ、とキラ様は言いたかったのかな、と。
★施政者に失敗は許されないし、頑張ったけどなんて何の言い訳にもならないもんね。
★身内だから、兄だから、敢えてカガリの駄目だったところをキラは指摘出来るんでしょうね。
★にしたって、前回アスランの「カガリさえいればこうはならなかった」発言と比べて、キラのほうが状況を冷静かつ客観的に見てるように思えます。
★アスランは、カガリにどんな期待込めてるんだろう。
★二年間ずっと過剰な期待されてきたら、いくらアスラン相手でもカガリには重荷だったこともあったんじゃないかなー。
★確かにオーブをそういう国にしてしまったけど、最後まで諦めない覚悟を決めた風の姫様でした。
★だからルージュでオーブ軍の前に立ち、両手を広げたわけですけども。
★ユウナ、言ったね。「あれはカガリじゃない! 僕が言うんだから間違いない!」
★…ほう。
★ルージュで出たことは、あの機体がカガリのものだとオーブ側にわからせるためだったと思うんですが。
★ユウナ以外のオーブ軍の人たちはそのへんわかってるようなんですが、大将がそれ認めちゃったら連合側と大変になってしまうので。
★あれは国賊だ、と喚く姫様のもしかしたら旦那になるかもしれなかった人。
★「あなたという人は…!」 呆れ果てた様子のトダカさん。
★仕方なく、ルージュに砲門を向けるトダカさん。
★「頼むフリーダム…!!」 姫様を守ってくれ、と。
★思い叶い、ルージュの前に出て全弾打ち落としてくれるフリーダム。
★でも言葉通じず、オーブに攻撃されたことに衝撃を隠せない姫様。
★ずっと守りたくて頑張ってきたものに銃を向けられたらね。
★オーブの攻撃を機にに連合も攻撃再開。ファントムペインも出ます。
★ミネルバはフリーダムに攻撃されちゃったので、ピンチです。
★ハイネもマリーもレイも出撃ですよ。でも数的にヤバいようですよ。
★ルージュに乗っているのは偽者だ、と言われオーブのMSも攻撃再開。
★「私の言葉が通じないのか、オーブ軍!!」 …泣きたくなるのもわかる気はするよ姫様。
★撃ち落とされていくオーブMSを見るのは辛いだろうな、と。
★撃ち掛けられても反応出来ないルージュを守るのはフリーダムです。
★やれるだけ頑張ってみるからもう下がって、と指示するキラ様は、妹への思いやり、だと思いたい。
★「バルトフェルドさん、カガリとアークエンジェルをお願いします!」 キラ様、最近怖いな…。
★虎も参戦です。
★撃てないのなら下がれ、とカガリに怒鳴る虎さん。邪魔だって。
★まあ邪魔なんですけど、姫様ずーっと辛い状況ですね。唯一はアレだ、指輪シーンぐらい?
★その頃のアスランさん。「キラやめろ!! なんでお前が!」 通信不可能のようです。
★その頃の姫様、キラ並の号泣中。…ザラさん早いとこ戻ってきてあげて下さい。
★キラ様、連合ザフトかまわず、手当たり次第に戦闘能力奪い続けます。
★ハイネさんも言ったよ。「手当たり次第かよ!」
★ハイネさんはガイアと交戦。がっしょんがっしょん倒しながら。
「ザクとは違うのだよ、ザクとは!!」 あれ? どっかで聞いた名台詞?
★隣の神咲さん、声を上げて大爆笑中。
★よもや西川が歴代名台詞を言う日が来ようとは。
★戦闘の最中、フリーダムがセイバーを捉えたとき、フリーダムの真後ろでハイネグフがガイアに攻撃されてしまいまして。
★さよなら西川…!!
★しかし、フリーダムに気を取られて背後からビームサーベル喰らうグフ、の構図に神咲さんと二人でちょっと不満。
せめて正面から撃ち取られて欲しかった。
★あんだけキャラ立ちさせといて、背後はないでしょ背後は!
★「ハイネーー!!!!」と叫ぶザラさん。
★今週覚えているザラの台詞。「キラ!」「カガリ!」「ハイネ!」
★お前ずっと驚いてるだけかーー!!!
★ちなみにシンの出番は全然覚えてない。
★1話ではシンの家族を殺したのはフリーダム扱いだったのに、PASTで連合3人組に変わったようなので、シンはフリーダム覚えてなさげです。
★でもザフト側はフリーダムのこと知っててもおかしくなさそうなのにネ!(製作側ですし)
★…まあ種だから(マジックワード)。
今週の主役は双子でした。
★以上!!

★来週はアスカガキラとミリアリアが再会のようですねー。
★…すまないミリィ、正直「別に3人でいいんだけど」と思ってしまったよ…。きっと君がいないと再会を手引きしてくれる人がいないんだよね。
★ちょうどいいからそのまま地球に降りてこないかジュール隊!!
★ミリィはともかく、お前が彼女を忘れてないってことは公式なんだぜディアッカ!(小説版より)

★ところでこの後にデス種19話@ミーアライブとか、無印38話〜とか神咲さんと一緒に見たんですが、私たちわりとディアッカに期待かけてる…とふと思いました。
★むしろ「こんなディアッカが見たい」ネタ多すぎ。
★そのくせ共通して「でもディアッカをかっこいいと思ったらなんか悔しいよね」という微妙っぷり!
★ちなみに私が見たいディアッカ・エルスマンさんは、寝起きのオールバックじゃない顔も捨てがたいですが、無印でAA内自由行動出来るようになった頃あたりで、ミリアリアに「なーミリィ、歯ブラシってどこ?」と日常生活品の場所を尋ねるディアッカです。
★そして私たち実は元祖兄貴フラガさん大好きなんじゃないかと思う。お兄ちゃんお兄ちゃん連呼です。各自の兄と重ねる気は当然ない。

★ところで種割れの種の色は各個の瞳の色だ、というのが定説のようなのですが、今週のキラ様はそれで言うとアスランと同じ目の色になるような気がするんですが。
★がんばって下さい…スタッフ…(なんか最近もうツッコミとかする気なくなってきた…)(あまりに大変そうな現場が見え隠れしすぎて…)。

 そんなこんなで、双子メインの回だったので双子小ネタにしてみた日でした。

 明日はビッグサイトまで行く予定なのですが、実は完全一般参加というものが初めてです(ビッグサイトでは)。
 大抵バイトありか、自スペース有状態かのどちらかだった…。聞いてよ買い物してお知り合いとお話しただけで帰れるのよ!! と兄に言ったら、「お前もオタク歴長かったんだな…」としみじみされました。ちょ、兄さん私まだえーと5年、ぐらい…?(長い人は相当長いので何とも言えない)
 陽があるうちにビッグサイトから出れる新鮮さを味わいたい。
 来月からは仕事が不規則なのでたぶんこれがイベント一般参加の最後かな…(プーになれば行けるよ!)
 でもたぶん世界で一番好きなアスランとカガリを描くサークルさんの新刊がクオリティの都合で落としましたということになっていて結構へこんだ。オンで描かないところだけにへこんだ…。
 最近無印を見まくっているせいか、ああ私この可哀相なアスランと前向き笑顔カガリちゃんだいすきだ…と思いました。マイナスとプラスでゼロになってるのが一番嬉しいこの子たちだ。






花の咲く頃とは(おお振り/三橋と阿部)(その他)。
2005年03月25日(金)

 狂い咲きの花を見た。








 ひらひらと白い花弁が空から落ちてきた。
 てくてくとアスファルトの上を歩いていた三橋は、思わず手のひらで受け止めたそれに目を瞬かせる。次いで、きょろきょろと周囲を見た。
「…? …??」
「上だ上、なんか落っこちてきたらまず上見ろ」
 三橋の頓珍漢な仕草は慣れっこになってきた阿部隆也はただ首を振るばかりの相棒ピッチャーに向かって、指を空に向けてみせた。
 阿部のその所作につられて喉を逸らして空を見上げた三橋の猫目が、アの形をした口と共に大き開かれる。
「さ…くら?」
「だろ。どう見ても」
 阿部の声は落ち着いていたが、三橋は同じようにはいかなかった。
 今二人が着ている同じデザインの学生服。中学時代のものとは違うそれに慣れてきたと感じるのは五月の今を過ぎてからだ。そして、三橋の記憶している桜の頃合というのは入学式がある四月であったような気がする。
 立ち止まったついでか、阿部が腕を組んで目を細めた。
「間抜けな桜だな」
「そ…うなの、かな」
「何かあって花咲かせる時期にタイミング間違えたんだろ」
 花にも本来の盛りの時期というものがある。しかし何らかの影響によってその時期を間違えてしまうことは稀にあるのだ。今二人が見上げている時期はずれの桜もそれに違いなかった。
「何か?」
 不思議そうに手のひらの白い花びらを眺めている三橋に、阿部は保護者か教師のような気分で自分の記憶を掘り起こす。
「…今年は寒すぎたとか暑すぎたとか、肥料が多いとか少ないとか、そういう要因じゃないのか? オレは専門家じゃないからよくは知らない」
「…そうなんだ」
「ちゃんとした環境でないと、花もキッチリ咲かないんだよ」
「ふー…ん」
 道端に留まりすぎて、通行中の自転車に嫌な顔をされつつも阿部は三橋を促して歩こうとはしなかった。最近この相方の手間のかかりようにも慣れた。
「お前だってそうなんだよ。わかってんのか?」
「へ?」
 いきなり自分に話題を移され、三橋が竦み上げる。いつまでもびくつく癖が抜けない彼に、阿部はこれも矯正してやりたい気持ちを強めた。
「どんな才能があろうが、周りが合ってなきゃどうにもなんないってことだ」
「う、うん」
「…わかってねぇのに頷くなっつってんだろ」
 べしりと頭をはたくと、三橋の顔が情けなく歪んだ。
「ご、ごめ…」
「謝んなくていいからそろそろわかれ。オレがその環境を作ってやるから、ともかくお前は自信つけろ。何なんだ今日のアレはァ?」
「あ、う、うんごめ…っ」
 はたいたついでに頭を掴んで揺さぶると、ぶわっと一気に三橋の目玉に涙が浮き上がってきた。それを見ると阿部の戦意も失せる。子どもだこいつは。
「…わかったら泣くな。いいか?」
「わ、わかった、阿部君」
 制服の袖口でぐしぐしと顔を拭う三橋を見届け、阿部は顎で行き先を促す。
「ほら、もう行くぞ」
「う、うん」
 気弱ならではのどもり癖も慣れればマシなほうだ。先に歩き出した阿部をすぐに追いかけてくる三橋は、つくづく性格がエースというものに似合わない。
 けれどそれでも構うものか。追いついてきた隣の相方に、阿部は強く思う。
 三橋を狂い咲きにしてきた輩を見返せるぐらい、自分が必ず立派に花を咲かせてみせる。たとえ本人にその自覚が薄くとも。
 遅く訪れた春の花から二人は並んで背を向ける。
 過ぎたその場所からは、未だ白い花が虚空を舞っていた。








************************
 何事も『初めて』というのは緊張と不安が拭い去れないものではありますが、初書きというのは実に「…ほんとにこれでいいのか」という自信の無さが出ます。口調が一人称が思考回路が。
 …本来初書きの作品は自分の手元だけに置いて、公表はしないほうがいい、絶対に。でも好きなんだ!という気持ちは誰かに言いたいこのジレンマ。
 君たちすごい好きなんだけど難しいよ三橋と阿部!!
 そんな思いが見事出ました、初おおきく振りかぶって。
 …ごめんなさい…。私の中の阿部のイメージは「お父さん」です。

 ってワケで、読みました『おおきく振りかぶって(ひぐちアサ/講談社・アフタヌーンコミックス)』。3巻終了時点までですけど。
 以前からしょっちゅう色んなところで見かけていたものの、手を出さずにいた、というよりもきっと身内友人の誰かが買うだろうなー…と待っていたのですが誰も購入しそうもなかったので自分で買いました
 人をアテにするなってことね(電柱に手を当てて)。
 とりあえず、アベミハという単語の意味がとてもよくわかりました。うん、アベミハだ。
「オレはお前がスキだよ!」なんて堂々と同性に言っちゃう男子高校生なんて、ホモ前提商業作品と同人誌以外で見たのは久々です。阿部隆也は武藤遊戯と並んでしまったよ。

 私はあんまり自分がハマったものを人にわざわざ勧めるほうではないのですが、これは素直に「読まない? 読もうよ! いいから読め!!」と押しつけたい作品です。
 あちこちで取り沙汰されるのは、されるだけの理由があったと良い意味で実感出来ました。

 ちなみに一緒に買った田中芳樹の新刊はまだ読んでません。




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