小ネタ日記ex
※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。
サイトアドレスが変更されました。詳しくはトップページをごらんください。
:日記一括目次
:笛系小ネタ一覧
:種系小ネタ一覧
:その他ジャンル小ネタ一覧
●●●
海と空のジオラマ(デス種/シンステ)。
2005年02月27日(日)
きらきらと光る。
鮮やかな青い海の上で小波が走る。遠く海鳥の鳴く声が聞こえ、明るい太陽の光が海面すれすれで弾けて散る。
その海の波も光の反射も、一時たりとも同じ顔をしていない。いつまでも見飽きることなく、ステラは黄金色の髪を潮風になびかせて海を見ていた。
いつもは一人で、この埠頭から海を見ている。そして頃合を見計らって迎えの者が来るまでここにいるのだが、今日はいささか勝手が違った。
「あのさ…いつまでいるの?」
怪訝そうな声音と共に、ステラは相手の影の中に入る。封じられた光を求めるように、ステラは彼を見上げた。
「なに?」
「何じゃなくて。ずっとここにいて、飽きない?」
呆れ果てた顔は今日これで三度目だ。通りかかる都度近づいてくるその顔は逆行でよく見えないがまだ幼い。黒い髪に紅の虹彩。きつい顔つきをしているが、年齢の若さがそれを緩めた印象にさせている。
海の向こうから吹いてくる風に、少年の赤い上着の裾がはためく。赤を基調に襟や袖口に黒を配したその特徴的なデザインは、どこかで見かけたことのあるような服だったが、ステラには思い出せなかった。
「何とか言ったら」
ステラがただ彼を見つめるだけで、何も言わないことに彼は苛立たしげに言った。短気な性分は、ステラが行動を共にしている一人と似ている。彼女は相手から海へと視線を戻した。
澄んだ清水のような、透明でほそい声で彼女は答える。
「好きだから、いいの」
飽きたりしない。ずっと見ていられることが嬉しい。あの宇宙では、こんな明るい光も広がる水のさざなみも存在しないから。
黒髪の少年はステラの隣に立ったまま、つられるように海を見た。
「好き?」
尋ねるのではなく、疑問を感じて繰り返すだけの声。けれどステラは自分の感情を否定されたとは思わなかった。
「うん。だいすき」
知らずステラの声に、嬉しげなものが混じる。スカートの膝を抱え、そこに顎を乗せて少女は微笑む。
「きれいだから」
この世界を見せてくれたひとが、綺麗な場所だと語って聞かせてくれた地球の海。白い手袋をはめた手でステラの髪を撫で、世界の美しさを教えてくれた。
ネオも一緒ならもっとずっとよかったのに、と、それだけが今のステラの不満だった。
「…いくら綺麗でも、暑くないのかよ」
少年の言葉は疑問の響きばかりだったが、ステラは頓着しなかった。ううん、と首を振る。大丈夫と付け足すと、彼は海を見たままぽつりと言った。
「でも、女の子って日焼けするの嫌とか言わない?」
「…わかんない」
「…そう。…色々なのかな」
彼の言葉の後半は半ば独り言のようだった。
「俺の妹は海あんまり好きじゃなかった。日焼けするからって……ガキのくせに」
耳に入ったその声がもたらす情報の意味がわからず、ステラは膝から顎を上げ、座ったまま隣を見上げる。
不意に目が合った黒い髪と赤い服の彼は、己の言葉が失言だったとでも言うように右手で口許を覆っていた。その眉間に悔いるような皺と、痛みをこらえるような目の色があった。
「…ごめん。何でもない」
「………」
よくわからないひと。ステラはそう思った。
そして、何かの傷を抱えているひと。そう、感じた。
「海、嫌いなの?」
「別にそんなんじゃないけど…。昔はずっと海の近くに住んでたし」
「海の?」
ステラが淡紅色の目を瞬かせて彼を見ると、彼はその表情に戸惑うように声が早口になる。
「もう前のことだよ。今は違うし」
「…いいなぁ」
うらやましい、とステラは素直に思う。毎日この景色を見ていられたらどんなに幸せか。憧れの気持ちが浮かんだ。
けれど彼のほうも、そんなステラに不思議そうな目を向けた。
「このへんの子じゃないの?」
「ちがう、よ」
「ふーん。…でも海の近くだと、生活は不便だよ。洗濯物とかすぐ潮っぽくなるし、金属は錆びやすくなるし、植物も枯れやすいし。だいたい海って穏やかなときばっかじゃないしさ」
「…………」
よくわからない。あまり海を見たことすらなかったステラには、短所を思い出すようにあげつらう彼をただ見つめるしか出来なかった。
そんなステラを見て、相手の言葉もすぐに止まった。
「ごめん、俺なんかさっきから…わけわかんないことばっか言って」
いっつもこんなんばっか。
目線を落とし、苦そうに言う彼から、ステラはなぜか視線が外せなかった。もっと近くにいたならきっと手を伸ばしていた。その理由はよくわからないけれど。
「…邪魔してごめん。俺、もう行くから」
「あ…」
黒い髪を散らせ、赤い裾を風に流す彼は大きな歩幅で埠頭から陸へと戻って行く。
それを呼び止めようとしてしまった自分にステラは少し驚いた。どこかで見た人に似ていると、離れて見てはじめて思った。
その赤い背が見えなくなってから、ステラは青い海に瞳を戻す。
遠く広がる海の端は、同じように青い空と繋がっている。水平線の向こうには白い雲。広く美しい世界。
あの人の髪は、水の海より宇宙の海のほうが似ている。
母と謳われる存在を前に、光色の髪をした少女はそう思った。
************************
よくわかった未だ会わせる気ないのねいいよじゃあ自分で捏造してまぎらわすから!! …な勢いのシンステ。
まだかなまだかなまだかなー。
デス種19話も見ました。
すごかったですねー。一部既存キャライメージ大崩壊の人とかいましたねー。…そんな感想。
★ピンク二号様の慰安コンサート。
★あんな陳腐な振り付けでアイドル名乗るんだー。わぁ(生温いきもち)。
★そんなに驚くことか、ザラ。
★そりゃ驚く気持ちはわかるけど。
★いっそ大爆笑してみたらどうかなザラ。
★いつかそのぐらい余裕のある子にな…れないか。
★ホーク姉妹いろいろ頑張ってます。
★ぶつかったぐらいで「いやーん」とか言う軍人、ザラの好みじゃないと思うよ。
★清々しいぐらい、女の子路線のホーク姉妹。
★新鮮だ(種に普通の女はいないのかと思ってた)。
★ミリアリアお久し(ディアッカ意識)。
★関係ないけど、ザラは堅物らしく第一印象そのまま引きずるタイプだと思う。
★だからむしろあいつ落としたいなら狙うは意外性だよ、そこの姉妹!
★普段男っぽいカガリがふとした瞬間に見せる女の子らしい気遣いとか多分あいつ大好きだから!
★つまり君たちが狙うのは、普段は可愛さアピールいざってときはしっかり者or頼りがいのある女路線だ!
★…それでも姫様を超えるのは至難の技だと思いますが。
★ミーアのイベント会場から去ろうとするアスランに「見なくていいんですか」と言ってみるシン。
★狼狽そのまんま出てるアスラン。
★おいおいおい前回あれだけ兄貴面してたのは誰。
★ノリノリのラクス様に、ちょっとついていきかねる様子のシン。
★なんだか議長もおいでになっちゃったよ。
★色々囲まれている議長と、離れたところにいるタリアさんが目配せ。
★大人の関係なのか純愛なのか気になるところ。
★現地の人間の振りしてそんな浮かれ放題のザフトを偵察している連合3兄弟。
★長男はドライバーで次男は後部座席でふんぞり返って、末っ子はきらきらした目で海辺ドライブを楽しんでます。
★「ファントムペインに負けは許されないんだ。」
★案の定、この人たち色々切羽詰った事情持ちらしい。
★っていうと、ネオはどうなんだろう?
★とりあえず。わーい森田ー!!(一番喜ぶところ)
★タリアさんとレイ、議長に会いに。
★微笑みかける議長に頬染めるレイ・ザ・バレル。
★「ギル…!!」 恋する乙女もびっくり潤み目レイ・ザ・バレル。
★おいでと両腕差し伸べる議長の首に腕投げ出して抱きつくレイ・ザ・バレル。
★そこ二人の世界じゃなくてタリア艦長もいるんですけどレイ・ザ・バレル。
★ここまで既存のキャラ観覆されたことあっただろうか。
★そのときの心境を示すなら、「口ぽかん」。
★この問題はしばらく保留にします。
★うっかりレイが女とかだったら涙ちょちょ切れます。
★ハイネ・西川登場。あの長ったらしく言いにくいファミリーネーム覚えてません。
★芸達者揃いのデス種の中で西川さんは頑張ってると思います。
★久々ご対面の議長と握手して労われるアスラン。
★名乗るルナマリア。
★政治家に褒められて頬染めるシン。
★「あれはザラ隊長の指揮に従っただけで…」
★その前に散々ゴネたことを心の広いザラ隊長は告げ口したりしませんでした。
★会食がてらということで、久々の議長トーク全開。
★しかしこの人、政治家の割には遠回しな物言い。アレですか、遠くから攻めてなかなか要点を言わず相手を煙に巻くスタイルですか。
★政治家っていうか、まるで舞台台詞…。
★自分の思ったこと、感じたことを口にするシン。
★この子の考えって、一本槍じゃないんですね。そのときそのときで『守られる側』が一貫してない。でも自分では同じだと思ってる。自分の意識は自分の立場によっても変わるもの、変える必要があるということも、気付いてない。オーブ国民だったシンと、ザフト軍のシンじゃ、捉え方が違うってことをわかってない。
★同じなのは、シンはただ、あのとき家族を『守ってもらいたかった』ことだけ。
★自分たちは力がないんだから、国はそれを守るべきだという意識があったんじゃないでしょうか。
★もうオーブの意思だとかアスハの家だとか関係なしに、巻き込まれた自分たちに非はないんだと言い張り続けている、だけ?
★それでなんでわざわざザフトに入ったのか。
★もうあんな人たちを作らないと決意して、オーブ軍に入ってオーブの人たちを守る決意でもよかったような気もする。
★……色々わからん。
★戦争がなければ儲けが出ない、死の商人ネタを持ち出した議長。
★全部ロゴスが噛んでいると言う議長に、たぶん視聴者は「いやアンタもなんかあるでしょ」と感じてる人多数。
★会食終了。え、西川あれだけ?
★どうやらミネルバではなく、会食会場となったところで投宿することになったアスシンルナ。
★自分が艦に戻るからシンルナに「そうさせて頂け」と言う兄貴面アスラン。
★でも自分がミネルバに行くと言うレイ。「シンは功労者ですし、ルナマリアは女性です」。…ごめん、その女性ですの意味がわからんです。
★ミーア駆けつける。…ところであの関西弁調の人は誰ですか?
★「アスラーン!」 お約束で駆け寄ったミーア。
★突き飛ばされるルナマリーは二度目だ(一度めはカガリ)。
★二人でゆっくり食事でも、と言われやたら狼狽するアスランに涙。
★もうちょっとしっかりせんか…!!
★その前に議長に連れ出されるアスラン・ザラ。
★アークエンジェルの居所をアスランから聞き出したかったらしい議長。
★でもこの人、親友と恋人の問題に全部蚊帳の外だったから…!!
★「むしろ私のほうこそ議長にお聞きしたいと…」 可哀相な人です。
★もしアークエンジェルから連絡が来たら教え合う約束なんかしてるザラとデュランダル。
★…たぶん後者は教えてなんかくれないぞ!
★手のひらで転がってるザラに心から哀愁。
★もうデス種はシン・アスカの成長とアスラン・ザラの幸せ探し物語でいいと思う。
★そして今週もシンステはありませんでしたとさ!
…小ネタと感想両方書くと長いですね。
|
|
●●●
ロングレイン6(笛/真田一馬)。
2005年02月26日(土)
梅雨だって晴れる日はある。
ここんとこ続いた雨を一気に乾かそうとしている太陽が俺の頭の真上にあった。
湿気に満ちた芝と土の匂い。雨上がりの総合公園には、平日の昼間ということもあってか小さい子
が多い。迂闊にボールを蹴ろうもんならぶつけそうだ。
晴れてはいても蒸し暑さのせいで汗が溢れんばかりに出る。十代じゃあるまいし、さすがにシャツ
が塩吹く有様は勘弁願いたいところだ。そう思いながら、タオルを取るのが面倒で俺は濃い色のTシ
ャツの肩で首の汗を拭った。
「ああ、いたいた!!」
ぶんぶん手を振って走ってくるのがいたと思ったら、地元ライターの国分だった。
相変わらず色気のない活動的な格好に、日差しを考慮してるらしい夏用の帽子。走っても揺れない
あたりからして、あいつの選びそうな帽子だ。
「やっぱこのへんで走ってると思った」
「お前、今度は何」
「え、取材。さっきまで監督にお話聞いてた」
「ふーん」
基本的に一般公開もしているクラブ練習はたまに取材が入るときもある。今日は誰も来てないと思
ってたら、終わった後にじっくり話を聞く狙いだったらしい。
練習場として借りているグラウンドはこの公園の中にある。だけどこっちの多目的広場とは離れて
るし、どうせ走るだけの自主錬に場所なんて最初から関係ない。
立ち話をする時間が妙に勿体ない気がして、屈伸を始めた俺に国分は首を傾げた。
「あれ? 帰んないの?」
「もーちょい。今日やっと晴れたからな」
「なんか気持ち悪いぐらい汗だくなんですけど」
「暑いからだろ」
「ちなみに水分補給は?」
「暇なら買って来てくれ」
「…ちょっと真田くーん? 柏の黒い彗星? あんたプロでしょ。調整って言葉知らないの?」
「黙ってろ」
英士を真似たように素っ気無く言ったつもりだったけど、国分はハハンとわざとらしく鼻で笑って
肩をすくめてきやがった。
「あのさ、仕事相手としてじゃなくて、同じ歳として言わせてよ。大事な時期なんだから多少球団が
どーのこーの口出しすんの当然だと思うけどー?」
「……………」
「ちょっとプライベート注意されたぐらいでいじけてんじゃないってのバーカ」
「…お前さぁ」
何でそうやたら詳しいわけ?
そう言ってやりたかったけど、蛇の道は蛇って言葉が返ってきそうで腰に手を当てている同じ歳の
女に俺は何も言えなかった。屈伸を途中で止めたら、前髪がばさっと落ちて視界を阻害する。
俺だって知ってる。この世界、実力があっても上へ行けない例のほうがずっと多いこと。
少し、忘れかけてただけで。
「…お前、どこまで知ってる?」
両膝に手を当てて、腰をかがめたまま聞いたら横に伸びている国分の影が少し動いた。
「さわりぐらい? なんか家に女子高生のファンが押し掛けたとか、たまたまそこに出くわした子と
トラブルになりかけたとか、そのせいで真田くんが社長から呼び出し受けたとか。…別に真田くんは
運が悪かったなって思ったぐらい」
「……………」
「余所に出すネタにはしないけど」
「…知ってる」
それだけ知ってれば十分だ。下手に親しくないチームメイトよりもよっぽど詳しくて正確だ。
足を真っ直ぐ伸ばして立つと、意外な国分の小ささを目の当たりに出来た。ああ、そういやあいつ
とあんまり変わらないぐらいだろうか。
試合の翌日の朝からの球団本社への呼び出し。球団としても、抱えている選手が警察沙汰になりか
けたことは無視出来ないんだろう。けれど別段俺の私生活を追求されたわけではなく、J入りしたと
きの入団式の注意事項が細かくなった程度の話をされただけだ。
だけど、それを知ったらたぶん同居人のあいつはまた俺に謝るんだと思う。うつむきがちで、頼り
なげな顔をして、ごめんなさいと謝る顔がよみがえる。
顔を曇らせた俺に気付いたのか、国分はフォローのつもりらしい微苦笑を浮かべた。
「皆さ、真田くんには大成して欲しいし、期待かけてるし、いよいよこれからって年代で変なことに
巻き込まれたり変な人間関係で悩んで潰れたりしないで欲しい、ってこと」
「…あのな、別に俺はちょっと身辺に注意しろって言われたぐらいで」
「でも事実なのはわかってるじゃない」
ぴしりと指を突きつけられて、正直げんなりする。いいかげん他人にあれこれ言われるのも疲れる
。
球団社長から直接呼び出されるなんて、褒められるか叱られるかの二択みたいなもんだ。今回はそ
のうちの後者に近かったってだけで、別段俺は大して気にしていない。
気にしてるのは、むしろ周囲だ。
息を吐いたら、吸うときに雨上がりの匂いが口の中に広がった。
「…少し、気をつけたほうがいいかもしれない」
低くなった国分の声に、俺は引っかかるものを感じた。
狭い眉間に小さな皺を刻んだ国分の顔は、からかいや同情じみたものは一切なかった。自分の見聞
した事実に考察する人間の顔。唇に左手の人差し指の関節を当てた女の顔。
「何だよ」
「最近、このへんの学校じゃない子がよく柏の練習見てる」
「は?」
「市内の制服じゃないの。騒ぎになった原因って、女子高生なんでしょ?」
「…そう聞いてる」
俺は例の事件の詳細を知らない。自分の家であったことだというのにそんな態度だから、上の人間
も気にするってことはわかってる。
だけど相変わらず、俺はあいつに何も聞けない。
「おかしいでしょ? 平日の午前中とか午後に、制服だよ? たまたま学校が早く終わったとか言っ
ても、サッカー練習観に来るのに制服着たままで来る?」
「浅川関係じゃねえの?」
「違う。浅川さんの学校の制服はあれじゃない。言ったっしょ、この近辺の学校であの制服はないの
」
最近ユースからトップに上がってきた高校生Jリーガーの後輩の学校関係者なら、制服だっておか
しくない。そう思って言ったけど、あっさり否定された。よく調べてるもんだよマジで。
「じゃ何だよ」
「だから、真田くんの件と何か関係あるかもしれないって言ってるんだってば!」
「それ、こじつけだろ」
何でもかんでも面白い方向に結びつけるなよ。
俺はそう思ったけど、国分はきっと俺を睨み上げて、首を振った。
「だけど妙な符丁だと思わない? 時期的にも重なるし。Jリーガーにつきまとう女子高生」
「だから、別に俺って決まったわけじゃねっての」
「気になるなぁ」
「聞けよ。ってかそんなんマジ俺は嫌だ」
これ以上の騒ぎとか問題は金貰っても欲しくない。俺自身はそんなに気にしなくても、俺の生活と
あいつの生活をこれ以上脅かすような存在は本気で願い下げだ。
落ち着いて話をする空間を設けたい一心の俺に、これ以上何があるというのか。
「バカだね真田くん」
「あぁ?」
いきなり真顔で何言いやがるかこの女。
「そうやって危機管理甘いから、トラブルになるんだよ」
……この女、痛いとこ思いっきり抉って突き差しやがった。
そういえば英士にも昔からよく言われた。後始末を考えるのが嫌だからって楽観的に逃げるなって
。人間、成人しても碌に成長しない部分はあるのかもしれない。
俺の悪い癖、起こり得るかもしれない苦手な事態から目を逸らすこと。
「今の立場しっかり守るのに、用心するにこしたことないでしょ? ストーカー被害に遭って仕事辞
めることになった人って意外に少なくないんだからね」
妙に年長者ぶって言う国分も、社長と同じようなことを言う。以前英士にも似たようなことを言わ
れた。
ずっとプロを目指してやってきた。それが叶うまでには、色々なものを犠牲にしてきたことは否め
ない。サッカー一本だったせいで小学校から中学にかけての友人と呼べる存在はあまりいないし、高
校に入ってからも同じだ。親にも金銭面やそれ以上のことでずっと負担を掛けてきたと思う。
その途中で、ユース時代に入っていた球団の親会社が経営で大コケをした。事業縮小は抱える球団
のトップチームにも影響を与えて、年棒の主力選手は放出されユースからトップに上がる人数も激減
した。
小さい頃から知っていたチームでのプレーが望み薄となった俺に声を掛けてくれたのが、今のチー
ムのスカウティング担当者だ。
いま俺がここにいられるのは、色んな人に会って、その人たちの中で支えたり助けてくれた人がい
たからだ。
だから俺は今の日々を捨てられない。俺がやりたくて選んだ人生で、そのために捨てたものへの痛
みも、仕方ないことだと思ってる。思うしかない。だって俺はもう選んでるんだ。
「…わかってるよ」
梅雨の晴れ間の蒸し暑さ。脳天を焦がす太陽は迫り来る真夏を予感させるのに充分だった。
光を集める黒い自分の髪に手を当てると、思った以上に熱が溜まっていた。
何日か前に持って帰ってきたヒヤシンスは、困ったことにどうやら花を咲かせないかもしれないこ
とが発覚した。
何でもよく調べたら、ヒヤシンスは一定時間寒さに当てないと咲かない花だったらしい。
「本当はもっと早くに育てるものですから」
職場から借りてきた植物の本と日当たりの良い窓辺に置かれた硝子瓶を見比べながら、俺の同居人
は「どうしましょう」と窺う視線を向けてきた。午後遅い日差しにその髪が薄く透けている。
帰ってすぐ風呂場直行の俺は、水浴び直後のカラスみたいになっている髪をタオルで拭いていた。
「つまり、時期が悪いってことか?」
「はい。ヒヤシンスは耐寒性の植物で、球根が一度冬を体験しないと花をつけてくれないらしいです
」
どうやら、ヒヤシンスというのは本来春に咲く花だったらしい。いっそあと一年寝かせておけばよ
かったのを、俺が貰ったときにはすでに水に浸かっていた。今ではちょこっとだけ芽が出ている。
一応茎とか葉は出るみたいだけど、このまま育てても単なる葉っぱだけらしい。
折角育てるんだから、せめて花や実は見たいというのが人情ってもんだろう。俺も多少がっかりし
たけど、あいつも複雑そうな顔をして硝子瓶の上の球根を見ていた。
今日は雨が降ってないせいか、あいつの顔色もいい。
「…まあ、いいだろ。この際花が咲かなくても」
「じゃあ、このままにします?」
「ああ。花が咲くのがいいなら、今度買ってきてやるよ」
別に俺は草花に大して興味ないけど、がっかりさせたのは悪いと思った。俺があの硝子瓶を渡して
から、あいつが毎朝様子を見ているのを知ってたから。
ところが向こうは、俺の発言に驚いた顔をしたあと苦笑気味になった。
「そのへんは、真田さんにお任せします」
喜ぶわけでもなく、困るわけでもない、曖昧な返事。
本を閉じて、部屋に戻しに行く後姿。最初に会ったときよりも少しだけ髪が伸びた。あの頃よりも
すれ違っていくことが、よくわかった。
数ヶ月一緒にいて、結局俺はなぜあいつが家出をすることになったのか、まだ知らない。
一つ言えるのは変わらず、俺にあったサッカーのための人生、捨てたくない過去の積み重ねのよう
なものを、あいつは何も持っていないということだ。その差を俺は大して考えていなかったけど、も
しかして、向こうはずっと感じていたかもしれない。もしかしたら俺の驕りかもしれなくても。
そしてその差が、今はとても遠くに感じる存在を作り上げた。交わろうとしない生き方の差。馴染
もうとしないあいつと、肝心なところに踏み込もうとしない俺の数ヶ月。
あの日々が終わって、ロスタイムに入ったことを、晴れた日に思った。
************************
思い返すと、真田ってヒロインの背景を何にも知らない設定なんだな…と。そこにあるものしか知らない。知りたいけど踏み込んだらうっかり巻き込まれそうで目を逸らしている主人公(の片方)。
一応これまでのシリーズはこちら。でもロングレイン4までは正規ページに追加修正してアップしてあります。
最近小ネタに別ジャンルが混じっているので、これまでのように『タイトル(キャラ名)(補足)』ではなく、『タイトル(ジャンル/キャラ名)』といったような日記タイトルになっています。
そういや今日雪降りました! 神奈川では珍しかったです。妹とふたりで騒いでいて、夜になって雪どうなったかなー、と窓に顔寄せたら思い切り鼻ぶつけました、ガラスに。
…昔エイミーの真似して鼻にせんたくバサミつけたときも痛かったな、という思い出がよみがえりました(あんまり成長してないんじゃないかね…)。
|
|
<<過去
■□目次□■
未来>>
|