「Aさんに何回かメールしてるけど返事が来ない。何か知らない?」
知らねーよ。
いちいち私にそんなこと聞いてくるな。
返事が来なきゃ困るような大事な用があるなら、電話すれば?
だいたい、私、あんたのこと友達だと思ってないから、メールされるのもウザいんだよ。
だから、私もAみたいに、あんたの下らないメールはシカト。
それで、自分が私に嫌われてることを早く気付いてほしいもんだ。
いちいち、一つ一つ、どんな些細なことでも、自分ではできないから人に頼まなければ生きていけない。
それが、どれだけ疲れることか、あんたたちに分かる?
「あんたは歩けないから人間じゃない。泳げないから魚でもない。這ってるから蛇か?」
あれから25年。
時代はずいぶん進んだ。
今は、ロボットが二足歩行し、向こうから人が歩いて来たならきちんと避けて通り、ペットボトルから紙コップにお茶を注ぎ、同時に3人が喋っても内容を聞き分けるような時代だ。
今なら、私はきっとこう罵られるんだろう。
「あんたはロボット以下だ」
小さな頃から、そうだった。
別の部屋にいても、聴こえてくる。
それで、聴きたくもないのに、耳をそばだててしまう。
両親の、喧嘩。
私は、暗く憂鬱な気持ちになる。
家の中には、両親と私しかいない。
だから、逃げ場がない。
私は仲裁に入ったりは、しない。
ただ、じっと耐えて、やり過ごすだけだ。
いくら実の子だからって、夫婦のことに口を出すべきではない。
それは確かに本心だけれど、私の醜い言い訳でもある。
不快な思いをさせられているのに、その上、私が二人を仲裁するために心を砕かなきゃならないなんて、ごめんだ。
関わりたく、ない、のだ。
ただ、時が過ぎるのを待つ。
小さな頃から、いまでもずっと。
いつからだろうか。
どこに行っても、誰といても、何をしても、本当に本当に心の底から楽しむ、ということがなくなってしまった。
楽しくないわけではないけれど、いつも心の一部が冷めているのだ。
例えば、誰かと出掛ける。
私は、相手のことが好きだ。
嫌々ではなく望んで一緒にいるのだから、相手を好きなのは当たり前だ。
それでも、心のどこかが冷めている。
いつも、どこか虚しくて、「何かが違う」と感じている。
相手のせいではない。私には、人間として大事な何かが欠落しているのだろう。
それから、ずっと前から不思議なこと。
私と一緒にいてくれる人は、どうして私なんかと一緒にいてくれるのだろう。
私なんかの、いったいどこが好きなんだ?
何がよくて、付き合いを続けてくれるの?
本当に、分からない。
たった一言で、一気に不快感が押し寄せる。
私のせいなの?
我慢してろってこと?
どこにも出かけず、じっとおとなしくしていろってこと?
本当はいろんなことを我慢しながらやり過ごしているのに、そんな顔は見せないで、好き勝手やってる風を装っているなんて、思いもしないんだろうね。
私はいったい、どこまで、いつまで我慢すればいいの。
不意に、いいにおいを感じる。
たぶん、本当にいいにおいが漂っているわけではない。
君のフェロモンに反応してしまっているんだろう。
どうしてまた、不意にこんな感じになるのだろうか。
もう、好きではない。
もう、痛くはない。
1年前ならきっと傷ついていたであろうやり取りも、今は何とも思わない。
それでも、不意に、君に寄り添いたくなる。
しんどい。
帰ると、ぐったりしている。
どうしてこんなに疲れるんだろう。
「ちゃんと働いてて、偉いわね」って、なめてんの!?
私をバカにするのもいい加減にして。
私の年齢、知っているでしょう?
働くの、当たり前だろ? 別に偉くないだろ?
褒めてるつもりが、逆に侮辱になるってこと、知る由もないんだろう。
「偉いわね」って、言う奴も言う奴だけど、「偉いわねって言われた」なんて私に伝える親も親だ。
私がどう感じるかなんて、想像もしないのだ。
どいつもこいつも、私をバカにしている。
要らなくなった服を譲られるのが嫌いだ。
「もし良かったら」ならまだしも、「合うと思うから、ぜひ着て!」なんて、うんざりする。
てめーが要らなくなった物を人に押し付けるんじゃねーよ!
てめーが要らない物なんか、こっちだって要らねーんだよ!
馬鹿が!
ゴミにする罪悪感から逃れたいだけなんだろ?
汚ならしいんだよ!
誰にも言えなかったこと。
誰にも言えない感情。
誰にも言ってはいけない本音。
ここは、そんな醜いものを、吐き出す場所。
こんな場所を作って、私は一体どうしようというのだろう。
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