VITA HOMOSEXUALIS
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2016年10月19日(水) 音楽家

 神奈川は私にとって「戻ってきた」という感覚のする土地であった。最初の職場が川崎にあったからである。こんど私は厚木に住んで、バスで職場に出かけた。家賃の安い1Kのアパートを見つけて住んだ。そこは丘陵の底のような土地で、窓を開けてもまわりの家が見えるだけであった。しばらく歩くと畑があった。

 そこに住んでからしばらくした頃、私はネットで若い男と知り合った。彼はオーケストラでバイオリンを弾いていると言った。何度かメールをやりとりした後、新宿で会おうということになった。なんでも彼の懇意のワインレストランがあるらしく、おいしいワインと食事が楽しめるということであった。

 その日が近づいてきた頃、彼はメールで「おいしいものを楽しむには、それなりのお金がかかりますが・・・」と書いてきた。私がよほど貧乏暮らしをしていると思っているらしかった。

 秋の夜、私たちは伊勢丹の角で会った。音楽家というから華奢な人を想像していたが、少し太めのがっしりした人だった。温和な顔をしていた。

 裏町をくねくね歩いたところの二階にそのレストランはあった。彼はオーナーと親しいらしく、「こんなのを持ってきて」、「あんなのを持ってきて」と私の知らない銘柄を次々に注文した。彼は私にはヨーロッパを旅して歩いた話をした。私の知らない街、私の知らない言葉、私には想像もできない冒険のような話、それは面白かった。音楽家について語ることと言えば、悪口であった。誰か有名な指揮者の名を挙げて、あの人は意地が悪いとか、あの人は嫌われているとかいった話をした。

 私はその話とワインで満腹になり、ほろ酔いにもなったので、こういう機会が何度かあれば嬉しいという話をして別れようとした。だが彼は、「これでお別れはちょっと寂しい」と言った。

 それで私たちは花園神社の裏手にあるラブホテルに入ることにした。ラブホテルの前の薄暗い街路で、男二人が入れるタイミングを見計らった。背広を着た男にまとわりついた女性が、おそらく酔ってでもいるのか、嬌声をあげながらそこに入って行くのを見て、私は何となく不潔だと思った。頃合いを見て私たちはフロントに近づき、鍵を受け取って部屋に入った。

 私は彼の腰を後ろから抱えて、そっとジッパーをおろし、彼のペニスに触れてみた。

 それはまだ小さくて柔らかかったが、すでにその先端はうるうると濡れていた。

 「ああ、もう・・・」と私はささやいた。

 「シャワーを浴びてきます」と彼は言い、私も入れ違いに入った。

 私たちは裸で絡まりあった。彼が上になると重かった。

 正直な話、彼のペニスは小さかった。彼は仮性包茎で、勃起すると桃色の亀頭が現われたが、それはまるで豆のように見えた。私には久しぶりのセックスだった。

 私たちはほとんど同時に射精した。

 まだ人通りの多い靖国通りを通り、満員の小田急に揺られている間、私は股間から絶えず粘液が垂れてくるのを感じた。下腹に重い疲労感のようなものがあった。


aqua |MAIL

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