ヒルカニヤの虎



 いつでもいつまでも

■ヨシモト∞ホール大阪‘kiss kiss kiss 2011 in大阪’ 2011/03/05/Sat_19:00-@∞ホール大阪

去年東京の神保町花月でやった公演で、行きたかったけど行けなかった。
やしろさん脚本で平田さん主演なんて、豪華じゃないの。
大阪でやってくれてありがたいことです。
タイトル通り、やたらキスが降り注ぐメルヘンなおはなし。

ストーリーは簡単で、ふとこ(平田さん)は痺れるようなキスがしたい太った30歳OL。ピンクの招き猫(ボン溝黒)を磨いてあげたことで、好きになった相手に好きになってもらえる魔法を手にする。その魔法をつかってタラシの浮気男(菊地)→ヤク中のスーパースター(関根)→みんなのアイドル(斎藤)→小説家(安達)と付き合っていくふとこ。それぞれに雨あられとキスされながらもすべての恋を失い、最後はありのままの自分を愛してくれていた同僚(岡部)と恋に落ちる。自分の恋心を反射する鏡でしかない相手ではなく。

筋は一種のビルドゥングスロマンなのですが、展開が単純だからこそ、
振り回されずにやしろさんのメッセージがストレートにとんでくる。
なんとなくピンクの指輪と裏表でつながっているような気がしました。
やしろさんは愛することと愛されることの意味をずっと考えてるのかな。
ヤク中についての主張(お前は俺の人間性じゃなくて音楽に惚れたんだろう、俺はお前がジャンキーになろうが殺人鬼になろうが愛してる)はそのまんま、「ものをつくるひと」の心情であろうと思う。ブログ炎上を出すまでもなく。
それぞれの男たちの主張はすべて、なにかの種になるんだと思う。

ふとこはとても凡庸で頭が悪くて、だからこそかわいい女です。
見ながら思い出していたのは新井素子の「星へ行く船」というシリーズで、かなり古いSF小説ですけど。最後のほうで主人公が「感情同調」という特殊能力を持っていることが判明します。これは好きになった人に好きになってもらえるSF能力。それを知らずに愛されてきたけれど、実は誰も本当の自分のことを愛していなかったのではないか。自分が好きになったから好きになってくれただけじゃないか。そんなのはずるい。主人公は傷つき、悩み、そしてすべてを受け入れて前へ踏み出します。※記憶が正しければ。
やしろさんの発想とは真逆のベクトルの成長物語で、そういえば私はむかしこの話がずいぶん好きだった。それは主人公が愚かでなかったからです。聡明なキャラは愛しやすい。
一方、ふとこは自分を愛してくれる同僚の小林に聞きます。
「私のどこが好き?」
「どうしようもないところ。」
人間は愚かでどうしようもない。本当は。
私はやしろさんの持っている一種の冷たさ、特に舞台で提示される「典型」が怖くて好きです。やしろさんは自分のなかにあるどうしようもなさに向き合って、愛して、かたくなに賢くなろうとしない。絶えず賢くなろうとしている人間にとって、それはとても残酷に思える。せめていつもの通り笑いにしてくれればいいものを。

役者はみんなハマり役だったけど、ジャンポケ斎藤のチャームがすごかった。
彼はなにかがずば抜けている。愛される能力みたいなもの。
わりと男性客が多かったのですが、斎藤のターンは受けに受けてました。
あと安達さんが猛烈なエロフェロモンを垂れ流しておられて、何が彼をそうさせるのかと。客席は若いチーモンファン多数で引いてましたが、一番後ろの席で見てた私は舌がよく見えなくて伸びあがってガン見してました。眼福眼福。

同い年のOL・ふとこの「恋がしたい!」という叫びをききながら、
なんというか、こういう衝動をなくしたらダメだよなあと思う。
もう何年もときめきたいという気持ちすらない、甲斐性がない。
今いちばん好きな男の人は志ん朝師匠です。死んどる。

2011年03月05日(土)
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