タータンチェック

ウサギはある朝ぜんぶ
ベランダから飛び降りてた
先生、泣かなかった
だからわたしも泣かないでいる
おかあさん、
オートバイに乗って
カレーを積んで、大急ぎで
真っ黒な夜が夕食を待ってる
スカートのどこにも
仔牛はいないのに
先生がそう呼んでいたから
それはきっと正しい
愛の意味も綴りも
知ることのないまま
名前だけがふで箱の中で
羽化をはじめている
2010年02月25日(木)

永遠の原っぱ





どこかで一つ、原っぱが消え
ここではやがて歌が始まる
毛糸のような太陽をしょって
君が何度も風に生まれる
バスは静かに音だけを乗せ
最後の歌を送り出す
君の乗ったことのない
約束、という名のバス
いつか君の原っぱに
大きな虹がかかったら
バスは君へ着くから
あれが永遠なんだよと
歌い揺られて行くから
2010年02月13日(土)

寄せては消える




あなたは
膝に落ちた砂の陰から
手を振っている
わたしは
あなたが好んですいた髪を
静寂の向こうまで伸ばし
波打ち際でそれを見ている
あなたの振る手が寄せては消える
二度と、返すことはない
2010年02月09日(火)

ハウスワーク

食器を洗う、二人分
蛇口から聞こえる別の声に
時おり心を溶かしたり焦がしたり
チン、と呼び鈴がなる前に
お皿に戻れば許されるのです
食卓に積みあがった正しい嘘は
相槌さえうたなかった夜のうちにまとめ洗い
染みだらけの床はなぞって
明日の朝へなるだけ近づけておく
ほころび始めた階段は雨音でかがって
思い出してしまうから
しゃぼんの渦はそれ以上、眺めないよう
目の前にいる人といない人を
比べるようなことがあっても
答えはたたんでしじまの束に
しのばせておけばよいのだし
爪のふちの固くこわばった皮膚を
どうしてこうなってしまったのかと
思いあぐねるくらいは、
許されているのですから
2010年02月04日(木)
↑ Top