おまじない

涙で荒れた頬を
夕日に染めて
やせっぽちの少女が
追いかけてくる


おそろいのワンピース
三角窓からのぞく猫
お菓子の車で興じた神経衰弱


闇にこころを
奪われそうになった時の
二人だけのおまじない


母の顔をして
凛と振舞っていても


あなたはいつまでも
わたしの大切な


ちいさな相棒






2007年05月31日(木)

びわの木

おかえりを言わなくなって
どれくらいたつだろう


小さな庭を眺めながら
ワインを飲んだ午後
種から育った若い木を
うれしそうに見ていた


君のために絵を描いた人は
どこへ行ったんだろう


受け皿ばかりが大きすぎて
満たされる前に乾いてゆく


薄っぺらな今日が重なっている
無駄にたまってく領収書みたいに






2007年05月29日(火)

ひみつ







眼鏡をはずした
あなたのまぶたに
何度も何度もくちづける
あなたの名前を
呼びながら
あなたの声に
酔いながら
世界の終わりを
願いながら





2007年05月27日(日)

わすれもの

さかさまになって
海に浸って
ここは
おへそでつながった
いとしい世界


ハヤクオイデヨ


今はまだ
ランドセルをしょって
小学校に通うところ
ハムスターのカリちゃんと
ビールの王冠をひっくり返して
遊んでいるところ


みんなが待っている
外の世界に出られる日
成長して年をとって
苦しみのぜんぶを
受け入れる日


まずはとりあえず
大声で泣いてから
聞きなれた声に向かって
微笑んでみせよう


それだって
覚えていたらの話だけれど



2007年05月26日(土)

ラムネラムネラムネ

ラムネを口にひと粒


つくしんぼを夢中でとった
川沿いの土手        


さらに、ひと粒


つよし君をいじめて
泣かせてしまったあの日


つぎは三ついっぺんに


階段の隙間から覗くのは
じいちゃんの玩具店


お母さんが店番をしている
土間の奥にはぶさいくな猫達


六つ目を口に入れたら
どこへ行こうか


ここではないどこか


電話もチャイムも
届かないところ


ふすまなんて
ぴったりしまらなくていいから
2007年05月24日(木)

夢現(4)







誰も知らないところ
誰も責めないところ
誰からも奪われず
誰のこともかまわない



ばあちゃんちの
陽のあたる廊下で
オルガンの鍵盤を
毎日かぞえていたように



昨日も明日もなく
めろん味の
カップアイスが
人生のすべてで



ただ こんこんと
まあるくなって
できればずっと
ずっとこのまま



ちろさんだって
ずうっと一緒に
小さいままで
ずっとずっと一緒に


2007年05月23日(水)

親愛なる人へ

正義を貫く厳格な背中は
小さな怪獣にのっとられ
見たことのない笑顔に
なぜか寂しさを覚える


意地を張ることもなく
パソコン操作を尋ねて
飲めないはずの酒に
しばしほろ酔い


気のせいか
ど忘れという言葉が
増えたような
増えないような


それでも
家族を守ってきた
大きな手のひらは
いつもそばにいて


そっと頬を包んで
苛立ち乱れる心を
つよく やさしく
たしなめる 
 

いまではもう
ほとんどなくなった
物知りなあなたに
目を輝かせる夜


今度帰るときは
「スイカ」と
「7」のそろえ方を
じっくり教えてもらおう







2007年05月20日(日)

プロポーズ


たとえば君が
世界に見放された
哀れな猫だったとして

吹きさらしの雨の中
ダンボールに縮こまり
こっちをみて なぁご
と鳴こうものなら

すぐさまうちにつれて帰り
嫌がる君をきれいに洗って

ちろさんが残していった
カリカリと暖かい毛布
きゃらにゃんから借りた
ねずみのおもちゃ

いたる限りの贅を尽くして
もてなしてあげる

生まれてきた理由なんて
もう考えなくていい
裏切りにおびえて
暮らすこともない

ただの透明な魂として
今このときを一緒に生きる

ここに居つくかどうかは
君自身が決めることだけれど

わたしの胸の上で
鼻を突き合わせて
眠ることができるなんて

すごい特権だと思うんだけどな






2007年05月19日(土)

とんとんとん。

耳をくすぐる淡い声が
銀河の果てをつかまえる
くしゃみさえ愛おしい
その音階に
こころを溶かして
ひとつの音も 忘れぬよう
ひとつの息も 逃さぬよう
大切に たいせつに
繰り返し くりかえし







2007年05月18日(金)

五月の朝

10月のペットボトルは
明日で満たされて
おきぬけの夢のような
あの日の朝日を
きらきらと照り返す


もうすぐ、
君と出逢った六月。










2007年05月16日(水)

元気ですか。






あなたの
かたっぽだけの
ちいさな胸は
今でもまだ
あの甘いにおいが
するのでしょうか











2007年05月13日(日)

グッドモーニング(2)

席について
スイッチを入れたら
息苦しいこの部屋が
世界の入り口になる


おはよう


麗しのギャンブラーに
復帰を誓う活動家に
苦悩するデザイナーに
伝説のアーティストに


どこか遠くで
同じ窓を見つめる君たちに


おはよう











2007年05月12日(土)

履かないスニーカーを眺めて

生き急いだあの頃は
とうに崩れ去り


大事なものはいつも
この手には残らない


これから
どこへ行くのだろう


中途半端なかかとは
この街を嘆くけれど


うなずく心が
はがゆさとむなしさを
静かになだめる


いつか強さにかわるのなら
この道のりも無駄ではないと


誰かを責めずにすむのなら
この道のりも

         
少し、遠回りだけど


ずっと遠回りしているけれど









2007年05月10日(木)

放課後






怠惰な太陽が
家路を急ぐ


僕の絵は奪われて
二度と戻らない


点滅する数字も
ジョヴァン二の空も


いつか誰かが見た
ゆめものがたり


疑うことなく
チャイムが響く


リコーダーの音は
校庭にこだましている








2007年05月09日(水)

片想い

そばに来て
抱きしめて
名前を呼んで
大好きだといって


いつかつれてくる
大切な人のことは
千歩譲って
許してあげるから


こんなに笑い転げた
今日の日のことを
大きくなっても
忘れないでいて









2007年05月06日(日)

カタワレ

響きあう声を待ち続け
泣き疲れて眠る頃
遠い遠い夜空の下で
確かなやさしさが
忙しく帰り支度をしている









2007年05月05日(土)

ほんとうの夜

こそこそと奪った
いくつもを騙した
卑しく欲しがって
たくさんの星を嫉んだ
本当のことは誰も知らない
醜くよじれた三日月の影
本当の夜を誰も知らない
知りたがる人も
誰ひとりいない








2007年05月03日(木)

ダイジョウブ

今君が見ているのは
ありきたりの憂鬱
ぷっつり途切れた線路みたいに
途方にくれる朝はもう来ない
崖っぷちをすすむ間に
忘れてしまっているだけで
今見えているのは
ありきたりの憂鬱
そこいらに転がっている
ほんのありふれた出来事








2007年05月02日(水)

BGM

猫の毛をなでるように
ソファに深く沈みこみ
届かないやさしさを
表面にうけて


ゆらゆらと


字幕だけの風景
通り抜ける音楽
加湿器は
白い煙を吐くオブジェ


異次元の笑い声が
静かに響く
午後の待合室で

2007年05月01日(火)
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