☆空想代理日記☆
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不逞者がホームページ上で日記を公開していることをどこかから聞きつけ、いつの間にか読者となっていた先輩から連絡があった。
どうやら年末ということで、先輩らしくしようとしているようだった。そして、こう言った。
「忘年会がてら、鯛料理でも喰べに行かないか?」 「タイ料理ですか」 実は不逞者、おでこから青い3本すじがでるくらいタイ料理が嫌いなのである。
「そうそう、鯛めしが年末に相応しく思うね、俺は」
「タイめしねえ。なんでも略せばいいと思ってるんですか?」なんとか話題をかえようと「タイ料理は、味が濃い、みたいなイメージがありますよ」
「そんなバカな。鯉なわけないだろ」
そこで話の食い違いに気がついた。2人とも全力で違うことを話していたようである。が、そんなことはどうでもよく、やはり断った。
他愛ない会話がしばらく続いた。最後のほうに先輩が、空想代理日記はやめるのか? と、残念そうな口調で訊いてきた。
「はい。やめます」
不逞者ははっきりとそうこたえた。 というわけで、今回で空想代理日記は最終回を迎える。皆さん、1年間ありがとうございました。
昨日は朝から冷たい雨が降っていた。不逞者の気象庁は悲鳴をあげていた。が、お正月を迎えるための買い物をしなければならなかった。
店内は争奪戦が繰り広げられていた。狂気を眼に宿したおばさんたちが暴れていた。それはヒステリックワールドと表現してもおかしくないほどだった。
おばさんたちは、髪の毛を引っ張りあっていた。
「あんたのセーター、毛玉だらけよ!」 「ドリアンくさいんだから、喋らないでちょーだい!」
このような汚い罵声がとんでいた。
それらを無視して奥へ進むと、試食にカズノコが爪楊枝で喰べられるようになっていた。不逞者は嫌いなので素通りし、試食する人を観察していた。
ひとりのおばさんがカズノコの前に立った。きょろきょろして、辺りを窺っていた。そして電動ミシンのような速さでばくばく喰べていた。あの速さに匹敵するのは、ドラえもんのどら焼きを喰べる速度くらいだった。
それよりも問題だったのは、呪いのかかったカゴを不逞者は無意識に持ってしまったことである。
気がつけばカゴのなかは甘いお菓子ばかりになっていた。なんと素敵な呪いなのだろうか。
いままで内緒にしてあることがあった。不逞者は2千万年前までアルコールの神様をしていたことだった。
現世では、背中の白い翼を失い人間の姿になった生まれ落ちた不逞者はアルコールを回収しなければならない使命があった。いや、天命でもあった。
大袈裟な冒頭であるが、つまりはお酒を呑んで二日酔いになって目醒めた時に青いポリバケツのなかに上半身があったということである。
それから昨日は「8」のつく日だった。ゾンビが新鮮な人間の肉を求めるようにTSUTAYAに突入した。
店内には、くしゃみをした勢いでおならもしそうな人がいた。ものすごい巨大な躰だった。
その彼は鼻息が荒かった。そして狭い通路を無理やり歩いた。ほかのお客さんの背中に自分の背中をこすりつけるように歩き、鼻息がすごいのだった。
「ああ、この人は変態なんだな」
こんなことを考えながら不逞者はDVDを物色していた。
しばらくすると、変態な彼が不逞者のほうに接近してきた。変態が1歩接近すると不逞者は2歩遠ざかった。
こんなところで不逞者の人間関係における距離感が役にたつとは思わなかった。
昨日は朝からペンギン村のような活気に満ち溢れていた。
不逞者も飛び跳ねるくらい元気だった。「これは、大掃除をしなければ」と、ぶつぶつ呟きながら飛び跳ねていた。
そして大掃除に取り掛かろうと、頭にタオルを巻いて胸から膝うえまでもタオルに巻いた。鏡を視て、手を左右に振った。
その時、ドアチャイムがけたたましく鳴った。厭な予感がしたが、それは見事に的中した。
年末の忙しい時期に『微笑み悪魔隊長』は、まるで我が家のようにずかずかと入り込んできた。背後にまわって、首をねじきってやりたくなった。
雑音を無視して不逞者は大掃除を開始した。始めてすぐに懐かしいCDを発見した。瞬間的にその時代に頭が面白い感じになった。
その思い出とは、左の皿から右の皿に箸であずきを移動させていた。これは18歳の頃だとすぐに気がついた。
漫画のふきだしのような回想はやめて、大掃除再開した。
懐かしい写真がみつかった。若き頃の不逞者がベルリンの壁を破壊しているものや、宇宙服で月面散歩しているものだった。
年末ということで、朝からだらだらしていた。薄紫色の液体になったような気分だった。ただし、液体のなかをふたつの眼球がころころと移動しているのである。
プリッツを鼻の穴から喰べているような前置きはどうでもよくて、懐かしい友人から連絡があった。
この連絡のあった昨日は、不逞者にとって忘れられないものとなった。これは、豪快な嘘である。
不逞者には一生かかっても味わえない幸せがつまってジョッキから溢れるビールくらいのフルコース人生を歩んでいる友人が、ついに家を建てたそうだ。
そしてその『Gメン』君の家の落成パーティがあるとのことだった。 不逞者はお祝いの品に、灯油とガソリンとマッチとダイナマイトを持っていこうと思った。
いろいろな絡繰りがあり、オプションもたくさんついている家のことなどどうでもよかった。
昔話に花が咲いた。 しかし、話が食い違っていた。
運動会ではかけっこをしたらしいのだが、不逞者の記憶から欠落していた。
不逞者の記憶には、大人数で思想家について討論したことがある。ずばり『100名とルソー』である。単なる駄洒落である。
赤い服のフィンランド人を捕まえると、地球のみんなから羨望の眼差しがいただけると思った。そして不逞者は決心した。
背後にまわってカエルのような恰好で、赤い髭もじゃおじさんに飛びかかった。 が、すんでのところで煙のように消えてしまった。 不逞者の腕は空振りし、自分自身を強く抱きしめる恰好となった。
おそらく、捕まる寸前に人差し指と中指をおでこにあてて瞬間移動したのだろうと推察した。とりあえず、逃げられたのだった。
飛んでいる時はスローモーションだったが、空振りを計算に入れてなかったのでそのまま壁に激突したのだった。
気を失ってしまった不逞者、気がついたら裸で森のなかにいた。かろうじてパンツは身につけていた。あたりは靄がかかっていて不思議だった。
棒きれを杖がわりにしてよろよろと立った。何人も同じように裸にパンツの哀れな姿で倒れていた。
たぶん、何人もの勇者たちがサンタクロース先輩を捕縛しようと特攻して泪をのんだに違いない。
捕縛に失敗した者たちは生ける屍となってこの森に集められたのだろう。あとは、きちんと目醒めるだけである。
昨日はどうやら、世間では二人三腕をしながら男女が歩いている日らしかった。
そして『カーネルさん、出す』で有名な反省老人の店もてんやわんやしている。この時季になると空を飛んでいる鳥を視かけないので、全国の鳥が喰べられるのだろう。
夜は静かなところに住んでいるのであるが、鈴がしゃんしゃん鳴る音が聴こえた。
カーテンを少しだけ開けると、家のまわりを不審な人物が歩いていた。上下を赤色の服で包んでいる巨大な人だった。
18歳まで地下室にある灯りひとつない牢獄で暮らしていた不逞者、サンタクロースに是非とも会ってみたいと思っていた。
その人は噂によれば、人差し指と中指をおでこにあてて眼をつぶると瞬間移動するらしいのだった。
テーブルに置かれた赤身の肉を眼をつむりながら選ぶ『3択ロース』とは訳が違うのだった。これは昨年のネタである。
赤いおじさんは熱湯風呂に入るような仕種でそろりそろりと徘徊していた。なぜか口は「お」のかたちだった。
おじさんの近くには、コーヒーにどぶんと浸したパンのような犬もいて、頭には珊瑚礁が接着されていた。
不逞者の華麗なる脱酒作戦が実を結び、寝起きは絶好調だった。
いつもなら液体人間のようにだらだらと過ごしていたのであるが、冬の間は隠遁生活なので、常にだらだらしているのである。
ただ、日曜日といえば、だらだら拳法を極めるために格闘技の練習をしなければならないのだった。
いつも利用している秘密結社の会議室のような、結局は単なるジムの入口には、年末年始の休みのお知らせがあった。
それを視るために入口の前まで行った途端にどうでもよくなった。まるで不登校児童の心境だった。
だが、サボるという言葉は遣い古されていて、なんとなく軽い感じをうける。
新しい言葉がないかとアンケートを極秘裏にとった。が、極秘すぎて誰にも伝わっていなかった。仕方がないので、自分で考えることにした。
重い印象を与えてはサボりにくくなってしまうので、この際、もっと軽くしてしまえばいいのではないかと思った。
ちょっとアメリカ人ぽくすれば、しゃぼん玉より軽くないだろうか。というわけで、『Sボール』にしよう思う。これで空気よりも軽く堕落できるのだった。
ビールをついでまわったり腕を交差させてスキップしながら呑んで乱れる体育会系的呑み会には適合しない不逞者、珍しく昨日も迎年会に出席した。
2007年の不逞者の意気込みをなんとかわかりやすくしようと、かぶりものをつけて全身にカラフルなペイントをほどこし腰には頭蓋骨をいくつもぶらさげて向かった。かぶりものには鳥の羽根がたくさんついていた。嘘である。
またもや個室だった。呑み乱れている友人たちを俯瞰すると、地獄絵図のようだった。
それから今回は隣室の声が聴こえないようになっていた。したがって泥棒耳を発揮することはなかった。
なので豊潤な想像力を働かせて、少しでもこの地獄絵図から眼を逸らすことにしたのだった。
たぶん隣の部屋では、直角三角形をふたつつなげた女王様アイマスクをつけた人が、「私の名前はハッピーです」とか言っているサラリーマンに対してムチをふるっていたかもしれない。
そしてそのまた隣の部屋では、線路に置き石をする名人が、未来の置き石少年に対して悪質な授業をしていたのかもしれないのだった。
昨日は朝からひどい雷雨で、まるで湾岸戦争の爆撃シーンのようだった。しかし、不逞者は湾岸戦争をテレビで視ていただけなので実のところあんまりわからないのだった。
そして不逞者一族は迎年の儀式にむけて活動した。ある者は神棚をつくるために奔走した。ある者はお供え物はなにかの生け贄だと勘違いしたまま行方がわからなくなった。
またある者は、御節料理の材料を揃えるために窃盗団を結成して時がくるまで地下に潜った。
不逞者はそんな馬鹿なことはしなかった。 せいぜいが、牛の頸椎あたりを手刀で刺し貫いただけだった。
牛の頸椎から流れ出る新鮮な血液を洗面器に溜め、そのまま70時間くらい凍らせた。
かちかちになった血液の塊を洗面器から取り外した。それをカンナと呼ばれる道具で丁寧に削った。
すると、黒っぽく凍った血液が徐々に透明になるのだった。さらに続けていくと、やがては削っている不逞者の姿が反射した。
円く形を整え、我が家の中心に飾った。まさにこれが迎年の主役的存在である『鏡も血』なのだった。
すべては、不逞者の悪ふざけである。
先日、とある殺風景な飲食店で友人であるコンペイトウ君と食事した。
噛むたびにこめかみがぴくぴく動く彼の背中には半透明の男性がべったりとくっついていた。
その半透明の男性は、野球選手でいうと8番バッターみたいな髪型をしていた。いてもいなくてもどっちでもいいような存在を主張しているようであった。
不逞者はふと真似したくなった。
さっそく昨日、『髪斬り般若』君が腕を組みながらお客さんに対して脅しをかけている脅迫散髪店に行った。
「8番バッターのようにしてください」
このような注文をした。髪斬り般若君は顔面を歪めて考え込んでいたが、顔面が歪んでいるのは生まれつきではないかと不逞者は心のなかで素速く訂正した。
頭部加工技術をなりわいとしている髪斬り般若君は、脳内で不逞者の言葉を分析しているのである。
その証拠に、空は暗くなり、灰色の雲がものすごいはやさで流れてきて一面を覆い隠した。
髪斬り般若君が首をひねると、雷鳴が轟き前歯と同じくらいの大きさのヒョウが降った。さらに街全体を停電までさせてしまった。
どうやって天井裏から脱出したのか記憶にないが、とにかく昨日はなんにもしなかった。
したがって、頭めがけてヘリコプタか高層ビルが落ちてきた場合、不逞者の姿を最後に視たのはTSUTAYAの店員ということになる。野犬に咬み殺されたりしても、やはり同じ結果である。
うっかり外出してしまい、横断歩道で青を待つ間、両サイドにサングラスの女性が立ってしまうと不逞者は女性に性転換しないといけないゲームが知らないうちに始められているかもしれないので、外出しなかった。
または、両サイドのサングラスの女性が不逞者の両腕をつかんだまま赤信号を渡って行って自動車と衝突するかもしれないのである。
不逞者は足を浮かせたままバタバタと行儀悪く動かすかもしれないが、女性たちは無表情でやや冷たい感じがしているのかもしれないのだった。
このような危険があるやもしれぬと不逞者の心にある探知機が反応した。
探知機から出ているアンテナの先にはメビウスの環のような金属がついており、危険を察知するたびに回転を始めるので、不逞者の内臓はずたずたになるのだった。
昨日は「8」のつく日ということで、TSUTAYAを襲撃しなければならないのだった。
そのため、タンスの抽斗をすべて調べて着物や腹巻きや靴下や鯉のぼりやペットのワニなどをすべて出し、どこかにへそくりがないかと捜索したのである。
抽斗にはないとみるや、天井裏まで捜索した。視界が悪く、頬には蜘蛛の巣がかかった。それを手で払い、懐中電灯の光だけをたよりに前へ進んだ。
天井裏からはいろいろなものが視えた。
いつの間にかキッチンに侵入している『るのあ〜る』の姿も視えた。こうして高い位置から視ていると、るのあ〜るが昨年に遊びにきていた半透明の猫と似ていることがわかった。
いやいやをするように不逞者は頭をふった。
そのまま天井裏を進んだ。 『微笑み悪魔隊長』が、例の日付の過ぎた食糧をもってやってきているのが視えた。
どかどかと家に入り、いきなり不逞者の部屋を覗いていた。今すぐにでも天井裏から出て、跳び蹴りをくらわせてやろうと不逞者は憤慨した。
しかし暗い天井裏では方向感覚を失ってしまうのだった。その時、懐中電灯の光が消えた。不逞者は暗闇に包まれた。
最近の不逞者、大きな問題を抱えていて頭が破裂しそうだった。
その大きな問題とは、お気に入りのジーンズが破れてしまったことだった。歩いていてどこかの角に引っかかり、知らない間にジーンズがほどけてしまったのだった。
右足部分の下から順番に肌が露出してしまい、足首、膝、ふともも、そして右肩までもが裸なのだった。というわけで、半裸青年なのである。
上半身の肌は、愛嬌である。
なので昨日は、ジーンズを購入するために不逞者はいろいろな店を半裸のままで徘徊した。たぶん暴漢に襲われた人に思われていたに違いない。そうでなければ今頃は、牢屋で寝起きしているからである。
ようやく見つけた店内は広かった。半裸姿が目立たないくらいの広さと品物の豊富さだった。
1度でいいので「ここから、ここまで」といった、区切る部分にチョップする買い方をしてみたかった。
この願いを叶えようとお目当てのジーンズだけを選ぶかたちで、「ここから、ここまで」とチョップした。
ちょっとだけ見た目が悪くナイフで背番号を彫ってそうな店員さんは、一瞥しただけで不逞者のことを無視したのだった。
迎年会で摂取したアルコールがいつものように不逞者に取り憑いているかと思われたが、それはなかった。
友人たちとテーブルに手をついてナイフを指の間に素速く移動させる遊びの熱気がアルコールを発散させたのかもしれない。
二日酔いにならなかったお祝いにアルコールが素速くぬけることを『脱酒』で「ダッシュ」と呼ぶことに決めた。しかし、これは自分の胸にしまっておくとする。
そして日曜日といえば格闘技の練習をしなければならなかった。ムチで叩かれたり、技術をひとつ会得するたびに小魚を与えられたりするのだった。
そのことを考えると、たとえアルコールが脱酒していてもなんとなくやる気がおきないのだった。
たぶん、つい最近、今後20年分のやる気を失ったからに違いない。
どちらにしても、不逞者は30男の皮をかぶったハムスター並みの存在なので格闘技を会得するなんて6000年はやいのだった。
不逞者の脳内コンピュータが高速で作動した。目蓋がぱちぱち動き、そこから視える眼球は白い。べろっと舌を出してコンピュータは停止した。
『サボる』の文字がぐるぐるしていた。
この時期、世間では忘年会がさかんにおこなわれているようだ。
不逞者もその波にのって、そういった催しに参加しなければならないと心が熱くなった。
が、ひと晩お酒を呑んだからといって2007年を簡単に忘れることはできない。不逞者の記憶のパズルはそれほどに強固なのだった。
というわけで昨日は、忘年会ではなく『迎年会』と名称を変更した催しに参加したのだった。
迎年会の会場は個室に仕切られており、他の視線を感じることがなく醜態をさらすことができた。
しかし、個室といっても完全ではなかった。仕切りの上部に隙間があり、隣室の会話はまる聞こえだった。
隣室では男女混合での飲み会が開かれていたように思う。会話の端々を不逞者の泥棒耳によって獲得した感じから、そう思った。
「オレはさあ、カラオケとボウリングでは頂点を極めたよ」
女性のほうは無言だった。不逞者はテーブルに置いてあったビールをぶちまけた。
「オレの実力が知りたいなら、今度、予告状を送るよ。だからメルアド教えて」
さらに女性は無言だった。不逞者は声を殺して笑い転げた。泥棒耳はやめられない。
昨日は病院まで4足歩行で行かなければならない日だった。
空は曇っていて、地上は全体的に灰色。そして当然のように寒かった。これを不逞者はグレイワールドと格好いい名前をつけることにしたが、油断するとヒゲが鼻息でしっとりしてしまうのだった。
今回の待ち時間は長かった。予約した時間を大幅に過ぎていて、なんだか我慢大会をさせられているようだった。
あまりにヒマですることがなかった不逞者、膝を抱えるようにしゃがんで、勢いよく跳びあがって『大』の字になった。すると毛穴という毛穴から、今後20年分くらいのやる気が飛んでいった。
それでもまだ診察の時間はやってこなかった。
もしかしたら病院内を強盗団が占拠していて、不逞者を担当しているドクターデビルが人質となり「こぶらついすと」をかけられているのかもしれない。
強盗団が占拠している事実をなんとか外に洩らさないようにしていて、だから看護師さんは平静に作業をこなしているのかもしれない。
知らず知らずのうちに不逞者も人質として活躍しているのかもしれないのだった。となると、解放後を考えて服装を正さねばと思った。
昨日は朝から大粒の雨と地面の攻防戦が繰り広げられていた。外は戦場さながらといった感じである。
雨粒が大きく、水晶の破片が空から落下しているようでもあった。雨粒ひとつひとつに不逞者の顔面がうつっているようにも感じられ、不思議な感覚だった。
その鏡の集合体を避けるようにして喫茶店へ向かった。友人と待ち合わせしていたからである。
しかし、喫茶店での待ち合わせ時間はとっくに過ぎており、これを世間では「遅刻」と言うらしかった。
でも、不逞者の友人たちは殺人鬼みたいな顔面をしていても心は焼きたてのアップルパイくらい温かいので、アイアンクローだけで許してくれるはずである。たぶん。
喫茶店には雑誌がたくさんあった。不逞者は抱えられるだけ抱え込んで、他者に迷惑をかけることなんて考えもしなかった。
友人の『ナイトキラー』君は、「この喫茶店に爆弾があったら、不逞者ごと粉々にしてやりたい」みたいなことを延々と喋っていた。
一方、不逞者はといえば、アイスアーモンドココアをストローでちゅうちゅう吸いながら、ナイトキラー君に対する呪いの言葉を心のなかで唱えていた。
昨日は天候も優れていて、静かで、穏やかな1日だった。という歯の浮くような文章もすらすらと書ける1日でもあった。
そして昨日は友人である『人生黒帯』君と限りなくドライブに近い徘徊をおこなった。
「はあ、将来、念力少女みたいな娘がほしいよ」
人生黒帯君は頭のなかで爆竹が炸裂したようなことを言っていたが、鼻くそをほじりながらであったし、ほじったあとはゆっくりとハンドルになすりつけていた。
不逞者はいつもように幽体離脱さながらにだらだらと座っていた。もちろん、人生黒帯君の言葉には返事もしなかった。
ふと、ダッシュボードに眼をやると、肌色のかたまりが視えた。何気ない気持ちで手にとると、なんとそれはハムだった。
「もしそれが、松阪牛の心臓だったらどうする? いや、もしそれが今後の人生を上下左右するような秘宝だったら……」
その後も「もし……、もし……」と狂ったように続けていた。
それを遮るように不逞者は、なぜ「もしもし」しつこいのかを問い質した。すると、12月12日は「if」の日だからと胸を張って言った。どうしようもないとはこういことである。
昨日は1日通して薄暗かった。天候に左右されてか、とても陰鬱な気分になった。
イヤな気持ちをフルスイングで吹き飛ばそうと不逞者は考えた。そしてフルスイングとはまったく関係のない古本屋へ行った。
膨大な量の資料を抱えて歩くOLのように、たくさんの本を購入した。
レジを叩いている店員さんは、ちょっと迷惑そうな顔をしていた。どんな表情だったかといえば、7人のコビト選抜大会で決勝まで残ったような表情だった。
そうして帰宅後、積みあげた小説の塔を眼の前にして不逞者はがっかりした。がっかりしすぎて地面にめり込みそうだった。
小説を置いておく場所がないため、塔の頂点に積みあげなければならないからだった。
ゆらゆらする小説山脈をのぼっていったが、途中で酸素が薄くなったように感じられた。
足取りの重さとともに、小学生の時にバケツを持って廊下に立たされたことや学校が終わるまで正座させられた記憶がよみがえってきた。
それでも不逞者は必死にのぼった。 頂上に到着した。 頂上と同じ目線の高さには、白い冠をかぶった富士山が視えた。
昨日は重大な発見をした。それは、空気中に含まれる成分のなかに、不逞者だけに作用する毒物があるとがこの度の研究でわかったことだった。
その成分とは、躰が鉛のように重くなり、ため息ばかり吐いて、恋わずらいのような症状になるのである。
といった夢をみた。おそらく白衣の似合う研究者に憧れをもっていたためかもしれないし、大人になってもナスビが喰べられないせいかもしれない。
とはいえ、夢のなかだけでも研究者になったのは、僥倖に恵まれているといっても過言ではないのだった。
ただ、ぷかぷか浮かぶ気分の夢をみている間にふとももを掻きむしったらしく、肌がかぶれたようになっていた。まるで、クランキーチョコの裏側のようだった
また、違う作用としてすね毛をぶちぶち抜いて1日を過ごしていたりすることもあるらしい、とたった今つけ加える。
そのほか、靴下を脱いだら指と指の間に繊維がたまっていたり、茶色い紙袋に息を吹き込み心臓の弱そうな人の背後で小爆発させてしまうこともあるらしいとわかった。
たぶん、不逞者はまだ眠っているに違いない。
昨日の日曜日は朝から雨がしとしと降っていた。雷神の心の汗かもしれないと思ったが、これは口外してはいけないように感じた。
そして朝から──朝までアルコールを呑み続けていた友人から──電話がかかってきた。2回までは無視した。が、あまりにしつこいので3回で電話にでた。
この友人『変周率』君は、特殊な趣味をもっているのである。
ガラクタをどこかから拾ってきて、それを再利用してオブジェというタイトルのガラクタを量産しているのだった。
それで変周率君の用件というのは、『炎の味噌鍋クラブ』を創設したから不逞者にも入会してほしいとのことだった。
しかし不逞者は味噌が大嫌いなのである。
味噌を喰べるくらいなら、野生の雄ライオンの口のなかに顔面をねじ込んで大声で「翼をください」を唄っていたほうがマシだと思った。
ということで、変周率君には、肉を斬らせて骨も断たれるような気持ちで「ことわる」という意味の言語を不逞者が知っている限りの口汚い言葉で言った。
すべて言いきる前に、通話は途絶えていた。死んでほしいと心から思った。
昨日は、昨年から引き続きのテーマとなっている『空飛ぶおじさん捕獲作戦』のために知恵をしぼった。
知恵をしぼるために頭部をひねったりねじったりした。しかし、これは嘘である。
空飛ぶおじさんとは、かの有名なサンタクロース先輩のことである。
サンタクロース先輩とは、家宅に不法侵入して靴下のサイズに合わない玩具を無理やりねじ込むといった罪を何年も犯しているのである。したがって、靴下も破損させているのだった。
昨年は靴下にトリカブトの毒を塗っておこうといろいろ探したが、結局トリカブトは発見できなかった。
今年は、侵入しやすいように煙突をつくって、出られない仕組みのものを造ろうと考えた。つまり、罠である。
ということでホームセンターに行った。だが、ホームのセンターのくせして家でもなければ、どこの真ん中かもわからないのだった。
おそらく不逞者、うんと小さい頃にサンタクロース先輩から暴行をうけて、頭が賑やかな感じになったに違いない。
だから「煙突」をイメージしても、煙が突っ走っていることなんだと意味不明なことしか浮かばないのだった。
ここ最近の夜の冷え込みは尋常ではなく、半冷凍人間が夜な夜な街を徘徊しているそうである。
不逞者はひきこもりの神様と強力なタッグチームを結成したので、「外出」という言語は記憶のなかからすっかり抜け落ちているのだった。
そうやって外出もしないで家でごろごろしていると、読書が日課となるのである。
そうこうしているうちに不逞者の脳みそはパンク寸前になってしまった。
昨日はこのパンク寸前の脳みそをどうやって修理するかということに最大の時間を費やした。
そこで考えたのは、『空気発散法』である。
空気発散法とは何かというと、簡単に説明すれば、空気で発散する方法である。
自転車の空気入れを使ってリフレッシュしようという実験なのである。
はじめに、空気が吹きだしてくる先っぽを綺麗に拭いて、口にくわえる。口から空気が漏れないようにガムテープで隙間をふさぐ。
そして空気を注入していくと、あまりのバカさ加減にいままで記憶したことをすっぱり忘れることができるのだった。これをさらに改良すれば、『失恋克服法』が完成するのかもしれない。
昨日は空が低く、匍匐前進しなければ地球から顔が出てしまうのではないかと思った。つまり、自衛隊員には有利な天候だといえた。
唐辛子がぴりりと効いた前置きはすべてぶっ飛ばして読んでもらいたい。
昨日は雨が降るかもしれない不安定な1日であった。いつ雨に降られてもいいように、不逞者はヴィレッジバンガードで対策会議を開いていた。
この店はおかしなところで、入口の脇には細木数子らしきゴム顔面がくるくる回っていた。たぶん、あのゴム顔面は夜中の2時になると死刑宣告するのだろうと推察できる。
また、いろいろな玩具なども豊富に取り揃えられていた。なかでも、『ろくろの達人』という品に不逞者は眼をつけた。角が刺さって痛かった。嘘である。
そこには、「ゴーストごっこができます」の貼り紙がなされていた。
ワラ人形と会話する趣味をもっている不逞者も、そこまで暗い性格ではないのだった。ましてや、男性の不逞者は自分で購入した玩具を女性優先で使わなければならないのかと憤懣やる方ないのだった。
店員さんに見つからないように、爪で傷つけてきたのだった。
良識ある不逞者、師走にふさわしいことをしようと思った。ひとつは年賀状のことが挙げられる。
年賀状の販売をおこなっているタバコ屋は、少し前からシャッターが降りたままになっている。したがって郵便局へ行けば購入できるのではないかと閃いた。
局内は独特なにおいがあり、リフトを待っているような緊張感さえも漂っていた。
年賀状はまだ売ってなさそうだった。だが、貯金しにやってきている人がたくさんいた。
この郵便局というところは、どんな人でも貯金ができるようだった。たとえば、髪の毛が紫色のおばさんや結婚に失敗した人でも貯金ができるそうだ。また、前日までは何事もなかったのに目醒めると頭が綺麗に禿げあがってしまった人でも貯金ができるようだった。
なんと便利な場所だろうかと不逞者は首のあたりをぼりぼり掻きながら感心した。
しかし、前世がインディアンでなおかつ嘘ばかりついていたらしい酋長の生まれ変わりの不逞者は、貯金なんてするくらいなら切腹したほうがマシだと考えているような人間なので、まったく関係のない施設なのだった。
朝方まで降っていた雨もあがり、太陽が逞しい光を放射して冬支度に「待った」をかけた。
陽光を浴びた不逞者はテディベアのように座って、人差し指をくわえながら、すっかり姿を消した「t.A.T.u.」のことを考えていた。
毎度バカバカしい前置きはいいとして、昨日は散歩した。
目的地のない『超人散歩』を久々にやるにあたって、腕時計をつけない不逞者は携帯電話を時計替わりにしたのだった。
すると、少し歩くだけで何分たったのかが気になってしまった。しかし3分ほどしか経過してないのだった。
何度も何度も携帯電話をポケットから取りだした。やはり、持ちながら歩いていると落としてしまう羽目になった。
その時、頭上で「フゲェャ、フゲェャ」と騒いでいる鴉が気になった。
カップインしたゴルフボールを拾うような気持ちで右手を伸ばした。拾いあげるその瞬間に右足で蹴ってしまった。携帯電話は、高速回転を披露しながら遠くへいった。
自分の奥歯を噛み砕きそうになった。そして携帯電話を拾おうしたら、またもや蹴ってしまった。このあと、2回も同じことをしたのだった。
昨日は、なぜそうなったのかはわからないのであるが、デパートへ行った。
人間をどんどん吸い込んでいく巨大な建物のなかは、明るく煌びやかな雰囲気だった。が、不逞者以外の人たちの眼は、あきらかに洗脳されているように光を失っていた。
流れる階段にのって上階へ行くと、原色だらけの遊戯コーナーがあった。
そこには攻撃的な女性がたくさん座っていた。ユニクロのスウェットを着た集団だった。
子供を抱きながら周囲を威嚇していた。おそらくポケットのなかには、人々を痛めつける凶器が仕込んであるに違いない。
不逞者はその集団とは眼をあわせないように爪先を視ながらとぼとぼ歩いていた。だが頭のなかではヤンママ集団に『子と武器』というグループ名を与えた。
『子と武器』のメンバーは大きな声で騒いでいた。
健全な大人代表の不逞者はその集団にむかって「パルプンテ」を唱えた。だが、何もおこらなかった。
「なになにぃ? ウザいんですけどー!」
みたいなことを言われた。下唇を強く噛みながら巨大な建物をあとにしたのだった。無念という文字が脳内をぐるぐる回っていた。
昨日の日曜日は、朝からこんがりとしたいい天気だった。電線で羽休めしている小鳥もさえずっていたが、なんだか焼き鳥に視えた。
それからしばらくして、1機のヘリコプターが不逞者宅の上空を旋回するように飛んでいた。
好き嫌いの多い不逞者のことを、カイゼル髭の将軍みたいな人がこらしめにきたのかと考えられた。
ヘリコプターからロープを垂らし、黒装束で頑強な男たちがやってくるのかもしれない。
そして両手両足を掴まれて身動きのとれなくなった不逞者に、1人の男が熱々のおでんを顔面にぶつけてくるのかもしれないのだった。
それを回避するため、不逞者は机や椅子やシーサーの置物を扉のところに積みあげた。すべての扉のまえに積みあげ、バリケードは見事に完成した。
不逞者の動きを察知してか、ヘリコプターは遠くへ去っていった。
ほっとした。緊張感がいっきに緩んだ。不逞者の顔面は、しらたきのようにほころんでいたのではないかと思われる。
緊張感から解放された瞬間におしっこがしたくなった。が、バリケードがあっておしっこができないようになっていた。
いつだったかに会得したマジックを昨日は反復練習した。
切れ味は相変わらず鋭く『Demae』も完璧に自分の特技になった。アシスタントのおばさんも快く不逞者の注文をきいてくれ、あとは腕組みしながら男らしく待つだけであった。
そんなに時間もたっていないのにドアチャイムが鳴った。押し方に特徴があり、上品な雰囲気を生まれながらにしてもっているようだった。
ドアを開けるとそこには視知らぬおばさんが2人、立っていた。
明日どころか5分先の未来も暗そうな表情をしていて、コーナーに座り込んだまま動かない真っ白い灰になった矢吹ジョーのように視えた。
おばさんたちは無言でパンフレットを差し出した。キリスト教の勧誘だった。
部屋にこもって金魚と会話をしてそうなおばさんは、「聖書を読んで、心を清らかにしませんか?」とすすめてきた。
もう1人の、「趣味は盗撮です」とか言い出しそうな眼鏡のおばさんもそれに続いた。
「これで、世界がわかります」
最強の自己中心的のような頭がどうかしている発言を真顔でしていた。
不逞者、無言でドアを閉めた。
昨日もいい天気だった。最近の太陽は打率がよくて不逞者はぐんぐん育っているような錯覚したが、それは錯覚であって完全な勘違いなのだった。
それから昨日は病院の日だった。前回、爪切りをなくしてしまう病気を治してもらった。今回は、自転車に乗る時に先に左足をのせてテッテッテと助走をつけないと死んでしまう病気を治してもらうために行った。
そんなことはどうでもいい。と、不逞者の真面目みそは反応した。
とにかく、今年ももう残すところ1ヶ月になった。
好きなおかずは最後まで残す不逞者、まるで12月が好きなのかと勘違いしてしまうのだった。
だが、不逞者は12月を親の敵のように嫌いなのである。勝手に両親を亡き者にしてしまったが、きっと天罰がくだる。
それから噂によると、今年のことは今年のうちに済ませておかないと後悔してしまうらしい。それを誰かから聞いて不逞者は闘志を燃やした。
とりあえずヒゲを剃って、爪を切って清潔感が服を着ているようになろうと思った。しかし、爪切りがどこにもないのだった。たぶん、爪切りをすぐになくしてしまう病気が再発したに違いない。
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