☆空想代理日記☆
INDEX|past|will
昨日は天気のわりには涼しい風が吹いていたので、久しぶりに遊歩道へ行った。
不逞者と同じように思った人たちも遊歩道にわらわらと集まっていた。ジャージのおじさんや婦人服特有のワンピースを着たおばさんや甲冑をまとった犬などがいた。
ただ、だらだらと散歩するだけではつまらないと思った。
すれ違う通行人たちを安野モヨコが描くイラストみたいに変身させるような想像をして歩いた。このような、なんかいい感じの想像のかいあって清々しい散歩となった。
安野モヨコキャラと涼しい風で、清々清々しいとかしつこい独り言を呟きたくなったのであった。
それから遊歩道はセミたちが勝手に始めた『7日間戦争』の真っ只中だった。悪い奴の笑い声がどこから聴こえてくるのかわからず、「どこだ!」と叫ぶ正義のヒーローのような気持ちになった。
本当に叫ぶことはしなかった。
遊歩道という名を借りた昆虫の音楽会から帰宅した。30歳になった途端におじさん臭くないかと心配になったからだった。
これからは、おじさん臭くならないようにそして汗をかかないように気をつけねばならないのだった。
昨日は不逞者が生まれてから30年が経った日だった。だからどうした! ともいえる。
朝、マードレがやってきた。「誕生日だろ。ほれ」と言って右手を差しだした。
掌のうえには側面がギザギザになっている10円玉が3枚あった。どうやらそれで30歳を表現しているようであり、なぜか勝ち誇った感じをうけた。
「ファック・ユーですよ、お前さんには」
マードレは不逞者の発言に驚愕していた。
ともかく何の実感もないが30歳になってしまったようだ。まだまだ若いことを証明することすら面倒くさいのだった。
部屋を暗くしてテレビ画面に近づきポケットモンスターとかいう黄色い化け物のアニメで失神すれば、不逞者は若いと証明できるとのことらしい。
不逞者が王族かそんな血筋の人間だったら、31アイスは1品減らして営業していたのかもしれない。
そんなことはどうでもよくて、友人の子供たちや近所の子供たちから「じじい」と呼ばれても文句の言えない年齢になったのは間違いないようだった。
不逞者、ショックで眠れなくなった。
昨日は外界が黄色に視えるくらいの快晴であったにもかかわらず、着てもいないシャツが湿っているといった不思議な1日であった。
洗剤のかわりにシャツを湿らす魔法でもかけたのだろうか。くしくもハリーポッターが新刊ブックランキングで上位に輝いていたので、そう思うよりほかはない。
だが外の気温がボンネットの上で目玉焼きがつくれてしまうくらいだったので、ひんやりと気持ちよかった。
湿ったシャツを着てニヤニヤしている姿を想像してみたら、生まれてきてごめんなさいと呟かずにはいられなかった。
そして夜は近くの小学校で盆踊りがあったようだ。おばさんたちが円をなして、カメラのフラッシュから顔面をかばう動作をしているアレである。
不逞者、盆踊る準備は365日前から整っているので参加しようと思った。
関係者に訊いたところ、盆踊ったあとにアイスがもらえるのは少年のみらしかった。
「シャツの湿りに大人も子供も関係ありません」
強く言ったが却下された。したがって、不参加だった。なんにもしてないのにシャツが湿っていた1日だった。
今日の一言 物事を斜めから視る(あるいは、視ていた)ことが個性的だと思われがちだが、物事に影響をうけないほうが個性的。
昨日は暑かった。髪の毛をかきむしりたくなるくらいの暑さだった。
ということで、今年に入って初めて半袖で外出した。これで怪しまれることもなくなるのだった。
汗をたっぷりかいたので、ビールと枝豆を摂取しようと考えた。8万リットルの汗を出したことで、大量の水分が必要であった。
枝豆は久しぶりだった。産毛がはえていてそれは赤ちゃんの背中のように思った。それに、ビールと枝豆のコンビは、ボルトとナットの関係だといえる。
枝豆の皮を指で押すと、表面がつるつるな緑色の豆がぷりんと飛びでた。唇に当たってはねかえってしまった。
不逞者、超人的な反射神経で豆をつかまえにいった。
しかし、指先からするりとすべっていき、不逞者の大きな手をかわした。
拾いあげてふぅふぅしようとしたが、それすらもつるりと逃げていった。不逞者は緑色の豆を追いかけた。
両手をつかって追いかけたのであるが、つかまえた時は800メートルも走らされたのだった。
今日の一言 記憶は、年数が経つにつれて美化される。それを口外すると、さらに美化される。
昨日は小動物なら溶けてしまうくらいの気温だった。そこに湿度が加わり、さらにそれを演出していた。
最近、眠っている間に増えてしまった小説を片づけるため、ホームセンターに板や限りなく板に近いものや板じゃないと見せかけて板のようなものを視に行った。
肉体労働とスナック菓子が不逞者の主な成分なので、自分で本棚をつくろうと考えたからだった。
様々なものがあった。点火すると数秒後に火を噴いて小爆発をおこしたのち、紙製のパラシュートが落ちてくるものだった。ただし、花火という別称で呼ばれているようだった。
ほかには、人間の手首くらいなら簡単にちょんぎってしまえるものがあり、高い位置の枝などに活用できそうなものもあった。この別称は、高枝切りバサミというらしかった。
実のところ、人ごみが嫌いで極度の方向オンチである不逞者、もうすぐ30歳でありながら迷子になったのだった。
理由は単純で、余計なものに目を奪われるからだった。ホームセンターを傷害の容疑で告訴しようと思った。
今日の一言 言い訳に遣う理屈と屁理屈の共通点は、どちらもうっとうしい。
昨日は、近年稀にみるくらいの腹痛に襲われた。といっても腹痛の原因がホッケーマスクをかぶっていたり、夢のなかで長い鉄の爪をもっていたわけではなかった。
しかし、鉄の爪という表現は正しいと感じた。なんかこう、お腹のなかで鉄の爪をつかったドリルのようなものが縦横無尽に暴れているようだからだった。
当然、不逞者は身動きがとれなかった。危機的状況が頻発しており、一瞬の油断もならない状態だからだった。
変なものは喰べていないはずだ。たとえば数種類の魚の顔面のみを手づかみで喰べたというのであれば説明がつく。
一昨日は何を喰べたのか記憶にまったくないのだった。
部屋の片隅でうまい棒の袋についた粉も舐めなかったし、喰べ終わったチョコレートの袋をにおったりもしなかった。
ゴキブリを煮たり焼いたりもしなかった。昆布を蛇で縛ったりもしなかった。何が原因なのかは不逞者にはまったくわからないのであった。
原因をさぐる途中、何度も牛乳を飲みながら考えたがわからないままである。
今日の一言 物事は、把握してから実行するものである。そうすれば理解できる。
昨日は、一昨日に引き続いて殺人的スケジュールだった。たぶんあれは消防車のサイレンだ、という事もあったが野次馬する元気はなかった。
もし不逞者が野次馬をしたなら、『野次馬兼クズ』ということになる。それだけは避けなければならないのだった。
そういうことで何もしなかった。田んぼで農薬散布しているのを見学しなかったし、農薬を頭からかぶって子供たちを笑わそうともしなかった。
食事を一切摂とらないで、ガンダムのプラモデルをつくらなかった。そしてガンプラと略して呼ばなかった。
そろそろ夏本番だからといって、今は夏リハですよ、と友人たちに連絡しなかった。連絡したところで、全部言いきる前に通話が切られてしまうことは間違いないからでもあった。
昨日したことといえば、懸賞ハガキを一生懸命書いているマードレに「それは、なぜ?」と質問したくらいだった。
マードレからの解答は、「あんた、そろそろ誕生日だからねえ……」だった。紛れもない親子だと感じた一瞬だった。
昨日のことを思いだすだけでも指が溶けてしまいそうなくらい暑い1日だった。暑いうえに湿度もあり、したには何もない。
ここ不逞者が住んでいる地域のそばには餃子専門店があって、そこへ行ったというのがだいたいの出来事だった。
というより、それしかしなかった。逆に殺人的なスケジュールでもあった。何もしないことは、何かをさせられるよりも大変だとわかった。
とてつもなくヒマだったので、アフリカから餃子を喰べに行くといった物語を想像した。こんなどうしようもないことを考えてしまえるほどヒマだった。
そして餃子専門店では、安っぽい店なのに禁煙になっていた。下唇を喰べてしまいそうなほど立腹。
それに注文した品物が、あとに注文した人が喰べ終わるまでこなかった。どういうことなのか店員さんに訊ねようとしたら無視された。
もしかしたら他人からは不逞者の姿が視えていないのかと不安になってしまった。隣席の少年に、「ワッターシノ姿ガ、ミエテマースカッ!」と訊いてみた。無視。やはり視えていないようだった。
餃子専門店に行ったのは妄想なのだろうか。
今日の一言 面白い男性が好きだという女性の意見はよくきくが、面白い女性が好きだという男性の意見はきいたことがない。
昨日は日曜日だった。日曜日といえば様々な家族が観察できる日でもあった。つまり、近所に引っ越してきたばかりの外国人家族の観察をしなければならないのであった。
金髪の父親はかなりの長身だった。靴の裏に車輪をつけたものを履いており、人間離れした速度で移動しているのである。
ヘッドフォンとか呼ばれているが結局は耳にあてるものをつけていて、笑い声が「HaHaHa!」というふうに聴こえるのだった。
なぜ急に外国人を観察したくなったかといえば、なんとなくでもあるが、油がついたような虹色のサングラスがひじょうに似合っている珍しい人だからなのだった。
そうして午後。不逞者は例の外国人が現れるのを待った。
カエルを捕まえようと必死になっている少年もいたし、暴走族がわざと女性に接近して空ぶかしをしていた。そんなこともおかまいなしに花壇のところで座って待ち伏せた。
現れなかった。 せっかくの日曜日になにをしているのだと自己嫌悪に陥ったのだった。
今日の一言 人間は、自分が理解できる範囲の人に親近感を抱く。また、理解された場合も同様である。
昨日は駅前にある古本屋へ行った。
アメリカ人よりもはるかに大きなビルの1階にその古本屋があり、真横には立体駐車場があった。
その立体駐車場は自動車を米粒のごとく飲み込んでいた。自動車入口のちょっと横あたりで見物していた。
警備員が不逞者のことを恵まれないブラジル人を視るような視線をくれたが、かまわず自動車を見物していた。
正面から向かって左側が入口で、右側が出口のようだった。
急勾配の入口に躊躇することなく自動車をすべらせる人物が気になった。運転席が視える位置まで移動した。
高級な黒塗りの自動車がやってきて、人間を肩からかじって喰べ殺しそうな人物が乗っていた。これはやばい、そう思った。
相手は野犬と同じで、眼を逸らすと危険だと不逞者の第96感がうったえていた。
相手に不快感を与えないうえに眼を逸らさないで後退した。すると、出てきた自動車のクラクションと大きなブザーに驚かされてしまった。
近所に住んでいる外国人家族が気になっていたが、昨日は雨のなか病院に行かなければいけなかった。
朝から雨が降っていると、何もやる気が起きないのである。たとえ友人が崖から墜ちそうになっていた場合でも、それを無視してミカンの白く細かいやつを除去作業のほうを選ぶだろう。
前回、いつだったかに親戚が死んでしまったと言って病院に行かなかった時もあったが、それはもうしていけないように感じた。
ただ、先週から病院をサボることを2千回は考えていただろうと思う。
「なんだか、熊が出そうな雰囲気がしてます。で、不逞者の前に立ちはだかる熊は、死んだフリをしそうです」
こんなことを脳内で考えてみたが、先生が「あ、それは大変です。病院なんかに来ている場合ではありませんよ」などと言うはずもない。そこに思い至っただけでも成長したといえよう。
ややあって、傘をひらいて外に出たら、傘が複雑骨折していた。ということで、タクシーに乗って行った。
雨道を歩いてこなかったせいか感覚が鈍っていて、自動ドアを抜けてすぐに転んでしまった。転ぶ人の練習は、久しぶりだった。
今日の一言 医者と夜の海の共通点は、「冷静」。
昨日は散髪しに友人のA-2-C君のところへ行った。彼はやはり般若のような顔面をしており、友人というより友般若といってもいいくらいだった。
たまたま店の近くで幼い子供が泣いていたので、彼の顔面を直接みてしまったのだろうと心配になった。当分、夢にでてきて、「節約しねえ子はいねぇかー!」などと言うはずだった。
冗談まじりに前述部分を彼に伝えたら、レモンの香りがする蒸しタオルを冷まさずに顔におしつけられた。
「石になるー! 石にされるー!」
と叫んだら、ほかのお客さんが笑ってしまった。
彼に笑いを奪われたような気がしたので、200文字以内で悪口を言おうした。すると新しい蒸しタオルを不逞者の咽に押しあててきて、勝手な黙秘権を与えられたのだった。
彼は殺人鬼のような顔面で、笑いながら人殺しをしてくるのだった。
「お会計は……、6兆円にまけとく」
などと、顔面がどうかしたようなことも平気で言ってきた。とりあえず彼の胸ポケットからタバコを奪い、力いっぱい踏んづけたのだった。
今日の一言 芸術に進化はない。技術が進歩しても、芸術にはならない。
不逞者、サウナが好きである。サウナに入るためなら家族を差しだしてもいいくらいだった。
そこのサウナはちょっとしたホテルのなかにあり、小さな子供が迷子になったら白骨化するまで発見されないくらい大きな建物なのだった。
メロン風呂やラベンダー風呂といった、なかでライトを点灯させているだけの卑怯な風呂であった。
サウナにはなんの問題もないが、シャワーは問題だらけだった。
備え付けのリンスinシャンプーは、どう考えてもシャンプーのほうが多くて、洗えば洗うほど髪の毛が人形のようになるのだった。
そして洗い流す時だった。カランとシャワーのレバーがあって、温度調節もできるようになっていた。
カランからお湯をだそうとしてシャワーから水をだすようなヘマはやらなかったし、「ひゃっ」と悲鳴もあげなかった。
温度調節は微妙な加減が必要だった。指でとんっと叩くだけで熱くなった。下げようと指で叩くと、なんだかぬるくなってしまった。
仕方なくぬるいほうで洗い流したが、あれはどうにかしてほしい。
地震の影響がどうか定かではないのであるが、町全体が緊張してアガっているというより、緊張しすぎてサガっているといった雰囲気だった。
テレビ画面上部に速報が出るたび、そこに視線を奪われた。次にいつ速報がくるのかと身構えていたら、12歳くらい老けてしまった感じがしたのだった。
地震のあった能登のほうにも友人が住んでいる。この友人というのが曲者で、趣味はお賽銭泥棒らしいのだった。被災者でありながら泥棒稼業に手を染めるのではないかとひやひやした。
「寝言はネタで言え!」
電話口の向こうの友人は元気そうにこう言った。ただし、鼻の穴に指を入れているであろうことは声質でわかった。
憎まれ口を叩くほど、地震のダメージは深刻なのだろうと察知した。
「何か必要なものはないか? あるんだったら不逞者にまかせなさい」
友人は照れくさそうな笑い声をあげていたが、ルーレットが紛失した人生ゲームを送るつもりだった。サイコロでも代用すればいいと考えていたからだった。
人生ゲームでサイコロを転がして、人生そのものも転がっていけばいいという呪いは、無事に届けられるだろう。
今日の一言 心理学が好きな人は、分類しなければならないことに依存している。
昨日は地震があった。以前あった時と同じくらいの揺れだった。
しかし不逞者、こういう災害があることを想定しながら生活しているのだった。
最近になって料理に目醒めたのであるが、味噌汁が嫌いなため手のひらの上で豆腐を切ることがない。だから地震があっても、手のひらが細かく切れてしまうようなことはないのだった。
毎年、レベルの高そうなサーカス団が来日しているが、それに憧れて綱渡りの練習などしていない。つまり、綱を渡っている途中に口に出せない場所が痛くなることはないのだった。
地震の時に自動車を運転していると、逃げ場がなくて地面が割れてしまったらそのまま落下することがあるそうだ。しかし不逞者は自動車を運転する資格を失っている。このために免許更新の年を間違えたといっても過言ではないのだった。
小動物なみに危険を察知することができる不逞者、せいぜいが倒れないように積み上げた小説が倒壊して押しつぶされて内臓を傷めるくらいしか被害はないのだった。
昨日は台風の影響なのか、朝から重たい雨が降っていた。しかし日曜日といえば格闘技の練習へ行かなければならないのである。
救急車や近所の殺人サイレンが鳴っていて、外は危険だという警告をうけているようだった。
外に出てみたが意外と風はなく、向かい風がきても踏ん張るつもりで歩いていたので歩き方が奇妙であった。
奇妙な歩き方といってもいろいろあるのであるが、右手と右足が同時に折れ曲がってしまうのだった。
ということで、最近みつけた階段へトレーニングに行った。そこで初めて風を感じた。
いまのはバランスを崩していたら確実にあの世いきでしたね、というような危ない時もあった。すみませんが背中は押さないでください、といった危険な体験もできた。
結局のところ、全段のぼることはしなかった。なぜなら、1段のぼるたびに片足でバランスをとって、両手をばたばたさせなければ死んでしまいそうだからだった。
トレーニングを挫折しての帰途、自動車に水をかけられそうになったし、それを避けたら玄関先にあったバケツに足を突っ込んでしまったのだった。
今日の一言 結婚に失敗することと、離婚に失敗することは、どちらが不幸なのだろうか。
どうやら世間では台風で騒いでいるようだった。確かに台風は危険である。
前回、いつだったかの台風の時は、犬や猫や小柄なおじいちゃんが風で飛ばされていた。嘘である。
しかし、電線が揺れていて鳥たちは姿を消し、道端でぺちゃくちゃ喋っている主婦たちも消えていた。それはそれでいいと思った。
今回の台風の被害を予測してみた。
年中無休の霊柩車が突風にあおられ事故を起こし、その勢いで棺桶で眠っていた白装束の顔色の悪い人が飛びだすはずだ。
ちょうど事故現場のそばには湖があって、平べったい石が水面を駆けていくように、白装束が駆けていくのである。
対岸へ到着する頃には肌も透けており、走っていたトラックの前を肌が透けている白装束が横切ってしまう。
ハンドルをとられたトラックが正面衝突事故を起こす。炎上。爆風にのって上空へと白装束が飛ばされてしまうのだった。
勇気あるカップルがいる。男子がソフトクリームを買って彼女のところへ戻る。彼女の真上から白装束が落ちてくる。
昨日は朝から生温かい雨が降っていたが病院へ行かなければいけなかった。雨は、冷蔵庫に入れ忘れたメロンくらいの生温かさだった。
それから13日の金曜日でもあった。ジェイソン先輩が我を忘れて人殺しなどをしていたはずだった。
病院へ行けば、運よく逃げきれた人たちで活気づいているはずだと思った。ただし、腕や足などはもぎ取られているはずだろうと思う。
病院に到着したのだけれど、悲惨な光景はみられなかった。ジェイソン先輩は違う地域で暴れたのだろうか。もしくは、風邪でもひいてしまって飲んだ薬が農薬だったのだろうか。
病院の先生にジェイソン先輩のことについて話した。が、先生は、
「私は病院の先生ではありませんよ。病院を教え子にもったおぼえはないですから。ひゃひゃひゃあ」
と、自信満々な面構えだった。
不逞者、「となると、病気の先生でいいですか?」
「それじゃあまるで、私が病原菌みたいですよ。おかしなことを言いなさる」
生温かい雨やジェイソン先輩のことはどうでもよくなった。ただ、なんの先生なのかが気になった。
マードレがまだ入院しているので、不逞者は家事をばりばりやらなければならなかった。口のまわりに生クリームをつけながらばりばりやらなければならなかった。
洗濯は機械がほとんど作業してくれるのだが、食事は自分自身の力がためされているようだった。
スーパーマーケットにもずいぶんと慣れた。初めてカートでのお買い物にも挑戦した。
いらないものをカゴに詰めてひとつずつ戻すというような、一見くるくるぱーに思われることも愉しんでできた。
そして昨日はカレーを生まれて初めてつくった。友人たちに訊いてみたところ、家庭科の授業やキャンプなどでつくったことがあったらしかった。
そのような経験のない不逞者のことを友人たちは、「くだばれ、非国民」とののしった。
おそらくそんな授業があったのだろうと思うが、たぶん不逞者は隠れてハチミツでも指で舐めていたのだろう。
ひと通りカレーの材料を仕入れてきた。カレーに関する文章に穴を開けるほど熟読した。
帰宅すると、知らぬ間に入院していたマードレが流れ者のような感じで退院していたのだった。カレーは、つくってもらうことにした。
今日の一言 人間の本性がわかるのは酔っ払って気が大きくなった時ではなく、病気で弱っている時である。
昨日は、そろそろ不逞者も大人の仲間入りを考えて料理をしようと思った。が、経験値が限りなく0に近いので、すべて勘でおこなった。
いきなり難しいものは無理だと自覚している。鶏ガラスープの粉末を発見したので、中華人民共和国風のスープをつくろうと決めた。
冷蔵庫にあった鶏のささみを鍋に放り込んだ。いつだったか誰かに、ささみからは立派なダシがでると教わった気がしたからだった。
茹でたささみを取り出して手でほぐした。その際、火傷を負ったようで、天井を突き破るくらい跳びあがった。
もやしもついでに放り込んだ。すると、先ほどまではスープらしき味をしていたのに、もやし湯とでも言われてしまうようなものに変化してしまった。
鶏ガラスープの粉末をたした。醤油をたした。塩を入れた。選挙立候補者のポスターに落書きをした。ひげをわざと少しだけ剃り残した。絶交していた友人を思いだして泪した。
結果、人間が飲めるものではなくなった。
目醒めとともに感じたのは部屋に充満した湿気と大雨が地面を叩く音だった。
ものすごい湿度だったので、自分自身が蒸し焼きになってしまったのではないかと錯覚したほどだった。
例のごとく雨に濡れると頬の内側を強く噛んでしまう癖のある不逞者、一歩たりとも外出しないでいた。
不逞者の部屋の横には小さな庭があって、人間の背丈よりもちょっと高めな植え込みがあるのである。
その植え込みが音をたててゆらゆらしていた。普段はそんなところが揺れるはずもないので、これはまさしく泥棒との対決だと考えられた。
窓から外に出て跳び蹴りを喰らわせようかと思ったが、雨で濡れてしまうので断念した。傘をさして外に出ていって、人体を破壊する技を屈指して泥棒を退治しようと思ったが、足許が汚れてしまうので諦めざるをえなかった。
しばらく植え込みの揺れを眺めていると、「ちょぎゃああっはあ」と悲鳴があがった。
肩がびくっと跳ねて心臓が停止しそうになったのであるが、奇跡的に心臓は停止しなかった。
細い道なき道を通って近道しようとしていたおばさんが豪快に転んでいただけだった。
昨日は、なんでそうなったかまったく記憶にないのであるが、レンタル店の大きな冷房の真下を占領していた。
真夏日だったのは憶えているが、どうやってそこまで行ったのかはさっぱり欠落していた。
腕のあたりを確認し、宇宙船にさらわれていないことがわかった。さらわれていた場合は、円い歯型がつくと少年マガジンで読んだことがあったので間違いない。
店内では、違和感のあるカップルが不逞者のほうをずって視ていた。冷房を占領している不逞者に向かって、さきのとがったものを突き刺してきそうな眼光だった。
仕方がないので移動した。が、移動する先々に違和感のあるカップルがいたのだった。尾行ではなく、頭行のようだと思った。
せっかくなので接近してみた。違和感の謎がすんなり解けた。
カップルだと思っていたが、限りなく男性に視える女性で、友達同士のようだった。
不逞者の目玉はまったく役立っていなかった。
たぶん暑さが不逞者の分析力を低下させたのであろうと思い、冷房の真下へ行った。違和感のある友達同士が、また冷たい視線をくれたのだった。
今日の一言 男らしいなとは思うけれど真似はしたくないことは、「耳垢」のことを「耳くそ」と言うこと。
全国で相当数の逮捕者を出したであろう七夕は終わったが、興奮さめやらぬ気持ちの不逞者はトレーニングすることによって忘れることしたのだった。
最近、新しいトレーニング場所を発見したのでそこへ行った。
果てしなく続く長い階段だった。昇りきると大きな神木らしきものがあるのだった。噂によれば、その神木の枝にロープをくくりつけて首だけでぶらさがることに成功した人がいるらしい。
階段を昇りきって熱くなった躰はすぐにクールダウンできると思った。
昇りはじめるとふとももが張っていくのがわかった。意識を上に向けると呼吸が乱れるのがわかった。
それでも我慢して昇った。階段がどんどん崩れさっていく幻覚がみえた。口許がだらしなく開いた。
普段は視ることがないものが視えそうだった。
次に視えたものは、ラムネのビー玉を道具をつかって中に押し込めたが数秒後には溢れてきて半分くらいになってしまい、泣いている幼少時の不逞者の幻覚がみえたのだった。
昨日は、夜になると全国の警察官が見回りをして上を向いている人たちを逮捕することで有名な七夕だった。逮捕されればガス室などにおくられるはずだった。
上を向かないでお願い事を書いた人には、漏れなく願いが成就されるらしかった。
『奥歯に挟まったものがとれますように』
このようなお願い事を書いて、寝る時もうつぶせにすることを決めた。
七夕といえば、七夕が誕生日の友人がいた。その友人はちょっと変わっていて、メールが主流の時代に逆らって生きているのである。
複数の女性にラヴレターを乱発して、どれかひとつくらいはひっかかるだろうと考えているようなクズだった。
しかし、乱発された女性たちは友達同士であり、腕を交差させて生ビールを呑み合う仲だった。当然、下手なピストル作戦は失敗に終わった。
その友人とこの件に関して語りあった。
「どうして失敗したのだろうか」
「それは君が、人間のクズでヘドロで限りなく変態だからだよ」
友人は絶句した。それもそのはずで、不逞者はそんなことは言わない人間だからだった。いつになく、奥歯に物が挟まってなかった。
昨日は天気が良くて、無性にラーメンが喰べたくなった。
歩いて行くと30分くらいかかるところにラーメン屋さんがある。散歩がてらに行くことにした。
途中、あまりの陽気に呼吸困難をおこしそうになった。そしてお目当てのラーメン屋さんが視えた。お客さんが思いのほか入っていて店内は人間で賑わっていた。急にどうでもよくなり引き返した。
ラーメン屋のお向かいに古びた本屋を発見した。
そこは懐かしい空気に溢れていた。店のおじさんは、鼻の頭までずり落ちたメガネをかけており、壁にはハタキのようなものもあった。
「立ち読みはダメだよ」
そう声をかけられたが、立ち読める本などどこにもなかった。
しばらく店内にいると、あやしげなおじさんばかりが入ってきた。どうやらここの客層は、人に後ろ指をさされているような人たちのようだった。
隅のほうにはあまり視かけないHな本が平積みされていた。なるほどと思った。そういう店で有名なのだと覚った。
店から逃げるように出ると、近くを歩いていたおばさんたちに白い眼で視られてしまった。違います、違います。心で呟いたのだった。
昨日は朝から右の眉あたりがかゆかったので、古本屋へ行かなくてはならなかった。とくに意味はないが、そういうことなのだった。
そこの古本屋の前には自動販売機があり、その横には綺麗なベンチが備え付けられていた。それを横目で視ながら入店した。
体温がわりと低めに設定されている不逞者、快晴の昨日も長袖だった。それは間違いなく店員があやしむ姿だった。
いつものように真っ先に百円で売られている小説コーナーへ行った。
棚の端から物色していると、少し離れたところから視線を感じた。店員だった。反対の棚の端から顔の半分だけみせた奇妙な店員だった。
この店員が不逞者のことを何もしていないのに警察へ突き出すのかなどと思った。
気味が悪かったのでコミックコーナーへ行った。もちろん百円のである。すると今度は、さきほどより距離をとったところから不逞者のほうを視ていた。
これ以上視られていると精神に異常をきたしそうであった。
べつだん欲しくもない文庫などを購入した。そして店の前に備え付けられていたベンチで、しばらく頭を抱え込んだのだった。
気候の変化が激しく、昨日は雨だった。
最近ちょくちょく姿をみせていた『るのあ〜る』も、そろそろおかしくなったのか、びしょ濡れでやってきた。
とりあえずソーセージを与えた。それをきちんと正座して喰べた。嘘である。
よほどお腹がすいていたのか、頭部をものすごい速さで上下させていた。手を近づけたら攻撃されそうでもあった。
半円形の器にミルクを入れて飲ませてあげると、勢いあまって器のへりの部分に鼻をぶつけてしまい、頭からミルクをかぶっていた。
不逞者、指をさして笑った。
驚いた『るのあ〜る』は、甘海老のように後ろへ跳んだ。
最近、『ぴっける』と『木村くん』があまり姿を現さなくなったが、誰かにさらわれたのだろうか。もしくは、自動車のタイヤの跡を躰につけられたのだろうか。
『るのあ〜る』が顔面についたミルクを両前足で拭いとろうとしていたが、「ご主人様、これはカマキリのものまねですよ」といった感じに視えたのだった。
携帯電話で撮影しようとカメラを向けたら、さっと逃げてしまった。きっと、照れ屋さんなのだろう。
現在、不逞者が住んでいる場所は、繁華街から少しだけ離れている。地図上だと、たった数ミリである。
最近そこを暴走族が根城にしていてほとほと困っているのである。
カーステレオを搭載したバイクが昼夜かまわず走り回っていて、その音に驚いた鳥が飛びまわってしまいあらゆるところにフンを落としていた。
今度は落ちてきたフンに対して近所の子供たちが「ファッファーッ!」と騒いでいた。
頭がどうかした子供たちに向かって、騒いでいる声よりも大きな音量で母親たちが叫んでいるのである。
そして甲高い女性の声に共鳴するかのように野生の犬たちが一斉に吼えだすといった、むちゃくちゃなサイクルの毎日なのだった。
昼間が騒がしくてお昼寝がうまくできていない赤ちゃんが夜中に泣きだしているといった、とても賑やかな雰囲気になっている。しかし、夜泣きした赤ちゃんに母親が何かをしたのか、「ふぎゅあ」みたいな声をたてて静かになった。
結局のところ、その後が気になってしまい昨夜はまったく眠れないでいたのだった。
ただ、暴走族さえいなくなればまるくおさまるのである。
今日の一言 燃やすゴミはあっても燃えるゴミはない。燃えないゴミは、燃やさないゴミである。
昨日は珍しい人物から連絡があった。3つ連なった甘いだんごをそのまま縦に喰べようとして串の尖端が咽に刺さってしまったトラウマのあるバカ姉からだった。
連絡といっても電話しあうほど仲良くはなく、もっぱらメールであった。人間嫌い同士なので、円滑におこなわれた。
―そういえば貴様、今月で30歳のはずだな。腰骨のあたりが朝から痒くて気がついた。
追伸 うちの娘がヴィトンのバッグを、そして息子がベンツを欲しがっています。どうか願いをかなえてあげてやってね。あたしは、何も欲しくない。
といった内容の迷惑メールだった。読み方によっては恐喝ともとれるものだった。
決して甥や姪の希望したものではない。そればかりか、なぜ誕生日を迎える不逞者がプレゼントしなくてはならないのかが不可解であった。
どこかからメールを受信した携帯電話は壊れてしまうウイルスを入手しなければならない。心をこめて復讐しようと誓った。
昨日は色濃い影ができるくらいの快晴だった。ということで河川敷へ走りにいった。
天気が良かったせいか、不逞者と同じ目的で河川敷へ訪れた人たちもいた。不逞者はその人たちをしばし観察したのだった。
疲労がたまってサウナスーツがだるだるになり呼吸も乱れている男性がいた。注意深く観察した。
かまぼこ入りの安っぽい焼き飯が大好きな、おしりに『愛』のタトゥーを彫っている黒豚のようだった。
トレーニングをしている人々がいれば、自然を楽しんでいるカップルもいた。
お互いの耳を引っ張りあいながら笑っている、どの角度から視てもくるくるぱーなカップルだった。
不逞者、両手で顔面を隠すように覆って笑いを我慢した。
いざ不逞者も運動をはじめると、眼のまわりがチカチカして具合が悪くなった。しかし、しばらく走り続けると金色の羽をつけた天使が舞い降りてくるようだった。
まだまだ走り続けた。昔、小汚い盗っ人に持っていかれてしまった6段変速の自転車がひょっこり戻ってくる幻覚がみえた。笑った。笑った。周囲からは、変な人間を視る視線が刺さった。
昨日は久しぶりに友人と会う約束があったが、待ち合わせに向かう時にバスに無視されてしまい急にどうでもよくなった。
その後も友人から催促の電話がかかってきていたのだけれど、頭から布団をかぶって居留守をつかったのだった。
ということで何もしないで過ごした。
カラオケボックスの全国ツアーも企画しなかったし、『あたしを刑務所につれてって』という恋愛物語も考えなかった。
また、電子レンジのなかにオーブントースターを入れて温めなかった。隣りのおばさんと指きりもしなかった。無心で生クリームをつくったりもしなかったし、隠し子が発覚することもなかった。
約束をやぶられた友人が怒りに身をまかせて放火しにくることもなかった。助かった。
時々こうして約束をやぶってしまうことがあるが、わざとではないのだった。
友人にはあとで、8人の妻と17人の子供たちに家にいてくれるようお願いされたと正直に言って謝罪しようと決めた。信じてもらえなさそうだが、本当のことである。本当のことである。
|