カゼノトオリミチ
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2008年02月26日(火) |
浅い春 くもりの午後 |
うす灰色の午後 西の空は
大陸から届いた 細かい砂粒に
低く覆われ
わずかな雲の隙間から 淡い水色が 覗く
ホコリだらけのベランダに
行き場をなくした オモイばかりが
吹き溜まり なぜ
もう 季節が動くのか
ああ いつもそうだ 浅い春には
土色の風に吹かれ
まとまりなく 毛羽立つ 雛鳥の胸毛のように
ざわざわと ココロが あわ立ち
これから どこへ散ってゆけばいいのか
心の準備もままならず 立ち尽くす
ゆうゆうと 黒いつばさで 風に乗る
カラスになりたい
強い風を 受けて
淡い春を
右から左へ ナナメに横切り
飛んでみたい
木立が 震える朝も
みぞれ混じる 雨の午後も
屋根の上 凍る月が 輝く夜も
同じ空の下 息をしている
それだけは 確か。
…たぶん。
よろこびは 届かなくても
かなしみも 拾うこと 出来なくても
吐き出した 息の粒は
浅い春の空気に 溶け込み
排気ガスと一緒に この街にも 届く
存在の わずかな気配を 感じとろうと
ワタシは今日も
耳を澄ます
風の ベランダで
小さな街に溶け込むよう
5時の教会の鐘が 鳴ると
路地のあちこちから 生まれる風
いろんなもの 連れてくる
それは
湿ったニオイのむかし話ばかり
ワタシは
頬に 張り付く髪の毛を
振り払う
いやいや するように
街はずれの 坂の向こうの雲
たそがれ色に染まり
そおいえば
あなたの存在は その雲のようで
立ち止まる
遠く 遠いね
自転車のペタル つま先つついて 言い聞かせる
遠いよ 遠いね
だから
もう いいよ
たそがれ時の風は 私を見つけては
むかし話を したがるね
この坂道を 滑走路にしたら
届くかな
あの雲まで
北風の午後のお散歩
陽だまりで 鼻をすりつけ さがしもの
ワタシは 生垣のむこうに
紅色の梅が ほころんだのをみつける
お庭の橙の実を
黒いカラスが 悠々とつつくのを
柵の間に 鼻先つっこみ
じりじり 見ている茶色い子
ワタシは 橙の実の青空に映えるのを
うっとり眺めている
角を曲がると ぴゅうと吹く
冷たい風が 嬉しいの シッポを追いかけ
くるりとまわる
ワタシは 遠くのベランダで 忙しくはためく
白い洗濯物たちを ぼんやりみている
感情などいらない
鉛いろの空の下 歩くには
あなたの爪を 切りながら
どうして 伝わらない いいえ 伝えられない
誰が 望んだろう 消せない 昨日を
今までも この先も
苦しくても 捨て去りたくても
大切なあなたは 私の宝物
重いまぶた 閉じれば
明日が やってくる
守るしか ない 一輪の花
あなたの 笑顔
黒く塗りつぶした 記憶と共に
向かい風が 思いのほか まぁるくて
口ずさんだ 歌が ほろりとさせて
自転車のペダル せかせか 踏んだ
こんな どこかの 遠い町まで
あなたの歌が 風にのって 流れてきて
どこの誰とも 知らぬ 私にさえ
頬ずりしていった ような 錯覚
カゴの長ネギが ゆれる
傾きかけた太陽が
道路を金色の道に かえる 魔法
親子連れの シルエットを 横切る のらねこ
春は まだ 遠いね なんだか
届かなくって
そんなこと わかってて でも
涙が でちゃうよ
natu
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