歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年03月31日(月) 4月1日 医療機関は混雑します

早いもので今日で弥生3月が終わり、明日から卯月4月が始まります。4月は年度初めでもありますから、新聞を見ていますと、様々なことに変更があるということが記されています。

医療機関においては今年の4月は2年に1度の医療保険改定が行われます。その最たるものは何と言っても後期高齢者医療保険制度の創設でしょう。75歳以上の人は新たに創設された医療制度に必ず入らないといけません。これまで扶養者家族扱いだった75歳以上の方も例外ではなく、全ての75歳以上の方は後期高齢者保険に入らないといけないのです。
後期高齢者医療保険制度の最大の問題は、何といっても75歳以上の高齢者が応分の保険金を支払わないといけないことでしょう。75歳以上の高齢者といえば、残りわずかな余生を生きている人生の先輩です。そのような方に対し、保険料を支払えというのは如何なものかと僕は思うのですが、高齢者にかかる医療費が毎年高騰していくなか、厚生労働省が作り出した後期高齢者医療保険制度がどうなるのか?誰も先行きは見えていません。

我々歯医者にとってもいろいろと議論がある医療保険改定ではあるのですが、少なくとも言えることは、4月1日を境に前日まで把握していた医療保険に関することが大きく変わるということです。
何を今更当たり前のことを書くのだ?と思われる方も多いことでしょう。突然変更される変化に対して柔軟に直ぐに対応できるのであればいいのですが、歯医者も人間です。突然の変更、変化に対して戸惑いがあるものなのです。
また、一般の方にはわかりにくいでしょうが、医療保険には定められた条文に対し独特の微妙な解釈がいくつもあるものです。非常に抽象的な表現の条文がいくつもあり、これらは、逐次厚生労働省の担当者に問い合わせをしながら解決していかなくてはいけないのです。おそらく、この変更に対する解釈が通達されるには数ヶ月程度必要かもしれません。

これら戸惑いは多かれ少なかれ診療態勢にも影響します。保険診療の場合、歯医者は一人の患者さんの治療が終われば速やかにカルテを記入しなければなりません。時には患者さんに対して説明用の文書を発行しなければなりません。それぞれの治療行為に与えられた保険点数をカルテに記入しなければなりません。これらは全て医療保険の規則で決められているのですが、医療保険が変わるということは、治療と治療終了後の事務手続きさえ変更になるのです。そのため、医者、歯医者は時には試行錯誤しながらカルテや必要書類を記入しなければなりません。受付では医療保険の変更を踏まえて処理を行わなくてはなりません。
もちろん、これら医療保険の変更に対しては事前に厚生労働省から説明があり、地域の歯科医師会や保険医協会などの組織を通じ、医者、歯医者に通知がいくのですが、事前とはいっても3月後半になってからです。4月1日までの残されたわずかな時間を使って変更点を理解し、実行していくには無理なところがあるのです。

残念なことながら、そのしわ寄せは患者さんに行かざるをえないのです。いつも以上に受付での手続きが手間取ることになります。一日の時間をやりくりして医療機関を受診した患者さんにとっては何ともストレスが溜まる思いをされることがあるかもしれませんが、医療機関もそれなりに必死で新しい医療保険制度に慣れようとしています。おそらく医療機関がそれなりに改定された医療保険制度に慣れてくるには4月一杯かかるかもしれません。

4月1日に医療機関を受診される方は、どうかこの点を含んで頂きたいと思います。



2008年03月29日(土) 自分の声を録音して感じること

先週末、地元歯科医師会では総会が開かれました。今回の総会は平成20年度の予算を決定する総会だったのですが、僕も下っ端の会員の一人として参加してきました。
今週、仕事の合間をぬって行っている仕事の一つがこの総会の記録です。具体的には、議事録を作成しているのです。総会中に録音しておいたICレコーダーをもとに議事録を作っています。

大変面倒なことではありますが、録音された音声を聴き返してみるといろいろと勉強になります。○○先生は話の組み立てが論理的で間の取り方が上手いとか△△先生は話の内容は言いのだかテンポ感が良くないとか××先生の話は例え話が多い等、実際に聴き直してみるとそれぞれの先生の個性が出ており、非常に興味深いものがあります。

ところで、録音というと初めて自分の声を録音した時のことを思い出します。幼少の頃、テープレコーダーに録音した自分の声を聞くと、自分の声が普段感じている音とは全く違っていることにびっくりしましたものです。こんな声を周囲の人は僕の声として聞いているのか?自分で把握していない別の自分がいるようで恥ずかしい気持ちで一杯だったのです。
これにはちゃんと理由がありまして、自分が発している声を自分で聞く場合、自分の声だけでなく自分の骨をはじめとした体の振動に影響された声を聞いているのです。そのため、声単独だけの音を聴こうとすれば、録音したものを聴かなければ聞けないのです。

録音した自分の声を聴いていると、自分で注意深く話しているつもりでも、自分で自覚していなかった話し方のくせが見えてくるものです。早口だったり、発言の間に“エ〜”という音が入っていたりして、他人が聴くと聴き辛いものがあるなあと反省しきりです。
しかしながら、僕自身、非常に恥ずかしい思いをしながらも、自分の話し方の良い点、悪い点を冷静に振り返ることができるのは非常に有意義ではないかと思うようになりました。

今の僕の話し方はどうかといいますと、お世辞にもいいものとは言えません。相変わらず下手くそな話し方ではありますが、他人とのコミュニケーションを取り、気持ちよい人間関係を築くためにも、時には自分の声を録音して、聴き直すことは決して無駄なことではないのではないか?

そんなことを感じながら、テープ起こしを続けている歯医者そうさんでした。



2008年03月28日(金) 用意周到な準備がいるケンカ相手

先日、僕は地元歯科医師会の代表の一人として地元市の担当者と話をする機会がありました。いくつかの懸案事項について話し合ったのですが、地元市の担当者の一人が歯科に関することを非常によく調べていたことに驚きました。我々歯科業界人でないとなかなかわからないような細かい点まで調べ、理解していたのです。この日の会合では懸案事項はスムーズに解決の方法に導かれていったのですが、担当者との話し合いの後、僕は同席していた地元歯科医師会の上司の一人であるK先生と話をしました。

「それにしても、担当の○○さんはよく歯科のことをご存知でしたね。」
「○○さんは相当念入りに歯科業界のことを調べて理解しているのだと思うよ。大したものだよ。」
「もともと○○さんは医療に明るかったわけではない人だったはずですよね。」
「数年前に我々と初めて会った時は歯科のことを何も知らなかったよ。業界用語を一つ一つこちらから教えていた時期もあったくらいだったんだよ。それが今では我々と対等に話ができるくらいになっているよ。」
「もともと歯科のことに興味があったのでしょうか?」
「そういう側面もあったかもしれないけど、担当者として勉強したんじゃないかな。それとね、一つ忘れてはいけないことがあるよ。それは彼が役所に勤めているということだよ。」
「それはどういうことですか?」
「役所に勤めている公務員というのは何か問題が生じた時に責任を取らされることを最も嫌うわけなんだよ。市民から税を預かり公務を行っている公僕であるから、何か起こったら大変なことになるでしょ。責任は重大なわけよ。そのようにならないように普段から保身を考えることは、彼らの習慣のはずなんだよ。」
「保身ですか?」
「そう、保身。保身のためには単に言い訳をするだけではなく、それなりの知識、情報を持ち合わせておかないといけない。充分に準備をすることによって何か問題が起こったり、相手から問題を起こされた時に対処できるようにする。今回の○○さんの対応を見ていると、表面上は非常に歯科のことに理解があるように思うのだけど、自分が知っている全てを口に出しているわけではない。小出しにして話をしている。自分の手の内を全て出さずにね。用心しながら話をしているような所があるよ。我々とは打ち解けて話をしているように思うけども、肝心なところは言葉を慎重に選んで話をしている。彼こそまさしく公務員、優秀な公務員なんだろうなあと思う。我々にとっては、交渉相当としては相当タフな人であることは間違いないよ。」
「ケンカ相手としては相当手強いということですか?」
「ケンカするにはこちらも用意周到に準備をし、気合を入れてしないといけないということだね。単に感情的にしてしまうと相手の思うツボだよ。」



2008年03月27日(木) タフトブラシってご存知ですか?

皆さんは歯ブラシと聞いて真っ先に思い出すのが、このような歯ブラシでしょう。
ヘッドの大きさ、幅、毛の列数、毛の柔らかさによって多種多様なものがありますが、概ね下の写真のような写真が歯ブラシと言えます。


同じ歯ブラシでも歯と歯の間を磨く歯間ブラシは下の写真です。





それ以外にこんなブラシもあります。






これはタフトブラシと呼ばれる歯ブラシです。通常の歯ブラシと比べ随分と小さなヘッドであることがわかると思います。





既に歯科界でこのタフトブラシが導入されてから10年以上になると思いますが、非常にユニークな形でありながら歯の清掃効果が期待できる歯ブラシです。

例えば、
普通の歯ブラシで磨いていてどうしても歯と歯肉との境目(専門的には歯頸部といいます)に磨き残しがある場合、歯と歯が重なり合っている場合、

歯と歯の境目や歯と歯茎の境目に普通の歯ブラシで磨こうとしても毛先が届かないような場合

歯の矯正治療中、固定式の矯正装置を装着している場合の歯の清掃

歯肉から出ようとしている永久歯の清掃

ブリッジを装着している人で、ブリッジのダミーと呼ばれる歯が無い場所の清掃

入れ歯を使用している人で、入れ歯と接している天然歯などの清掃

等々に効果があります。

また、患者さんの中には、いわゆる、嘔吐反射が激しい人がいます。奥歯に物を入れるとそれだけで“オエッ”と吐いてしまうような人です。口の中の粘膜や咽喉の粘膜が過敏で直ぐに嘔吐してしまう反応を示すのですが、こうした嘔吐反射の激しい人の場合、歯ブラシを奥歯に入れようとしても嘔吐反射が起こり、充分に奥歯を磨くことができずにむし歯になったり、歯周病になったりするのです。
こうした人の場合、タフトブラシは重宝します。ヘッドが小さいため敏感な粘膜を避けながら奥歯だけを的確に当てて歯磨きをすることが可能だからです。僕自身、これまで何人もの嘔吐反射の激しい人にこのタフトブラシを勧めていますが、評判が良いです。

タフトブラシはヘッドが小さい分、通常の歯ブラシに比べ歯磨き時間がかかってしまう欠点はありますが、歯の隅々まで当てて掃除できることから、歯医者の中には全ての患者にタフトブラシの使用を勧めている人もいます。

興味のある方は一度お近くの歯医者さんに問い合わせてみては如何でしょうか?



2008年03月26日(水) 救急車、AED経費は誰が負担するのか?

先日、地元歯科医師会の先生から聞いた話ですが、ドイツ人の知人が突然、胸痛を訴え、救急病院に搬送されたのだそうです。原因は心筋梗塞だったそうですが、発症した間もなかったこと、救急病院への搬送がスムーズだったこと、それから、適切な処置を受けられたことから命に別状はなかったとのこと。
その後、何日かしてから救急病院を退院したのだそうですが、救急病院での医療費の支払いを終えてから、ふと疑問に感じたことがあったのだとか。それは、救急車の利用料金。ドイツでは救急車は利用料金を支払わなければならないのだそうで、日本でも当然の支払い義務が生じるはずだと信じ込んでいたのだとか。ところが、いつまで経っても支払いの催促がどこからもなく、疑問に感じ、知人に相談してきたというのです。日本では、救急車の利用は無料であることを伝えると、非常に驚いたのだそうです。

救急車の利用が有料であることを当然だと思っていた外国人であればそう感じても不思議ではありません。
むしろ、日本人であれば救急車は無料で使用できるものと当然のことのように感じている人がほとんどではないでしょうか?海外で日本人が救急車で搬送された場合、後日、救急車の利用料を請求され戸惑いを隠せなかったという話も何度か伝え聞いています。

昨今、軽度の症状であるにも関わらず救急車を出動要請する人が増え、本来救急車で救急病院へ搬送しなければいけないようなケースで救急車の出動が滞ったり、搬送が遅れてしまうようなケースが多いようです。これら背景には、救急車の利用が無料であるが故に、気軽に救急車の出動を要請したがる人が多いこともあるのではないかと思います。

現在の日本では救急車の利用は無料ではあるのですが、救急車が一度出動すれば、かなりの経費がかかることは容易に想像がつきます。救急車のガソリン代、管理費、内部の装置の購入費、メンテナンス料、救急隊員の出務費、救急隊員にかかる保険料等々、さまざまな経費がかかっているはずです。これらを利用者が支払わないということは誰かが代わりに負担しているということです。これらは全て公費、税金で賄われているのです。日本で税金を支払っている人が皆で負担をし、救急車の出動を支えているのです。

こういった目に見えない医療負担ですが、体外式自動除細動器(AED)についても同様です。
AEDとは、何らかの理由で突然心臓が停止し、倒れてしまった人に対し電気的ショックを心臓に与えて心臓が再び動くようにする器械のことです。元来、専門的知識と技術をもった医師が除細動器を使用していたのですが、法律の改正により、一般市民でも扱えるような除細動器が開発されたのです。これがAEDです。救命効果をあげています。

最近では市役所、公民館、学校、駅、デパート、ショッピングモールといった様々な公共の場所で設置が進んでいます。万が一、誰かが突然倒れた場合、救命するために非常に好ましいことではあると思います。
ちなみに、我が歯科医院でもこのAEDを導入しました。診療所の中で使用するのはもちろんのこと、万が一、近所で使用しなければならないような状況になった場合には、積極的に貸し出せるようにしようと考えています。

このAEDですが、決して安いものではありません。いくつかの機種がありますが、概ね定価は30万円前後といった代物です。高額であるためにリース契約でAEDを使用している場合もあるくらいです。
実は、AEDは機種による違いはありますが、買ってしまえばそれでおしまいというわけではありません。AEDには消耗品があるのです。それは電池であったり、胸に取り付けるパッドであったりします。これら消耗品もそれなりの値段がします。(ここの下部を参考)。

もし、連続してAEDを貸し出すような事態になった場合、その経費は誰が負担するか?本来ならAEDを使用して蘇生した人やその家族、関係者に請求すべきなのでしょう。
実際の運用はどうなっているのか?詳細はわかりませんが、我が歯科医院では、ケースバイケースで考えようということになりました。本来なら、我が歯科医院以外の人が使用した場合、使用を受けた人にAED使用料を請求してもいいのですが、所謂近所付き合いを考えると、AED使用料を請求できない場合もあるのではないかと考えたからです。

こういった状況を考えなければならないのも、公共の物、特に医療に関わるものが世間では無料であるという認識が強いことがあります。
決して、公共の物、医療が無料であることはありません。誰かがその経費を支えている事実。我々は多くの人の協力、努力による相互互恵によって生活している。誰もがそのことをもっと自覚しなければならないのではないかと感じた次第です。



2008年03月25日(火) 酔っ払い歯医者とタクシー運転手との会話

先週末、地元歯科医師会仲間との呑み会があり参加してきました。呑み会が終わったのは既に11時をまわっておりました。予めアルコールを飲まなければいけないことがわかっていた僕は会場へは車では向かわず、最寄の駅から徒歩で出かけたのです。

この呑み会が終わった後、僕はタクシーで家に戻りました。タクシーの後部座席につき、行き先を告げ、一息ついたときでした。タクシーの運転手が声を掛けてきました。タクシーに乗ったことがある人なら誰しも経験することがある光景です。タクシーの運転手との会話は話が弾む時と、話もしたくないくらい時があるのですが、今回は前者でした。

今年の冬は厳しい冬だったという話からいつの間にか話題はスタッドレスタイヤへ移ったのです。

「今シーズンの冬は雪がたくさん降りましたから、スタッドレスタイヤが大活躍でしたよ。」
「スタッドレスタイヤの使用できるのはどれくらいの期間なのでしょう?」
「いろいろと話がありますが、大体2年〜4年と言われています。」
「一年通してつけているわけではないのにどうしてそんなに短いのでしょうね?」
「タイヤの材質によるらしいですよ。コンパウンドの材質の影響だそうですよ。例えるなら、歯ブラシとよく似ているのだそうですよ。」
「歯ブラシは使用していると毛先が徐々に広がっていくでしょう。最初のうちは毛が新しくきちんと歯に当たっているのですが、使用しているうちに徐々に毛が広がっていき、歯磨き効率が落ちていきます。それと一緒だそうです。スタッドレスタイヤは表面上問題なくても、使用しているうちに路面と設置している部分が消耗し、その結果、コンパウンドが伸びてしまい、接地効果が無くなってくるそうなのです。」

歯ブラシの例えに思わず身を乗り出して聞いてしまった、酔っ払い歯医者そうさん。
その後、僕が降りるまで歯磨き談義となってしまいました。

運転手が歯と歯の間に歯石が溜まって仕方がないという話をしたため、歯医者へ行くことを勧めました。
一度歯石を取ってもらってから歯石がたまらないようにするために、歯間ブラシがあることを教え、少なくとも一日一回使用することで歯石の溜まり方が随分変わることを教えてあげました。また、歯ブラシの交換を怠ると、歯ブラシの毛先に雑菌が繁殖し、歯磨きがかえって雑菌を撒き散らす結果となること、歯磨き粉の使用は控えめにすることなどを、わかりやすく説明してあげました。
その会話の陽気なこと!
酔っていたからで、後から思い起こせば恥ずかしいかぎりですが、

「お客さん、妙に歯ブラシのこと詳しいですね。もしかしたら歯医者さん?」
「そんなところかもしれませんなあ。」
と言いながら、料金を支払い、タクシーを降りた歯医者そうさんでした。



2008年03月24日(月) 酸で歯が溶ける!

インターネットで検索しているとこんな記事に出くわしました。以下、この記事からの引用です。

米国で酸蝕歯(さんしょくし:歯を保護するエナメル質の減少)が増大しているとの研究結果が、歯科専門紙「Dental Tribune」最新号に掲載されたとのこと

研究を行った米テキサス大学衛生科学センター准教授Bennett T. Amaechi氏によると、今回の研究は、酸蝕歯(dental erosion)の米国での有病率の高さを裏付けるとともに、酸蝕歯の有病率、原因、予防および治療に関する認識をもたらした点で重要だという。同大学のほか、米インディアナ大学および米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で実施された今回の研究では、10〜14歳の児童900人を対象に調査した結果、30%に酸蝕歯が認められた。

酸蝕歯は、清涼飲料、スポーツ飲料、一部の果汁およびハーブティーなどのごくありふれた製品に含まれる酸が原因となって生じる。このような飲料を過剰に摂取すると歯のエナメル質が容易にはがれ、歯がもろくなったり、痛みを感じやすくなったりする。これら飲料に含まれる酸は極めて侵蝕性が高く、虫歯の原因菌さえ生きることができないほどだという。また、アスピリンのような一部の薬剤の定期的な使用も酸蝕歯の原因となるほか、酸逆流症、嘔吐を繰り返す摂食障害(過食症など)も、胃酸による酸蝕歯を引き起こすことがある。

Amaechi氏は「手遅れになる前に、歯科医が酸蝕歯の存在およびその原因を突き止めることが重要。酸蝕歯によってエナメル質がなめらかになり光沢があるように見えることと、初期の段階では痛みも過敏性もないことから、深刻な状態になるまで気付かない患者が多い」と述べている。



酸蝕歯について書かれているのですが、酸蝕って何かご存知でしょうか?文字通り酸によって何かが溶けてしまう現象のことを指します。口の中では、酸によって歯が溶けてしまうことを酸蝕といい、酸蝕が起こった歯のことを酸蝕歯といいます。
歯には臨界pHというものがあります。臨界pHとは、歯が溶け出す口の中のpHのことを言うのですが、人間の臨界pHは5.6と言われています。すなわち、口の中のpHが5.6以下になると歯は溶け易くなるのです。

人間の口の中が酸性に傾くような環境があるのだろうかと思われる方もいるかもしれませんが、意外とそのような機会は多いものです。最たる例が清涼飲料水です。清涼飲料水の中にはクエン酸やリン酸といった酸が含まれているのです。そのため、清涼飲料水は多くがpH3〜4にあるのです。

清涼飲料水による酸蝕を考える場合、酸蝕が起こる歯は清涼飲料水の飲み方に左右されます。例えば、清涼飲料水の飲み方。ストローで清涼飲料水を飲む場合、ストローの先端が歯に接触していれば、その場所に清涼飲料水が直接当たることにより歯が溶けやすくなることがあるのです。

清涼飲料水ですが、保存温度が低いほどpHが低下する傾向にあります。よく夏場に暑いからといってよく冷やした清涼飲料水を飲むなんてことがあります。非常に爽快であることはよくわかるのですが、しょっちゅうこのようなことを繰り返していると、歯が溶けやすい環境を自らが作り出しているといっても過言ではありません。

それでは、人間は清涼飲料水を飲めば常に歯が溶ける危険性があるかといいますと、実際はそうではありません。理由は口の中にある唾液にあります。

通常、人間の口の中には唾液が絶えず分泌されています。その量たるや1日あたり1.5リットルですから相当な量の唾液が口の中を満たしています。唾液は口の中に食べ物や飲み物が入ってくると出てくるものです。清涼飲料水を飲んでいてもそうで、清涼飲料水のpHが高かったとしても唾液によってpHが中性になる、緩衝されるために常に歯が溶けるわけではないのです。

また、唾液の量は一日常に同じではありません。基本的に夜間、寝ている時には量が少ないのです。就寝前についつい清涼飲料水を飲み、そのまま寝てしまうなんてことがありますと、歯が溶けやすいことになるのです。
かつて、清涼飲料水を哺乳瓶で与える親が問題になったことがありますが、これなどは親が自ら子供の歯を溶け易くしているようなもので、非常に危険なことなのです。

清涼飲料水を無意識に、無条件に良いと信じることは危険であるといえるでしょう。
ただ、いたずらに清涼飲料水を怖がる必要はなく、清涼飲料水の特性を理解して歯が溶けないような策を講ずればいいと思います。清涼飲料水を飲んだ後には歯を磨いたり、少なくとも口を濯ぐようなことをするのは最低限必要ではないかと考えます。



2008年03月21日(金) 携帯電話に縛られたくない

昨日、インターネットでニュースを見ていると、このようなニュースがありました。
某ゲーム会社が全国16200人を対象に調査した結果、
『お風呂で携帯電話を使ったことがありますか?』の質問に対し、全体の41.2%が「使ったことがある」と回答したそうなのです。

僕はこの結果に驚きました。なぜなら、僕は風呂に携帯電話を持ち込んだり、実際に風呂で携帯電話を使用したことが一度もなかったからです。

最近、仕事の上で、それから仕事以外の面でも連絡先を伝え合う際、携帯電話の電話番号や携帯電話メールアドレスを交換することが多くなってきました。医療機関に来院する患者さんの中にも自らの連絡先に自宅や仕事先の固定電話の電話番号を記入するよりも自ら持っている携帯電話の番号を記入する人も目立ってきました。もはや携帯電話は日常生活においてなくてはならない物の一つになってきた感があります。

かくいう僕も携帯電話を持ち歩いている一人ではあるのですが、地元歯科医師会の同僚からは、よく
「そうさんの携帯電話に電話をかけても通じないことが多い」
と言われます。
僕は、自宅を離れ、どこかへ出かけている時には必ず携帯電話を持っていますが、自宅や自宅の隣の診療所にいる時、僕は携帯電話を携帯していません。自分の部屋の充電器にセットしているのが常です。しかも、携帯電話は常にマナーモードにしていますから、携帯電話が鳴っていてもわからない時が多いのです。

地元歯科医師会の同僚の多くは常に携帯電話を携帯しているようで、いつ何時電話をかけても出る人がいるくらいです。僕もそうすればいいのでしょうが、自宅や診療所にいる時には携帯電話を持ち歩きたくないのです。

確かに携帯電話を持っていれば通話エリア内にいる限りはいつでも連絡できる気軽さがあります。けれども、僕はその気軽さが非常にうっとおしく感じるのです。何だか携帯電話に常に見張られているような、縛られているような気がしてなりません。かといって何か急な連絡があれば常に連絡を取れるようにしておかなければいけないとは思うのですが、自宅や診療所にはちゃんと固定電話があります。友人や知人、地元歯科医師会関係の先生にはちゃんと自宅や診療所の固定電話番号を教えていますので、そちらへ電話をかけてくれればいいことなのです。何も家の中や診療所まで常に携帯電話を持ち運ぶ必要はない。

中には、家族の誰にも知られたくないことを連絡をしたい人もいることでしょう。そういった人は家の中でも携帯電話を常に持ち運ぶ必要があるでしょうが、僕はそういった必要性を感じません。特に、何か家族に知られてはまずいような連絡先も思い当たりませんので、はっきりいって、家の中での僕の携帯電話は無防備です。それでいいと思います。
それよりも、常に携帯電話を持ち運ぶストレスから解放されたい。少なくとも家や診療所で仕事をしている時には携帯電話から自由になりたいのです。
こんな僕はおかしいでしょうか?時代遅れかも知れませんね。



2008年03月19日(水) 子供と共に幼稚園卒園

昨日は日記を休ませてもらいました。日記を休んだ理由は下のチビの幼稚園卒園にありました。午前中に下のチビの卒園式に出席、その後、記念の食事をし、直ぐに帰宅して午後の診療、診療終了後、息つく暇も無く地元歯科医師会の夜の会合へ出席。深夜遅く帰宅した時には日記を書く体力は無くなっておりました。普段と違う生活リズム、パターンで一日を過ごすと夜遅くともなると心身ともに疲れます。以前はそれほどでもなかったはずなのですが、やはりよる年波には勝てないということでしょうか・・・・。

それはともかく、月曜日、年長生だった下のチビの卒園式が幼稚園で行われました。僕は嫁さんとともに下のチビの卒園式に出席。
月曜日というと週明け最初の日であり、当然のことながら診療日ではあるのですが、一昨日は午前中の診療を休診して出席させてもらいました。
子供の幼稚園の卒園のために仕事を休むということに関しては賛否両論あるでしょうが、僕自身、上のチビの卒園式にも出席していたことから、下のチビの卒園式には出ないと子供の間に不公平が出てしまうように感じたため、出席しました。また、下のチビが年中生の間、幼稚園のPTA会長を務めていたこともありましたから、下のチビの卒園式を無視するわけにもいかなかった事情もありました。

実際に出席してみると、卒園式には多数のお父さんが出席していましたね。もともと月曜日が休みの方もいるかもしれませんが、大半が午前中、仕事を休まれていました。その証拠といっては何ですが、卒園式が終わるや否や直ぐに幼稚園を後にするお父さんを何人も見かけました。
多くのお父さんはビデオやカメラを片手にわが子の卒園姿を必死で記録しようとされていました。これは入学式や運動会などでどこの幼稚園でも見られる光景ではないでしょうか。かくいう僕もビデオやカメラを持って下のチビの姿を追っていた一人なのですが、何とも小市民だなあと我ながら感じた次第。

全くの親ばかですが、下のチビが園長先生から卒園証書を受け取った時には何とも感慨深いものを感じました。上のチビとは異なり、アレルギーがあり喘息の発作で何度も夜間に救急病院へ連れて行った下のチビ。幼稚園には休むことも多かったのですが、それでも他の園児と共同生活を営み、小さいなりにも社会生活を過ごすことができるようになったのは親としてうれしいものです。

二人の子供しかいない我が家では、一昨日をもって子供の幼稚園生活が終わります。上のチビから始まった幼稚園生活の5年間(上のチビは年中生からの2年間でした)、長かったようであっと言う間に過ぎていったように思えてなりません。僕自身、仕事の合間をぬってチビたちの幼稚園の送り迎えをしたこと、そして、縁あって一年間PTA会長を務めたことで自分自身もかつて経験したはずの幼稚園生活をもう一度過ごさせてもらったかのように思えてなりません。

そんな思い出にある幼稚園からの卒園。チビだけではなく僕自身も卒園したような気がしてなりませんでした。二度とチビのことでこの幼稚園に足を運ぶことはない。そう思うとチビ以上に寂しい気持ちで胸が一杯になった、歯医者そうさんでした。



2008年03月17日(月) 血まみれ抜歯とモーツァルト

歯科医院を来院する患者さんは多くの人が何らかの不安、緊張を抱えています。そういった患者さんのストレスを少しでも解消できないものか?そのような思いから患者さんの耳に聴こえるか聴こえない程度かの音量で心地よい音楽を流すことは決して無駄なことではないのではないかと思い、僕は診療中にBGMを流しています。

多くの医療機関ではBGMを流していますが、BGMはクラシック音楽が多いことでしょう。あまり耳障りがせずに気軽に聞き流すことができる音楽としてクラシック音楽を選択する医療機関が多いのではないかと思います。
うちの歯科医院の診療室でもBGMとして有線のクラシック音楽を流しています。クラシック音楽といっても多種多様な音楽があるのですが、いつも流しているのはモーツァルト。かつて僕はいろんな種類のクラシック音楽をBGMとして使用してきたのですが、患者さんの反応を見ているとどうもモーツァルトを流している時の状態が最も優れているように思うのです。
どうしてモーツァルトの音楽が好まれるか?理由ははっきりとはしませんが、愚考するに奇をてらったメロディーではなく誰もがなじみやすい旋律であること、曲の構成が単純であり、クラシック音楽になじみのない人でも慣れやすいこと、音の強弱が少ないことなどが挙げられるのではないかと思います。
モーツァルトの音楽がBGMとして適していると感じるのは僕だけではないようで、専門家の中にはモーツァルトの音楽は胎教にも良いと話す人もいるようです。中にはお酒の麹を育てるためにモーツァルトを流したり、中には昆虫を養殖する際にモーツァルトを流している所もあると聞きます。

そんなモーツァルトの音楽をBGMとして流しているうちの歯科医院ですが、先日、知人にそのことを話した際、知人がつぶやきました。

「抜歯で口の中が血まみれの時もモーツァルトが流れているわけですね。」

知人の指摘に思わずびっくりした歯医者そうさん。知人の指摘は全く間違いがありませんでした。確かに、血まみれ抜歯の最中にもモーツァルトは流れているのです。

おそらく患者さんは自らの口の中で行われていることに対して、あまり気がつかないことでしょう。僕も歯医者として処置に集中しているはずですし、周囲のスタッフの処置をサポートすることに専念しているはずです。
けれども、この状況を客観的に考えていれば、抜歯をして出血している状況でモーツァルトの音楽が平然と聞こえている状況は、結構異様なものではないか?天国の神様が僕の抜歯処置を見ていれば、そう感じても不思議ではないかもしれません。

元来、モーツァルトは自分の音楽を音楽愛好家のために作り、作曲し続けてきたわけですが、後年、自分の音楽が抜歯の際に使われていることを知ればどんな反応をするでしょう?実に興味のあるところです。自分の想定の範囲外での自分の音楽の使われ方に思わず苦笑しながらも、“まあいいか!”と思ってくれているのではないか?と信じたいです。患者さんの緊張を緩和させられるような音楽を作曲したモーツァルトであれば、きっと抜歯状況において自分の音楽が使われたとしても寛大な気持ちで許してくれるのではないか?

そんなことを感じながら、今日も患者さんの抜歯をする歯医者そうさんでした。



2008年03月14日(金) 女性と話をするのが苦手

今年42歳になった歯医者そうさんですが、今だに密かにコンプレックスを感じていることの一つに女性との会話があります。女性と話をする時、何を話せば良いかわからない時があるのです。

幼少から小学生にかけて、僕の周囲には男の子の友達はいても女の子の友達はいませんでした。運動会で女の子と手を組んでダンスをする時、手を握るのが苦手で視線を合わせることができず、どことなく体が緊張していたものです。話をする以前の状態でした。
中学、高校時代の6年間は男女別学という形態の学校へ通っていました。女子生徒はいるものの、男子生徒とは全く別のクラス編成だったのです。僕の友人の中には“そんなの関係ねぇ〜!”と堂々と女子生徒と付き合っている輩がいましたが、僕は全く同じ学校の女子生徒と付き合うことなく中学、高校の6年間を過ごしたのです。

女の子と話し出すようになったのは大学に入学してからでしたが、話をするにしても共通の話題が見つからず会話が長続きしない。会話が途絶えてできる沈黙の間が何とも嫌で、どうしてもっと気軽に女の子と話をすることができないのだろうか?と一人悩んでいたものです。今から思えば、話したい時に話せばいいと気軽に考えればとでも言いたくなるのですが、元々奥手である僕は、臆病で、女の子との会話は何か特別なことのように信じこんでいたのです。

その後、こんな僕にも人並みに彼女ができ、そして、今の嫁さんとも出会うことになります。また、今の職場では、僕の周囲はほとんど女性です。女性といっても僕の診療所のスタッフは僕よりも年上の女性スタッフばかりですが、女性と常に話をする環境にようやく慣れてきたところでしょうか。
ただ、今でも僕の友人で、どんな女性ともいつでも気軽に話ができる輩を見ているとうらやましく感じます。何も意識せずに女性と話ができたらなあ?そんな日がいつかは来て欲しいと願う、歯医者そうさんでした。



2008年03月13日(木) お上には逆らえない現状

今日の話は直接歯科の話とは関係ありませんが、あまりにもひどい話だと思い、思わず書いてしまいます。

まずは、このニュースからの引用です。

政府は12日、岩国市の福田良彦市長が在日米軍再編に伴う空母艦載機部隊の岩国基地移転の受け入れを表明したのを受け、凍結していた新市庁舎建設補助金35億円を全額支給と正式に伝えた。再編交付金についても近く対象自治体に指定し、百数十億円程度を支給する。いずれも年度内の支給を目指す。
 福田市長は12日昼、石破茂防衛相と会談し、改めて移転を受け入れる方針を示した。政府はこれを受け、補助金の支給を伝えた。福田氏は先月10日、米空母艦載機の移転の是非が争点となった同市長選で当選。同月28日の市議会で受け入れを表明していた


このニュースを見て、僕はゾッとしました。国の方針である米国空母艦載機部隊の基地移転の受け入れをしなければ、新市庁舎建設補助金は出さないし、再編交付金も支給しないという話。
国が一度決めた方針に逆らえば、地方自治体といえども金を出さないという非常に露骨な嫌がらせとしかいいようがありません。一体どうした経緯で米国空母艦載機部隊の基地移転の話が出てきたのか詳細はわかりませんが、いずれにせよ国が地方自治体の意思を考えず、トップダウン式で受け入れを強制する。ただし、国の話を受け入れれば金は出してやるというまさにアメとムチの方策です。
国の安全保障のこと、日米関係を考えれば、どこかの地方自治体が犠牲を強いられるのは仕方のないことかもしれませんが、それにしても国の方策を受け入れなければ金を出さずに兵糧攻めにしてしまうやり方はあまりにも地方自治体をバカにしていないかと考えざるをえません。権力を持っている者の強みです。

どうしてこのようなことを書いたかといいますと、国の意向、権力は絶対的なものがあることを改めて感じたからです。
僕が携わっている医療を含めた社会保障に関してもそうです。国の力は絶大です。絶大なのはいいのですが、国が示す政策が間違っていれば、混乱は現場に生じます。今の医療はまさにその状態。どうも国は、国の官僚は、実際の医療現場をことを考慮せず、自分たちの机の上の考えだけで政策を考え、押し付ける。その結果、うまくいけば自分たちの手柄とし、上手くいかなければ責任を取らず、天下る。

現在、救急医療や産科、小児科医療、地域病院医療が機能せず、麻痺状態であることが言われていますが、最終的にこれら医療を統括するのは国です。国の責任において医療が進められた日本の医療。多くの批判、嘆きの声があったとしても、国が動かないと何も解決しない現実。結局、医療を含めた社会保障も安全保障も国の意向が最優先されるのか?
何だかむなしいものを感じざるをえなかった、歯医者そうさんでした。



2008年03月12日(水) 思わず逃げ出したくなる気持ち

昨夜、仕事が終わってから何気なくテレビを見ていると、この番組が放送されていました。日本における心臓カテーテル治療における第一人者である延吉正清先生。現在、心臓カテーテル治療の手術数では日本一を誇る小倉記念病院の院長でもある延吉先生。

延吉先生は現在67歳。普通であれば引退してもおかしくない年齢なのですが、未だに第一線で活躍しているその訳は、一人でも多くの若い医者に自分の技術を学んでもらい、一人でも多くの患者さんを救って欲しいという一念からだとのこと。
番組では、全国から集まってきた心臓カテーテル治療の技術を学ぼうとする若い医師も照会され、日々研鑽に励んでいる様子が報じられていました。

番組の後半では、そんな研修医の一人が病院独自の試験を受けるまでの悪戦苦闘ぶりの一部が報じられていました。
経験の少ない研修医の患者さんを前にしての緊張ぶりが僕には非常によくわかりました。おそらく僕だけではないでしょう。プロとして患者さんを治療した経験のある人であれば誰しも感じたことのある緊張感。自分一人で患者さんの治療をしなくてはいけない。誰も助けてはくれない状況で信じるは己のみ。常に治療が上手くいけばいいのですが、現実は想定の範囲を超えたことが起こりうる医療の現場。思わず精神的に追い込まれ、自分の手が動かなくなる状況。どうしていいのか混乱してしまい、思わず逃げ出したくなる医療現場。

僕は循環器内科医のように直接命に関わる臓器を治療した経験はありませんが、誰もが親からもらった大切な臓器の一つである歯を削ったり、抜いたりしています。時には自分が思い描いていたような状態ではなく、思わず治療に時間がかかってしまうこともあるのです。どうしたらいいのか?瞬時の判断が求められるのですが、思わず焦るばかりで手が動かないこともあるのです。それでも患者さんに悟られず平然とした面持ちで切り抜けるか?どんな状況でも臨機応変に柔軟に対応し、時には治療を中断したり、延期したりする判断を下さなければいけません。これらは決して教科書には載っていないことで、誰かが教えてくれるというものでもありません。自分が一人で、現場で学ばなければならないもの。それ故に時には逃げ出したくなるのですね。

僕も未だに逃げ出したくなる時があります。いつになったら逃げ出したくなくなる境地になるのだろう?いつかは逃げ出さずしたくなる気持ちにならず、泰然自若として仕事に向き合いたい。そのようなことを感じた、歯医者そうさんでした。



2008年03月11日(火) 不整脈が止まらない

先日、僕の知人が歯医者にやって来ました。歯の定期検診にやってきた知人でしたが、問診しようとしたところ、

「今日は○○君の所に行って来たんだよ」
と言われました。
○○君とは僕の弟の名前です。弟は近所の病院で内科医をしているのですが、その弟の診察を受けたというのです。

「先週くらいから不整脈が頻発していてね、気持ち悪いものだから○○君に診てもらったんだよ。今日はその帰りなんだけど」
と言いながら、知人は自身の腰を指差しました。腰の辺りが少し膨らんでいたのを見た僕は知人に言いました。

「もしかしたら弟の病院でホルター心電図を装着したのですか?」
「そうなんだよ。今日一日心電図を取って解析してもらうことになっているんだよね。」

ホルター心電図とは心臓付近の胸の周囲に電極を張り、心電図の記録を一日かけて記録するタイプの心電図のことです。記録はテープレコーダーのような携帯記録装置に記録するようになっています。装着すると、さながら以前流行したカセットウォークマンのような感じですが、一日心電図を記録することにより不整脈の頻度を探るには非常に有効な記録装置です。
実は、僕も一度このホルター心電図を装着して記録を取ったことがあります。
何を隠そう、僕も不整脈が時々でることがあり、気になっていたことがありました。そこで、循環器疾患が専門の弟に相談したところ、ホルター心電図を進められ調べてもらったことがありました。結果は正常範囲内ということで安心したことがあったのです。

ところが、先週末、久しぶりに不整脈が起こりました。胸の辺りが胸騒ぎというのでしょうか、ムカムカするような違和感が生じたために自分の腕の脈を取ってみると、見事に脈が飛んでおりました。

トントントン・・・トトトントントン

いつもなら数分程度で落ち着く不整脈だったのですが、これが数時間続いたものですからさすがの僕も心配になってきました。幸い、その日の午後弟が我が家に来たために弟に相談したところ

「兄貴、最近疲れていないか?」

弟の話によれば、疲労がたまると不整脈が出やすいことがあるそうで、
不整脈でも長嶋巨人終身名誉監督のように心房細動というたちの悪い不整脈であれば治療をしないといけないが、僕のような不整脈は心室性期外収縮というもので、治療の対象とはならないタイプの不整脈らしいのです。今回もそれだろうということでただ休むことが大切だということを言われました。

弟に指摘されたとおり、最近の僕はやや過労気味ではありました。いろいろと気を遣う仕事が連続してあり粗相がないように緊張しながら仕事をしておりました。先週末は久しぶりに何の気兼ねもなく休むことができた休日だったのです。そんな休日でホッとした体に現れた不整脈。いくら弟に大丈夫だとは言われていても、胸の違和感が続くことを自覚するのは気持ちよくありません。

幸いといいますか、弟の言うとおり、大人しく休日を過ごし、睡眠を取っていると翌日には不整脈は治まっていました。何とか週明けの仕事は何の心配もなくスタートすることができたのですが、それにしてもこの不整脈、自分でなかなかコントロールできないのがつらいところです。
医者の不養生の結果なのかもしれません。



2008年03月10日(月) 閉経女性は歯科治療に注意を!

先日、ある先輩の歯医者の先生から視力の衰えについて長時間を話をされました。あまりにも長い話だったのでかなり閉口したのですが、話の内容は僕自身、普段から感じていることで、なるほどと思うことでした。

自分は若い頃から視力がよく、眼鏡やコンタクトレンズを装着したことが一度もないことが自慢であった。ところが、40歳代後半から徐々に目の焦点が合わなくなるなるようなことが現れ始め、気がついた時には老眼鏡が手放すことができなくなったとのこと。誰しも年を重ねると、自分は関係ないと思っていた体の変化が必ず起こる。この現実を受け入れるには時間がかかったという話だったのです。

誰しも年齢を重ねれば避けられない体の変化があるものですが、女性の場合、年を重ねて必ず起こる体の変化の一つに閉経があります。単に生理が起こらなくなるというのであれば問題はないようですが、悲しいことに生理の終わりは体にいろいろな変化をもたらすもののようです。
その一つが骨密度が徐々に小さくなる骨粗鬆症。男女とも年を重ねれば骨密度は下がっていくものですが、女性の場合の方が骨密度が下がり体に悪影響が出る場合が多いとされています。ある調査では男性100万人に対し女性は800万人いるのだとか。骨粗鬆症は圧倒的に女性に多い病気の一つであることが言えるでしょう。
どうして女性の方が多いのかということですが、これは女性の方がもともと骨が細いうえに、閉経によって骨をつくるもとになる女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減ることがあげられるようです。

現在、日本には骨粗鬆症になっている患者は1000万人いるとされています。この骨粗鬆症の患者さんのうち内服薬を服用している人が100万人いるのだとか。

ところで、薬には特定の病気に対する薬理作用以外に体に悪影響を及ぼす効果があります。副作用と呼ばれるもので、どんなに慎重に時間をかけて実験や研究を重ねた薬であっても使用している患者さんによっては害になる副作用というものは避けられません。
実は、この骨粗鬆症の内服薬にも副作用があるのですが、その副作用の一つに顎の骨が腐る副作用があり、最近、歯科口腔外科関連の研究者、臨床家から報告が相次いでいます。厄介なことに、この顎の骨が腐る副作用はどうして起こるのか、メカニズムが解明されていません。しかも、一度この副作用が起こるとなかなか治りにくいために、一般の歯医者は言うに及ばず口腔外科の専門家でも対処するか苦慮しているのが現状です。
実際にどれくらいの割合で起こっているかは諸説あるようですが、骨粗鬆症の内服薬を服用している患者さんのうちの0.05〜0.1%程度ぐらいだということが言われています。ほとんどの骨粗鬆症の内服薬を飲んでいる人に顎の骨が腐る副作用は出ないともいえるのですが、最近になってこの副作用が抜歯をすることにより0.37%〜0.8%程度に発症頻度が上昇することが報告されているのです。

現在、歯科医師会や医師会、骨粗鬆症の薬を製造している製薬会社では、骨粗鬆症の薬を服用する人に関して、歯科治療を受ける際には必ず歯科医院で申し出るように文章やパンフレット等で注意を喚起しています。
歯科医院でも受付や歯科医院内で骨粗鬆症の薬を服用していることを自己申告するようにして欲しいとお願いする掲示やポスターを張り出していますし、歯医者自身も問診時にこのことを確認するように努めているはずです。
この副作用、まだまだわからないことが多く根本解決に必要な情報はまだまだ研究中です。そのため、骨粗鬆症の薬を服用している人には不必要な抜歯は行わない、抜歯を行わざるをえない場合は、骨粗鬆症の薬を処方している担当医と緊密に連絡を取り、薬を一時的に飲むことを中止する休薬を行った上で、抜歯をすることが求められています。

皆さんの周囲の閉経女性で、骨粗鬆症の内服薬を飲んでいる人がいれば、その人には必ず歯科医院を受診する際には、自分が飲んでいる薬を申告するように伝えて欲しいと思いますし、自分が服用しているなら、是非ともそのことを歯科医院で申し出て欲しいと思います。

ちなみに、問題になっている骨粗鬆症の内服薬は、ビスホスホネート系薬剤と呼ばれるもので、薬品名は以下のものです。

ダイドロネル(大日本住友製薬製)
フォサマック(万有製薬)
ボナロン(帝人ファーマ)
アクトネル(味の素、販売:エーザイ)
ベネット(武田薬品工業)



2008年03月07日(金) 使い方に気を遣う専門用語

昨日、インターネットのニュースを見ているとこのようなニュースが流れていました。

国立国語研究所が全国の医師を対象にした調査で患者さんに理解されなかった言葉が736語になることがわかったというのです。
調査は昨年11月に行われたそうで、最も理解されにくかった言葉が“予後”だったとか。一般的には、病後の経過や病気のたどる経過についての医学的な見通しを指す言葉ですが、がん診療の際には「余命」の意味で使うことが多いのです。77人の医師が「意味が通じなかった」などと回答していたとのこと。
それ以外にも、「陰性」の場合は、「『インフルエンザは陰性でした』と言うと、『やはりインフルエンザでしたか』と言われた」とか、本人や家族にショックを与えないよう「がん」を「悪性腫瘍(あくせいしゅよう)」と言い換えたところ、「『がんでなくてよかった』と誤解された」という回答もあったとか。陰性というのは陽性の反対で、特定の病気に対する検査で反応がなかった、すなわち、特定の病気ではなかったという意味です。腫瘍というのは、がんのことですが、一般に転移の可能性があり、命の危険に及ぶがんのことを悪性腫瘍、転移の可能性がなく、命の危険性が無い腫瘍を良性というのです。

今更ながら、患者さんに対する言葉の使い方の難しさを感じた、歯医者そうさん。

どの業界にも業界用語というものがあり、業界の人以外からすれば理解できない言葉があるものです。医療業界などはその最たる例ではないでしょうか。普段、歯医者同士やスタッフ中で話している専門用語が患者さんからすればチンプンカンプンであり、歯医者が当たり前に使っている言葉で説明したことが患者さんに伝わっていないことが多々あるのです。

僕が“歯医者さんの一服”日記を書く際、常に気をつけていることがあります。それは、なるべく歯や口の中のことのことを書く際には、専門用語を使わず、わかりやすい言葉で書くことです。

例えば、齲蝕ですが、齲蝕と書いて理解できる人はどれくらいいるでしょう?カリエスですが、カリエスと聞いてその意味がすぐにわかる人はどれくらいいるでしょう?齲蝕、カリエスの意味は、両方ともむし歯です。むし歯と書けば誰でも理解できても、齲蝕やカリエスと書くと訳がわからなくなるものです。僕は“歯医者さんの一服”日記では常にむし歯と書いています。

クラウンやインレーといった用語もそれぞれ“被せ歯”や“詰め物”というように書いているつもりです。ブラッシングなどは最近一般の方にもかなり浸透してきているとは思いますが、僕はなるべく使わず、歯磨きと書いているつもりです。

根管治療については神経の処置とか神経の治療と書いていますし、義歯やデンチャーは入れ歯と書いています。その他いろいろありますが、専門家以外の人が容易に想像しやすい言葉で専門的な話をしようと努めているつもりです。

国立国語研究所ですが、今後、言語学者や医師、看護師など約20人による「病院の言葉委員会」を設け、今年秋までに中間報告をまとめるとのこと。最終的には、医療用語50〜100語を選び、公表するのだとか。患者側にも広く公開したい考えだそうです。僕も是非活用したいですね。



2008年03月06日(木) 背中を押してもらいたい人々

昨日の昼休み、僕は地元歯科医師会へ所用があり出かけてきたのですが、車で移動中の車内で某ラジオ番組を聴いていました。その番組の中に健康相談があり、昨日は歯科がテーマだったわけです。歯医者として耳をダンボ状態にして相談を聞いていた歯医者そうさん。

相談には歯周病のこと、入れ歯のこと、ドライマウスのことなどの相談が寄せられて、東京方面の某大学病院の歯医者が答えていたのですが、どの相談者も歯医者で治療を受けていた経験がある人だったのです。かかりつけの歯医者がある相談者ばかりだったのです。ところが、そうした相談者がどうしてラジオに相談するのか僕には理解しにくいところがありました。

僕は基本的には歯や口の中の相談ごとは、受け付けていません。また、仮にラジオやテレビ番組で相談にのってくれと依頼があったとしても受け入れないつもりです。その理由は、単純です。自分が相談者に実際に会わず、口の中を診ることができないためです。
相談者からの話を全く信用しないわけではありませんが、相談者の話にはある種の偏り、思い込みがある場合が多いのです。実際に相談者が思っていることと、実際に口の中で起こっていることにずれが生じている場合が多いのです。相談者の相談に正確に答えようとすれば、相談者の口の中を診てからでないと僕はできません。
誤解のないように言っておきますが、相談者からの相談に対していくつかの可能性を話したり指摘をすることは可能です。当たり障りの無い話をすることは可能なのですが、果たしてそれが相談者のためになっているのか僕は疑問です。同じ相談にのるなら、相談者の悩みに正確に答えたいのが僕の信条です。
ラジオやテレビの場合、相談事は患者さんの感じたこと、悩んでいることを話すことしか情報がありません。患者さんの相談話だけで正確なアドバイスができるのか?僕は疑問なのです。

昨日の某ラジオ番組でも回答者である歯医者は、相談者の本当に知りたいこと、答えて欲しいことを答えることができないでいました。言葉を選んで答えていたのが印象的でした。これは仕方のないことだろうなあと思いましたね。

ところで、相談を聞いていて僕が感じたことがあります。それは、どの相談者も悩む前にどうして歯医者に行かないのだろう?ということです。
ラジオで相談したい気持ちもわからなくはありませんが、ラジオの媒体で専門家の意見を聞く暇があったら、かかりつけの歯医者に相談した方が解決が早いのではないかと感じたのです。

ラジオ番組を聴き終えてからしばらく愚考してみました。
もしかしたら、相談者自身、一刻も早く歯医者に行かなくてはならないということは、重々承知なのではないかと。歯医者へ行きたいが、踏ん切りがつかない。そんな心境ではないかと。自分が歯医者に行くために、背中を押してもらいたい、歯医者へ行くきっかけをつくるために、ラジオの相談番組に相談し、全くの第三者である専門家の声をあてにしたいのではないか?

歯医者というのはまだまだ敷居が高い存在なのでしょう。少しでも日常耳にし、親しみのあるラジオ番組で出演している歯医者であれば気軽に相談し、歯医者へ受診できるように後押しをしてくれる。そんな期待が相談者の心境が見え隠れしていたように思いました。

そのような気持ちわからなくはありません。僕は歯医者ですが、口や歯以外のことで健康問題が生じた場合、直ぐに医者にかかるまえにいろいろと調べますが、調べれば調べるほど慎重になってしまう時があります。それでも、悩んでいる暇があれば医者に行こうと思い、実際に診察を受けているわけですが、世の中には医者や歯医者に行かなくてはいけない必要性は感じながら、どうしても決断できずにずるずるといてしまう人がいるかもしれません。
歯医者へ行く決心を促し、行動に移すためにラジオ番組を利用する。昨日のラジオ番組の相談者にはそうした意図を持った相談者が多かったような気がしました。



2008年03月05日(水) 品格の無い”後期高齢者”

前期高齢者、後期高齢者という言葉をご存知でしょうか?元来、これらは老年学という学問で定義された言葉なのだそうで、前期高齢者は65歳以上75歳未満の高齢者を、後期高齢者75歳以上の高齢者のことを指す言葉です。
最近、前期高齢者、後期高齢者という言葉が世間一般に浸透しつつあります。その理由は、おそらくこの4月からの健康保険制度の改正にあることは間違いありません。

この4月より後期高齢者の医療保険制度が大きく変わります。75歳以上(一定の障害のある人の場合は65歳以上)の高齢者の医療保険が全く別枠となるのです。基本的に全ての75歳以上の高齢者が掛け金を払わないといけない医療保険制度となるのです。昨今、医療費の増大に伴い医療費の財源確保が課題となっているわけですが、これまで負担をする必要がなかった扶養家族であった高齢者も保険料を自己負担せざるをえなくなったのです。保険者は都道府県単位の広域連合で、保険料もこの広域連合へ支払うことになります。

今後、4月が近づくに従って後期高齢者保険制度に関することはいろいろと取沙汰されるでしょう。今回の日記では後期高齢者制度についてはこれ以上取り上げませんが、かねてから僕はこの後期高齢者という言葉の響きが気に入りません。どうして高齢者を後期や前期にわけるのだろうか?いくら老年学、そして、現在の保険制度上の分け方とはいえ、単純に年齢によって高齢者を前期、後期を分けるとは如何なものかと思うのです。
高齢者を単純に年齢だけで分けてしまうことに僕は不満です。高齢者に対して非常に冷たく扱っているように思えないのです。世の中にはいろんな高齢者がいますが、少なくとも人生の先輩として若い世代を引っ張り、支えてきた人たちに何らかの敬意を払うのは社会の礼儀ではないかと思うのですが、後期高齢者、前期高齢者という言葉にはそうした人生の先輩に対する配慮が全く感じられないのです。

日本には高齢者が一定の年齢に達した時、長寿を祝う賀寿の習慣があります。数え年で61歳の人は還暦、70歳は古希、77歳は喜寿、80歳の人は傘寿、88歳の人は米寿、90歳の人は卒寿、99歳の人は白寿等々です。
僕はこの賀寿を表す言葉のどれもが非常に美しい言葉の響き、温かみがあるように思えてなりません。一昔前は長寿であることが珍しい時代であったこともあり、高齢に達した人への称賛、賛辞の意味がこれら言葉に含まれていますし、高齢者に対し社会全体として敬う気持ちが溢れているように感じます。
こういった賀寿の言葉に対し、後期高齢者、前期高齢者という言葉にはどうしてお粗末で、事務的、機械的なものに感じざるをえません。人生の先輩として若い世代を支えてきた高齢者を表現する言葉には、昨年流行した言葉を借りれば、もっと品格のある言葉があってしかるべきだと思うのですが、高齢者を後期と前期に分けて表現する今の言葉には全く品格がありません。僕は前期高齢者、後期高齢者という言葉が好きになれずにいます。



2008年03月04日(火) 礼状ゴーストライター

先週、地元歯科医師会ではある講師を招いての講演会が開催されました。ウィークデーの夜の講演会にも関わらず地元歯科医師会に所属する先生が多数出席し、講演会は盛況だったのですが、講演会が終了し、帰宅してから僕は早速あるワープロソフトであるものを書きました。それは、講師への礼状です。

通常、講演会を開く際には、事前に講師と連絡を取り、内諾を得た上で正式な招聘状を送りますが、講演会終了後には講師に対し感謝と労いの意味を含め礼状を書きます。地元歯科医師会であれば会の責任者である会長名で書くのが普通なのですが、実際は担当者が礼状を書くのが普通です。実は地元歯科医師会で招く講師への招聘状や礼状は僕が担当しています。いわば、僕がゴーストライターとして書いているわけです。

本来、講師招聘責任者である会長自身が一筆書くのが当たり前だと思います。仮に僕が何らかの会の長であれば自分で書くつもりでいますが、一方、地元歯科医師会の会長は何かと忙しいもの。他地区の歯科医師会や地元市関係者との話し合い、懇談、歯科医師会会員への情報提供、新規に入会する歯医者の先生との話し合い、調整などなど自分の診療を二の次にしてまでもしなければいけない仕事が山積みです。そのため、会長の仕事を手助けしなければならない人が必要なわけで、僕もそんな人間の一人として地元歯科医師会で仕事をしているわけです。そんな仕事の一つが礼状ゴーストライターであるわけです。

ある程度パターンが決まった仕事であれば、歯科医師会の事務員の人に仕事をお願いするわけですが、礼状の場合、単に雛形どおりに作れば良いというわけではなく、講演を実際に聴講し、講師の人となりを理解しているものが書かないと意味がありません。そうした意味でも会長自身が筆を取るのが一番なのですが、今では

「感謝状、書いといて。」
と言われる始末。

おかげさまで大分礼状を書くということには慣れてきました。会長名では書くわけですが、会長はあくまでも会の代表者。会長名で書いていても、会を代表して礼状を書いているという意識、気持ち、生甲斐というモチベーションを持って書いているつもりです。実際、自分にとってメリットがあるかどうかはわかりません。おそらくほとんど無いでしょうが、滅私奉公しておけば、思わぬところで得をするようなことがあるかもしれない。そのようなことを思いながら、良いことは目立たぬように行おうと思い、礼状を書き続ける、歯医者そうさんでした。



2008年03月03日(月) 痛くない歯の治療を見て感じたこと

最近、テレビ番組を見ていると医療に関する最新知識、技術を特集したテレビ番組が結構放送されています。これら番組の中には歯科治療に関するものもあり、職業柄、僕も思わず見入ってしまいます。

先週末、この番組でも歯科治療の最新技術に関するものがいくつも取り上げられていました。痛くないむし歯の治療法、削らないむし歯の治療法として3−MixMP法やヒールオゾン療法などが紹介されていました。
以前、3−MixMP法については、こちらこちらでも取り上げ、特にマスコミや関係者が強調していなかった問題点について書きました。ヒールオゾン療法については後日取り上げたいとは思うのですが、これら痛くない治療法をマスコミで取り上げられること自体は、内容が正確であれば歯科関係者にとって有難いとは思います。何かと敬遠されがちな歯科、歯医者に対するイメージを少しでも改善し、多くの人たちが歯に関心を持ってもらい、積極的に自らの歯の健康維持に努め、歯医者を上手に利用できるなら、それに越したことはないと思います。
その反面、僕はこれら治療法が取り上げられる時にどうしても疑問に感じることがあります。それは、どうしてむし歯になったのかを冷静に振り返っていないのではないか?という疑問です。

科学技術は日進月歩で発達しています。歯科の分野においてもいろんな材料や歯科治療の技術革新が行われています。けれども、どうしてむし歯が起こるかということを考えると、これら治療技術はあくまでもむし歯で侵された歯を応急的に治療しているに過ぎないのです。対症療法でしかないのです。

火事が発生すれば、まずは火消しを行います。火事がこれ以上広がらないように延焼を防止するために放水が行われます。場合によっては化学的な消火や江戸時代の火消しがおこなっていたように燃え移らないように一部の建物を壊したりすることもあるかもしれません。まずは火を消すことです。
消防では、火が完全に鎮火してから必ず火元と何が火災の原因だったか検証します。寝たばこが原因だったのか、漏電だったのか、誰かの放火による不審火だったのか等々、今後の防火対策を考えるためにも火事の原因を調べるものです。
むし歯の治療は火事を消す消火活動のようなものです。むし歯の治療は、消火活動が火を消すが如く、必要不可欠なことですが、むし歯の治療の後、真の原因を見つけ、解決しないかぎりむし歯は再発する可能性が高いのです。

歯は天然の歯が最も強度があります。むし歯を治療した歯はどうしても天然の歯よりは弱くなります。むし歯治療はかなり進化しているものの、どうしても天然の歯に勝る材料は開発されていません。現状から考えれば、むし歯の治療痕は一種の継ぎ接ぎのようなものなのです。むし歯の原因が解決されなければ、むし歯を治療痕がある歯は天然の歯よりもむし歯になりやすいのです。むし歯になるリスクが天然の歯よりも高いのです。

結局のところ、何が言いたいかといいますと、むし歯を治療する際、単に痛くない治療を追及するだけでなく、今後むし歯にならないような対策、環境作りが大切だということです。それは、歯磨きの仕方を改善したり、食生活を含めた生活全般を見直したりすることなのです。
人というもの、喉元過ぎれば熱さ忘れるといいますが、むし歯を治療すればそれで終わりと考えがちです。ともするとむし歯の痛くない治療法が注目されるのも無理のない話しではありますが、いくら痛くない治療法が開発されても、真のむし歯の原因を解決しなければ、せっかくの最新のむし歯治療法も意味がありません。

読者の皆さんにおかれましては、もしむし歯で悩んだことがあるようでしたら、今後むし歯にならないことをいつも念頭に考え、歯磨きを行い、定期的に専門家のチェックを受け、積極的に歯の健康維持に努めて欲しいと思います。


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