My life as a cat
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2006年02月28日(火) 成田に着陸

予約の電話をかけると、わたしの名前も聞かず、確認もなく、そっけなくOKとだけ言われ、ぷつりと切られたエアポートシャトル。不安になって同じ宿の人に聞いてみたところ、「時間がアバウトで、来た時にいないと素通りされるから10分早めに待って、15分遅れは想定して予約することだね。」ですって。この国ではお客様よりもサービス提供者が神様らしい。言われたとおりに10分前にレセプションへ降りたら「空港いきますよ〜」と騒いでるおじさんがいた。これかっ。

今日はJALにて成田への移動のみ。機内食はもちろんベジミールをリクエストした。が、これが酷い。まず明らかに普通のよりも量が少ないし、カロリーなど1/3くらいしかなさそう。小さなパンと茹でた野菜だけのようなもの。自分で塩を振って口に入れたが空腹で泣きそうだった。2度目の軽食もまたまたみんな大きなパンに肉が挟んであるものとフルーツジェリーとティムタムを食べているのに、わたしには細〜くスライスされたパンの上に茹でた野菜が乗ったもののみ。一口で飲み込んだ。もうやだ〜。

成田に着いてすぐにコンビニにかけこんでおにぎりを買った。3ヶ月ぶりに食べるパリパリの海苔。コンビニのおにぎりをこんなに美味しいと思ったのは初めて。キャンベラ生活と目下の飢えのおかげ。

今夜は日航ホテルにステイ。ガイジンの群れに混ざってコンビニへ行き、あらゆる商品を手に取り、一緒になって首を傾げながら眺めた。第一この陳列の密度からして息苦しくて楽しい。バスタブにお湯を張り久々のリラックスバスタイム。テレビも見た。何もかもにすごく違和感がある。オーストラリアのことを覚えていく感覚よりも、母国のことを忘れていく感覚というのは明らかに奇妙なもの。


2006年02月27日(月) 旅のはじまり

マイケル・ムーア似のドライバーの運転するタクシーに乗りこみ出発。「キャンベラに来たばかりなの。ひとりでフランスまで行くの。」などと話したら必要以上に心配させてしまったらしい。バスのチェックインまで着いてきてくれた。早すぎたのでターミナルの脇のイタリアン・カフェに駆け込むと、そこは見事なイタリアン・ワールド。シェフがひとりでせっせと料理するのを眺めて時間をつぶした。どうして男性はパルメジャンチーズや塩を振るのがうまいのだろう。いい加減にやっているようで満遍なくふれている。真面目にやってるのにまだらになるわたしとは反対ね。ローマ人のオーナーが話しかけてきた。「君はビューティフル」などと恥ずかしげもなく言い放つ癖に、キャンベラのナショナル・ユニ卒だというので「あなたはスマートなのね」と褒め返したら顔を赤らめて居心地悪そうに俯いてしまった。褒め返されるのは苦手らしい。おもしろいっ。帰りにレジで彼に渡されたビジネスカードをひっくり返すと裏には(南?)イタリア人のお約束の如く彼のプライベートナンバーが手書きで書かれていた。受け取り側がどうであれ、動物のように欲望に一直線で楽しそう。沢山種を撒きすぎてどこに撒いたかすっかり忘れてしまう無邪気さも憎めない。

夕方シドニーに到着。都会だけれど東京ほどごみごみしていなくてビューティフル!建物や町並みはパースやキャンベラよりもずっとヨーロッパっぽい。5分歩いてバックパッカーにチェックイン。とりあえず出張日本人美容師に髪を切ってもらうことにした。久々にはさみが入ってすっきりしたところで、彼女の厚意で町を案内してもらい、一緒に夕飯を摂ろうとタイレストランに入った。日本で生きにくいというのに深く頷いてしまうほど正直な性格の彼女は可愛らしくて逞しい。すっかり楽しくなって、ハーバーが見渡せるテラスでグイグイと飲む。ほろ酔いで宿に戻ったところを浮浪者のように廊下で飲んでいた韓国人達に誘われジョイン。得体の知れない味のワインをドボドボと注がれ続けシドニーの夜は更けていった。


2006年02月26日(日) 鬼の衝動買い

ネットでCDを鬼の衝動買い。ここで一枚手に入れるのに一ヵ月も待たされた反動からかあれも、これもと狂ったようにショッピングカートに突っ込み、ふと我に帰って半分ウィッシュリストに戻して、残りを購入。買い物疲れでベッドに雪崩れ込んで鬼の熟眠。

その夜、ダークな肌に鮮やかな青のジャケットを羽織ったアート・ブレーキーが申し訳なさそうにわたしに言った。"Michellina, I'm sorry, but I have to tell you something,,,,実は君が買ったCDはね、あまりおすすめじゃないんだ。僕の意図にそぐわず発売されたものでね、、、、" 落胆とわざわざ彼がわたしに知らせに来てくれた興奮の入り混じったえぇ!!という奇声をあげながら目を覚ました。コーヒーを入れて、しばらく、わたしもこの世を去ってからも人の夢に登場したりすることがあるだろうか、と考えていた。

さて、ついに明朝モンペリエへ向けて出発。明日はシドニー止まりというのらりくらりの旅です。行ってきます。


2006年02月23日(木) 黄色い薔薇

パースでシェアハウスに住んでいた頃、就寝中に窓ガラスを割られ数人の強盗が押し入ってきた。まだ動悸の冷めやらぬその二日後の夜、マーティンと中華料理屋の二階の席でぼそぼそと無言で夕飯を食べていた。が、一度口を開いたら最後、胸の奥からこみあげる恐怖の記憶と大事にしていた物を盗られた悲しみとで事の顛末を吐き出しながらポロポロと泣きだしてしまった。うろたえるマーティン。そこに薔薇売りのおじさんがいつものごとくやってきた。普段は"食事中に鬱陶しい"と文句を言うのに今日ばかりはグッドタイミング。勢いよく呼び止め人差し指を立てた。「何色?」とおじさんがマーティンに聞く。わたしは少し泣き止んで薄目を開けてみた。ピンク、赤、白、黄色がある。心の中で"わたしだったら黄色は選ばないわっ"と思った次の瞬間、マーティンは"Yellow"と答えた。わたしはプッと吹きだしてあっさり泣き止んでしまった。その夜、マーティンはその黄色い薔薇をコップに挿してベッドの脇に置いてくれた。

なぜこんな話を思い出したかといえば今日鑑賞したリチャード・ギア主演の"Breathless"という古い古い映画の中で強盗役の彼が"I like yellow"と呟きながら他人の家の庭からピックした黄色い薔薇を口説き中の女に贈っていたから。

しかしこの映画はリチャード・ギアのお宝映像と言っていいだろう。服装も髪型も身のこなしもシブガキ隊を思い出させるようなやんちゃぶりで、フォー!とかベイベー!なんて叫んじゃって、ヘアヌードまでお披露目。すごくエキサイティングな映画だった(笑)。


2006年02月21日(火) Autumn in New York

新婚生活を謳歌しているはずと思いこんでいた友達から二本立て続けに届いた幸薄い近況報告。「旦那はよくやってくれてるけど、わたしは結婚には向かないのよ、やっぱり。もしかしたら、と思ってしたけど、やっぱり駄目だったわ。」と一人目。「旦那は飲み歩いてるわ。仕事が大変なんだって。わたしは育児ノイローゼになりそう。子連れ離婚ってきついのかなぁ、、、。」と二人目。自分の未知の世界を映し出した暗いヴィジョンに心がどんより重くなる。結婚が夢の中に浮いているようなものだなんて思っていない。けれど少なくとも新婚の一時くらいこれから一緒に余生を歩いていくのだという決意に満ちていたい。

ぼんやりとたっぷり時間をかけて夕飯の仕度をした。ポテトとコーンのコロッケとキャベツの千切り、玄米ごはん、青梗菜の味噌汁。オーストラリアのポテトで作るコロッケは絶品。こんな日の食後のDVDは主人公が一瞬でも世界一幸せなものがいいと"Autumn in New York"を選んだ。一度目に観た時はただ単純で臭いラブストーリーだと思ったのに、今日の心の状態では随分と輝いて見えた。秋のニューヨークなんてもうそれだけで観るもの全てに恋に落ちてしまいそう。リチャード・ギアが軽快に盛り付ける料理に、ウィノナ・ライダーの活き活きした表情に、朝焼けに染まる自由の女神に。そして秋の木の葉のように散った数々の恋と命、その中で新たに息吹き始める愛と希望。どんなに哀しんでも季節は巡る。一瞬の夢と希望も挫折と失脚も全てが自由の女神に見守られているようなニューヨークにはこんな人間劇が似合う。

しかしマンハッタンの景観の中に世界貿易センタービルがしっかりと二本聳えているだけで古き良き時代のアメリカのように思えてしまう。


2006年02月20日(月) 語学上達への道

フランス語の練習は着々で意気揚々。ただし、発音を除いて。う〜ん、これは酷い。これでモンペリエを我が物顔で闊歩すれば町中を混乱に陥れることだろう。解っているの、CDの中の音と違っていることくらいは。だけど、あの猫が毛玉をリバースする寸前に喉の奥からこみあげた空気を吐き出すような音はどうしたら出てくるのかしら。しかし、口惜しいのはわたしがこんなに苦労しても出来ないのに、そこへひょっこり顔を出しただけのマーティンがあっさりやってのけること。わたしもそのヨーロピアントングーが欲しい。

フランス語の練習は旅行から帰っても続ける予定。ニ年間チビチビとやったイタリア語は一進一退で全くものにならなかった挙句、将来使い道がないと判断。この二年間でもイタリアンカフェのウエイターにラテンノリムンムンの熱い抱擁をもらう以外に何も役立たなかった(笑)。その点フランス語ならばいつか一度は住んでみたいノースアメリカの東側(モントリオール、トロント、ボストン、ニューヨークあたり)で少しは役立てることができそうだから。といえども寒いのは苦手なので夢見るだけで終る確率は高いのだけれど。

しかし、英語もまだまだひよっこ、日本語ですら日々勉強。語学を上達させるにはどうしたらいいのだろうとよく考える。7ヶ国語を操る知人を見てひとつだけ解ったことは「オシャベリであれ」ということかな。チャイナタウンで中国語を、その後行ったバーで全く物怖じせず隣の綺麗なフランス人女性とフランス語を、帰ろうと拾ったタクシーの中ではラテン系ドライバーとスペイン語を、わたし達とは英語を、とにかく一日中喋り通し。彼と別れた後「アイツは喋り過ぎだ〜!」と文句を言ったのはうちの妹。


2006年02月18日(土) 鬱から帰還

生理前の激しい鬱から帰還。些細なことに世界の終わりのようにポロポロと涙を流し、近所の公園でブランコが壊れるくらいスゥイングし、貪るようにDVDで映画鑑賞してやり過ごした辛い二日間はなんとか過ぎ去り、朝目が覚めると体にとり付いていた怨霊から解放されたように楽になっていた。

オーストラリアはDVDのレンタル料金がとても安い(1本2ドルくらいが相場)。テレビ番組をみるようにDVDをみるわたしには嬉しい限り。しかし、最近気付いたのだが、どのDVDも英語の字幕というものがすごくいい加減。英語で話されている内容が難しくて理解できない時、英語の字幕をOnにするのだが、喋っている単語単語を正確に流していないし、中国人の男二人が中国語で会話している場面を映し出し、"Talking Japanese"などと説明されていたりする。ちょっとちょっとっ、絶対日本語じゃないわよ、わたしが保証するわっとつっこみたくなる。


2006年02月16日(木) Japanese story

"Japanese story"というオーストラリア映画を観た。日本からやってきたビジネスマンのヒロミツを会社の都合で案内することになってしまったオージー女性のサンディ。はじめはお互いに閉ざしていた心も広大なアウトバックをの中ですこしずつ溶け出していくのだが・・・・という話。

出だしは全てにおいて「最悪」のひとことに尽きる。だって社長の息子であるヒロミツの態度たるや、レディスファーストとかそういった文化的背景云々ではなく、ただただ人として非常識で失礼極まりないし、平和ボケで抜けている。オージーからみた日本男児像ってこんなに酷いものなのか、いやここまで酷くない、でも大袈裟に描かれているだけで決して間違ってはない、、、と虚しさと口惜しさとバカバカしさの混じったなんとも嫌な気持ちにさせられる。まずアウトバックへ何の予備知識もつけずに来て、意志疎通くらいできる英語のスキルがあるにも関わらず、英語で話しかけてくるサンディにニコリともせずひたすら「はい、はい」と応答する。重いラゲッジを自ら車に積むことはせず、「お客様」気分で女性のサンディに積ませる。そしてサンディの運転する車の助手席で携帯電話を取り出し彼女に日本語が通じないのをいいことに「ドライバーが女でさぁ、すぐまくし立てて気の強いのなんのって。え?うん、目は青い。え?うん、やっぱケツはでかい、、、」と話している。飲みに行けばすぐに潰れてしまうし。

中盤はそんなヒロミツが大自然の中でサンディに心を開いて行くのだが、結局のところ、日本男児って蓋を開けてみれば悪い人間じゃない、ただちょっと思いやりに欠けて気が利かなくてデリカシーがなくてひ弱なだけなの、よく笑うし、ジョークも言うのよというフォローがついただけのような展開。

そしてここには「黙って耐える女」という日本人女性像も描かれているのだが、オージー女性と比較すれば日本人女性がいかに忍耐強いか解るから、これも大袈裟ながらも間違ってはいない。ただおかしいのはヒロミツは現代日本男児像であるのに、妻に描かれる日本人女性像は古代大和撫子のままであるということ。

映画は午後1:30の奥様劇場のような出来映えだけれど、異文化を持つ人々に映る日本人像に少なからず衝撃を与えられる。わたしなどもここから日本に帰るとこの国の男は国際化などと唄いながら鎖国に向かっているのではないかと思ってしまう。サムライのほうがよほど国際人的な要素を兼ね備えていたのではないだろうか。


2006年02月13日(月) The most popular food

朝から快晴。いつかアニエスbでひと目惚れして買った白地に赤い花柄のヴァカンス用ドレスを引っ張り出してきてスルリと着込み、バスに乗ってランチタイムのシティへ。カフェのオープンテラスから溢れ出す笑い声とメリーゴーランドに跨ってはしゃぐ子供、木陰で寝そべる勤め人。なんて平和な空間なのだろう。

金曜日に届くと言われたCDを取りに行く。疑ってかかり、3日後の今日に来たのは正しかった。「あぁ、たった今来たよ!超ラッキーだね!」と無邪気に店の奥からCDを持ってくるおにいさん。今来たの?やれやれ、、、。

シティを一周歩いて帰ることに。ここでやったら確実に儲かること。それは日本食レストラン。ハンバーガーよりもピザよりも何よりも寿司の人気は高い。どこのレストランもスローでどう生計を立てているのか解らないようなこの街で、二、三軒ある日本食レストランだけはいつでも人が溢れている。日本人がやっているのはそのうち一軒のみなのにも関わらず。わたしが儲けを考えてやるなら、そうね、それでも魚はやだから、ジャパニーズファーストフードとうたって天むすと玉子焼きなんかを売るかな。


2006年02月11日(土) お庭でピクニック

日本ではすぐそこに春が見えているだろうことに相反して、こちらでは初秋の風が吹き始めた。日中は穏やな秋晴れが続いていて、ひとり暮らしになったら孤独で倒れてしまうかもしれないなどという大袈裟な懸念も単なる蛇足となり、気候に左右されやすいわたしの情緒も穏やかに静謐な暮らしの中を流れている。

午後にリビングから抜け出し、庭の石段に腰掛けて、先日焼いたうんと甘さ控えめの林檎のシブーストとコーヒーも用意して、山田詠美の「せつない話」の続編を読み始めた。一番最初の有島武郎の「一房の葡萄」という短編にいきなり五粒の涙を流してしまったのは、この初秋のあまりにも青い空と透明な風に心がセンチメンタルになっているせいなのだろうか。でもいい話だ。もうそれだけで胸がいっぱいになり本を閉じて、庭で走り回るミケをぼんやり眺めて過ごした。丘の中腹に建てられているこの一帯は、ガレージから階段を上がったところに玄関がありその脇がバルコニーになっている家が殆どで、夏の夕方など人々はぼんやりとガーデンチェアーに寝転んで星空を眺めながらワインを飲んでいる。オーストラリアという国はこの空の下に住むということだけで充分贅沢だ。

夕方にマーティンと電話で話した。あちらの会社のフランス人達がとてもフレンドリーで、一緒にランチを食べに行ったりしているよう。仕事といえども楽しそうで何より。


2006年02月10日(金) 不便さの解決法

I'm exhausted,,,,
キャンベラという地球の果てから日本経由でモンペリエまで行く手筈を整えました。予約、予約、予約の嵐。海外からも大事なお客様がおいでになる首都がこんなに不便でいいのでしょうか。ええ、いいんです。先日キャンベラのドメスティック空港の脇を通って、自家用ジェットがずらりと整列しているのを拝見しましたから。Ben Foldsは高質のワインの産地で有名な南オーストラリアに家を買ってド田舎暮らしを楽しんでいると言うけれど、そう、それはお金持ちの遊び。お金は大方の不便を解決してくれる。昔パースで知り合った野村沙知代さんのような日本人女性がわたしの肩に手を置いて親指と人差し指で円を作って「あんた、世の中ゼニよ、ゼニ!」と言っていたが、今頃になって彼女はあながち間違ってはいなかったと悟った。

しかし航空会社は悪名高きエール○ランスは免れた。マーティンのラゲッジは見つかったもののまだホテルまで届けられていないようだ。


2006年02月07日(火) 天使に見捨てられた夜

今日はビッチリフランス語の練習に励んだ。un,deux,trois,quatre,,,,printemps,ete,,,,janvier,fevrier,mars,,,,,
0から11まで、四季、月の読み書きと、挨拶と、簡単な自己紹介ができるようになりました。

あぁよくやったと自分を労って、夜は桐野夏生の「天使に見捨てられた夜」という彼女が脚光を浴び始めた頃の作品に熱中。都会のど真ん中に生きる孤独で虚無な駆け出しの女探偵村野ミロがたよりない情愛や自分の内に潜んで論理ではコントロールできない情欲に絡みつかれながら、失踪したAV女優を追跡する話。作者の幻想と現実の隙間を漂うような、「異次元のミステリー小説」といったらいいのかと表現に戸惑う近年の作風に対してこれは少し手ごたえに欠ける。それでも後を引いて病みつきになってしまうのがミステリー。帰国したら他の村野ミロシリーズも中毒患者のように貪っているに違いない。

目もしょぼしょぼしてきたところで、ベッドに入って深い眠りに落ちていたところをけたたましく鳴り響く電話の音に叩き起こされた。リビングまで這うようにして辿り着きピックアップすると到着次第すぐに電話するようにと言ったのに音沙汰の無かったマーティンの声がした。第一声に「今着いた」というので夢かと思った。ここをでてから30時間以上経過しているのに?聞いてみるととんだ災難だったようだ。離陸間際にテクニカルプロブレムが発生したと足止めを食らい(コワイッ)、更にシャルルドゴール空港でラゲッジが出てこなかったのだと言う。結局ラゲッジ紛失のままモンペリエのホテルに到着したということ。本人は全く意に介せず「いいところだよ〜ここは!」と胸を弾ませている様子だけれど、わたしは電話を切った後着替えも何もなくどうしているのか?と考えて眠れなくなってしまった。

(写真:夕飯時は人間の真似をしてちゃんと椅子に座るミケ)


2006年02月06日(月) サービス精神

とうとうマーティンはフランスへ旅立ってしまい、ひとり暮らしとなった。

先週末は出張に必要な物を買いに久々にシティへ繰り出し、朝食を摂ろうとイタリアンカフェに入った。前日に元気に飲んだ日本酒が抜けきらず体が鉛のように重い。シーザーサラダベーコン抜きとガーリックブレッドとショートブラック・コーヒーをオーダーした。若い白人ウェイトレスは何度も何度もオーダーを聞き返し、チキンシーザーサラダもあるとかメインは摂らないのかと余計なことを聞いてくる。そして確かに"Ok,Caesar's Salad with NO bacon"と繰り返したのに、出てきたのはベーコンてんこ盛りのシーザーサラダ。Extra baconと頼んだ覚えはない!溜息をつきながら黙々と食べるわたしの横でマーティンは「彼女はスロバック・ガールに違いない。共産国時代のサービスなんてみんなこんなんだったんだ」などと冷笑していた。

レコードショップに半月以上前にオーダーしたCDを急かしに行くと、案の定発注し忘れていた。アンテナを直しにくると言った業者も、水道管を直しにくると言った業者もやってくる気配はない。日本人のわたしからしたらここだって立派な共産国だ。

日系旅行会社にエアチケットの問い合わせの電話を入れると、「お調べしますので少々お待ちください。」と言われる。日本では当たり前のサービス精神もこちらにいると高貴なものに思える。そう、わたし達は客に向かって簡単に"I'm not sure"とは言わない日本人!信頼のおけるサイトウさんに握手を求めたくなった。


2006年02月02日(木) モンペリエの思い出

来週からマーティンは長期(の予定)フランス出張へ出てしまう。ここで数ヶ月も一人ぼっちでいるのも淋しいので、わたしも後から日本への帰国も予定に含めつつ追いかけて行って観光しようなどと企んでいる。何せ滞在場所は眩い太陽が年がら年中降り注いでいるという南仏モンペリエ!!

南仏といえば真っ先に思い浮かべるのは学生の頃に読んだピーターメイルの「南仏プロヴァンスの12ヶ月」、「南仏プロヴァンスの木陰から」、「贅沢の探求」からの世界。豊かな自然、燦々と降り注ぐ太陽、一面広がるオリーブ畑、ラヴェンダーの香り、多彩な食卓に美味しいワイン、ニンニクの匂いを放つ隣人、マフィアも絡んだ闇のトリュフビジネス、、、イギリスから移り住んだ著者の日々のエキサイトぶりに一緒に胸を躍らせていつか訪れてみたいと夢見たものだ。

そしてモンペリエといえば学生の夏休みのほんの短期間アルバイトしたレストラン「モンペリエ」(※有名ではない場末のレストランです)。覚えているのはガタイのいい中年オーナーの彫りの深い顔と白髪交じりの髪と太い指、そして忘れられないのは数人いるウェイトレスの中でわたしの制服だけがピンク色でフリフリだったこと。それは緑色のエプロンを着けているだけの他のウエイトレスの中でとても浮いていた。でも恐くて理由を聞くことが出来ず、やっている仕事内容が違うのではないかとじっと目を凝らして観察したが、わたしがケーキ作りを手伝わされる以外は同じだった。結局、屈辱的な気持ちになってすぐに辞めてしまった。

わたしだけが勝手に盛り上がっているこの旅行、何せマーティンは過酷なビジネスの渦中にいるであろうからあちらへ行っても一人で行動することになる。ネットを漁っても大した情報は得られず、とりあえずフランス語を練習している。
"Un cafe', s'il vous plait."
コーヒーくらいは飲めるかしら?


2006年02月01日(水)

キャンベラへ来てから毎日空ばかり眺めている。オノ・ヨーコが「空の美しさにかなうアートなんてあるのだろうか」と言ったけれど、横を向いても下を向いても何もない、恐ろしく退屈なこの町で空ほどわたしを飽きさせないものはない。

青い空にモクモクと大きく広がる雲はどこか遠い楽しいところへ連れて行ってくれそうだと胸を躍らせて、満天の星空などいつ見上げても映画のクライマックスのようで泣きたくなってしまう。

わたしがここでどんなに変わり映えのない生活を送っていようと世界は動いていて、わたしの心も空のようにエフェクトされている。その瞬間ごとの思いを書き留めて東京で忙しく働いている友達に送っては「孤独な詩人みたいね」と笑われる。わたしには時間と感情だけがたっぷりある。星の数ほど答えのある事柄について毎日毎日考えて、悩んで、彷徨っている。そしてわたしは考えすぎなのだろうかとまた悩んでしまう。でも星の数ほどの人間はそれぞれが違った光を放ってこの美しい星空を作っているのだと空は優しく答えてくれる。


Michelina |MAIL