飛散 ありがとうは空に溶け 握り締めた手のひらには白い粉末だけが残る 風が通り過ぎました さらさらとそしてきらきらと 光のつぶが揺れました はるか未来を見ていたのですね僕らは 僕らの世界があると信じていたのです はるか未来を見ていたのですね僕らは 確かな存在はただ自分自身のことだけ たくさんのぼくのせかいが響き合って 無邪気な秩序を作り出すのですね ありがとうが空に溶け 空の青色が乳白色の海に変わろうとしている 風が通り過ぎました ざわざわとそしてゆらゆらと 波が生まれて弾けました 遠い過去から続いてきたのですね歴史は ただ一途に世界は広がり群がり重くなり 遠い過去から続いてきたのですね歴史は まだ宇宙が夜明けすら迎えていないころ 目を覚ました大きな鶴の鳴き声が届いた 彼方の空はちょうどこんな色でした 貴方のいないこの世界が 思ったよりも小さく見えました 貴方は世界のすべてだったからでしょうか 貴方が世界の中心だったからでしょうか 貴方のいないこの世界が どんどん歪んでいく感じがします 嗚呼 世界が歪んでいるのではなく 僕が歪んでゆくのだと言うのですね さらさら ゆらゆら ふわふわ ざわざわ たんぽぽの綿毛のように広がった 貴方の残り香が僕を締め付けようとしています ひらひら はらはら そわそわ ほわほわ たんぽぽの綿毛のように飛び散った 貴方の残り香に僕はまたありがとうを握り締めます 何処にいますか 問いかけはひゅるると強い風に飛ばされて 光のつぶのなか 乳白色の海のなか 歪んだ世界でもたしかに僕はまだ 生きていなければいけないようです |