2020年06月28日(日) |
狂歌 / 佐伯 琴子 |
福岡のフリーペーパーの編集長、寺嶋きり葉のもとに、1通の手紙が届く。差出人は広告のクライアントである料亭の社長、清倉龍臣。貼られた黄金色の百人一首の切手には、旅先で一夜をともにした(でも最後のほうでそういうことはなかった)男女の恋の歌がつづられていた。
龍臣は歳も近く同郷だが、彼女だけが知る2人の間の秘密を想い、きり葉の心は激しく揺れる。1年後、龍臣が仮想通貨の交換会社をつくり、きり葉はフリーペーパーが廃刊に追い込まれていたので社長を引き受ける。せつない恋情を胸に秘め、きり葉は順調に大金を稼げたものの、ビジネスは危険な方向へ流されていく。だがそれも最初から宇賀神という若い男の仕組んだ世界で、龍臣も自身の父への復讐が狙いだった。 しかも、しかも……龍臣ときり葉は異母兄妹。。。
難波江の 葦のかりねの ひとよゆえ みをつくしてや 恋いわたるべき
皇嘉門院別当
(難波江の、葦を刈ったあとの根の一節のように、ほんの短い一夜でした。 しかしその短さゆえに未練が残り、想いが募り、 わたしは生涯をかけて、あなたに恋い焦がれてゆくのでしょうか。)
2020年06月14日(日) |
先生、ちょっと人生相談いいですか? |
瀬戸内寂聴 + 伊藤比呂美 対談集
出版社内容情報 「こんな寂聴さん、見たことない!」 話題の美人秘書・瀬尾まなほさんも仰天の対談。
伊藤比呂美「寂聴先生、いったい私はどんなふうに死ねばいいんでしょう?」 瀬戸内寂聴「そんなこと言ったって、知らないわよ。私だって死んだことないんだから」 冗談のような会話から始まる対論は、あちらこちらに話題をシフトしながら、どんどんディープな方向に。
天下の瀬戸内寂聴に、詩人・伊藤比呂美がずんずん斬り込む! セックス、鬱、子ども、老い、死……どんな難問・奇問にもずばり回答します!
寂聴先生、「鬱」と「いじめ」経験を語る。 死に直面して考えたこと。 アメリカに暮らす孫やひ孫たち。 ──このほか、本邦初の話題が満載!
愛に向かって正直に生きる二人の対話──瀬戸内寂聴秘書 瀬尾まなほ(巻末解説より)
“今までの私は「セックス」と口にするだけでなんだかとても恥ずかしいようなそんな感覚だった。当たり前のことを当たり前に話している、それだけのことなのに、 きっと今の時代でもここまでオープンに話す人は多くない。きっとこれを読んで「そうそう」とうなずく人はたくさんいると思う。"
2020年06月06日(土) |
火定 / 澤田 瞳子 |
今、新型コロナで世界中が困難に立ち向かっている中で、偶然目にした物語。
奈良時代、若き官人である蜂田名代は、施薬院の仕事に嫌気が差していた。 ある日、同輩に連れられて出かけた新羅到来物の市で、房前の家令・猪名部諸男に出会う。施薬院への悪態をつき、医師への憎しみをあらわにする諸男に対して反感を持つ名代だったが、高熱に倒れた遣新羅使の男の面倒をみると連れ帰った行為に興味も抱く。 そんな中、施薬院では、ひどい高熱が数日続いたあと、突如熱が下がるという不思議な病が次々と発生。医師である綱手は首をかしげるが、施薬院から早く逃げ出したい名代は気にも留めない。だが、それこそが都を阿鼻叫喚の事態へと陥らせた、 豌豆瘡(天然痘)の前兆だった。
この病で政治の中枢にいる藤原4兄弟も犠牲になっているのだ。
流行り病を逆手にとってしたたかに生きる者もいれば、何とか病気から逃れようとする者、やみくもに宗教やなにやにすがりつく者、人生をはかなんで狂ってしまう者、巻き込まれていく子供たちそしてそんな人たちを必死に救おうとした者・・ 姿の見えない恐怖に向き合わざるを得ない人間のあらゆる業を表現した物語。
なかなかに読み応えのある作品だった。
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