2019年10月24日(木) |
骨を弔う / 宇佐美 まこと |
四国の山深い田舎町である替出町。その赤根川近くの土手から、人骨と思しき骨が見つかる。だが、捜査の結果、それはプラスチックで作成された人体標本であることが判明した。 その一件は新聞記事となり、替出町に現在も住む本多豊は愕然とする。そして、小学生時代に同級生4人と「人体標本の骨を埋めに行った」という記憶がよみがえり、自分たちが埋めたのは「本物の人骨ではなかったのか」と考え始めるのだった。
豊は真実を探るため、かつての同級生を訪ねた。
哲平、正一、京香、そして琴美。 標本を埋めようと言い出した真美子は骨髄異形成症候群と診断されて、亡くなったと聞かされていた。
懐かしい同級生を訪ねるうち、各人の思い出したことなどからひとつの結論が生まれてくる。 そしてミステリー小説好きな哲平の妻・朱里が、真美子の諳んじた「骨を弔う詩」を知っていると明かす。その詩は、宇佐美まことというミステリー作家の小説に登場するのだという。 豊たちは、宇佐美まことの正体が真美子なのではないか、と考える。さらには、宇佐美まこと(うさみまこと)は佐藤真美子(さとうまみこ)のアナグラムであると判明する。そこで、編集者である朱里のつてで宇佐美本人に電話をかけると、彼女は真美子本人であると認めるのだった。
自身の小説に著者・本人を登場させるという展開で楽しく読んだ。 それにして事件当時、11歳だった真美子の処置には驚かされる。 小学生、侮りがたし。
2019年10月15日(火) |
ある男 / 平野 啓一郎 |
宮崎に住む里枝は、2歳の次男を脳腫瘍で失って、その治療法を巡って夫と意見が分かれ離婚した。 長男を引き取って14年振りに故郷に帰った後、「大祐」と再婚して一女ももうけ幸せな家庭を築いていたが、ある日突然事故で大祐は命を落とす。 悲しみにうちしがれた一家に、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実がもたらされる。 里枝はかつて離婚すときお世話になった弁護士城戸章戸に、大祐(ある男)の調査を依頼した。
もし自分が死刑囚の子供で辛い人生を送っていて、他人の戸籍を取得して別の人生が歩めるとしたら。。。
原誠 曾根崎義彦 そして谷口大祐
実際、こんな人生もあるのかなと、ふと思う。
今まで何気に難しいと思い込んでいて敬遠していた著者の小説だが、 初めて読んでみれば、、頭のいい方なんだなぁと感じた。
里枝の人生、原誠の人生、そして弁護士である城戸の人生。 それぞれが愛おしい人生なのだと、つくづく感じたことだ。
2019年10月11日(金) |
海を抱いて月に眠る / 深沢 潮 |
やたら韓国の風習にこだわり、家族に対して不機嫌で怒ってばかりだった在日韓国人一世だった父親。亡き母親は、そんな父親に対していつも愚痴、不平ばかりだった。 そんな父が亡くなって通夜の席で、人目もはばからずに棺にすがりつく老人、そして泣きはらした美しい女性、家族の見知らぬ人々が父の死を悼んでいた。 彼らは一体、父親とどんな関係があったのか。
長女である文梨愛(ムン・イネ)は、彼らと父親の関係を知りたいと動き出すが、彼らから聞かされる父親の話はとても受け入れ難いものだった。その梨愛にショックを与えたのは、兄の鐘明から渡された、父親が書き遺していたという数冊のノート。 父親が16歳の時、朝鮮半島から日本へと数人の仲間と小船で海を渡り、偽の身分証を手に入れ「文徳允」という偽名のまま日本で生きて来たこと、望郷の念を抱きつつも果たせず、母国民主化のための運動に身を投じて来た半生が明かされていく。
この物語は、日本海を泳いで渡って来たという著者のお父さんのエピソードを元に書かれた。 幼い頃から著者は、何故戸籍と実際の父親の年齢が違うのか等々、不思議に思っていたとか。
ノートを読み進めていくと何と辛く、苦しい半生を送って来たのか、と心を揺さぶられていく。 在日朝鮮人に対する差別も問題だが、故郷、そして母親の元に戻れず、本当の自分ではない身上で生きていかなければならないという事実、そしてそれを家族にも打ち明けられなかったこと。 同胞のため母国民主化のための運動に熱心になればなるほど、家族との溝が広がるばかり。もちろん、そこには不器用で怒りぽかった父親自身の問題もあるにはあっただろうが、その苦しい胸の内を思うと一概に非難はできない。
読むほどに読み応えのある素晴らしい作品だった。
2019年10月04日(金) |
マジカルグランマ / 柚木 麻子 |
マジカルとは英語で「魔法のような」「不思議な」を意味する形容詞で、グランマはおばあちゃんのこと。 現実には少々身体の衰えがあっても、夢を追いかけて前向きに生きていこうという、ある意味理想的なおばあちゃんの物語。
――主人公の正子は若い頃に女優デビューするも映画監督と結婚して引退、そのまま主婦として義母も介護してして生きてきた。現在は広いお屋敷の中で夫とは家庭内別居状態。75歳目前にして、髪を銀髪にして整え、シニア俳優としてスマホのCMデビューもして「日本の理想的なおばあちゃん」としてブレイクする。
――やがて正子の夫が急死、仮面夫婦だったことが世間にバレて正子はバッシングを受け、仕事を失う。残されたのは古いお屋敷と、夫の死後発覚した借金。家の土地を売りたくても、家を解体する費用がない。そこで正子は、家に転がりこんできた映画監督志望の若い女性・杏奈、近所の主婦・明美さん、ゴミ屋敷の住人野口さんらの協力を得て、自分の邸宅をお化け屋敷にすることを思いつく。
そのお化け屋敷もSNSでの宣伝効果もあって成功して、正子はさらにハリウッドという高みを目指していく。 途中、幼馴染の陽子ちゃんとも再会してまぁ、正子のパワーにはただただ驚かされる。
自分と比べるのも可笑しいけれどパワフルな行動力に圧倒されっぱなしで、 話の展開が唐突すぎて、まぁ、タイトル通りのマジカルグランマの物語だった。
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