一泊で名古屋に遊びに行ってきた。
名古屋は出張以外で行ったことは数えるほどしかないのだが、そのわりに思い出のあるところだ。大学時代はサークルの活動で何度か名古屋大学に遠征したし、三年前には名古屋在住の日記書きさんたちとオフ会をした。
が、それよりなにより、そのむかし遠距離恋愛をしていた人が名古屋に住んでいた。彼が寮住まいだったため私が名古屋に行くことはなかったけれど、それでも私にとっては「縁もゆかりもない土地」ではない。
で、このたび何年かぶりでその彼に会ってきたのだ。
あははは、冗談、冗談。
そういうドラマがあったら日記的にはおもしろかったのですが、私は別れた人と友だちになるなんて器用な真似はできないので、音信不通になるのが常。今回は友人の「ちょっと遠出しておいしいものめぐりしようよ」という誘いに乗った、食い気百パーセントの旅だ。
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名古屋ほど名物の多い土地があるだろうか。大阪の名物といえばたこ焼きとお好み焼きくらいしか思い浮かばないが、かの地のものを挙げるとたちまち十本の指が埋まる。
せっかくお金と時間をかけて行くんだからひとつでも多く体験しようね、どうせなら名店と言われているところに行こうね、と友人と気合を入れる。
名古屋での一食目は味噌カツ。十一時の開店に十五分遅れただけなのに、「矢場とん」エスカ店の前には二十人を超える行列が。これに並ぶのか……とひるんだが、意外にも回転がよく二十分ほど待っただけで席につくことができた。
私はスタンダードな「ロースとんかつ」を注文。味噌カツのタレはもっと甘くてくどくて「いかにも味噌です」な味を想像していたのだけれど、濃度も甘辛さもちょうどよくて最後までおいしく食べられた。お好みでどうぞとテーブルの上にカラシやすりごま、七味唐辛子が置いてあったが、私はすりごまが一番合うと思った。
名古屋港イタリア村、名古屋港水族館に行った後、名古屋駅に戻ってきてティータイム。
以前から名古屋に行く機会があったら確かめてみたいと思っていたことがあった。かの有名な「モーニング伝説」である。名古屋の喫茶店では午前中に飲み物を注文するともれなくトーストやゆで玉子がついてくる……というあれだ。
「コーヒー一杯の値段でモーニングセットになるだなんて本当かしら」
というわけで、喫茶店「リヨン」へ。どこの店もそのサービスは十一時くらいまでなのだが、ここは一日中しているとガイドブックに書いてあったのだ。
わくわくしながらメニューを見ると、たしかにドリンクにはすべてトーストがつくとあり、パンは六種類からチョイスできるようになっている。んまあ、これで三百五十円とは。
友人はポテトサラダサンドを選んだが、私はもちろん小倉トースト。これもまた名古屋の名物、一度食べてみたかった。
そうそう、名古屋の喫茶店といえばモーニングの時間帯でなくても驚いたことがある。前回来た際、ふらっと入った喫茶店で紅茶を頼んだところ、運ばれてきたものを見て目が点になった。豆が入った小袋がついてきたのだ(今回の小倉トーストにもついてきた)。
「なんじゃこりゃ。これをつまみながら飲めっていうこと?」
サービスの品であるのはわかった。しかし、なぜに豆……。友人のコーヒーに添えられているのは柿の種である。
家に帰ってネットで調べたら、どこの喫茶店でもついてくるのはピーナツやあられであることがわかった。うーん、不思議だ、コーヒー・紅茶ならクッキーやチョコレートという発想にならないか……?
ちなみに、飲み物にトーストやおつまみの小袋が付くサービスは名古屋は喫茶店密度が全国で一、二を争うほど高いため、その競争の中で生まれたものなのだそうだ。
夜は手羽先を食べに行く。オフ会のときに「風来坊」に連れて行ってもらったので、今回は「世界の山ちゃん」へ。
カラッと揚げた手羽先にコショウがぴりりときいていて、甘辛いタレが少々。カニを食べるとき場は沈黙がちになるけれど、これもかなり人を無口にさせる。これをおなかいっぱい食べて、ふたりで三千五百円。安っ!
翌朝のホテルの朝食は軽めに。だってお昼はいよいよメイン・イベントのひつまぶし。
「本店じゃないからそんなには混まない、慌てなくても大丈夫」という友人の言葉を真に受けて、正午ぴったりに松坂屋の中の「あつた蓬莱軒」に行ったら、長蛇の列がとぐろを巻いているじゃないの!
「あの、ここが最後尾ですか」
「いえ、あっちです」
「すみません、一番後ろの方ですか」
「まだそっちに続いてます」
席につけたのは一時間半後。三年ぶりのひつまぶしはそりゃあおいしかった。
一杯目はそのまま、二杯目は薬味を載せて、三杯目はダシをかけてお茶漬にしていただく。私は二杯目の食べ方が一番好き。
新幹線に乗る前にきしめんを食べようと友人が言ったが、私はギブアップ。彼女の食欲にまともに付き合おうとするなら、胃袋がもうひとついる。
彼女が初めてわが家で夕食を食べたとき、その食べっぷりに目を丸くしている夫に「私、ごはんは別腹なんですうー」と言った彼女。夫は「甘いものが別腹っていうのはよく聞くけど、ごはんが別腹ってどんなおなかしてるの!?」と唖然としていたっけ。
私に拒まれた彼女はデパ地下で「地雷也」の天むすを買い、帰りの駅弁にしていた。ほんまよう食べるやっちゃ。
「名物にうまいものなし」という言葉があるけれど、名古屋にはあてはまらない。味噌煮込みうどんや台湾ラーメン、ういろうも私は好き。
が、ひとつだけ食欲をそそられないものがあって、なにかというとあんかけスパゲティ。あれ、おいしいの……?どうしてもそうは見えないんだけど……。
でも、あとそれを食べたら名古屋名物を制覇できる。次回、勇気を出して挑戦してみよう。