ことばとこたまてばこ
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2006年05月26日(金) |
見えているから見えない悪態 |
窓の外を見よ
気づかないのか
闇に紛れて
より一層濃い闇が在る
その深淵を見よ
それでも気づかぬか
しっかりと腐れ眼を見張れ
窓の外に浮かぶ
紅い眼がぎらぎらと輝き
あっかんべえをかましてる
ははははは 気づかない それでも
どれほど腐れ眼を見張ろうと
ははははは 哀れなほど 気づかない
ははははははははははは
ふんどし姿の少年よ 見あげてごらん 曇った空の中 悪霊が口づけをかわそうと 少年よ お前を狙っている つるりとした顔の輪郭 すこやかな頬 やさしく猛々しい眼つき
かあさん そのボール おれ 打ってやる おやじ そのミット 使わせないぜ じいちゃん 窓ガラス 割るかもね 気をつけなよ ばあちゃん ボールがあるのは空だけさ 空だけ見てなよ
空のてっぺんへ ボールの勢いすさまじく ボール直撃の悪霊 しゅらしゅらしゅらと黒煙を噴出 絶命 消滅 水たまりを飛びこえるように 楽しい ひとつの時代を飛びこえてきた少年
ぱぁん・ぱあん!
ふと三太夫の耳は明瞭なふたつの破裂音を聞いた。 三太夫は驚愕の表情で耳を押さえ、辺りを見回す。 しかし周りは雑多な人混みで音の見当のつけようがなかった。 そもそも、三太夫に音はない。不慮の事故で音を無くした音無し子なのだ。 戸惑いながら三太夫は耳をほじくる。 待ち合わせていた友人がやってきた。
よう!待たせたなあ!
ふと洋香の耳は明瞭な声を聞いた。 ドキリとして柏手をしていた両手で耳を押さえる。辺りを見回す。 しかし周りは静かな神社の境内で、何の人影も見当たらなかった。 そもそも、洋香に音はない。生まれつき感音性難聴の音無し子なのだ。 戸惑いながら洋香は耳をほじくった。 陽が暮れた神社はよりいっそう静けさを増すようで怖い。 洋香は小走り気味に家へと帰った。
彼の音を彼女が聞いた。
彼女の音を彼が聞いた。
私の音は誰の音。
2006年05月15日(月) |
丹精を込めて唄った彼女 |
そこは空との境目が判らないほどに広い河。 広かった。
大河の渡し舟で出逢った、私によく似た唇をもつ彼女。 彼女は「世界がとても白い」と言って、しかめっ面をしていた。 また彼女はこうも言った。「光をもてあそんでは駄目よ、馬鹿ね、傲慢ね、高慢ね」。
同じ舟に揺られる私はまっすぐに見据えてくる彼女の眼を受けて「ああ、まったく白いなあ」と感じた。
やがて彼女は姿勢を正して発生練習を始めた。 「あ・あぁー、あじぁーうあー、ばうぁー」
そして空の空白を埋め尽くさんと、私によく似た唇の彼女は丹精を込め、泣き、唄った。 けして饒舌ではない、濁り、どもった歌だった。 実直なひとこと、丁寧なひとこと、そんなひとことを積み重ねるような歌だった。
砂の城のように、幽けしひとことがうずたかく積もっていった。 瞬間、ひとことの塊が音楽へと変貌した。
これが音の波動だ、と感じた。 ああ、たまらない、とも感じた。
水面から蛙がぬくりと顔を覗かせた。魚がはねた。鳥が叫んだ。 遥か遠くに見える街の光がすべて消えた。風が凪いだ。河が笑った。
私はその悲痛な旋律を、うっとりと、聴いていた。 うっとり陶酔したまま、声に引き裂かれた舟が沈むのも構わず。
美しいね、頭上の月をごらん、ごんごんと野蛮なほどに輝いてる。
2006年05月09日(火) |
あんまりにもへたれだね、おまえは |
あの子に会いたいと願うことすら残酷だ、と君は言う。
ばかばかしい、と吐き捨てるようにおれは呟き、日本刀携え、君へ構えて。
2006年05月08日(月) |
だから見つめられないんだ |
陽光は満ちあふれすぎて残酷ですらある
肌の接触、君の肉、血、体温、ふるいたつ情感。
無菌の世の中でいわば雑菌だらけの君と共に聴いた。
心地よくまどろみながらも、ぼくたち寂しかったね。
塵が声を張り上げた。「貴様は砂嵐から身を守るためにあいつを傘に入れたのだ。
気づかなんだか。ばかものめ。ばかものめ!貴様はそのでっかちな頭でごまかしておる。
くくくく。もはや、それで正しい。迷惑をふりまいて消えてゆけ」。
ひと切れの塩ヨウカン、君のあの秘めやかな箇所よりも甘くてしょっぱかった。
ふるいたつ情感と同じ高さから発せられるまなざしは、一筋に凛として揺るがずに。
やがてのこの子の記憶、粗い粒子の白黒の陰影。
海の底から、水の中から、空の極みから、この子は顔をのぞかせる。
記憶と無限、このふたつの仲の悪さときたら、そらもうあんた立ち尽くすだけだす。 でも絶望ではないのね、互いのふしぎに心地よい浸食。
きょうもまたぼくはこの子の顔を忘れてゆくわ。 きょうもまたぼくは消えつつあるやね。
そこに無限はどこにもない。ひけけ、無情だ。泣ける。 あんまりにもハッキリとひどいもんだから逆にうれしいわ。
ユーモアがないとおれはちょっと生きてゆくことができないんですね
瞬間の空白 爆ぜる白 網膜に焼きつく白 だからね 赤子 ウキウキ ブギウギ 辛げにも楽しげにも 誕生
幼子の陽気な声響く 生き て いきゃ な きゃ きゃ きゃきゃきゃっ きゃきゃきゃきゃきゃ きゃ 猿のように
いのちの力を分けたげようと 強い口づけ なんどもなんども くりかえし飽くることなく 強く口を吸うてね
口から吐きでる歌 うたう マイクで増幅した歌 くちびるぬらして歌うたう うたう あなたの根源をこめて うたう 感極まりて うたう
だれもいないベッド くぼみ残す そこにいる だれもいないベッド シーツのしわ しわしわっと
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