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あれからどうしたかしら・・・
すでに客も引き、あらかた片付け終えた店内をぼんやり眺めながら、ジェニーはメンソール煙草を燻らせていた。 時刻は早朝と表現するに相応しい時間に差しかかろうとしていた。あと1時間あまりもすれば始発が動き出すだろう。
まいったわね・・・
別に隠していた訳じゃない。 言うタイミングがなかっただけ。 どん底で足掻いている人間に、自分がカワイイ相手に言い寄られてるなんて話、できっこない。 今日も“まだ”だと思っていたのに・・・ふたりはカチ合ってしまった。 千夜の信頼を失くしてしまったかもしれない。 そんなものがあれば、の話だけど。 ロミオが千夜を追って行ってくれてホッとした。
ジェニーは深々と煙を吐き出した。 ほの暗い店内は静まり返り、灯りの届かない隅っこは底なしの闇のように見える。 気の利いたインテリア性もなく、ただ狭いだけの、地下に存在するこの店は、それでもジェニーにとって大切な城だった。 がむしゃらに働いて、自分ひとりの手でカタチにした唯一のもの。 バブルと自身のキャラの物珍しさに一時は結構繁盛したが、今は常連だけが時々顔を出してくれる程度だ。 ここ数年は自転車操業の状態で、毎月の支払いは綱渡りをする心境だ。
気がつけばとっくに四十を超え、最近は体力の衰えをヒシヒシと感じる。 長年の夜の仕事と厚塗りの化粧のせいで、肌は年齢以上にボロボロだ。 もともと美しい訳じゃない。 世間一般の幸せも望んじゃいない。 ただこのまま年老いてゆくことに、時折、恐怖に近い感情を抱いてしまう。
この先ずっと独りぽっちで生きてゆくのかしら
と・・・。
自分で選んだ道だ。 後悔はしていない。 ただ景気の低迷は続き、自分は衰えてゆく。 “確かなものが無い”ということに、これほど怯えるとは思ってもいなかった。
今は懐いてくれているロミオも、いつかは去ってゆくだろう。 これまでの相手がそうであったように。 若くて、美しくて、前途洋々の彼を道づれにしようと思うほど傲慢じゃない。 きっともっとずっと相応しい相手が現れる。 彼に想われて疎ましく思う男なんていないだろう。
千夜だって普通に幸せになれるはずだ。 世間に評価されるだけの仕事を持っていて、そこそこイイ女なんだから。 ちょっと頑固でヘソ曲がりだけど、彼女の良さを解ってくれ男(ひと)さえ現れれば、苦しい現在(いま)のような状況さえ、懐かしいと笑う日が来るだろう。 そうなれば、もうアタシなんて必要なくなる。
店は? 老いさらばえて、誰に見向きもされなくなっても、これさえあれば生きてゆけると、心の拠りどころにできるだろうか? 手放すのは今すぐでも早くないくらいだ。 売上増なんて見込めようもない。 田舎でひとり細々と暮らしている母親のことも気がかりだし。
そろそろ潮時かもね・・・
なにもかも。 すべて。
いい機会かもしれない・・・ジェニーはそう思っていた。
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