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■ ミハエル・シューマッハを擁護する
2006年08月07日(月)
昨日行われたF1第13戦ハンガリーグランプリ決勝は、今シーズン初のウェットコンディションとなり、チャンピオンシップを争うフェルナンド・アロンソ(ルノー)とミハエル・シューマッハ(フェラーリ)がともにリタイヤに終わるという大波乱の展開となった。
まずアロンソは51周目に、優勝を狙える位置にいながらにして、ピットイン時に右リアタイヤのナットがうまく閉まらなかったため、ピットアウト直後にそれが外れてしまうという信じられない結末でリタイヤを喫してしまった。 このアロンソのリタイヤで一気にアロンソとのポイント差を縮める絶好のチャンスを迎えたミハエル・シューマッハは、雨が止み徐々に路面が乾いていく中で、タイヤ交換をせず晴雨兼用のインターミディエートタイヤのままレースを最後まで走りきる決断をした。しかし、無情にもその後雨は降ることなく、2位を走行したレース終盤にはマクラーレンのペドロ・デ・ラ・ロサの猛追を受け、何とかそのポジションを守りきろうとするも、ドライタイヤを装着したデ・ラ・ロサに敵うはずもなく、残り4周という時点で敢えなく2位を譲り渡し、さらには翌周ついにタイヤが悲鳴を挙げて完走はままならなかった。
このシューマッハの無様な結果に地元ドイツのメディアは失望し、レースから一夜明けた今日付のドイツ各紙で「シューマッハはハンガリーグランプリで脳なしドライブをした」と酷評したようだ。せっかくライバルのアロンソが公式予選各ピリオドで2秒加算という重いペナルティを科せられたにもかかわらず、その直後にシューマッハ自ら同様の過失を犯してしまったこと、さらにはタイヤ選択を誤って結果的にレースを失ったことを非難し、シューマッハの失態についていらだちを隠していない。
アロンソの場合はピットクルーの失態かリアタイヤのナットに不具合があったのか、いずれにせよ前者ならルノーの自業自得、後者なら仕方のないことだったと言えるだろう。しかし、果たして今回のシューマッハのレースは、ドイツ紙が書いているように“脳なしドライブ”だったのだろうか。
土曜日のフリー走行で違反を犯し、予選でアロンソと同様のペナルティを受けてしまったことに関して言えば、確かにファンが失望してしまうのも無理はないだろう。シューマッハがペナルティを受けていなかったとしたら、彼は悠々とポールポジションを獲得し、昨日のレースのように無理することもなくトップでチェッカーを受け、丸々10ポイントを稼いでいたことだろう。
昨日のシューマッハの選択は、アロンソがリタイヤしたという千載一遇のチャンスに賭けた大きな試みだったと思う。そしてシューマッハの腕をもってすれば成功する可能性も決して少なくなかったはずだ。アロンソがすでに消えていた時点で、賭けに負けてもポイント差は変わらず、そして賭けに勝っていれば、デ・ラ・ロサに抜かれていても3位6ポイントを確保できていたのだ。結果的に無惨にもわずか残り3周という時点でその賭けに破れてしまったが、少なくともチャレンジする価値は十分にあったと思う。
もちろん無理をせずピットに入ってドライタイヤに履き替えていれば、順位は下がるだろうが5位ないしは6位でフィニッシュできていただろうから、5位に入っていれば4ポイントは手に入っていただろう。 しかし残りレース数があと5戦というシーズンも終盤戦に突入した今、シューマッハが1ポイントでも多くのポイントを稼ごうと、昨日のような大きな賭けに出たことは決して無駄なことではなく、その行為を“脳なし”とこき下ろす地元紙やジャーナリストの方が愚かだと思わずにはいられない。
そしてシューマッハを酷評する人々は大抵「ファンだからこそ」というが、ファンであるという割には、過去にシューマッハが今回と同じように乾いた路面をインターミディエート、あるいはレインタイヤで走行し、奇跡とも言える結果を残してきたこと、その他数々の常識では考えられないような奇想天外な戦い方でこれまでピンチをチャンスに変えてきたを忘れてしまっている。そして今回のレースにしても、失敗したから激しく非難しているが、彼がリタイヤするまでは、シューマッハだったらやってのけるかもしれない、いや、シューマッハなら最後まで走りきるだろうと多くの者が思っただろう。 フェラーリのチーム監督であるジャン・トッドはレース後に「ミハエルに無線で(タイヤ交換をする)助言をするべきだった」と語っているが、トッドにしても、戦略家のロス・ブラウンでさえも、おそらく「彼ならやってくれるかも」と思って最後までピットインの指示を出さなかったに違いない。チーム全員が、シューマッハの奇跡を信じたのである。
ドイツのメディアに限らず、多くのミハエル・シューマッハファンは、彼の強さに麻痺してしまい、貪欲になりすぎてしまっているのだ。これまで数々のF1歴代記録を塗り替え、7回もタイトルを獲得し、史上最強のF1ドライバーにまで登り詰めたにもかかわらず、多くのファンは些細な彼の失敗を激しく非難するのである。中には「ミハエルは勝たなくてはいけないドライバー、勝つことだけが彼の使命」などとほざくバカもいる。 ドイツ政府に至っては、自国が誇るべき近年最大の英雄であるにも関わらず、シューマッハ一家がスイスに移り住んでいることに関して「税金逃れだ!」などと公然と批判している。どれだけ活躍しようと、結果かが残せなければ手の裏を返したように冷ややかになり、シューマッハが家族の平穏を求めてスイスに移り住むことすら許せない。それが“誇り高きドイツ人”の精神なのだろうか。そんなものは“誇り”ではなくただの“ホコリ”である。
僕は正直シューマッハというドライバーは「アンフェア」「スポーツマンシップの欠落」という理由で好きではないが、今回のシューマッハが地元ドイツ紙で非難されたことに関しては、同情という感情しかない。彼のタイトル奪還に賭けた大きなチャレンジングは評価するべきだし、残り3周までドラマチックなレースを見せてくれたシューマッハを賞賛すべきだと、声を大にして言いたい。
※7位で完走したロバート・クビサがレース後に失格となったため、 シューマッハはリタイヤながら8位に繰り上がり、1ポイントを獲得。 ドライバーズポイントでアロンソとシューマッハの差は10に縮まった。
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