列車に乗り遅れた為、バスに乗る。 単線のJRには、3時台の列車が無い。
330円分、窓の外の景色を眺め、どこかの高校前のバス停で降りる。 そこから、歩いて数分。
―――そうです。今日は私の精神科デヴューの日なのです。
待合室では、一組のカップルとが肩を寄せ合い、幾人かの御婆さんが出入りして口々に冷房の効きすぎについて文句を言っていました。 とても長い、退屈な時間を、私はジャンプを読んで過ごします。
名前を呼ばれたのは、多分、1時間くらいしてから。 時計代わりにしている携帯電話も、一応病院ということで電源を切っていたので、正確なところは分かりませんが。 要は、私がそれくらい長くに感じた、ということ。
心理室2という扉を開けると、とても狭い部屋にベッドが一つと椅子が二つ。 それから机があって、その机の前に椅子に座った白衣の人。
(目に、光が無い)
多分、この人も精神を患っているのでしょう。 よくあることだと聞きました。 小柄で痩せた、猫背気味の女医さんです。
灰色の机の上には、薄いオレンジの封筒が開封されて置いてありました。 あれは、私の通う大学の保健管理センターの先生が、この女医さんに宛てて書いて下さった、紹介状です。
「はじめまして、○○と言います」
軽く頭を下げる先生。 イニシャルはS。だから私はこれから先生のことをS先生と呼びます。
大体の、今の自分のことを説明して、それをS先生はカルテに熱心に書き込みながら聞いてくれます。 カルテ書かなきゃいけないから、私の目を見て話すなんて無理なのかもしれません。 でも、悪い人じゃなさそうです。 悪い先生じゃなさそうです。
結果、私は鬱病と診断され、何のお薬を出そうかな、と暫く迷った先生は、最終的にパキシルを処方して下さいました。 パキシル。 知人が処方されているお薬です。良薬だとその人は言っていました。 一日一錠、一週間、様子を見るそうです。
帰りは駅まで歩いて帰りました。 ずっと前から、どこにあるか分からなかったソニプラを発見しました。 こんど来る時はマスカラとマニキュアを買おうと思います。 駅前のミスドでドーナツを二つ買って、列車に乗り込みました。 座席は一杯だったので、携帯の電源を切ってから優先座席の横の手摺りに凭れ掛かりました。 薄暮の時間です。この時間で薄暮って、やっぱり夏が近いんだなぁって思います。 この夏は、私にとって所謂「十代最後の夏」になるのですが、一体どうなることでしょうか。 電話越しの母の溜め息は、父の少ない言葉は、鏡の中の娘の目は、笑顔は、夏の日差しに相応しいだけの光を灯すことが出来るのでしょうか。
……とか何とか書いてて、何だか馬鹿らしくなってしまいました。
要はこの日、はじめて精神科で診察を受けてお薬を貰って、治るまでには長い時間が掛かるのよ、って言われただけです。 私は健康な身体を持ち、何一つ不満もあろう筈無い生活環境で生きています。
闘病日記とか、そんなのじゃなくて。
2週間でここのシステムに馴れることが出来れば良いのですけど。
とりあえず、よろしく。
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