小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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追い風に吹き込んだシャツの。
2010年03月28日(日)

 某キ●キの「【ニコニコ動画】永遠のBLOODS」という曲のPVを見て、俄然盛り上がった当時の私による渋沢と三上のパラレル。



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 いつもと同じ朝。三上が目を覚まし、洗面所の鏡を見ると見慣れぬ自分がいた。
「…お前、だれだ」
 思わず呟く声。鏡の中に映る茶髪の彼が驚いたあと困ったように笑う。
「そっちこそ」
「…何だよ、これ」
「さあ?」
 三上、怪訝そうに鏡に向かって手を伸ばす。すっと手の先が鏡に溶けて見えなくなる。
 突然光った鏡。気がつけば、さっきまで鏡の中にいた彼が眼前に立っていた。
 互いに狼狽しながら現状確認。カレンダーが示す、昭和半ばの世界。
 三上にとっては生まれるより前の過去の日本。茶髪の彼は渋沢克朗と名乗った。
「まあ、元の世界に戻れるまでうちで暮らせばいいさ」
 あっさりと提案する渋沢。受け入れるよりほかない三上。
 不思議な現象だと首を傾げつつ、渋沢の家族にもおおらかに受け入れてもらえる三上。
 朝誰かと共にする食卓。昼語り合う自分たちのこと。星を仰いで感嘆する自然の大きさ。
 草原で蹴り合うボールの重さ。たまに響くようになった屈託のない笑い声。
 永遠のような少年の日々。
 それでも、三上の胸にある自分のいた時代のこと。
 渋沢の心から離れない、いつか三上が帰る日のこと。



 夕暮れ、縁側、二人だけ。古めかしい家並み。この場所に不意の郷愁を覚える三上。
「…帰るの、やめっかな」
「何言ってるんだ」
 ほろ苦く笑う渋沢。
 自嘲気味に口端を歪める三上。左腕に嵌めていた時計を外し、渋沢に差し出す。
「やるよ」
「…いいのか?」
「ああ。…お前が持ってろ」
 いつかの目印に、とは言わない三上。
 言われなくとも何気なく理解する渋沢。淡く笑う。
「ありがとう」
 夕日の最後の一閃のような笑み。ずれた時間軸の、一瞬の交差。
 相手が自分と同じ時間にはいないことをただ痛感する二人。



 元の時間に戻る三上。また始まる「普通」の日常。
 過去の世界で出会った渋沢のことを忘れそうになった頃。
 街中を歩いている三上。ふと、向かいから来た人と肩がぶつかる。
「すいません」
「いや、こちらこそ失礼」
 さして顔も確認せず適当に謝る三上。よくあるワンシーン。
 相手が通り過ぎる瞬間、カチリと時計の針の音がした。
「………?」
 聞き覚えのある音。
 振り返ったその先に。



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 プロットタイプで、がーっと当時書いたものを転載してみました。
 あらすじというか書きたいシーンと台詞だけ先に決めて、こういう走り書きすると、だいたいそれで飽きます。本文書く前に満足しちゃう。

 三渋っていいよねぇ(そこか)。
 でもカップリングよりも、友人ポジの二人が大好きです。

 そういや、身内の結婚式の招待状の宛名書きをすることになりました。
 宛名、という文字にごまかされましたが、当たり前ですけど住所も書くんだったー!! …と、引き受けてから愕然としました。

「せっかくだから手書きで出したいし〜でも自分たちの字で出すと安っぽく見えるし、だったら身内で習ってた人にお願いしようと思って★」

 だって。
 聞いたところ、結婚式場などのプランで頼むと招待状宛名書き一通の平均は250円だそうです。
 妥当な気もするおねだん。
 私の習字の師範にお願いすると、だいたいそのぐらいです。
 そりゃーねー書き慣れてない名前と住所書くんだぜー毛筆でさー…。
 しかも一発書きとか普通しませぬよ。練習してから封筒に書きますよ。つまり一通に対し、複数回書くことになるわけですよ。

 しかし、当人たちにとっては一生に一度の晴れ舞台への招待状を書くという大役を任せてもらえるのは、名誉…なことだと思っていい、のかな?
 自分のより先に他の人の招待状を書くということではありますが…。
 練習せねば。






再録:卒業(笛/若菜)(高校・番外)。
2010年03月24日(水)

 中学生の頃は卒業の本当の意味もわかっていなかった。










 春先の空はすがすがしい青色に染まっていた。
 4月上旬の陽気になるでしょう、とNHKのお天気アナが独特の口調で言っていたのを思い出す。本当にいい天気だ。
 これが、あの人が卒業する日の天気。
 式が終わった後、卒業生も在校生も一度教室に戻ってホームルームがある。チャンスはそのあと、校門前での一回きり。それを胆に命じて朝起きた。

 若菜先輩。

 きっと会える、きっと話せる。そう信じて両手を握った瞬間、卒業生の輪の中から明るい笑い声が聞こえた。
 あの中。
 わき目も振らずに駆け出した。

「わか、な、先輩!」

 ひしゃげた声になったけど、必死さは届いた。
 振り返る明るい色の髪。すぐに、にかっとあの笑顔が私に向かってきた。

「おー、どしたー? 俺に会いに来たってかー?」

 私が言い出す前に、先輩のいつもの饒舌さが弾ける。
 さっさと近寄ってきてくれて、持っていた花束で先輩は私の頭を軽くばしばしと叩いた。

「ちょ、何すんですか」
「お前、あいっかわらずちっさいなーと思って」
「大きなお世話です!」

 わははそうか、なんて豪快に笑った若菜先輩は中学時代より背が高くなった。
 最初に出会ったとき、若菜先輩はまだ中学二年のやんちゃな少年だった。いつも明るい笑顔を振り撒いているのが印象的で、同じ委員になったことがきっかけで親しくなった。
 あれから五年。顔見知りの同じ学校の一つ違い、の関係のまま五年。
 じっと見上げると、先輩は「なんだよ」と造花をつけた制服で眉をひそめた。

「話あんなら言っとけー。俺、けっこう人気者だから」

 花束を持った側の手。今度は手のひらで先輩は私の頭をぐりぐりと撫でた。
 その大きな手のひらの温度に、じんわりと胸が熱くなった。好きだった。この手も、この声も、この雰囲気も、この人の大らかなものを感じさせるすべてが。

「…若菜、先輩」

 先輩の手を頭上に感じたままうつむいたら、足元を蟻が歩いていくのが見えた。
 若菜先輩の高校生活は今日で終わり。だから、私と先輩が会うのもこれで最後。

「寂しいです」

 やっとのことで絞り出したのが涙声になったことに、先輩はきっと気付いた。

「なんで…卒業しちゃうんですか」

 子どもみたいに駄々を捏ねて、困らせてみたかった。
 きっともう会えないこの人に。
 中学から知り合っていた私より後に出会った人と恋に落ちたこの人に。
 中学校の卒業式は平気だった。先に先輩が卒業しても、後で追いかければいいと思った。一年は長かったけど、必ず会えることは確定していた。だけど今は違う。
 プロのサッカー選手になる先輩と、次会う約束を出来るほど私は親密にはなれなかった。

「なんで、っつってもな」

 宥めるみたいに、先輩の手が優しく私の髪を撫でた。
 目の表面に浮き上がろうとする涙を頑張って飲み込む。先輩は結構ずるい人だ。私の本気に気付いたときだけは、いつもかわすみたいに優しくなる。
 ごめんな、とは決して言わない若菜先輩の優しさ。

「…あのな、ムシいいけど、俺、お前のことかなり気に入ってた」

 うつむいた私には先輩の表情は見えない。
 だけど、先輩が一生懸命真面目に答えようとしてくれることはわかった。
 胸が痛い。

「好きだったぞ、ちゃんと」

 ずるい。
 恋愛対象外として、なんて条件つきの『好き』。それが若菜先輩のファイナルアンサー。
 だけどこれが先輩の精一杯の誠意。他に好きな人がいるから、っていう逃げ文句に頼らない先輩の本心。

「俺、先輩後輩とかいう関係全然ないのが普通だったからさ、お前に『先輩』って呼ばれんの好きだった。なんかこー、上級生気分満喫!って感じで」
「…………………」
「…部活一緒でもないし、全然接点なかったけど、お前が廊下とかで挨拶してくれんの嬉しかった」
「…そんなの、先輩にはたくさん…」
「でも俺が無名の頃からそうしてくれんのお前だけだったし」

 中学生の頃、若菜先輩はまだサッカーをしてるってあまり知られてなかった。
 人気はあったけど、先輩が本気でサッカーをしてるって気付いている人も少なかった。
 私はずっと、あの頃から好きだった。


「…ありがとな」


 優しくて力強い声。
 私がずっと見ていたはずの先輩は、私が想像したよりずっと素敵な人になった。
 相変わらずやんちゃ坊主みたいに笑って、でも背が伸びて逞しくなって、本当に好きな人を自分で見つけていた。
 一緒に夢を追いかけられる人を、先輩は自分で見出して選んだ。
 でもそれは私じゃなかった。選んで欲しいって何度も願ったけど、届かなかった。
 悲しくて泣いて、切なくて苦しくて。だけどそれでも好きで仕方なくて。

 まだ好きだけど。
 本当はまだ、すごくすごく好きだけど。

 泣くのは、後ですればいい。


「…私こそ、ありがとうございました」


 息を飲み込んで、顎を引いて唇を緩ませた。
 小さく笑ってみせると、安心したように先輩は私の頭から手を離した。

「…どこかで会ったら声掛けてもいいですか?」
「おうよ。俺も見たら声掛けてやんから、無視すんなよー」
「…ずっと元気でいて下さいね」

 恋人になりたい、なんて夢はまだすぐには忘れられないけど。
 何十年か経ったらこの時間も青臭い思い出になってしまうかもしれないけど、きっとこの人を好きだった何年間の片思いの記憶は忘れない。
 そして祈ってる。この人が、いつか必ず幸せに日々を過ごしてくれることを。
 私じゃない誰かと一緒でも、きっといつかそれを私が本気で喜べる日を。


「若菜先輩」


 この響きを、きっと一生忘れない。

「ん?」

 この明るい声、笑顔、その存在のすべて。



「卒業おめでとうございます」



 ずっとあなたが好きでした。







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 シーズンもの大放出バーゲン(卒業にまつわるものの小ネタがほとんど『卒業』というタイトルで書いているのは私の安易さゆえです)。

 再録は一応時期が同じになるよう心掛けてます。
 これは2004年に書いたもの。
 私にしては珍しく一人称。
 彼は何となく、自分への好意には敏感で、これは本命になれない子だと判断したらさらっと防衛戦引いて接するような賢さ(賢しいともいう)があると思ってます。

 若菜くんについては、正規更新の一本で書ききった、という感じがするせいか過去の小ネタの登場頻度がアンダートリオ中で一番少ないです(このネタも正規ヒロインではないし)。
 若菜くんのあの一本、書き手側としては気に入ってます。オチが読める、というのが最大の反省点ではありますが。
 実在の舞台を色々調べながら書く楽しさが書いててすごくありました。
 …いやほんと反省点も多い一本なんですけど。

 郭、若菜、と長編(と中編)でがっつり完結まで書いたので後は真田を残すのみ! …なんですけど、ね。 






再録:ふじしろくんとかさいくん8(笛/藤代と笠井)。
2010年03月16日(火)

 その日、藤代誠二の機嫌は遥か上空にあった。










 やわらかな早春の光が差す、慣れた寮の廊下を歌いながら闊歩するその表情は今日の太陽と同じ色をしている。
 藤代は春が好きだった。
 暖かい陽気と、のどかな風景。心安まるのと同時に浮かれた気分が目を覚ます。
 調子に乗って二番まで歌い出しながら、彼は自室のドアを開けた。


「…っくしゅ!!」


 その途端聞こえたのは、部屋の中にいた笠井の大きなくしゃみだった。
 その音があまりにも突然で、藤代は歌うのをやめる。

「びっくししたー」
「…変な日本語を使うなよ」

 黒い目を丸くしかけた藤代を、口許を手で押さえている笠井が軽く睨んだ。その左目が少し赤い。
 完全に部屋に入り、藤代はドアを閉めた。
 笠井は右手の甲で目許をこすっている。

「あ! 竹巳、目かゆいときって掻いちゃダメなんだぞ!」

 びしりと藤代が強い語調で言うと、笠井は眉間に皺を寄せた。

「わかってるけど、かゆいものはかゆいんだから」
「目薬差してほっとけって言われてたじゃん」
「…藤代に花粉症の辛さはわかんないよ」

 笠井の声音は弱く、拗ねたように口を尖らせる。
 どちらかというといつもと逆の構図だった。
 笠井は藤代の制止にも関わらず、椅子に座ったまま左目の瞼の上を揉みほぐすように手の甲を上下させている。

「辛そうだよなー、花粉症って」
「いつかお前も思い知れ」

 不意に笠井の開いている右目が強く光った。
 あ、機嫌悪そう。
 先ほどの自分とは対極の精神状態にある親友を慮って、藤代は反論せず曖昧な笑いを見せた。笠井の機嫌が悪いときは逆らわないに限る。怖いから。
 目下のところ恨むべきはスギ花粉だ。しかし、これがまだ五月あたりになると別の草花の花粉になるということも藤代は知っていた。

「薬は?」
「飲んでない。あれ眠くなって集中力落ちるし」
「飲めよ。目かゆいよりマシじゃん?」
「嫌だ。断固拒否する」

 右目よりやや弱いという左目を真っ赤にしておいて、嫌だも何もない。
 藤代はそう思うが、飲み薬の類を苦手とする笠井を説得する話術が彼にはない。

「だいたい病院の薬効き悪いし、いいよ、俺は時期が過ぎるの待つよ」

 はあ、と語尾にためいきが重なった。
 本当に辛そうな様子だったが、生まれてこのかた花粉症というものの経験がない藤代にはいま一つ共感し辛い。
 藤代は春が好きだが、笠井はそうではないのだ。

「ああもう春なんて大っ嫌いだ!!」

 とうとう笠井が叫んだ。目に涙が滲んでいるのは悲哀ではなく痒いからだ。
 くそ、と彼らしくない罵声がその後に続いた。

「…かわいそうだなあ、マジで」
「俺は同情よりもまず体質改善の秘訣が欲しいよ」

 ふふふと乾いた笑いを張り付けて、笠井が余所を向いた。
 しかしこればかりは友人とはいえ他人の藤代にはどうしようもない。笠井もわかってはいるのだが、言わずにはいられないのだ。

 笠井の苦労はあと数週間ほど続く。








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 花粉症にまつわる再録です!
 いきなりシリーズの8から引っ張り出しましたが、シリーズとはいえ全く話の繋がりはありませぬ。

 花粉症というと、デビューの年を迎えた人というのは大体「これは花粉症じゃないから!」とやたら必死に否定している気がする。今年も3人ぐらい見た。
 ハハハそんなこと言ったって、時期性のものだって来年になったらすぐわかるんだぜ?
 さっさと認めちゃえYO!
 そして洗濯物を完全部屋干しにするといいのさ…(この時期、特に寝具を外干してはいけませぬ)。

 前の部署の先輩も、「いや俺のこれはただの鼻炎だから!」と最初の年は言い張ってましたが、二年目からは誰がどう見ても重度の花粉症の症状でした。
 その先輩、数年過ぎたいまは、時期が来ると病院に通ってます。

 ちなみに私は二十代初期に発症しましたが、それほどひどい症状は出て来ないです。
 目がかゆいのと、鼻がかゆいのと、肌がかゆいのぐらいで。
 アトピー肌なので、ひどいときは肌が真っ赤にかぶれて熱を持ち、えらいことになります。
 それに猫アレルギーが加算されると、目も顔も真っ赤、というえらいことに。
 猫が近くにいる&生理前&花粉症、のトリプルアタックを食らったときほどおそろしいものはない。
 鼻水症状はほとんどないのがまだ良いところか。

 実のところ写真撮られるのが嫌いになった最大の原因であるほどに、アトピー肌はコンプレックスなのです(子どもの頃アトピー肌の自分の写真を見てすごいショックを受けた)。
 今年はあまり顔がかゆくなりませぬように、と願がけしてみる。






再録:卒業(笛/木田圭介)(大学生)。
2010年03月11日(木)

 桜にはまだ早いけれど。










 薄曇りの朝は昼に近づくにつれて消え去り、三時を過ぎる頃には早春の青空が臨めるようになった。

「きーだーっ! こっちこっち!」

 何やら大荷物を抱えた振り袖と袴姿の声が、その学校の前で待ち人を捜していた彼を呼んだ。
 遠くからでも彼女の朱地に白い桜が散った振り袖が人目を引くが、着物以上に整った繊細な顔立ちがすれ違う者を振り返らせる。たとえ本人がそれに頓着せず、優美に歩かずにブーツの踵を高らかに鳴らしながら小走りになっていても。

「走るなよ。転ぶぞ」
「んなヘマするわけないでしょ。いいからこれ一度車に置いてきて、そしたらあっち来て」

 一方的に言うと、彼女は木田に花束や卒業記念品と印字されている紙袋を渡した。
 その拍子に結い上げた髪がさらりと揺れた。先日の成人式での純粋な振り袖姿もそれはそれで似合っていたが、袴にブーツという女学生スタイルも彼女にはよく似合っていた。
 押し切られるより先に荷物を受け取った木田は荷物よりも彼女のその格好のほうが気になって仕方ない。

「なによ。似合わないって言いたいわけ?」

 木田の視線に気付いた彼女はやや不機嫌そうな顔を先に作った。

「そんなこと言ってない」
「…じゃあ、似合うの一言ぐらい言えないの」
「俺が言わなくてもどうせ他のやつに言われただろ」

 木田の不用意な一言は、にっこり笑った彼女の笑顔と靴の上から思いきり踏み下ろされたブーツの踵で返ってきた。

「あたしは、あんたに言って欲しいって言ってるの!」

 浮かべるのはたおやかな笑顔のくせに、口調はきつい。
 表情と口調が全く合っていない。いい加減慣れた木田にはさして衝撃はないが、この学校で出来た友達とやらが最初にそれを見たらさぞ驚いたことだろう。

「…黙ってれば綺麗だと思うが」

 責められて素直に薄情するのも悔しく思え、木田がそんな憎まれ口を叩くと、今度は平手で頭をはたかれた。
 わざわざ長身の木田に合わせて背伸びをした彼女は思ったことは即座に行動するタイプだ。

「どうしてそうあんたって一言余計なの」
「…あのな、それがわざわざ休みに迎えに来てやった人間に対する態度か」
「うるさい。どうせ四大生は春休み中でしょ。暇なら付き合いなさいよ。こっちは朝から着付けやら何やらですっごい大変なんだからね」

 成人式にも聞いた覚えのある愚痴をぶつけられ、木田はこれ以上何か言うのはやめようと心に決める。苛立った女には逆らわないほうが無難だ。
 腕を組んだ彼女は口の中だけで「まあいっか」と呟いた。

「ともかく、それ置いたら正門のほうに来てね! みんなで写真撮りたいから」

 要するに臨時カメラマンにしたいわけだな。
 確認するのも無意味に思え、木田はその言葉を飲み込んだ。
 どうせ短大の卒業式に車で迎えに来いと言われた時点で今日一日使いっ走りにさせられることは覚悟の上だった。

「はいはい」
「んじゃよろしくねー」

 軽く手を振って、彼女は踵を返した。
 ひらりと舞う和装の端に、木田はそういえばと言っていなかったことを思い出す。

「なあ」
「ん?」
「卒業おめでとう」

 かつん、とブーツのヒールが止まる直前の音を弾いた。
 振り返る彼女が、出会った中学生の頃と変わらぬ無邪気な笑顔を見せた。


「ありがと」


 卒業おめでとうございます。








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 再録はどこまで続くのか。
 最後のブーツを鳴らして振り返る姿が書きたくて書いた記憶があります(2003年当時)。

 実家に行ったら、またしても兄が買ってるマンガと私の買ってるマンガが重なっていました。
 私らはいいかげん、ハガレンを買うときには連絡し合うという習慣をつけたほうがいいと思う(何冊ダブっているのか…)。
 今回はバグマンの新刊がダブりました。
 他人ならいざ知らず、貸し借り簡単な身内でマンガの購入が重なると、非常に口惜しい。
 私はカヤちゃん派(服の好みは青樹さん派)ですが、兄は亜豆さん派だそうです。
 ラッキーマンならひしょかちゃん派です。




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