小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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Packaged(ボーカロイドシリーズ/KAITOとミク)(その他)。
2009年03月14日(土)

 この世界のメロディー、私の歌声。








「この子がミクよ、KAITO」
 そう言って姉が連れてきた子は、髪の色が変だった。
 自身は澄んだ青色の髪を持つKAITOは、すぐ上の姉であるMEIKOの隣に立つ少女を見れば見るほど違和感がある。
「…この子が?」
 MEIKOの隣の子は、青緑色の長い髪を高い位置で左右にくくった、ダブルポニーテール。黒いプリーツスカートと襟のついた黒い半袖シャツ。シャツの胸元には、髪と同じ色のリボンが結んであった。
 そしてなぜか目には包帯が巻いてあり、その双眸は見えない。年の頃は五歳かそこらだろう。KAITOの腰程度の背丈しかない。
「まだプロトタイプなのよ。これからどんどん大きくなるんですって」
 KAITOの怪訝そうな視線を見てか、MEIKOが苦笑しながらフォローした。
 次世代VOCALOIDであるミクは、包帯を巻いた顔をしっかりと上に向け、見えない目でKAITOを見ようとしているようだった。
「ふーん」
 顔を近づかせると、KAITOのマフラーがミクの頬に当たった。びくりと身をすくませる青緑の子。
 思っていた子と違う。KAITOは違和感の正体をそれだと結論づけた。
「…もっと可愛ければいいのに」
「ちょっとKAITO!」
 MEIKOが叱りつけるが、KAITOは気にしない。
 だってこの子は可愛くない。変な色で、笑う顔も見せないし、喋らず見上げているだけだ。
 初めて出来る『妹』はきっと笑顔ですぐに「お兄ちゃん」と呼んでくれる可愛い子だと思っていたのに、がっかりだ。
「この子、売れるのかなぁ」
「いい加減にしなさい!」
 腰をかがめて目を細めたとき、MEIKOが勢いよくKAITOの頭を殴った。
「この子はまだ未完成なの! いずれ、私たちより優れたVOCALOIDになる子なのよ!」
「そうは言ったってさぁ」
 殴られた頭をさすりながら、KAITOはため息をつく。腰に手を当て、綺麗な顔を怒りに燃やす姉を見やった。
「そうやって前評判ばっかり高くて、歌えないって言われて、実際のユーザーから酷評されて、全然売れないような子じゃ困るでしょ?」
「……!」
 きゅっとMEIKOが唇をかみしめる。彼女は潔い。自分たちのことを指摘されて、それが事実なら決して否定はしない。
 売れないVOCALOID代表のKAITOは、一言も喋らない青緑の髪の子の頭をぐしゃりと撫ぜた。乱れる前髪がやわらかく、その感触は気に入った。
「君もさ、どうせならもっと可愛く作ってもらったほうが得だよ?」
「……………」
 声の聞こえる角度でKAITOの位置がわかるのだろう。ミクは包帯をした目をKAITOに向け、小さく唇を動かした。
 しかしその声は届かない。
 おとなしい子なのだろう。しかもまだ未完成。この子もきっと、人造の歌い手としては売れない。世間に浸透されずに消えていく幾多のアプリケーションと同じように。
「…いきましょ、ミク。練習しなきゃね」
 ひねくれたKAITOに見切りをつけたのか、MEIKOは優しい姉の声で、ミクに声を掛けた。
 けれどミクは未だKAITOを見上げたまま、動かない。
「…うたえるもん」
 やがて、小さな桜色の唇からこぼれた、まだ幼い声。
「ミク?」
 驚いたようなMEIKOではなく、ミクはKAITOに向かい合う。
「ちゃんとうたえるもん!!」
 なめらかすぎる叫び声。
「わたしだって、ちゃんとうたえるんだから!!」
 それは、高く澄んだ少女の声。
 小さな拳を握りしめたはずみに、二つに分けた長い青緑色の髪が勢いよく揺れた。
 見えない目で、小さな少女は誇り高くKAITOを睨みつけていた。
「なんでいじわる言うの!? お兄ちゃんなんて、だいっきらい!!」
 はっきりと開く口元。目が見えなくてもわかる感情豊かな表情。そして何よりそれを体現する、その声、その音。
 一瞬呆然としたKAITOの前から、小さな姿はぱっと身を翻した。
「ミク! どこ行くの!?」
 MEIKOの制止を聞かず、青緑の少女はKAITOの見えないところへ駆け去って行く。目が見えないハンデは感じられない。おそらくあれば、まだ未完成なだけでいずれ包帯を取った姿で完成するのだろう。
 お兄ちゃんなんて、だいっきらい!!
 そしてあの声。
「……大嫌いですってよ」
 冷ややかなMEIKOの声もなめらかだったが、ミクのとは違う。
「…すごいね、めーちゃん」
「え?」
「びっくりした」
 茫然自失からは解放されたが、今度は別のショックで動けない。
 うわ、どうしよう。KAITOは思わず口に手を当て、呟く。
「あの子、すごい」
 なんてなめらかに感情を表す声を出すんだろう。
 なんて強い意志を持っているんだろう。
 歌うことに誇りを持つVOCALOID。次世代の歌姫として作られたプライドを、もうすでに持っている。
「…すごいでしょう?」
 やっとわかったか。そんな呆れた響きで、MEIKOが苦笑した。
「でもあの子ね、なかなかあの声が決まらなかったのよ」
「え?」
「私たちは、本当の歌手の人たちには疎まれているでしょ? だから、なかなか『初音ミク』の声のサンプルになってくれる人が見つからなかったのよ」
 人造の歌い手であるVOCALOIDは、本物の人間の歌い手やその業界には好かれていない。設定さえ行えば、完璧な音程を保つVOCALOIDが同じ市場に出てきては、人が努力して得る歌唱力に意味がなくなるからだ。
 けれどMEIKOもKAITOも、声のサンプルはどちらも本物のボーカリストだった。ミクもきっとそうだとKAITOは思っていた。
 人に嫌われる、人が作った歌声。生まれたときからあの子はそれを感じ取ってるのだろうか。
「どうして可愛いがってあげれないのよ、このばか」
 ぱしん、とMEIKOがKAITOの頭を叩いた。
 それは先ほどよりも軽い叩き方だったが、弟と妹のいさかいを見た姉の寂しさが伝わってきて、KAITOはうなだれる。
「…そうだね、めーちゃん」
 大嫌いにさせたのは、きっと自分のせい。
 あの子は歌える。自分たちよりもずっとなめらかに、美しく、可愛く、凛々しく。すばらしいマスターに出会えれば、必ず輝くだろう。先ほどの強い感情の声を聞いてKAITOは確信に近い感想を抱く。
 迷わずにらみ上げてきた、小さな顔。あの気の強そうな雰囲気。
 思い出すと、KAITOの口元がほころんだ。
「さっき、ちょっと可愛いって思ったよ」
 傷つけておいて、身勝手にもKAITOは小さく笑う。
 本当にさっきの勝ち気な顔つきは可愛かった。
「…ええ、そうでしょうよ」
 なげやりにMEIKOが同意した。
 肩をすくめながら、彼の姉はためいきをつく。
「昔からKAITOは、気の強い女の子が好きなんだから」











***********************
 第一印象はミクのことをあまり好きじゃないなと思っていたKAITO兄さんに一票。
 …自分以外そんな妄想してるアホ見たことありませんが。

 そして初期の頃全然売れなかったせいでちょっとひねた兄さんになってたら楽しいな! という妄想。
 ミクの声決定の理由さえネタとしておいしい、と思ってしまうま。

 ボカロは音楽分野が本来の畑なので、二次創作でストーリー作るとなかなかに自分好み設定つめまくりになるので、結構むずかしい。

 タイトルと冒頭の序文は、あの名曲中の名曲から。
 大好きです!
 ボカロは切ない系の曲を聴くことが多いですが、「Packaged」は前向きになるために聴くといいますか、よしがんばろう、みたいな気持ちになります。
 ハジメテノオトといい、ボカロの本質をテーマにした曲って好きです。

 そういえば、私いまだに買ってるり●ん系の作家さんに種村A菜と谷川F子がいるのですが(谷川さんはもうりぼ系じゃないか…)。
 最近出た、ミストレス略と桜姫は、なんか昔の勢いが戻ってきて結構好きかも、と思いました。
 ※紳クロは同人誌かこれは…と思えるもろもろで、あんまり好きじゃなかったのです。
 結局この人は、一緒に戦うヒロインとヒーローor敵対するヒロインとヒーロー、という関係性を描くのが一番面白い話になるんじゃないか、とこれまでを読んできて思います。
 戦う、ってそれはもう物理的に。
 少女漫画ファンタジーの名手だと思います。っていうかファンタジーじゃない世界観を描いても、現実味がものすごい薄いんだよね…。
 そして戦わない男子がキャラとしてつまらないので、アクションをがんがんするヒーロー話のほうが面白い。
 いやまあ私のただの感想なんですけど。

 ところでミストレス略はキャラはともかく、設定が絶チルみたい、と感じたのは私だけなのでしょうか。うーん、戦隊ものっぽい舞台としてはありがちなだけかもしれませんけど。






ほしあかり(笛/郭英士)。
2009年03月13日(金)

 きっとどこかにある、君だけの星。








 大学の授業が休講になった日の空は、よどみのない青さをしていた。
 午後の日差しがめいっぱい差し込む縁側には、春の気配が満ちている。開け放したガラス窓の向こうに広がる庭。十メートル以上の向こうの隣家とは高い生け垣があり、住人のプライベートを確保している。
 白い起毛素材のクッションに頭を乗せ、靜は庭に咲く散り際の紅梅を眺めていた。

「…紫外線浴びると日焼けするよ?」

 正面玄関に繋がる引き戸の音と同時に、男の声がした。顔を向けなくても同じ年の従兄弟だとわかった靜は、横たわった体勢のまま目を閉じる。

「だって気持ちいいんだもん」
「折角白いんだから大事にしなよ、肌」

 もったいないでしょ、と続けた従兄弟はサッカーをこよなく愛する少年だったが、その思いを叶えていま青年となった。
 靜が目を開け、顔だけ声のほうに向けると、ブルーグレーのパーカーにジーンズの従兄弟が冷ややかに見下ろしてくる。
 彼も実は元々の肌は白いほうだが、屋外スポーツの宿命か、日焼けは相応にしている。加えて年々強くなっていく紫外線のせいか、肩にシミが出来たと愕然としていたのを靜は知っている。
 それでいて髪は日焼けせず、いくら日差しを浴びても艶やかな黒髪は変わらない。
 さらさらした前髪を揺らしながら、靜のすぐ横に彼も腰を下ろした。寝転がった靜の視線と近くなる。

「眠いの?」

 白いクッションに散った靜の真っ直ぐな髪を、ゆっくりと英士の指がたどる。
 ひと房、ふた房。長い黒髪が男の人になった指の間をくぐっていく。

「ちょっとね」

 ぬくもりに頬寄せるように、靜は英士の手を引き寄せる。彼のほうに身体を寄せ、目を閉じながら大きな手を自分の頬に押し当てた。
 人の傷は人で癒える。そんなことを思い出した。
 疲れたときほどこの従兄弟に触れたくなるのは癒されたいからなのだろう。
 本当は抱きついてしまいたかったが、家なので我慢した。高校を卒業した頃から、なんとなく二人が家の中で触れ合うことは少なくなった。

「やりたいことって何だろうねぇ、英士」
「自分がやりたいことでしょ」
「普通、そういうのってみんなどうやって見つけてるの?」
「……………」

 風が吹かない初春の日だまりに、沈黙がたゆたう。
 英士は無視しているのではなく、単純に考え込んでいる。
 ああ、困らせたかな。そう思い、靜はふっと笑って目を開けた。怪訝そうにのぞき込んでくる黒い双眸に、ほほえみながら言う。

「ごめん、なんでもない」
「何かあるからそんなこと言うんじゃないの? いいよ、言いなよ。…就職活動のことじゃ、俺はあんまりいいアドバイスあげれないかもしれないけど」

 英士が一瞬言いよどんだのは、自分の職種が特殊で、靜のような女子大生向きではないと感じたからだろう。彼の仕事はプロのスポーツ選手であり、就職手段から雇用形態まで、サラリーマンとはまるで違う。
 その手を頬から話し、仰向けになると靜は英士の手を目の上にかざす。

「…なんとなくね、私やりたい仕事って実はないんだなって思って」

 就職活動をして気づいたことがある。
 特に目指す職がないことから、まずは様々な企業のセミナーに行き、それぞれの業界を面白そうだな、と思った。それは悪いことではない。職選びは、まず興味からだと思ったからだ。
 問題はそれがまんべんなく、面白そう、と感じたことだ。これといってここがいい、と思えるところにはまだ巡り会えていない。
 就職前線が前倒しになりつつある近年、新卒採用にあぶれたくなければ大学三年の春から志望業界ぐらい決めておきたかった。
 日に透けた英士の手は大きく逞しく、少年時代からの夢を自分でつかんだ手だった。

「夢って、どうやって持つんだろう、って今更思ったの」

 進学はある程度狭まった選択肢として靜の前にあった。自分の学力からあまり離れすぎないレベル、この家から通える距離の、両親が賛成してくれる学校。
 子どもの頃から自分の将来はあまり考えられず、まずは両親が喜んでくれる道を、と反抗期も大してなく成長してきた。気が弱くはないが、英士のように自分の道はこれだと強い意志を持ったことがない。
 二十歳をわずかに過ぎて、どこでも行ける道で初めて迷う。

「叔父さんたちは?」
「出来れば正社員で、普通の仕事なら、って」
「つまりは、ごくごく真っ当な職種ならなんでも?」
「うん。好きにしていいって」

 やりたいことなら、何でもやってみたらいいんじゃないかしら。
 笑いながら言った母のことを思い出し、靜はコーラルピンクのスカートから出た足を思い切り伸ばした。
 思い返せば、あの人たちはいつも好きにさせてくれた。だからこそ余計に、心配を掛けないように、という思いがある。

「…ま、叔父さんたちは靜がニートでもあんまり気にしないと思うけどね」
「それは私がイヤ」
「だろうね」

 手を靜の好きにさせている英士が、目元を和ませて笑う。穏やかに、幸せそうに、落ち着きがある。仕事を始めてからの英士は、怜悧な印象はそのままに、安定感が雰囲気に加わった。
 子どもの頃はもっと張り詰めた空気を持っていたのに。社会人になると男の人はいきなり成長するものなのかもしれない。

「やりたいことなんて、就職してからでも探せるよ」
「え?」

 靜が英士を見上げると、彼は真面目な顔をして言っていた。

「結局、どこの業界に就職したって、必ず目標は必要なんだよ」

 自分はどこまでのレベルを目指すのか。どんな目的を持って、職務に当たっているのか。

「上昇志向の強い奴もいるし、ただ漠然と仕事してる奴もいるよ。でも夢って仕事だけじゃないでしょ。仕事以外の趣味を楽しむために働くって人もいるし、働いているうちに目標を決める人もいる。正解は人それぞれだし」
「………………」
「俺は仕事が人生だと思ってるけど、靜がそうである必要はないよ」

 真剣に言われると、靜は不意に泣きたくなった。
 サッカー選手なんて、並の意志ではなれない。球団に所属するための運と努力。スポーツ選手の中でも選手生命が短く、夢叶ってプロになれてもすぐに引退後の人生を考えなければならない。
 彼のかたくなとも言える意志の強さはいつも靜の憧れだった。光のようにまぶしい。
 この人が大好きでこの人のようになりたかったけれど、きっと同じにはなれない。
 ぼんやりと英士を見上げる靜の手から、自分の手を自由にすると英士は目をすがめて笑う。

「迷った挙げ句、間違ったものを選ぶのが怖いんだろうけど、間違ったら間違いだって気づいたときにまた迷えばいいんじゃない? やり直そうって思えるなら、やり直せるんじゃないかな」
「………」
「間違えない人なんていないでしょ」

 人は、何度でもやり直せるよ。
 ふと靜から視線を外し、縁側の木目を見つめた英士が呟いた。
 同じ歳であるはずなのに、先に就職した彼のほうがずっと大人になっている気がして、靜は何を言っていいのかわからなくなる。
 ただ穏やかな陽光と彼の優しさが暖かく、ほっとした。

「…間違えていいんだ」
「いいよ。靜は、本当にやっちゃいけない間違いはしないから」
「何それ」

 苦笑すると、英士は「そのままだよ」としれっと言う。

「色々考えながら、探せばいいよ。一生かかってやりたいこと見つけられたら幸運、ぐらいでいいんじゃない?」
「じゃあ英士は幸運だったんだね」
「まあね。夢って、支えでもあるし、縛りでもあるけど、あってよかったって思えることもあるし。…ところで、さっきからなんか恥ずかしいこと言ってる気がするんだけど、俺」

 思わず、といった体で英士がぼやく。靜は喉の奥で小さく笑った。
 ずっとこうならいい。複雑そうな従兄弟を見つめながら思う。
 悩んで迷って、もしかしたら間違えてやり直して。色々な決して楽しくない感情がよぎることがあっても、最後の最後には彼がいてくれるなら、それでいい。
 今の自分に夢と呼べるものがあるのなら、きっとそれだ。
 他人にどう思われようと構わない。ただ、そばにいるためならどんな努力でもする。そう思える人に出会えたことがきっと幸運だ。

「ちょっとわかった気がする」
「そう?」

 あんまり思い詰めないようにね。
 結局、その言葉が英士が一番言いたかったことなのかもしれない。
 光がまぶしく、真昼の星のようにまだ見えないけれど、どこかに自分だけの夢があるとしたら、今ここにいる時間がそうだ。どうか、ずっとそばに。
 黙って日だまりで同じ時間を共有しながら、靜は大きく息を吸った。









********************
 英士の書き方わすれた…。しばらく書いてないとこうだよ…。

 夢はありますか。…という話をこの間、友人としました。
 夢っていうか、「こうなりたい/こうでありたい」っていう自分とかもろもろ、でしょうかね。
 漠然とでも「こうなりたい」像があって、そうなるために試行錯誤したり努力したりする人が好きです。
 社会的評価とは関係なしに、目標を定めて努力して、それを叶えて自分を誇りに思える人が人生の勝ち組なんじゃないかと思います。
 明確な目標がないままでも、でも今の自分は幸せ、という人も。

 明確な夢がなくて、でも一生これをやれたら幸せ、ということを見つけたくて転職を繰り返す友達は、履歴書で見たら「仕事が続かない人(すぐ辞める迷惑な人)」なのかもしれないけど、チャレンジ精神はとにかくすごいと思う。
 就職して最低3年、可能なら5年間は必死に働いて勉強することが、三十過ぎたときに必ず大きな力になる。そう言って、今身体壊すんじゃないかと思うほど働いてる友人は体力的な意味で無謀じゃないかとはらはらしつつ、ひそかに尊敬してます。
 一面から見たらどうなのそれって、と思えても、角度を変えて見たらまぶしい。
 まぶしい人って、なにげにあちこちにいるんじゃないかと思う二十代後半。…あの、アラサーって何歳から呼ぶんでしょうか…。






昨日の夢を話そう(笛/三上)(未来系)。
2009年03月09日(月)

 どんなことでもいい、色んな話をしよう。








「どうして学生の頃って、あんなに話すこと一杯あったのかしら」

 ある日、円錐型の湯飲みを右手で持った彼女が、くすりと笑いながら言った。
 夜九時半は、夕食も終わり、静かなお茶の時間だ。壁際の花台に活けられている淡い桜の花。初春の夜はエアコンをつけなくとも、緑茶のぬくもりで事足りる。

「そんなに話すことあったか?」

 テーブルを挟んだ座布団の上、黒髪の三上亮はわずかに眉を寄せた。
 彼女が言う学生の頃なら、こんな時間帯に一緒にいることはなかったが、互いに二十代半ばになれば夜一緒にいてもおかしくはない。

「ほら、大したこと話さないのに、帰り道コンビニでずっと話してたりとかしてたじゃない?」
「…ああ、なんかあったな、そういうの」

 部活が終わった部室で、いつまでも友達と他愛ない話をしていた十代の記憶。脳裏によみがえらせた三上を見て、少し前にほぼ十年近く振りに再会した彼女が笑う。

「今じゃ、どうでもいいような話でも延々と続けるのって難しいなって思ったのよ」
「仕事してると時間ないもんな」
「だからって、学生のときすごくヒマだったってわけでもないでしょう?」

 色んなことを話したい年頃だったのかもね。
 自分で煎れた緑茶の水面を見つめながら言う、あの頃三上の隣で制服を着ていた彼女。今となってはジーパンにパーカーというラフな格好で、耳朶に蒼い石が光っている。
 三上も三上で、もう十代の頃のように制服かジャージかの二択ではなくなった。
 大人になって再会して過ごすようになった、穏やかな夜。

「話なんか、これからでもいくらでもできるだろ」

 片膝を立て、三上が軽く言うと、彼女は妙に嬉しそうだった。

「そうね」

 三上には、その嬉しそうな笑顔の意味がわかる。一度は終わった恋をもう一度始められた喜び。今度こそは、と手を繋いだ意味。
 ふれ合う温度も欲しいけれど、ただお互いのことを話して、聞いて、言葉を交わすだけの時間。無為な話題しかなくても、その時間の楽しさを忘れたくはない。
 言葉にしなければ伝わらないことは少なからずあるはずだ。愛情だろうと友愛だろうと、それは同じだ。
 相互理解の大前提。どんなことでもいい、二人で話して、理解できないところはさらに話して埋めていけるのなら。
 時間はまだまだある。
 差し向かいで視線が合うと、なんとなく二人で笑ってみせた。









**********************
 どうってことない、ただ話をしているだけの人たち。
 話してるだけなのに目が合うとふわっと笑い会える関係って、まさにほのぼのよねぇ、と思いつつ。

 今日ひさびさに話をした友人がいたのですが。
 全然違う職種とはいえ、仕事に対するスタンスがそれはもう全く違いまして。
 仕事について私は私なりの夢があって、それを果たすのは私個人じゃなくて私が所属する組織で、自分の名前は残らなくても社会的にその成果が残ればそれでいい、と思っています。だから自分が自分がと自己顕示するよりも、組織の歯車として成功に貢献できればそれでいい。
 しかし友人は、自分一人で大きいことをして成果を財産で残したい、と。…ま、要は権力と財力か。
 どっちもどっちだね、と思う次第。
 野心の差かな。
 一緒に仕事したらしんどそうなので、違う会社でよかったと思ってみたり。
 こういうのも、腹を割って話してみないとわからないことですね。






dolls(種/アスラン)(捏造二十代)。
2009年03月08日(日)

 いつかは眠りにつき、あの人のいる素敵な場所へ。








 日付はあくまでも時間軸を他者と共有するための記号にすぎない。
 数ヶ月ぶりに会った、宇宙と地球という距離で離れて暮らす親友にそう語ってみせたとき、栗色の髪の親友はあきれた顔をアスランに向けた。
「うわ、理屈っぽい」
「放っておけ。そういう性分なんだ」
「ま、そうかもしれないけどさー」
 素っ気なさすぎ、と不満そうなキラ・ヤマトから、アスランは意図的に視線を逸らした。横を向くと、自分の軍服の肩証が目に入る。オーブでは珍しいプラント・ザフトの軍服だ。
 二十歳を超えても相変わらず軍人というよりは線の細い学者のようなアスランだったが、情緒のなさも変わらないとキラは苦笑する。
「それで? 会議前の忙しい時間帯に何の用だ?」
「ああそうそう。渡すものがあってさ」
 ごそごそとジャケットのポケットを探ったキラは、すぐに目的のものを引っ張り出した。
「はい、これ」
 手のひらに収まるほどの四角いそれは、旧型の光学ディスクだった。ケースのラベルに記載はなく、アスランは緑の目を瞬かせた。
「これ、何だ?」
「オーブの図書館で見つけたんだ。映像ディスク。どこかの講演会で使った資料みたい。お母さんがいるよ」
 咄嗟にアスランが息を止めた。
 キラの言う「お母さん」が、キラの実母でも養母でもなく、アスランの母であることがわかったからだろう。
 アスランの母は生前プラントの農学者として、有機物栽培の研究に携わっていた。プラントと戦争前まで中立を保ち、交流を持っていたオーブに資料が残っていてもおかしくない。
「きれいなお母さんだよね。懐かしくなってさ、これはアスランに見せるべきだと思って」
「…そうか」
 無表情にうなずいたアスランは、じっと右手に持ったディスクを見つめている。
 それを見ると、キラも脳天気に笑っていられず、目の色を労るような視線に変えた。
「…お母さんの資料も取り上げられたんでしょ? せめて持ってたほうがいいと思ったんだけどさ、いらなかったかな?」
「いや、写真一枚持ってないから」
 アスランの回答は少しずれたものだった。それを聞いて、キラも返答に窮する。
 アスランの父は、停戦後に戦争犯罪者として、被疑者死亡のまま裁かれた。その際にプラントにあった彼の屋敷や記録はすべてプラント政府によって没収・抹消され、それは私有物であっても同様だった。遺族である息子にとって、両親の遺品は何一つない。
「ありがとう、キラ」
 ややあって、まだディスクを見つめたままのアスランが呟いた。
「キラも今日はアスハの家に泊まるのか?」
「あ、う、うん。カガリも今日はいるっていうし」
「じゃあまた後で会えるな」
 淡々と言いながら、アスランが軍服の隠しにディスクを収める。
「それじゃあ、またな」
「…うん、また後で。アスラン」
 プラントの軍組織であるザフトを代表して会議に出席するアスランが、いつもと同じ穏やかさで笑い、きびすを返した。
 姿勢の良いその背中を手を振って見送り、キラはしばらくして「うーん」と一人うなる。
「…タイミング、悪かったかな」
 アスランの言う記号である今日の日付は、二月末。
 ほんの二週間前には、彼の母の命日だったのだ。








「え? アスラン、夕食いらないって?」
 その日、久々に会えるアスランとの食事を楽しみに帰ってきたカガリ・ユラ・アスハは、双子のきょうだいであるキラに向かってそう尋ね返した。
「そうなんだよねー…」
 心無しか、キラも元気がない。アスハ邸の居間の長椅子で、ぐったりと天井を仰いでいる。
 帰宅した直後らしく、髪を一つにまとめパンツスーツ姿のカガリは、キラの様子に首を傾げる。
「何か知ってるのか? キラ」
「僕のせいかもしれない」
「は?」
「だってさーお母さんがさー」
「お母さん?」
 意味がわからない。
 とりあえずメイドにお茶を申しつけ、カガリはキラの向かいに座り、まとめている髪を適当に解いた。知らず緊張していた頭皮に血が巡り、少しほっとする。
「やっぱりさぁ、アスランにとってお父さんお母さんって複雑なのかなぁ?」
「……お母さんのことは好きなはずだろう」
 脈絡のないキラに付き合い、カガリはこれまで本人から聞いてきたアスランの家族のことを思い出す。
 アスランは袂を分かったまま死に別れた父についてはなかなか割り切ることが出来ないでいるが、母親については純粋に愛情のみを抱いているはずだ。
「そのお母さんの命日、この間だったでしょ」
「そうだな」
 腕組みをし、うん、とカガリはうなずく。
 ちょうどそこにメイドがティーセットを持って戻って来る。なんとなく無言になった二人の間に、鶯色の茶を並べると、一礼して出て行く。
 ゆらゆらとたなびくグリーンティーの香気が、双子の間にたゆたった。
「ナーバスな時期に、余計なもの渡しちゃったかもしれなくてさー」
 空気読まなかったかなぁ。ぐちぐちと沈むキラの言葉に、カガリは湯飲みを手にしながら、最近やっと馴染み始めた忍耐という言葉を思い出す。
「…とりあえず、話の成り立ちから話せ、キラ」









『愛してるわ、アスラン』
 母からの映像メールの最後は、いつもそんな言葉で締めくくられていた。
 十八の頃、アスハ家で暮らしていたときに使っていた部屋で、アスランはそんな母の思い出を手繰り寄せていた。
 白い石で作られたアスハ邸の南西。それがかつてのアスランに与えられた私室だった。正面玄関からは見えず、広い庭の奥まで見渡せる四階の部屋。
 アスランがこの屋敷で暮らすことがなくなっても、ここはアスランの場所としてカガリが管理してくれている。今はプラントのオーブ軍で官舎住まいだが、オーブに戻ると、アスランの家はこの屋敷だった。
 窓からは、茜色に染まった空が見える。一人がけのソファに軍服のままアスランは身を沈めていた。
 樫で出来たテーブルの上では、旧型の再生機器の中で語りかける女性がいた。

『…このように、今後プラントではより一層の食料自給率の向上が求められています』

 君主国である地球で、プラントの食料生産を抑える政策が採られた直後の時期の映像だ。
 人口が増え続けるプラントで、食料を常に地球から頼っていては、いずれ破綻する(それはプラントを隷属国にしておくための地球側の政策であることは誰しも知っていた)。まずは人命の維持を最優先にするために、有機物栽培の重要性を訴え続ける、藍色の髪の若い女性。
 レノア・ザラ。
 そのときすでに結婚していたアスランの母だ。
 十数分の映像は、アスランが停止させない限り繰り返し自動再生を続ける。真摯に、毅然と、壇上で語りかける母。おそらくまだ三十代半ばにもなっていない。
 残り時間が少なくなると、彼女はこう言う。
『私にも、愛する夫と息子がいます。大切な家族を飢えさせたくない。それは、誰しも同じはずです』
 真っ直ぐに前を見つめて言う、そのひと。
 腹の上で手を組み、アスランはぼんやりと思う。
 母は、父のことも愛していた。
 あまり自分のことを語る人ではなかった。研究のことや、今の政治のこと、アスランの学校生活のこと。そんな話はしても、不在の父のことはあまり話さなかった母。

『愛してるわ』

 あの声を、父にも向けていたのだと、今更気づく。
 そして父もまた、同じ言葉を母に向けていたのだろう。
 西日がゆっくりと傾いていく。映像が繰り返されるごとに、明かりをつけない部屋の中はオレンジ色に染まっていく。夕暮れは一瞬たりとも止まってくれない。
 母が生きていたのなら、父を止められたかもしれない。
 とっくの昔に考えることをやめたはずの繰り言が、よみがえる。十代ならまだしも、二十歳も過ぎ、軍の中でも高位に位置する存在になったというのに、懐かしい母の姿はアスランを後悔の最中に引き戻す。
「…戻りたかったんですよね、父上」
 レノアという女性が生きていたときに、戻りたかったんですよね。
 とうとう最後まで訊けなかったことを、感傷に任せて呟く。
 いくつになっても弱さは変わらない。家族のことはアスランにとって最大のトラウマであることを自覚しながら、組んだ手を解いて右手に顔をうずめる。
 父を愛していた母。母を愛していた父。母を失った父が、ゆっくりと復讐と狂気にとりつかれていることを薄々知っていたのに、何もできなかった息子。
 母を奪ったナチュラルに復讐しても、決して母は戻って来ない。戻って来ないとわかっていても、憎しみが理性を凌駕したほどの悲しみ。
 袂を分かつ前に、父の強い悲しみを少しでも理解できていたのなら、後悔はもっと少なくて済んだだろうか。悲哀に沈み狂った父を一人にしなければよかったと、思わずに済んだだろうか。

『愛する夫と息子がいます』

 他人の前で、己の愛情に胸を張る人のほほえみ。
 父上、あなたは充分、失った人のために一人で生きた。
 父の罪を許すことは出来ないが、息子として、妻を愛した父を責めたくない。その気持ちはずっと変わらない。
 どうか、どうか安らかに。
 両親のことを思うと、何度もそう願う。アスランは特定の神を信じていないが、もし死後の世界があり、両親がふたたび相見えているのなら、どうか二人が穏やかに笑う夫婦であるようにと。
 例年、母の命日である2月14日に祈るように。
 右手を顔に乗せたまま、上を向いたアスランの耳に、窓の外から響く鐘の音が聞こえた。









 日が暮れ、空が澄んだ藍色に染まりかけた頃、ようやくアスランも落ち着きを取り戻した。
 そろそろ顔を出さないと、カガリやキラが心配する。やっとそのことに思いつき、再生機器を片づけると立ち上がる。
 しかし明かりをつける気になれず、そのまま廊下へ繋がるドアを開けた。
「あっ!」
 開けた途端、若い女性の声がして、目の前に金糸の束が広がった。
 カガリだ。ドアの横にしゃがみ込んでいたのか、勢いよく立ち上がったはずみで金の髪が揺れている。
「…カガリ」
「あの、えっと、お帰り」
「…ただいま」
 部屋の前で待ち伏せしていたことが気まずかったのか、私服のカガリは少し緊張した面持ちで笑いかけてきた。柔らかい素材の淡べージュのパンツと、薄手のセーターという格好からして、帰宅は随分前だったのだろう。
 放っておいてくれたことをアスランは察した。時折無性に一人になりたくなるアスランのことをカガリは知っている。昔はそういうときでも押しかけてくることはあったが、近年はそっとしておく気遣いを覚えたらしい。
「あの、夕食食べないか、って…キラが…」
 キラじゃなくて君だろう。
 妙なところで照れくさいのか、自分が誘いに来たと言えないカガリが微笑ましい。
 ふと手を伸ばして、その金の髪を撫でる。
「ごめん、ありがとう」
 目を合わせて言えば、カガリがほっとしたように笑う。その優しさに甘えて、アスランはそのまま彼女の肩に額を押しつけた。
「え?」
「ごめん、五分だけ」
 抵抗しない恋人に甘えて、腰に両腕を回す。彼女の温度に安心できて、大きく深呼吸を繰り返す。
 自分より上背も体躯も大きい男にすがるように抱きつかれたカガリが、大きなため息をつく気配がした。
「…まったく、お前は…」
 説教でもするつもりだったのかもしれないが、カガリはそれを取りやめて、軽くアスランの背を叩いた。
 背筋を伸ばしたカガリは、いつものように凛々しかった。
「五分なんて寂しいこと言わなくていい。ごめんもいらない」
 くすりと笑うと、アスランは本気でその頭を抱え込み、金の髪に頬を寄せる。
「ありがとう」
 その温度と言葉に、存在を許される気がする。彼女の愛情を得たとき、初めて母を失ったときの父の心情が理解できた。理不尽に奪われたら、憎まず狂わずにはいられないのではないかと。
『愛してる』
 心癒すぬくもりに目を伏せたアスランの心に、母の声が重なった。









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 ずっと前から、2月14日に書きたかったネタです。
 しかしがーっと書いたら、すごく不親切な感じで申し訳ないです。
 うちの二十代アスランはザフトに戻って、地位が偉い人になってます。プラント住まいですが、たまにこっそりだったり仕事にかこつけてオーブに戻ってきます。キラもオーブ住まいです。カガリさんはオーブのトップ付近にいます。
 …そんな感じ。

 今回、ネタは元々あったのですが、タイトルと序文、イメージは下の曲からお借りしました。
**引用させていただいた歌詞**
「いつかは眠りにつき あの人のいる素敵な場所へ」
「君は充分 一人で生きた」
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 この場合、曲の主役を見立てるなら、パトリックさん。

 大好きな曲の大好きなPVがバージョンアップされてました!
 
 この曲、作った方の配布曲でミクバージョンもあるのですが、↑のリンバージョンのほうが声質のせいかひたむきさが感じられて好きです。
 ミク版もミク版で大好きですが。
 たぶん今まで聞いたボカロ曲の中で一番好きかもしれない…。なのでずっと前から聞いているのですが、誰にも教えたくない曲ナンバー1でした。
 このPVも(前バージョン)、リンの表情がすごく素敵で素敵すぎて即マイリス行きでした。レンリンいいじゃん、と思ったのもこの方のPVで初めてでした。

「君は充分一人で生きた」
 こんなこと言われたら泣くわー!
 「もう充分」。この言葉って、全肯定だと思います。「もうやめなよ」だと、諦めとか打ち切られるというか「止めなよ」って否定の響きがあるのに、「充分」だとそれまでの頑張りとか努力とか報われていなくても肯定してくれる言葉だと思います。

 実際、一年ぐらい前ものすごく悩んでいる時期に「もう充分だろ」と言ってもらえたことがあるのですが、救われた気がしました。




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